浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー 作:門矢心夜
数日後。
蘇我高校科学部部室。
「精が出ているみたいだな、遥先公」
「……」
明人の言葉に、返事はおろか、振り向きすらしない遥。
遥は今、培養器の前で……それに繋がれたパソコンを操作している。
培養器の中には、赤ん坊の姿が。
「その赤ん坊は何だ?」
「そうだな……二週間後の決戦の隠し玉、とでも言っておこう」
明人はその言葉に眉を潜める。
「そんな話は聞いていないし、それは俺が負けると思っているという事か?」
「勘違いするな。元々私は、お前達を利用する為に来たに過ぎない。お前達の勝ち負けなど……私にはどうでも良い事だ。もしお前が負ければ、その時はこいつを使ってでも美咲……いや、誰かが白状しなければ全てを殺すかな……」
光のない瞳で、遥は明人に告げた。
「先公、アンタが復讐とやらを成し遂げる為にここに来たのは知ってるさ。でも……俺はこれ以上、あいつらに卑怯な戦い方をさせたくない。正々堂々戦って勝ってこそ、他校を支配する価値がある。ここは俺達の学校だ……これ以上ここの生徒達をお前の卑怯なやり方に染めさせるな」
「……」
遥は黙っていた。
「ちぃーっす!」
そこに別の人物が現れる。
軽いノリの女の声。
「一体何の用だ……前田(まえだ)」
「別にぃ? 面白そうだから来ただけだよぉ」
ギャル風の女子生徒……前田は蘇我高校の中でも珍しい生徒と言える。
腕っぷしはそこそこ良いが、気まぐれで協調性がない。
統率や礼儀を重んじる明人が苦手なタイプだ。
「このベルトで怪人に変身出来るんだっけぇ?」
前田が手にとったのは、ホースドライバー。
全てのベルトの原型たるアーミードライバーと同じく汎用性があるベルトで、馬と常に一心同体で戦う騎兵型の怪人になる事が出来る。
「ここの部長でもある副会長ぉから聞いたけどぉ、今六角美咲とかって奴と戦ってるんでしょぉ? ヤらせて欲しいなぁ~」
手を合わせてお願いされるが……明人は嘆息して。
「許可出来ん。あいつと山内には俺と俺が選んだ奴に戦ってもらう。お前の出番はない」
「ケチねぇ。でもぉ……そんなの私に関係ないからぁ」
『HORSE DRIVE READY?』
「変~身☆」
『COMPLETE』
背後から実体のない馬が走ってくる。
前田はジャンプしてからその馬に乗り込む。
「えへ☆」
馬が実体化し、前田の身体が女性騎士の姿へと変わる。
「悪いがそっちもその気なら……」
「足利」
変身しようとする明人を、遥が止める。
「面白い……前田、六角美咲を倒す自信があるのか?」
「分かんないけどぉ、ちょっと面白そうだなぁって」
「良いだろう。やれるだけやると良い」
「りょぉかぁい☆」
前田は変身解除してから、スキップしつつ部屋を出た。
「何てことをしてくれたんだ」
「私の役に立つなら、何でも利用する。それだけの話。それに……もし私の探す突然変異体が美咲ではなく、お前達の中にいるなら……私はお前達の生徒だろうと容赦なく殺す」
「……」
明人は拳を震わせる。
「どうやら……力づくでお前の野望を止めるしかないようだな」
『SWORD DRIVE READY?』
「……」
端末を取り付ける。
空から降りて来た剣の柄を握り、そこから明人の身体を怪人へと変化させた。
「それはこちらの台詞だ、足利」
遥も立ち上がる。
指揮官らしき帽子を被っている兵士……の形の端末が取り付けられたドライバーを着け、端末を操作。
『ROAD DRIVE READY?』
「変身」
端末を取り付ける。
『COMPLETE』
王者の証らしきマントが空から降り立ち、遥が纏う。
様々な勲章を付けた軍服が、そのマントから光を伸ばし遥の身体を覆う。
指揮官の怪人が……その場に姿を現す。
「さあ、始めようか」