浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第二百二十五話

 狩野遥は別室で、楽しそうな声を聞きながら目を閉じていた。

 声が聞こえなくなり、静かになったのを確認してから目を開け……音を立てないように出発する。

 体育館の外へ出る時、一度眠るヴィーダの顔を一瞥。

 恐らく、こうして見る事が出来るのも最後だろうから。

 

「ヴィーダ……」

 

 ヴィーダが楽しそうにしている声が、一番自分的には嬉しく感じた。

 ヴィーダは幼いころの自分の顔に似ている。

 それは当たり前だ。

 何故なら自分の卵細胞から作られた人造人間なのだから。

 だけど……それは自分の娘と言うには少し違う存在だ。

 もし仮に腹を痛めて産んだのなら、自分の復讐の為にあの子を可哀想な目にあわせたりはしなかっただろう。

 それなのに、ヴィーダはそんな自分を母親として見てくれた。

 ヴィーダという名前だって、戦神オーディンの子供……ヴィダールからとったものだが、初めて彼女に名前をつけた時……彼女は嬉しそうにしてくれていた。

 

「あの子にこれ以上、苦労はさせたくないな」

 

 それが遥の本心だ。

 自分の欲を満たす為に生まれた存在だと言うのに、今では彼女が……友に裏切られ、愛する人を殺された自分にとっては一番大事な存在だった。

 そんな彼女は、裏切った友が作った者に挑もうとしている。

 彼女の強さを、作った遥自身はよく知っている筈だ。

 けど……もし死んだらと思うと……。

 悔しいが、ハイドロフォームカードを手に入れたアトミックに勝つ事は遥の力では無理だ。

 だが出来る事は一つある。

 それは、あれ以上の強化をさせない事。

 アトミック……二号自身にどれだけの頭脳があるかは不明だが、少なくとも自分で肉体改造を施すのは不可能な筈だ。

 なら、菫だけでも殺してしまえば……もう誰も二号の強化を出来なくなる。

 

 その場合、もう二度とヴィーダの顔を見て話す事は出来なくなるが。

 でもそれは……自分が本来受けるべき罰なのかも知れない。

 ここまでは運が良かったのだ。

 自分の敵だった筈の美咲の性格に救われ、今までやった事を許された気になってしまっていた。

 アトミックがハイドロフォームを手に入れた時、そして今日……久しぶりに蘇我高校の生徒達を見た時、自分のした事の重さを再確認させられた。

 だから罪を犯してでも、遥はこれ以上皆に負担を掛けるわけにはいかないのだ。

 

「さよなら」

 

 遥は小さくそう呟いて、外へと歩き出す。

 

※※※

 

 さよならと告げた遥の声。

 それを、ヴィーダは聞いていた。

 

「ママ……!」

 

 そう呟きながら跳ね起きて、布団の近くに置いてあるグングニルドライバーと、成音の近くにあるフレイムシャワードライバーを手にして、他の皆を起こさないようにして遥を追いかける。

 既に駐車場にあった車に乗り込んだ遥が、アクセルを踏んで学校の外へ。

 ヴィーダはそれでも諦めずに走って追いかける。

 

「マッテ……マッテヨ!」

 

 ヴィーダは届かないと分かりながらも、そう叫びながら走りつつ、ベルトを取り付ける。

 何故自分を置いていくのか、そう思いながら。

 走りながら、ヴィーダは槍型のガジェットを取り付けて変身する。

 

「ヘンシン!」

『CHANGE』

 

 ヴィーダはその姿を仮面ライダーグングニルに変えてから、変身中に離されてしまった距離を、飛行形態になって追いかける。


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