浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー 作:門矢心夜
壊れたベルトを握り潰しかねない程の強さで握る二号。
走って向かってきた美咲を、今度こそ本当に悔しそうな顔で見る。
美咲は目を閉じて、涙を堪えて言う。
「これで勝ったなんて、思ってませんわ。裕太さんや一号さんの協力がなければ、ベルトを壊すという選択をしなければ、私は生きてここにいませんでしたわ」
「……俺を慰めてるつもりか? お前」
「私は、諦めてしまった。貴方という存在を前にして、もう無理だと諦めてしまった。それに……助けるべき人を死なせてしまった。貴方の意思の強さに、私は負けてしまったんですわ」
「……」
「今認めますの。私の負けですわ。貴方は、私に勝つ事を諦めさせた人……とても強い意思と力の持ち主ですわ」
二号は立ち上がる。
「ふざけんじゃねえよ。戦う力まで奪われて、お前が生きた状態で終わった。俺は、どうやって本気のお前に勝てば良いんだよ」
「……」
「負けを認めんのは俺の方だ。お前を舐めて掛かったせいで、俺は自分の求める世界を掴めなかったんだ。だからよ……」
「待たせたね、松永秀奈」
二号が手を美咲に翳そうとした瞬間、声が聞こえる。
「お前……」
「おやおや、敵と一緒に仲良くお喋りとは……君も人の事を言えなくなったね。秀奈」
「……さあ、何のことを言ってんだか分かんねえな」
戸間菫……だが様子がおかしい。
「菫先生……」
「美咲、少し彼女と話がある。どいてくれないか?」
「……嫌だと言ったら?」
「言わせない」
そう言って菫が、一瞬にして美咲との距離を詰めた。
視認出来ない程の速さで腹を殴り、悶絶させる。
よくよく腰回りを見ると、美咲と戦った時に使ったベルトがある。
「くっ……」
「……お前、何する気だ?」
「僕はね、失敗作は処分する主義なんだ。だって、僕の汚点になるからね。だから……僕は今から君を処分するよ」
有無を言わせず、菫は……。
「ぐおっ……!」
二号の胸に、何もないところから生み出した刀を突き刺す。
どことなく似ている……いや、それはスペクターソードそのものだ。
二号は血を吐きながら倒れ……呟く。
「ははは……立場逆転ってわけか」
「元々君は僕の作り出した道具。立場なんてあると思ったのかい?」
「テメエ……」
菫は突き刺した刀を引き抜く。
開いた穴から残った血が、流れていく。
二号は……実に呆気なく死んでしまった。
「貴女……」
「そんな顔をする事はない。僕が殺したのはただの人形。この前君が戦ったのも、君が守れなかったものも……ただの人形。僕の役に立てなかった……人形なんだよ。役に立たない道具は廃棄する。そんな当たり前の事をしただけだ」
『美咲、俺に変わってくれ』
「一号さん?」
『どうやらあいつが死ぬ前に俺をここに避難させたらしい。俺に喋らせてくれ』
「分かりましたわ」
『もし痛い思いをさせたら、すまない』
そう呟いてから、一号が表に。
立ち上がってから、菫に告げる。
「菫……君はそんな人じゃなかった。君は研究熱心で」
「その声、健斗か。ああ……熱心だったさ。熱心で、絶対その研究で成果を出したかった。だから君達を実験に使う事に対して何のためらいも無かった」
「ああ……俺もそれを分かっていて君に協力した」
「なら何故僕を裏切った! 僕を愛しているのなら、何故君はそうして僕に刃向かう! 狩野遥もそうだ。僕の友達でありながら、僕への協力を拒んだ。何故誰も言う事を聞かない……?」
「菫……俺は……」
「うるさい! 君達が役に立ちさえすれば、僕はっ……」
菫が苦しみだす。
菫の身体が、右腕の筋肉が隆起している。
恐らく……あの薬を使った影響だろう。
「こんな痛みを味合わずに済んだんだ……」