浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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足利明人とアイドル剣士 第三話

 

 刑事達は目を丸くして、秀未を見る。

 三栄だけが冷静に、秀未に告げた。

 

「どういうつもりだ、秀未」

 

 三栄に目を向け、臆することなく続ける。

 

「言葉の通りです。今回の仕事、私にも手伝わせて欲しいんです。兄上の背中を、守らせていただけないでしょうか?」

 

 頭を下げて頼み込む。

 しかし、兄の返事は厳しかった。

 

「ならんぞ」

「しかし!」

 

 秀未はそれでも、めげずに叫ぶ。

 自分の兄に、目で意思を伝える。

 

「秀未、これは遊びじゃない。下手をすれば命を失う事になるんだ。そんな危険な事、僕は許可出来ない」

 

 冷静にそう答えた三栄。

 それでも秀未は諦めなかった。

 

「危険は兄上も同じ事です! 私だって明智の人間です! 足手まといになんてなりませんから、どうか私を!」

「つけあがるな」

 

 三栄の言葉が、刃の如く秀未を突き刺す。

 

「本気で命を奪うかも知れない相手と戦った事が無い者が、憶測で判断するな。お前は余計な事を気にせずに、来月からの高校生活を心待ちにしていれば良い。お前に危険な事はやらせられない」

 

 秀未は俯く。

 そして三栄は、最後に告げた。

 

「部屋から出て行け。今日はもう休むんだ」

 

※※※

 

 あの後秀未は、自室へと戻った。

 分かっていた事なのに、予想より厳しい事を言われて、秀未は思わず涙を流していた。

 

「……」

 

 でも、兄の言う事は正論だ。

 自分は本気で命を奪う相手となんか戦った事はない。

 これまで何度も勝てたのは、それが試合だと分かっていたからだ。

 けど兄は違う。

 これまで何度も命を危険に曝して戦い、それでも刀を抜かず、竹刀一本だけで相手を止めてきた。

 やったことのない人間が口出し出来るほど、兄は些末な事はしていない。

 分かっている。

 分かっている筈なのに……。

 

「出来ない……」

 

 呟いた。

 

「諦めるなんて、出来ない」

 

 そして、こう思った。

 兄に言われたから、何だと言うのだ。

 危険なのは、兄であっても、他の誰であっても変わらない筈。

 なら……私も覚悟を持てれば良いだけの話。

 ここで諦めたら、一生後悔する。

 そう思えば、覚悟なんて簡単に出来る筈だ。

 

「兄上、すみません……けど、私は胸を張って生きたいんです」

 

 秀未は夜遅い時間、一つ罪を犯した。

 兄が持つ当主の証である名刀『明智近影』。

 それを兄が眠る部屋から盗み出し、そのまま家を出た。

 明智近影は、当主のみが帯刀を許される刀。

 当然自分が抜けば、勘当は愚か、最悪警察に捕まる事だってあり得る。

 それでも、もう秀未は止まれない。

 兄が許してくれないのなら、例え罪を犯してでも一人で戦う。

 どうせその内、明智の家には居られなくなる。

 それが少し早まるだけの話だ。

 犯人さえ止められれば、家を出る事になっても自分には証明出来る。

 自分は明智の人間として、正義の為に戦った強き者だと。

 それに、一度叶えたかった夢を叶える事は出来そうだ。

 本物の日本刀で戦うという夢。

 しかも憧れの明智近影だ。

 これ以上の贅沢、恐らく存在しない。

 絶対成功させて帰ろう。

 そう意気込んで、秀未は家からかなり離れた場所で眠りについた。

 

 その時……夢を見た。

 自分が初めて、竹刀を握った日の事。

 

「お……重い」

 

 七歳の時だったろうか。

 小学校に入りたての頃で、兄……三栄は十四歳。

 兄は既に免許皆伝し、明智近影を譲り受けた後だった。

 

「さあ、どこからでも打ち込んでこい」

 

 兄が竹刀を構えてそう告げる。

 この頃の秀未には、そんな兄の顔が意外にも見えたし、怖くも見えた。

 その時の三栄の顔は、秀未が知らない顔だったから。

 それまで、父の指導の下で真っ直ぐな瞳で剣を振るう門下生としての顔と、厳しくも優しい兄としての顔しか知らなかったから。

 だからそこで、初めて自分の師範になる男の顔を見て、怖いとも意外とも感じたのだ。

 兄がこんな顔をする時もあるのかと。

 

「う……うう」

 

 その時に感じたプレッシャー。

 そして、初めて持つ竹刀の重さ。

 秀未は剣を振るうどころか、その時の空間と状況に押しつぶされそうだった。

 兄はこんなものを毎日のように感じて振るい、自分を鍛えていたのかと。

 自分には到底無理だ。

 やったこともないのに、当時の秀未はそこで諦めそうになっていた。

 けど、秀未はそんな時目を細めて兄の持つ竹刀を見た。

 

 手入れはされている。

 だが使い古され、既にボロボロの竹刀。

 兄がどれだけの努力をしてきたか、見れば十分伝わる竹刀。

 兄とて、弱音を吐いたり諦めかけたりした事が無かったわけではあるまい。

 けど、それでも折れなかったからこそこうして自分の前に立っている。

 対面すればプレッシャーを感じて当たり前だ。

 きっと兄だって、初めて竹刀を握り、誰かと対面した時はこう感じたに違いない。

 自分だって兄と同じ血が流れている。

 兄と同じ明智の血が流れている。

 これから修行を積めば、自分だって兄と同じように戦えるかも知れない。

 その時の秀未はそう思った。

 

「はあッ!」

 

 秀未はそこで覚悟を決める。

 そのまま竹刀を構える兄に、勢いよく竹刀を振り下ろす。

 

「メェンッ!」

 

 三栄は直前まで防御しなかった。

 だがあと少しで当たるという寸での所で竹刀を動かし、秀未の面を防御。

 そのまま籠手突きを繰り出す。

 

「籠手!」

 

 秀未の負けだ。

 籠手突きの瞬間、秀未はその動きを必死に目で追おうとした。

 けど出来なかった。

 兄の動きは、人間業ではなかった。

 

「いい面だった。よくやったぞ」

 

 妹の初めての攻撃に、兄が嬉しそうに小さく笑っていたのは、今でも忘れない。

 けど……そこで兄に近付けるイメージが一気に無くなってしまったのも、忘れられない記憶だ。

 それからずっと考えていた。

 どうすれば兄に近付けるのか。

 どうすれば、いつか明智の家を去る事になっても自分に自信を持てるのか。

 それが出来ないなら、自分に生きる意味はあるのか……。

 

「……」

 

 そこで、目が覚めた。

 空には太陽が昇り、春の暖かくもまだ冷たさを残した風が自分を包む。

 竹刀を杖代わりにして立ち上がり、眠い目を擦る。

 

 目標は灰色の怪物。

 恐らく兄たちはもう起きている。

 今頃血眼になって、兄達は明智近影を探しているだろう。

 今日を逃してしまえば、何も出来ずにただ勘当を受け入れるしかない。

 それだけは……それだけは決して出来ない。

 必ず犯人をこの手で倒し、その上で受け入れる。

 または倒せずに、殺されて死ぬのも良いだろう。

 私は、明智の人間は強い人間でなければならない。

 怪人すら倒せないくらい弱いなら、死んで当たり前だ。

 秀未は深呼吸をしてから、道場からより離れた場所へと駆け出す。

 

 

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