浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー 作:門矢心夜
刑事達は目を丸くして、秀未を見る。
三栄だけが冷静に、秀未に告げた。
「どういうつもりだ、秀未」
三栄に目を向け、臆することなく続ける。
「言葉の通りです。今回の仕事、私にも手伝わせて欲しいんです。兄上の背中を、守らせていただけないでしょうか?」
頭を下げて頼み込む。
しかし、兄の返事は厳しかった。
「ならんぞ」
「しかし!」
秀未はそれでも、めげずに叫ぶ。
自分の兄に、目で意思を伝える。
「秀未、これは遊びじゃない。下手をすれば命を失う事になるんだ。そんな危険な事、僕は許可出来ない」
冷静にそう答えた三栄。
それでも秀未は諦めなかった。
「危険は兄上も同じ事です! 私だって明智の人間です! 足手まといになんてなりませんから、どうか私を!」
「つけあがるな」
三栄の言葉が、刃の如く秀未を突き刺す。
「本気で命を奪うかも知れない相手と戦った事が無い者が、憶測で判断するな。お前は余計な事を気にせずに、来月からの高校生活を心待ちにしていれば良い。お前に危険な事はやらせられない」
秀未は俯く。
そして三栄は、最後に告げた。
「部屋から出て行け。今日はもう休むんだ」
※※※
あの後秀未は、自室へと戻った。
分かっていた事なのに、予想より厳しい事を言われて、秀未は思わず涙を流していた。
「……」
でも、兄の言う事は正論だ。
自分は本気で命を奪う相手となんか戦った事はない。
これまで何度も勝てたのは、それが試合だと分かっていたからだ。
けど兄は違う。
これまで何度も命を危険に曝して戦い、それでも刀を抜かず、竹刀一本だけで相手を止めてきた。
やったことのない人間が口出し出来るほど、兄は些末な事はしていない。
分かっている。
分かっている筈なのに……。
「出来ない……」
呟いた。
「諦めるなんて、出来ない」
そして、こう思った。
兄に言われたから、何だと言うのだ。
危険なのは、兄であっても、他の誰であっても変わらない筈。
なら……私も覚悟を持てれば良いだけの話。
ここで諦めたら、一生後悔する。
そう思えば、覚悟なんて簡単に出来る筈だ。
「兄上、すみません……けど、私は胸を張って生きたいんです」
秀未は夜遅い時間、一つ罪を犯した。
兄が持つ当主の証である名刀『明智近影』。
それを兄が眠る部屋から盗み出し、そのまま家を出た。
明智近影は、当主のみが帯刀を許される刀。
当然自分が抜けば、勘当は愚か、最悪警察に捕まる事だってあり得る。
それでも、もう秀未は止まれない。
兄が許してくれないのなら、例え罪を犯してでも一人で戦う。
どうせその内、明智の家には居られなくなる。
それが少し早まるだけの話だ。
犯人さえ止められれば、家を出る事になっても自分には証明出来る。
自分は明智の人間として、正義の為に戦った強き者だと。
それに、一度叶えたかった夢を叶える事は出来そうだ。
本物の日本刀で戦うという夢。
しかも憧れの明智近影だ。
これ以上の贅沢、恐らく存在しない。
絶対成功させて帰ろう。
そう意気込んで、秀未は家からかなり離れた場所で眠りについた。
その時……夢を見た。
自分が初めて、竹刀を握った日の事。
「お……重い」
七歳の時だったろうか。
小学校に入りたての頃で、兄……三栄は十四歳。
兄は既に免許皆伝し、明智近影を譲り受けた後だった。
「さあ、どこからでも打ち込んでこい」
兄が竹刀を構えてそう告げる。
この頃の秀未には、そんな兄の顔が意外にも見えたし、怖くも見えた。
その時の三栄の顔は、秀未が知らない顔だったから。
それまで、父の指導の下で真っ直ぐな瞳で剣を振るう門下生としての顔と、厳しくも優しい兄としての顔しか知らなかったから。
だからそこで、初めて自分の師範になる男の顔を見て、怖いとも意外とも感じたのだ。
兄がこんな顔をする時もあるのかと。
「う……うう」
その時に感じたプレッシャー。
そして、初めて持つ竹刀の重さ。
秀未は剣を振るうどころか、その時の空間と状況に押しつぶされそうだった。
兄はこんなものを毎日のように感じて振るい、自分を鍛えていたのかと。
自分には到底無理だ。
やったこともないのに、当時の秀未はそこで諦めそうになっていた。
けど、秀未はそんな時目を細めて兄の持つ竹刀を見た。
手入れはされている。
だが使い古され、既にボロボロの竹刀。
兄がどれだけの努力をしてきたか、見れば十分伝わる竹刀。
兄とて、弱音を吐いたり諦めかけたりした事が無かったわけではあるまい。
けど、それでも折れなかったからこそこうして自分の前に立っている。
対面すればプレッシャーを感じて当たり前だ。
きっと兄だって、初めて竹刀を握り、誰かと対面した時はこう感じたに違いない。
自分だって兄と同じ血が流れている。
兄と同じ明智の血が流れている。
これから修行を積めば、自分だって兄と同じように戦えるかも知れない。
その時の秀未はそう思った。
「はあッ!」
秀未はそこで覚悟を決める。
そのまま竹刀を構える兄に、勢いよく竹刀を振り下ろす。
「メェンッ!」
三栄は直前まで防御しなかった。
だがあと少しで当たるという寸での所で竹刀を動かし、秀未の面を防御。
そのまま籠手突きを繰り出す。
「籠手!」
秀未の負けだ。
籠手突きの瞬間、秀未はその動きを必死に目で追おうとした。
けど出来なかった。
兄の動きは、人間業ではなかった。
「いい面だった。よくやったぞ」
妹の初めての攻撃に、兄が嬉しそうに小さく笑っていたのは、今でも忘れない。
けど……そこで兄に近付けるイメージが一気に無くなってしまったのも、忘れられない記憶だ。
それからずっと考えていた。
どうすれば兄に近付けるのか。
どうすれば、いつか明智の家を去る事になっても自分に自信を持てるのか。
それが出来ないなら、自分に生きる意味はあるのか……。
「……」
そこで、目が覚めた。
空には太陽が昇り、春の暖かくもまだ冷たさを残した風が自分を包む。
竹刀を杖代わりにして立ち上がり、眠い目を擦る。
目標は灰色の怪物。
恐らく兄たちはもう起きている。
今頃血眼になって、兄達は明智近影を探しているだろう。
今日を逃してしまえば、何も出来ずにただ勘当を受け入れるしかない。
それだけは……それだけは決して出来ない。
必ず犯人をこの手で倒し、その上で受け入れる。
または倒せずに、殺されて死ぬのも良いだろう。
私は、明智の人間は強い人間でなければならない。
怪人すら倒せないくらい弱いなら、死んで当たり前だ。
秀未は深呼吸をしてから、道場からより離れた場所へと駆け出す。