浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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足利明人とアイドル剣士 第五話

 

「この少女の代わりに、今度は俺が相手をしてやる」

 

 聞き覚えのある声が、剣の怪人から聞こえた。

 さっきの男のものだ。

 きっと、あの男が姿を変えたものなのだろう。

 直感的にそう思う。

 

「まさか、こんな所でアンタに会えるなんてね。蘇我高校最強の元生徒会長……足利明人さん」

 

 秀未は驚きつつも男の正体に納得する。

 確かにあの男……明人の迫力は、只者な気がしなかった。

 一般人からは感じない何かを感じた。

 だが蘇我高校のレベルがあそこまで高いのかと、感嘆を禁じえなかった。

 

「嬉しいよ。まさかアンタの方から俺に殺されに来てくれるなんてさ」

「……どういう事だ」

 

 明人は少し距離を取ってから構えつつ問う。

 

「俺もさー、元々蘇我高校の生徒だったんだよねー。それが仲間に酷い目に遭わされて死んでさー。でもそのおかげか知らねえけど、一度死んで目覚めたらこんな強い力手に入れられてさ。折角だから強い蘇我高校の奴ら殺しちまおうって寸法さ」

「……」

「アンタを狩れれば、俺は弱くなんかないって証明出来る。なんせ、三年間生徒会長であり続けた男なんだからよ」

 

 灰色の怪人は興奮を抑えられずに身構えている。

 対し明人は至って冷静だ。

 

「お前がどんな思いでいるのか、そんな事は敢えて聞かん。だが……そんな覚悟で俺を倒そうと言うのなら、返り討ちにするまでだ」

 

 姿勢を一切崩さず告げる明人。

 怪人はそれを聞いてから、やや残念そうに振る舞う。

 

「あーあ。ホントに強い奴ってやっぱそういうとこあるよねー。弱者の戯言に興味ないって? 元々中途半端な強さの奴が人の話聞いてくれるなんて思ってないけど、アンタまでそんな態度なのガッカリだよ」

 

 拳を構えて狂ったように叫ぶ。

 

「なら拳で語ってやるよ。死んだ俺がどんだけ辛い思いをしたか、どんな思いで人を殺したかをよ!」

 

 そして怪人は駆け出す。

 目で追う事など出来そうにない速度で。

 対して明人は、少しだけ構えを解いた。

 まるで殴られるのを待つとでも言うかのように。

 

「殴られてやるってか? 舐められたもんだな!」

 

 怪人の拳が風を切って勢いよく明人の眉間へと突き出される。

 明人は少しだけ吹き飛ばされながらも、殴られた所を少し押さえて相手に向き直った。

 それを見た怪人が呟く。

 

「どうだ俺の拳。痛いだろ? 同じ化け物になっても、一度死んで蘇った俺の方が強いのが分かるだろ?」

 

 見ていて恥ずかしくなる程の自己顕示。

 だがそんな台詞にすぐに返答する事なく、明人は少し笑ってから何かをぼやく。

 

「あいつ、こんなのを戦闘中ずっと徹底してたのか……。全く大した女だ……それは、最後には俺が負けるよな」

「あん? 何言ってやがんだ? アンタ」

 

 怪人がそう問いかける。

 明人はそれに対し、少し笑みを残しながら答えた。

 

「こっちの話だ。それより、今のがお前の全力か?」

「けっ。すぐ倒したら面白くねえだろ? でもどうだ? 痛いだろ? 蘇我高生の癖に小便漏らして逃げる奴なんかもいたっけな。アンタみたいな化け物は見慣れてるくせによ。情けないだろ? なぁ」

「ああ……情けないな」

 

 明人がキッと相手を睨みつけるように、少し顔を歪ませて告げる。

 

「お前のその無意味な語りがな」

 

 怪人はそれを聞いて、少し身体を震わせた。

 

「ん……だと?」

「先から自慢や自己顕示ばかり。そうでもしなければ、お前は強さを証明出来ないのか? いや、強さとはそもそも証明する必要があるのか?」

「……!」

 

 明人の言葉に、怪人だけじゃない。

 秀未も、少しばかり動揺する。

 自分が今こうして明人に助けられている理由。

 それは怪人を倒し、自分は明智の剣士として相応しい強さを持っていると、自分に自信を持ちたかったから。

 そして、それが出来なかったから。

 だが……あの怪人を見て気付く。

 今の自分は、あの怪人と大して変わらない。

 どうしようもない現実に絶望して、少しでもそれを誤魔化す為に、他人に迷惑を掛けてまで矮小な承認欲求を満たそうとしていた。

 そんな中途半端な覚悟で、兄や、目の前で戦う明人のような肉体や心の強さなど持てる筈がなかったのだ。

 

「証明したいのなら、俺を倒して前に進め。余計な口など開いている間に、俺の剣はお前を何度でも斬る」

 

 そう呟いてから、消えるように速く加速する明人。

 そして灰色の怪人の身体を、何度も切り裂いていく。

 まるで明人が分身してるかのような速さ。

 怪人は防御も出来ずに、その斬撃に怯む。

 

「あ……ああ……」

 

 灰色の怪人の姿が変貌していく。

 怪人態から、人間の姿へ変わっていく。

 そして明人の姿を見て、目を見開いている。

 

「もう良いだろう。手を引け。加減はここまでが限界だ」

 

 明人も剣の怪人の姿から、人間の姿へと戻っていく。

 それでも怪人の時に感じた迫力はそのままだった。

 途轍もない威圧感に、怪人の男は少しの間動けなかった。

 だが。

 

「けっ!」

 

 すぐに表情を変えて立ち上がり、こう明人に告げる。

 

「アンタの言う事なんて誰が聞いてやるかってんだよ! 覚えてろ、今度会った時がお前の最後だからな!」

 

 そして怪人の男は明人に背を向けて去っていく。

 

「ふん……」

 

 明人は嘆息してから、秀未に目を向ける。

 そして未だ尻餅をついている彼女に、手を伸ばす。

 

「大丈夫か?」

 

 秀未はすみませんと謝りながら手を取り、立ち上がる。

 明人は表情を変えずに呟く。

 

「よくあそこまでやったな。思わず驚いた」

「……」

 

 明人は恐らく、秀未の事を褒めたつもりなのだろう。

 だが秀未には、全然嬉しいと感じなかった。

 結局怪人相手に刀を抜く事は出来ず、逃げられてしまった。

 これでは明智の家名に泥を塗っただけ。

 兄の言う通りだった。

 試合で強いだけの人間など、本当に相手を殺そうとしている者には赤子同然だという事。

 そして人と戦う……いや人を傷付ける覚悟などそう簡単には出来ないという事。

 完全に秀未が甘かった。

 やはり自分には、あの怪人を倒す事など出来ないのだろうか……。

 

「……」

 

 だが、ここで帰るわけにもいかない。

 このままでは戦いから逃げたのと同じになる。

 例え自分が死ぬとしても、刀が抜けないとしても、一度戦うと決めた相手から逃げるなど、明智の人間として決して許されない。

 

「お前、行くつもりか?」

 

 立ち去ろうとする秀未に、明人はそう問いかけた。

 

 

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