浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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足利明人とアイドル剣士 第七話

 

 秀未が明人と別れてから、既に二時間以上が経過している。

 走っても走っても、あの怪人の姿は見当たらない。

 そうこうしている内に、もしかしたら道場の人間が外まで自分を探しに来ているかも知れない。

 見つかれば、当然ここまでしてきた事が無駄になる。

 それだけは避けなければならない。

 秀未は血眼になって探し続ける。

 

「……!」

 

 そして秀未が立ち止まったのは、それから更に時間が経ってからの事だ。

 走っている内に、高速バスが出入りしているバスターミナルに到着。

 そこで騒ぎが起こっているのが、遠目で見ても分かっていた。

 恐らくあの怪人の仕業。

 秀未はそう確信してから、バスターミナルの建物内へと駆けていく。

 

「あああッ!」

 

 予感は的中。

 怪人は触手を伸ばして、今度はバスの運転手を襲っていた。

 バスの運転手は叫びながら逃げていく。

 そして、

 

「きゃあッ!」

 

 逃げ遅れた一人の少女が、椅子に足を引っかけて転んでしまう。

 自分と同じくらいの歳と思われる少女。

 怪人は、その少女に目を向けてゆっくりと歩き出す。

 最早蘇我高校出身の者ではなさそうな少女。

 

「やめて……やめてよ……」

 

 恐怖のあまり、痛む脚を押さえて少女は泣き出しそうになっている。

 だが怪人は歩くのを止めない。

 秀未はそれを見て、刀の柄に手を掛け、抜こうとする。

 だが……。

 

「くっ……」

 

 やはり自分には、出来ない。

 それも今の自分の手は、さっきの戦いで刀を抜こうとした時より重く感じる。

 相手を傷付けるかも知れないという恐怖はとうにない。

 あの人外を傷付けるなど、恐らくこの刀でも出来はしない。

だが今度は、自分が死ぬかも知れないという恐怖が心にのしかかっている。

 明人の言う通りだ。

 誇りがどうだと強がっても、やはり死ぬのは怖い。

 そこまで見透かして、彼は自分に行ったのだ。

 

「助けて……助けて……」

 

 少女が力なく叫ぶ。

 自分が抜かなければ、少女はこのまま死ぬ。

 だが自分が囮になれば、自分は死んでも、この少女を逃がす事は出来るかも知れない。

 秀未は言い聞かせる。

 このままで良いのかと。

 自分は兄や明人のようには強くなれない。

 それは紛れもない事実だ。

 だが自らを誇れずに……違う。

 

勇気を持って立ち向かう事も、誰かを救う為に恐怖を乗り越える事が出来ない者に、自らを誇る資格などない。

 

今ここでもう一度本気で覚悟を決めるんだ。

自分は例え勘当されても、明智の人間として誇りを持って生きたい。

それならば、今助けられる命を見捨てる事など許されない。

命を救う為なら、抜ける筈だ。

自分は兄と同じような覚悟を持てると、思い込む事が出来るなら。

 

「おおおおおおおッ!」

 

 秀未は叫ぶ。

 そしてその声を聞いた怪人と、少女がこちらを見ていた。

 秀未は重い手に鞭打って、ゆっくりと刀を抜いていく。

 打たれてから、何百年も抜かれなかった刀身が、鞘から少しずつ見えてくる。

 明智近影の刀身が、この場に姿を現した。

 

「お前……さっきの女……」

 

 秀未は全ての恐怖を捨て去り、刀を構え、鞘を捨てる。

 兄も見た事がない、明智近影の刀身はとても美しかった。

 やや青い色をした刀身が、太陽に照らされて眩しく光る。

 

「はぁ。刀はどうやら抜けたみてえだな。だが、そんなんで俺を倒せるとでも?」

「……」

 

 秀未は真っ直ぐ見つめながら、返すべき言葉を探す。

 

「倒せなくても、ここでお前相手に自分が全力を出せれば、今ここにいる人達を救えれば十分だ!」

「へぇ……」

 

 怪人は興味無さそうに聞いている。

 だが秀未はそれすら気にせず続けた。

 

「私は……明智秀未。剣士だ」

 

 秀未は言葉とは裏腹に、未だ不安を感じ続ける心に言い聞かせた。

 確かに私は、本気で殺しに掛かる相手と戦った事はない。

 だがそれは、かつての兄も同じだった。

 兄と同じにはなれなくても、殺気に怯まず落ち着けば、少しは立ち回れる筈だと。

 

「そっか。じゃあ……取り敢えず殺すわ」

 

 覇気もなく、そしてつまらない者と話す声でそう告げてから、灰色の怪人は駆け出す。

 人間離れした速度に、人間離れした威力を持つ拳。

 恐れるなという方が無理な話だ。

 だが……兄はそれよりも速く強い竹刀を、いつも振るっていた筈だ。

 それに比べれば、あんな拳などハエが止まるような速度でしかない。

 

「何ッ!」

 

 秀未は刀で拳を防ぐ。

 刃が敵の拳に触れたが、当然相手の拳に大きな傷が入る事はない。

 だが流石はどんな強固な鎧をも切り裂く剣、少しだけなら傷を入れられた。

 そして人間相手なら有効と信じていた自分の攻撃が見切られた事に、怪人は酷く動揺していた。

 

「……!」

 

 秀未はその動揺の隙を突いて、刀を振るう。

 何の変哲もない左薙。

 相手の脇に傷を負わせ、その上大きく吹き飛ばして、ガラスを割って建物の外へ。

 

「逃げるんだ」

「は、はい!」

 

 少女に対して、秀未はそう告げる。

 走っていくのを確認してから、秀未は建物の外へ。

 もう一度刀を構え、ゆっくりと身体を起こす怪人を睨む。

 

「くっ……ガキが調子に乗りやがって……!」

「……!」

 

 相手の言葉には耳を貸さず、秀未は精神を集中する。

 次の動きを予測して、秀未も突撃。

 怪人はそれを見て、秀未にもう一度拳を振るう。

 秀未は瞳を閉じて、より集中。

 

「そこ!」

 

 拳の軌道を見切り、秀未は怪人の拳へと飛び乗る。

 

「なっ……!」

 

 再び動揺した怪人の腕へ、秀未は全力で切っ先を突き刺す。

 今度は奇跡的に、怪人の腕に大きなダメージを与えた。

 

「ぐあッ!」

 

 痛みに悶えた怪人が、抑えてジタバタとする。

 秀未は怪人が倒れる前に、反対へと飛ぶ。

 そして追撃の構えを取る。

 

「明智流抜刀術……」

 

 明智流の抜刀術。

 秀未は納刀の構えを取ってから、目を見開いて叫ぶ。

 

「雷明(ライメイ)!」

 

 秀未はそう叫びながら抜刀する。

 雷の如く輝く刀身が、怪人の胴を狙う。

 だがそれが……仇となった。

 

「舐めるな!」

「……!」

 

 秀未は怪人に攻撃を見切られ、大きく吹き飛ばされる。

 

 

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