浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第二章
第四十一話


 

 死にはしなかったが、予断を許さない状況には変わりない。

 今の狩野遥の状態だ。

 美咲達の防衛によって緊急搬送され、そこで応急処置の後の手術で、何とか一命をとりとめる事に成功した。

 しかし傷は深く、この後回復するかどうかもよく分からない。

 最悪このまま死んでしまう事も……。

 

 代表戦が終わって数時間後の夜八時。

 俺、美咲、山内、優香の四人は遥の病室の外にいた。

 まだ解散出来ない理由は一つ。

 遥の娘……のような存在であるヴィーダの今後だ。

 

「誰が預かるのよ」

「ウチの家じゃ預かるの難しい系……」

「優香には流石に預けられないわね」

「何故系?」

「自分で考えなさい」

「それじゃ分かんない系」

 

 優香の所が無しになった所で、山内が俺と美咲の方を向く。

 

「裕太とか会長の所はダメなの?」

「俺は一人暮らしだけど……色々と問題があるだろ」

 

 あんな幼女と二人きりで暮らしてたら犯罪者だと思われる。

 

「私の家も難しいですわ」

「じゃあ……」

 

 全員で山内の顔を見る。

 

「ヴェェッ? なんであたし?」

「だってもうそれくらいしか選択肢ないし。それに何かダメな事情ある?」

「別にないけど」

「だったら頼むよ」

「ナニソレイミワカンナイ」

 

 そんな真〇ちゃんみたいな事言われても。

 

「とにかく頼むよ! な!」

「……はあ」

 

※※※

 

 半ば強制的に決まってしまったので、取り敢えず挨拶に。

 

「ヴィーダ」

「……」

 

 ヴィーダはまだ、遥が眠るベッドの前で落ち込んでいる。

 

「遥さんが治るまでの間、私と一緒にいてもらうから……よろしくね」

「……」

 

 ――うう、どうしたらいいのよ。

 

 山内は子供の扱いは得意か苦手かと言われたら苦手な方だ。

 こういう時、どう声を掛けたらいいのか……。

 

「ねえ、ママの事は好き?」

「スキダヨ」

「そっか」

「ヴィーダ、ミンナトチガウ。ツクラレタニンゲン。ママハヴィーダヲドウグトシカミテナイイッテタ」

 

 あの扱いを見れば、大体の人が分かる。

 でも……。

 

「ダケド、ヴィーダ……ママスキ。ダッテ……ホントハ、トッテモヤサシイ。ヴィーダ、ワカル」

「ヴィーダ……」

「キミ、ナマエハ?」

「山内……」

 

 そこで止まる。

 下の名前は……あまり好きじゃない。

 

「シタノナマエハ?」

 

 ヴィーダに首を傾げられる。

 自分の知人にも、下の名前を自ら明かした事はない。

 わざわざ聞かれたのも、恐らく今回が初めての事だ。

 

「……」

 

 山内は少し俯いて考えてから、ヴィーダに自分の名前を告げた。

 

「成音(なりね)。山内成音」

「ナリネ、ママ、スキ?」

「あたしは……」

 

 山内は自分の母親を思い出す。

 〇×女子高に入るまで、山内は名門の私立中学に通うエリートだった。

 生徒会長にも就任し、有名私立高校に特待生として入学出来そうにもなっていた。

 でもそこまでの道は、全て母親が決めたもの。

 中二の時くらいから、山内は成績不振から母親に叱られるようになり、母親の決めた事をこなすのが嫌になった。

 元々人と争う事があまり好きではなかったから、余計にそう思ってしまったのだ。

 山内は母親の決めた道から外れる事を選び、けじめとして家を出ていく事にした。

 今では父親からの仕送りを受け取りながら、学校近くのマンションで一人暮らしをしている。

 〇×女子高は学校の特性上、学年一位を取らなければ大学への推薦入試を受けられない。

 元々私立中学でエリートだった山内には簡単な話だが、恐らく三年後に母親が決めた大学に入る事はまずないだろう。

 

「あたしは、母さんの事が苦手かな」

 

 ヴィーダは遥の為に美咲と戦う事を躊躇わなかったし、遥が倒された時は、母親の為に美咲と協力して戦う事を選んだ。

 山内なら、多分母親が困っていても助けようとは思えない。

 自分が一番苦しかったのに、母親は叱るだけで何もしなかったのだから。

 

「ナリネノママハ、ヤサシクナカッタ?」

「……覚えてない」

 

 嫌だった事なら、沢山思い出せる。

 母親には遊んで貰った記憶すらない。

 貰ったものと言えば、この名前と毎日の食事くらい。

 食事すら、母親に従わなければ食べさせて貰えない日もあった。

 

「ごめんね、なんかヴィーダを慰めるつもりで来たのに」

「ナグサメル? ヴィーダヲ?」

「うん」

「……ウレシイ」

「え?」

「コレッテ、トモダチ?」

 

 ヴィーダが大きく開けて首を傾げる。

 

「友達……」

「ヴィーダ、ナリネ、トモダチ!」

 

 そう言って握手を求めた。

 

「そうね、トモダチ!」

 

 山内はその手を握る。

 




次回予告

美咲「ヴィーダさんの喋り方聞いてると、アマゾン思い出しますの」
初「ネットでポチる奴?」
美咲「違いますわ。仮面ライダーアマゾンですわ」
初「どういう奴なんだ?」
美咲「これですわ」
初「これは中々異色だな……」
美咲「昭和ライダーも一応少しだけ見てますの」
初「へえ……」
美咲「それより山内さんの名前が明らかになりましたわね!」
初「おいおいそりゃまずいぞ」
美咲「何がですの?」
初「お前自分がつるんでた奴の事くらい覚えとけよ。いから始まってみで終わる私のストーカーに下の名前無いんだぞ」
美咲「誰ですの?」
初「……知らねえからな」
ガチャガチャ
美咲「? 今収録中ですのよ、勝手に入られては困りますわ!」
???「初ちゃーん、最近顔見てないけどここにいるの?」
初「……開けるなよ、絶対に開けるなよ」

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