浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第四話

 痛い……。

 もう何で皆顔ばっか殴るの?

 

「顔面の痛さがフタエノキワミだわ……」

 

 職員室で一人、もう自分でも何言ってんのか分かんない。

 こりゃ顔面と同時に頭もやられたかも知れない。

 

「福沢先生、この書類を

「はい?」

「すみません何でもないです」

 

 先輩が逃げていく……え? もしかして、今の俺の顔そんなに酷いのか?

 

「はあ……もう嫌だ」

 

 まだ三時間目と四時間目と六時間目授業だし……。

 もう嫌だ早く帰りたい。

 

※※※

 

 授業が終わった……。

 達成感も何もあったもんじゃない。

 ただただ胃が重く、辛いだけの一日が過ぎた。

 

「……」

 

 昼飯は何も食べられず、飲み物すら喉を通らない。

 胃はそれなのに重い……。

 そして顔が痛い……。

 

「うう……」

 

 もう行きたくない。

 毎日こんな事ばかり考える。

 こんな時、俺が正義のヒーローだったら、あの不良達をボコボコにして……分からせてやるのに。

 体育すら苦手な俺は、それすら出来ない。

 

「あの子は凄かったなあ……」

 

 朝の事を思い出す。

 発言や行動こそ変だったが、事実彼女は、俺が何といおうと自分の意見を通していた。

 俺にもあんな勇気や強さがあれば……もしかしたら……。

 

「いや、考えても仕方ないか」

 

 あの子はあの子。

 俺は俺だ。

 誰かの真似をした所で、その誰かにはなれっこ無いんだから。

 俺に出来るのは、俺に与えられた立場をこなすだけ……。

 

「先生、出来ました」

 

※※※

 

「え?」

 

 女の声が聞こえて、少し驚いた。

 生徒の声だろうか……ただそれにしては、この学校の生徒には似つかわしくない……落ち着いた声だ。

 俺が驚いたのは、その落ち着いた雰囲気の事だ。

 

「ま……まさか」

 

 こんなクソみたいな高校にも、もしかしてまともな生徒がいるのか?

 なら見るしかない。

いや見るべし。

 

「……ただドアは半開きなのね」

 

 どうりで声が聞こえるわけだ。

 まあ良い……覗くだけ覗いて。

 

「ちらっ……」

 

 取り敢えず中を見てみたが、何をやっているのだろうか。

 扉には科学部と書かれていたが、実験というよりは、ものづくりをしているように見える。

 もう一度よく見てみると、何か機械……いやベルトか?

 

「ん?」

 

 ベルトに取り付けられた何かを外して操作し、また取り付けている。

 すると……。

 

「えっ……?」

 

 声を殺したが、それでも出るのまでは防げない。

 ただの男子生徒が……そのベルトの力かどうかはわからないが、急に兵隊姿の怪人へと変化した。

 まるで……何とかライダーみたいに。

 

「いや……え? ここ科学部ってよりショッカー本部?」

 

 ライダーあまり見た事ないからそれしか出ないけど。

 

「こちらです」

 

 最初に声を聞いた女子生徒の方は、男子生徒が使っていたベルトとはまた違う形のそれを、顧問と思しき教師に渡す。

 

「あの人は……」

 

 俺も見覚えがあるし、お互い顔も名前も知っている人だ。

 名前は、狩野遥《かのうはるか》。

 俺の同期で、俺より少し年上の女性教師だ。

 前職は科学者だったと聞いた事がある。

 それなら科学部の顧問も頷ける話だ。

 

 初めて会った時も思ったが、かなりの美人だ。

 アッシュブラウンの髪を三つ編みにした、落ち着いた雰囲気。

 何となく女医にも見える。

 この学校の保健室の先生を彼女にやって欲しいくらいにはと思ったが、これでちょっと印象が変わったかも知れない。

 恐らくだが、この科学部の製作している物の製法を知るのは、彼女しかありえないからだ。

 

「これが……」

「はい。突然変異体に使用する事で、更にその力を増幅する効果もあります」

 

 聞きなれない単語だ。

 何となくだけど、ほにゃららライダーで言う改造人間の事だろうか。

 

「ところで先生、まずはどちらに攻め入る気ですか?」

 

 攻め入る!?

 何? もしかしてこれ聞いちゃいけない奴?

 怪人側がどんな悪さをするか決めてる奴だろ?

 

「決まっている……まず〇×女子高を支配下におく。噂によれば、そこに突然変異体が数名ほどいるらしいからな」

 

 あ……改造人間の事じゃないらしい。

 でも……ん?

 てことはそもそも突然変異体って何……?

 

「完成した事だ。今日はもう終わりにしよう」

 

 あ……もう終わりか。

 え?

 

「まずい」

 

 流石にここはまずい。

 俺はすぐ近くのトイレまで駆け足で移動し、隠れる。

 

「ふう……」

 

 それにしても恐ろしいものを見た。

 まさかショッカー本部が実在するなんて。

 てことはこの世界にも何とかライダーが存在したりするのだろうか。

 

「……」

 

 たださっき彼女らは、攻め入ると言っていた。

 ここは最凶の不良達が集まる学校だ。

 そうなると……放置しておくのは危険かも知れない。

 彼女らが言う突然変異体が見つかる前に、俺が隠しておくべきだろう……泥棒だけど。

 泥棒かも知れないが、これは俺のやるべき事だろう。

 

「これ以上奴らの好きにはさせない」

 

 それに俺へのイキリに更に拍車が掛かったら、胃潰瘍になるかも知れない。

 それだけは絶対阻止だ。

 

※※※

 

 俺は職員室に戻ってから、遥先生にバレないように科学部部室の鍵を入手。

 そしてこっそり歩いて、部室の前に立つ。

 

「お父さん。お母さん。ごめんなさい。俺は他人を巻き込まない為に泥棒になります……」

 

 反省もしません。

後悔もしません。

死んでもお断りします。

 

「……」

 

 俺は扉を開けた。

 暗くてよく見えない……が、探し求めていたものは意外と近くにある。

 

「これか……」

 

 変身した男子生徒が使っていたものと似ているが、細部が違うベルトだ。

 男子生徒の使っていたベルトの中心には、迷彩帽を被った兵士の紋章があったが、このベルトには紫色の爆弾の紋章がついている。

 この紋章らしきものが端末になっていて、これを操作する事で変身していた。

 実際取り外して、ひと昔前のガラケーのように開いてみると、数個のキーと、ディスプレイが姿を現す。

 

「意外とカッコいいけど……」

 

 俺は見た事ないが、やはりこういうのを見るとほにゃららライダーしか頭に浮かばない。

 俺が幼稚園の頃に、どこかで見た事あるくらいだ。

 確かこんな感じの端末で変身する奴がいたような気がするが、やはり俺の記憶に正確な記憶はない。

 

「っと……」

 

 いけないいけない。

 仮にも正義の為とは言え、今の俺は泥棒だ。

 急いで逃げなければ。

 

 


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