浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第四十九話

 

 俺も結局手伝い、何とか二時間程度で書類を全て書き終えた。

 

「はあ……終わった……」

 

 既に腕が痛い。

 教師時代でも、こんなに書類を書いた事が無かったのに。

 

「あたしも久々だから腕が……」

 

 二人とももう腕がパンパンだ。

 なのに美咲はそんな様子もなく、急に立ち上がった。

 彼女は今日だけで三回も戦闘をしているというのに。

 

「美咲?」

「ちょっと外へ出てきますわ」

 

 美咲はそう言って部屋を出る。

 

「最近増えたんだよな、あいつ一人で外出る事」

「そうなんだ」

 

 彼女が仮面ライダーボマーとなって、一か月以上が過ぎた。

 努力のかいもあり、蘇我高校と決着をつけ、何とか学校を守れはしたが、戦いはまだ続いている。

 

「長い戦いに挑み続けて、副会長にまで責められて……俺だったら到底耐えられないや」

「……」

 

 成音も立ち上がる。

 

「成音?」

「あたしもちょっと出てくる」

「おう、気をつけてな」

 

 俺は成音を見届けてから、その場で横になった。

 

※※※

 

 裕太には初めて聞いた風に返したが、何をしているのか成音は知っていた。

 美咲が最近一人になる理由を。

 彼女はよく、近くの公園で身体を鍛えている。

 木にサンドバッグを吊るして、攻撃を当てては跳ね返ったものを受け止めてを繰り返すという古典的な方法。

 

「会長……」

 

 成音はヴィーダとの戦いを思い出す。

 あの時、主に戦ったのはボマーのみで、成音は最初の攻撃で戦闘不能に追いやられてしまった。

 あの修行中は、まだボマーと互角くらいかもと思っていたのに、あの決戦で……自分と美咲のレベル差というものを思い知らされたようにも感じる。

 

「……」

 

 自分は、美咲のやり方に反抗して生徒会を出た。

 あの時蘇我高校の生徒と戦うと言い出した事が出ていくキッカケだったが、そうなる前から彼女の強引で大胆過ぎる仕事ぶりが気に入らなかった。

 仕事ぶりもそうだが、何より自分が生徒会長だった時と比べてしまった。

 成音は母親に言われるがままにやり続け、やりたくなくても仕方ないと思い続けながらやっていた。

 だが美咲は何事に対して常に一生懸命で、自分の目的の為ならどんな努力も無茶も惜しまない。

 低レベルの学校に入ったというのに、そこに見合わない程場違いな努力家だった彼女。

 もう二度と努力をしないと決めていたのもあって、成音はがむしゃらに頑張る人間を見るのが嫌になっていたのかも知れない。

 そして蘇我高校の生徒に頼まれて戦いはしたが、結局美咲に勝つ事は出来なかった。

 努力していても所詮は底辺だと思っていた。

 だから彼女を凹ませてやろうと考えていたのに。

 今はかつて自分が見下し、尚且つ見るのも嫌だった相手に対して劣等感を抱いている。

 

「あたしだって……」

 

 こんな事思ったのは初めてだ。

 誰かに置いて行かれる事が悔しいと思った事は。

 

「ナリネ!」

 

 いつの間にかいたヴィーダが、成音に対して飛びついた。

 

「ヴィーダ……」

 

 よしよしと頭を撫でる。

 

「優香はどうしたの?」

「ユウタノトコ、イッタ」

「そっか」

 

 何かに気付いたヴィーダが、上目遣いで成音を見た。

 

「ナリネ、ダイジョウブ?」

「大丈夫よ」

「ミサキ……イル」

 

 ヴィーダが美咲を指さす。

 今はランニングをしている美咲を見つつ、成音はヴィーダに問う。

 

「ヴィーダは、あたしの事どう思う?」

「?」

「ほら、あたしヴィーダとは一度戦ってるけど……すぐ負けちゃったし。弱っちいとか思ってるかなって」

「ナリネ……」

 

 ヴィーダが少し落ち込んだ顔をする。

 

「ナリネ、ゴメン……」

「良いのよ。あたしが弱いのは事実。だから、もっと強くなりたい」

「ヴィーダモ……」

「え?」

「ヴィーダモ、モットツヨクナル。モウママガキズツクノハイヤダ。ダカラ……」

 

 ヴィーダが手を差し出す。

 

「イッショニ、ツヨクナロ!」

 

 ヴィーダがいつものようにぴょんぴょんと跳ねて言う。

 成音は微笑んで。

 

「うん」

 

 と返してあげた。

 

 




次回予告

初「意外とお前リアルな特訓してんだな」
美咲「そうですわ。いつかは貴女達にも勝つ為に」
初「凄いじゃん」
美咲「え?」
初「こんなに一生懸命特訓してるなら、私なんてすぐ追い抜かせるだろ? だから分かったら私に関わるのをやめて、二度と私の前に姿を現すなボンバーウーマン」
美咲「珍しく褒めたと思ったらそういう魂胆ですのね……!」
初「私がお前を褒めるわけねえだろ」
美咲「やっぱり貴女は今ここで倒しますわ」
初「落ち着け前回もそのネタ
美咲「えいっ!」
ポイッ! カン! ドーン!
初「……人の話を聞けよお前は」

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