浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第六話

「あそこにいる人こっち見てるよ~」

「キモ~い」

 

 はあ……俺はこいつらを助ける為に行動してるってのに、なんでこんな言われ様なんだ。

 

「……」

 

 果たし状をこの学校の生徒に渡しているのを、俺は遠目で見た。

 科学部の作ったベルトの件も考えると、悪い予感がして仕方ない。

 俺がする事は一つ。

 その果たし状の中身を見せてもらい、自分が数日前に盗んだベルトを使って、蘇我高校の連中を倒す事。

 何とか仕事を早く切り上げて来たが、もう下校時刻は過ぎている。

 もう帰ってしまったのだろうか。

 

「何をしてますの?」

 

 聞き覚えのある声。

 

「美咲……」

「女子高の近くで男一人で立ってるなんて、不審者の極みですわよ」

「ふ……不審者じゃねえし」

「立っている……いや、違いますわね。もしかしてた

「下ネタ言う気なら俺が全力で止めるぞ」

 

 そして俺は女子高生で興奮しねえし。

 

「はあ……そんな事より、今度は何ですの? 人轢く次は誘拐ですの?」

「犯罪から離れてくれよ……そうじゃなくて、実は……」

 

※※※

 

「なるほど……果たし状なら知ってますわよ。生徒会宛でしたし」

「ホントか?」

「今も私が持ってますわ」

「ならそれを俺に渡してくれ」

 

 俺は手を伸ばすが、美咲は渡すのを拒否。

 

「渡しませんわよ。大体……中身を見てどうする気ですの?」

「決まってるだろ。俺はそいつらの学校の先生だ。お前を巻き込むわけにはいかない」

「へえ……貴方はこの学校を支配させる気ですの? ここが支配されれば、私が誰かに支配されるも同然。そんなの私は耐えられませんわよ?」

「違う。俺がそいつらを止める」

 

 俺は拳を握る。

 

「貴方にそれが出来るとは思えませんし……それに、私は自分の運命を誰かに委ねる気はありませんの。私はいつか頂点に立ちたい。だから、そんな事させませんわよ」

「美咲……」

「話はそれだけですわね? とにかく、手出しは無用ですわ」

 

 美咲は眼鏡のブリッジを上げて立ち去る。

 

「……諦めない。俺はあいつを助ける……そしてこの学校の連ち

「あのーすみませんそこのお兄さん」

「ゑ?」

 

 警察官?

 俺なんかしたか?

 

「お……俺に何か用ですか?」

「用? 何とぼけてんの? 女子高の前でそんなそわそわしてるとか怪しすぎるよ? ちょっと職質させて?」

 

 なんでどいつもこいつも……俺を犯罪者扱いするんですかね?

 

※※※

 

 俺はあれから再び職質されるのを覚悟で……美咲の行動を監視した。

 そして時が来た。

 美咲は河川敷で、蘇我高校の生徒五人と向き合っている。

 それを俺は遠くで見ている。

 

「約束通り来ましたわよ」

「五対五……の筈だけどな。お前みたいな雑魚眼鏡一人か」

 

 蘇我高校の生徒五人は、確か全員一年生の筈だ。

 まずは実験の為に、まだ経験の浅い者から向かわせたのだろう。

 

「雑魚眼鏡? 口の利き方に気を付けた方が良いですわよ。私はいずれ頂点に立つ女。貴方達はその前座に過ぎませんの」

「……笑わせないで欲しいな。仲間一人連れて来れない奴に、そんな事言われてもね」

 

 生徒達がベルトを取り出す。

 兵士の頭の紋章型の端末を取り出し、操作する。

 

『ARMY DRIVE READY?』

 

「変身」

 

『COMPLETE』

 

 五人が兵士型の怪人へと姿を変える。

 

「これは……」

 

 流石の美咲も少し動揺した。

 だが……後ずさりもせず、まず金属バットを取り出す。

 

「武器は金属バットだけか?」

「やあッ!」

 

 美咲は勢いよく、怪人に向かってバットを振るう。

 だがバットの方から折れてしまった。

 

「これで終わりか?」

「いや……まだですわ。勝負はここからですの!」

 

 このままではまずい……早く変身しないと。

 

「……ッ!」

 

 俺はバッグからボマードライバーを取り出し、腰に装着。

 ドライバーからベルトが飛び出し、俺の腰を覆う。

 爆弾型の紋章を取り出してから、その端末を操作する。

『BOMER DRIVE』と書かれたボタンを押す。

 

『BOMER DRIVE READY?』

 

 何とかライダーっぽくポーズを決めて、叫ぶ。

 

「変身!」

 

 端末を中心に取り付ける。

 しかし……。

 

『ERROR』

 

 ベルトから拒否されるように、俺は吹き飛ばされてしまう。

 

「そんな……」

 

 俺はボマードライバーを拾い直し、今度はベルトを使わずに何とかしようと駆け出す。

 

「やめろお前ら!」

 

 そして階段の途中で叫ぶ。

 その声に気付いた生徒達が止まり、俺の方を向く。

 美咲は既にボロボロで、地面にうつ伏せで倒れている。

 

「うぐ……」

「フクか。俺達に何の用だ?」

「止めに来たに決まってんだろ……こんな事、もうやめるんだ」

「お前程度に何が……ほう、そのドライバーを使う気か?」

「……」

「別に奪い返すつもりはない。お前が持っていた所で役に立たないしな……。返すしか方法はない」

「お前達には渡さない。その子も俺が守る!」

「待ちな……さい。裕太さん……そいつは……私の敵ですわ……」

 

 傷だらけの美咲が立ち上がる。

 荒い息を吐き、拳を握った。

 

「貴方方……本当にこんなやり方で私達を支配して楽しいんですの?」

「何だと?」

「貴方方は私が一人で来たにも関わらず、五人で……しかもそのベルトを使って戦いを挑みましたわね……それって、貴方方が私より弱い事を認めている……そういう事になりませんの?」

「減らず口を……そんなものは仲間一人連れて来れなかった言い訳に過ぎない」

 

 美咲が笑って告げる。

 

「私は勝つ為に手段は選びませんが、集団で寄って集って一人を倒すのは嫌いですの」

「知らないのか? お前のそういうのを、負け犬の遠吠えって言うんだ」

 

 リーダー格が近付いて、美咲の腹を殴る。

 もう黙って見るなんて……出来ない。

 

「美咲! これを使え!」

 

 俺はボマードライバーを美咲に渡す。

 前に聞いた言葉を思い出した。

 そのベルトは、突然変異体と呼ばれる者の力を増幅する為のものだと。

 美咲は爆発に巻き込まれて死んでも、すぐに蘇る体質の筈。

 それなら……試してみる価値がある。

 

「無理だ。お前には使えない」

 

 舐め切った表情で美咲を見る。

 

「このベルト……なるほど、そういう事ですの……」

 

 美咲は何かを理解したかのように笑う。

 

「今から証明しますわ。私の言っている事が負け犬の遠吠えじゃないって事を……貴方方よりも少し数の面で不利ですが……これで力の面では平等ですわよ」

 

 美咲は腰にベルトを装着する。

 見た目の割に、妙に手慣れた動きだ。

 まるで初めてじゃないかのような。

 

「……これですわね」

 

『BOMER DRIVE READY?』

 

 端末を閉じてから右手を顔の左側近くまで移動させて構え、大きな声で叫ぶ。

 

「変身ですわ!」

 

 端末を取り付ける。

 

『COMPLETE』

 

 天から一個の紫に発光する爆弾が降り立ち、美咲はそれを右手で掴んで握り潰す。

 爆風が巻き起こり、美咲はそれの中へ。

 

「美咲……」

「まさか……」

 

 怪人達はそれを驚いた顔で見ている。

 爆風が止み、煙が立ち込めるそこから……その戦士は現れた。

 

 第一印象を言うなら、あの彼女の見た目の印象とは正反対だが……性格にはマッチした姿だった。

 黒を基調とした……彼女の肉感的なボディラインが強調されたライダースーツの上から、紫色の長ランを羽織ったその姿は……まさに番長。

 あの端末の形のような、紫色の爆弾型の頭の頭頂部からは火が灯されており、複眼は金色に輝いている。

 顔のデザイン的には、俺も知っているあの何とかライダーのような感じだ。

 武器はヒーローには似つかわしくない金属バット。

 そして背中に、ダイナマイトの形をした飛行武器が六つ。

 所謂ボムビットだろうか。

 

「私はボマー……仮面ライダーボマーですわ!」

 

 美咲は自分の戦士としての名を、高らかに名乗りあげた。

 

 

 


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