浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー 作:門矢心夜
倒れた黒フードに、変身を解いた美咲が近付く。
「黒フードさん……」
「美咲……」
その時だ。
「裕太」
「成音? それにみんなも、ここに来たのか」
成音とヴィーダが、ベルトを装着して俺を見ている。
だが……何というか穏やかな雰囲気ではない。
「ど、どうしたんだよ。そんな顔で俺を見て」
「裕太、気を悪くしないで聞いて欲しい」
「は……はあ」
成音は言うのを躊躇ってから告げる。
「遥さんが言ってたの。もしかしたらあの日、裕太が遥さんを斬りつけたんじゃないかって」
しばらく俺は、成音の言っている事が理解できなかった。
「へ? いや、どう考えても違うだろ。だって俺はあの時、優香と一緒にいただろ?」
「多分あの場に現れたのは、裕太であって裕太じゃない……そうですよね遥さん」
成音がスマホのスピーカーに向かって言う。
『ああ。優香からの話を聞いて考えてみたんだ。ヴィーダが何故、福沢裕太を避けているのか』
「ヴィーダの……一体どういう事ですか?」
『成音は私の説明と、蘇我高校から持ち帰った資料で既に知っているんだが、ヴィーダには脳波で個人を判別する能力が備わっているんだ。ヴィーダがお前を嫌いと言った理由には、きっとそれがあるのだろう』
「でもこんなのおかしいです! 俺は観客席からずっと見てたんですよ!?」
あの日の記憶に偽りはない。
確かに俺の中から声が聞こえる事はあったし、俺の知らない記憶を、俺は断片的に思い出す事があった。
しかし……。
『まったく……今更気付くなんてな』
「……ぐ……」
※※※
頭を押さえる裕太。
「裕太!」
口元を緩めながら、彼は囁く。
『すっとしたぜ……ようやく表に出られる」
「アンタ……」
「そうだよお嬢ちゃん、俺が黒フードの正体さ」
「裕太……さん?」
遠目で見ていた美咲も、その様子に気付く。
「久しぶりだな六角美咲。俺だよ、あん時の黒フード」
「何言ってるんですの裕太さん……貴方が黒フードなんてそんな事……」
「おいおい、分かりやすかったと思うんだけどな。大体、あの黒フードの性格と俺の性格、太陽と月くらい違うだろ?」
両腕を広げながら言う裕太。
「あ、因みに言っとくけどよ。あの決勝の時までお前達と一緒にいた福沢裕太はあいつだぞ」
黒フードを指さす裕太。
「あいつがお前と戦うのを少々躊躇ったり、お前といる事をあまり不快に感じたりしていないのも、あいつの中に少し残っていた福沢裕太がそう感じさせてたっつー事」
「でも、そんな事どうやって……」
「俺とあいつ、そして福沢裕太に関してはちょいと複雑な事情があるんだが、まずは俺の中の福沢裕太とこの場のお前らに、あの決戦の時に何があったかを一から説明してやるよ」
裕太は悪魔のような笑みを浮かべ、口を開き始める。
※※※
美咲に敗北した後、黒フード……二号は菫に通信を入れた。
「俺だ」
『二号か。狩野遥の暗殺は成功したのか?』
「いや、まだ息があった。しかもあのアマ、ハイドロフォームカードなんてもん隠してやがった。そのカードのせいで六角美咲にやられたよ」
『そうか……でもいくつか遥の研究品は盗めたのだろう?』
「ああ。一番よさそうなのを手に入れた」
戦闘前に科学部の部室で盗んだアトミックドライバーに見ながら言う。
『それは楽しみだな。ところで、一号はまだ校舎内にいるのか?』
「ああ。その筈だ」
『ならプランを変えよう。君の能力と、君に与えた顔を使うんだ、あとは分かるよね?』
フードに隠された、中々整った福沢裕太の顔に触れる。
そして菫が何をしたいのかも全て察した上で笑う。
「お袋も落ちる所まで落ちたな。遥だけじゃなく、巻き込まれただけのガキや自分の子供まで殺すってのかい」
『そういう事になるね』
「お袋は科学者としては高得点でも、母親としては零点だな」
『失敗作を生かしておいた所で無意味だ。それに君が福沢裕太になる方が、怪しまれずに狩野遥を殺すチャンスを得られる。それに、狩野遥側に付きそうな人間も早めに排除する方が妥当だ』
「良いねえ、やっぱりお袋は最高だ」
二号は通信を切る。
次回予告は今回なしです