浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第九十二話

 

 あのまま菫は教室に戻り、蒲生に電話を掛ける。

 

『菫先生、どうしたんすか?』

「少しまずい事になってね」

 

 そう言いつつも、少し余裕のある笑みを浮かべた。

 

『え?』

「六角美咲に、僕が黒幕である事を知られてしまった」

『……』

「案ずる事はない。すぐに消す事が出来れば、何の問題もないからな」

『そうですね……その通りです』

 

 菫はピクリと眉を上げる。

 

「自信が無さそうな声だね。一度負けた事を気にしているのかい?」

『……』

「悪いけど君にそんな暇は与えられないな」

『それは……』

「代わりに君には最後のチャンスを与える。それすらこなせないようなら、君も一号と同じく廃棄だ」

『……』

「安心したまえ。僕も何もしないわけじゃない。少しばかり危険な方法だが、それでもやるかい?」

 

 菫が目をつけたのは、フラスコの中の薬品と、その隣に置かれたドライバー。

 

『私は六角美咲を倒したいっす。その為なら死んでも……』

「良い返事だ」

 

 菫は不敵に笑い、通信を切る。

 

「遥……君はやはり凄い科学者だ。君がいなければ、どれも完成に至らなかった……でもね、科学者として頂点に立つべきなのは僕なんだ」

 

 その為なら、どんな手も使う。

 人の道を外れても、科学者として頂点に立とうとする。

 それが自分……戸間菫だ。

 

「なあ聞いて良いか?」

 

 明人の身体の中にいる、もう一人の二号が菫に問いかけた。

 

「……」

「こいつを蒲生に使うんだろ? 何なんだこいつは」

 

 そう言ってフラスコを指さす。

 

「三号の肉体の製作過程で生まれた副産物……。蒲生には説明したが、非常に危険な代物だ」

「どんなもんなんだ?」

 

 菫は近くにある透明なボックスに目をつける。

 そこには、元気に駆け回るマウスの姿が。

 

「これを見たまえ」

 

 菫が先のフラスコの中の液体をスポイトで吸い、ボックス内に垂らす。

 マウスがそれを舐めると、たちまち身体に変化が起きた。

 

「これは……」

 

 マウスの瞳が片方だけ色が変わり、右半身の筋肉が不自然に隆起する。

 恐らく副作用だろう。

 だがその肉体の変化で得る力は……。

 

「……こりゃすげえな」

 

 何と肉体が変化した実験用のマウスが、拳でガラスを破壊する。

 そのままどこかへ飛び出していく様子を見ながら、菫が言う。

 

「元々突然変異体でない生物の遺伝子を書き換え、尚且つ通常の突然変異体ではありえない力を使う事が出来る。ただし……」

 

 動いていたマウスが突然行動を止め、苦しみだす。

 そしてそのまま息絶え、二度と動かなくなった。

 

「大抵の者は、その膨大な力に耐え切れない」

 

 菫は死んだマウスを拾い上げ、即座にゴミ箱に捨てる。

 

「でも耐え切れるだけの力があるなら、これを使いこなせる」

 

 薬品の力に置いてあるベルトを見て呟く。

 明人の所持しているソードドライバーの正統進化型のドライバー。

 裕太の持つムラマサドライバーも、ソードドライバーの発展型だが、このドライバーはムラマサドライバーに入っている機能を除外した代わりに、ソードドライバーに元々備わっている能力を二倍以上に向上させている。

 仮面ライダーへの変身と同じく突然変異体である事が必須条件だが、同時に人工物である事も条件となっている。

 

「面白れぇ……」

 

 二号は笑みを浮かべながら、薬品に目をつけた。

 

※※※

 

 通信が切れてから、蒲生は自室で笑っていた。

 

「くく……ふふ……ははは……」

 

 ここでしくじったらどうなるのかとか、菫が今作ったものを使って自分がどうなるのかとか、そんな感情は今の蒲生にない。

 洗脳の影響で、美咲への憎しみ以外の感情が、蒲生にとってどうでもよくなってしまっているからだ。

 

「美咲……。例えこの身体が壊れても、私はアンタを倒す。だから待っていろ……」

 

 狂人のような笑い声が、自室に響く。

 

 


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