浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー 作:門矢心夜
あのまま菫は教室に戻り、蒲生に電話を掛ける。
『菫先生、どうしたんすか?』
「少しまずい事になってね」
そう言いつつも、少し余裕のある笑みを浮かべた。
『え?』
「六角美咲に、僕が黒幕である事を知られてしまった」
『……』
「案ずる事はない。すぐに消す事が出来れば、何の問題もないからな」
『そうですね……その通りです』
菫はピクリと眉を上げる。
「自信が無さそうな声だね。一度負けた事を気にしているのかい?」
『……』
「悪いけど君にそんな暇は与えられないな」
『それは……』
「代わりに君には最後のチャンスを与える。それすらこなせないようなら、君も一号と同じく廃棄だ」
『……』
「安心したまえ。僕も何もしないわけじゃない。少しばかり危険な方法だが、それでもやるかい?」
菫が目をつけたのは、フラスコの中の薬品と、その隣に置かれたドライバー。
『私は六角美咲を倒したいっす。その為なら死んでも……』
「良い返事だ」
菫は不敵に笑い、通信を切る。
「遥……君はやはり凄い科学者だ。君がいなければ、どれも完成に至らなかった……でもね、科学者として頂点に立つべきなのは僕なんだ」
その為なら、どんな手も使う。
人の道を外れても、科学者として頂点に立とうとする。
それが自分……戸間菫だ。
「なあ聞いて良いか?」
明人の身体の中にいる、もう一人の二号が菫に問いかけた。
「……」
「こいつを蒲生に使うんだろ? 何なんだこいつは」
そう言ってフラスコを指さす。
「三号の肉体の製作過程で生まれた副産物……。蒲生には説明したが、非常に危険な代物だ」
「どんなもんなんだ?」
菫は近くにある透明なボックスに目をつける。
そこには、元気に駆け回るマウスの姿が。
「これを見たまえ」
菫が先のフラスコの中の液体をスポイトで吸い、ボックス内に垂らす。
マウスがそれを舐めると、たちまち身体に変化が起きた。
「これは……」
マウスの瞳が片方だけ色が変わり、右半身の筋肉が不自然に隆起する。
恐らく副作用だろう。
だがその肉体の変化で得る力は……。
「……こりゃすげえな」
何と肉体が変化した実験用のマウスが、拳でガラスを破壊する。
そのままどこかへ飛び出していく様子を見ながら、菫が言う。
「元々突然変異体でない生物の遺伝子を書き換え、尚且つ通常の突然変異体ではありえない力を使う事が出来る。ただし……」
動いていたマウスが突然行動を止め、苦しみだす。
そしてそのまま息絶え、二度と動かなくなった。
「大抵の者は、その膨大な力に耐え切れない」
菫は死んだマウスを拾い上げ、即座にゴミ箱に捨てる。
「でも耐え切れるだけの力があるなら、これを使いこなせる」
薬品の力に置いてあるベルトを見て呟く。
明人の所持しているソードドライバーの正統進化型のドライバー。
裕太の持つムラマサドライバーも、ソードドライバーの発展型だが、このドライバーはムラマサドライバーに入っている機能を除外した代わりに、ソードドライバーに元々備わっている能力を二倍以上に向上させている。
仮面ライダーへの変身と同じく突然変異体である事が必須条件だが、同時に人工物である事も条件となっている。
「面白れぇ……」
二号は笑みを浮かべながら、薬品に目をつけた。
※※※
通信が切れてから、蒲生は自室で笑っていた。
「くく……ふふ……ははは……」
ここでしくじったらどうなるのかとか、菫が今作ったものを使って自分がどうなるのかとか、そんな感情は今の蒲生にない。
洗脳の影響で、美咲への憎しみ以外の感情が、蒲生にとってどうでもよくなってしまっているからだ。
「美咲……。例えこの身体が壊れても、私はアンタを倒す。だから待っていろ……」
狂人のような笑い声が、自室に響く。