クソゲーハンター、京の都から神ゲーに挑まんとす   作:ずーZ

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京のクソゲーマー3 クソゲーフレンズ

 

 

「へー。生粋のクソゲーマーが神ゲーのシャンフロを、それも同級生のあの子と、ねえ」

 

「なんだよ何が言いたい」

 

 バンダナで目元は見えねえが、口元も声もニヤついてんだよモドルカッツォめ。

 

「1回だけここで君等の雰囲気見ただけだけど、仲いいよねほんとって。しかしそっか、そんなにハマってるとはね、あのサンラクが」

 

「おう。癪だけど、リュカオーンっていう最強種のモンスターに惨敗したのが割とな。少なくとも、あんのクソ強な狼を倒すまではやり続けるつもりだよ」

 

 ……誰も知らないユニーク、致命兎叙事詩に遭遇できたのはヤツのおかげでもあるがそれはそれだ。

 面倒な呪いを植え付けてくれたお礼に、いつか完膚なきまでにブチのめす! 

 

「おお、おお。燃えてるなあ。そうか、サンラクがそこまで本気でやるのか。んじゃ俺もやろうかな、シャンフロ。鉛筆にもメールしとくか」

 

「え、アイツやってんの?」

 

「らしいよ? どの程度やり込んでるかは知らないけどさ」

 

 地雷ばら撒かれてるような不穏な気配が一気にしてくるな、鉛筆がシャンフロやってるなんて聞くと。

 しかし、カッツォもシャンフロ始めるのか。まあでも、やるタイミングと時間がないってシャンフロ発売当初、そんな雑談をここ【便秘】でしたっけな。本業の合間にココにインしてる辺りコイツも大概だったが。

 カッツォ、日本トップクラスのプロゲーマー魚臣慧がシャンフロにね。

 

 ──もし、もしも。

 

 カッツォがアイツとやり合うとしたら? 

 まあさすがに格ゲー最強らしいカッツォ有利か、いやステータスに左右されるから分からないが。

 ……待て。そもそもそんな事になんでなる。

 いかん。思考が龍宮院に、國綱さんに影響されてる気がする。

 

「なんだい黙って。あの子との約束の時間忘れてたとか?」

 

「90スレも迎えて減速どころか加速してるんだって?」

 

 雰囲気が一気に沈んだな。良い様だ愚か者め。京極が話題に出ると毎度ニヤニヤニヤニヤと、いい加減そのいじりにはカウンターしてやろうと思ってたんだ。

 

「考え事というか、お前がシャンフロやるっていうならそのうち顔合わせすることもあるかな、ってフレがいてさ」

 

 無言で小さく頷くだけで続きを促すのは構わねえが、とりあえずその澱んだ空気は直せよ。

 

「格ゲーじゃないが、対人要素もある別ゲーの縁でな。シャンフロでも、タイマン無敵、なんて呼ばれて結構有名人らしいのがなかなか笑えたけど。

 そう呼ばれても()()()()()()()やるやつだよ」

 

「へー……──へえ? プレイヤー人口マンモスの、あのシャンフロで。しかもサンラクにそこまで言わせる位にマジなヤツか。

 いいね。増々やる気になってきた。楽しみだよソイツに会うの」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「でー? どうだったの京極ちゃん。例の人とは」

 

 洞窟が遠目に見える茂みの中にて。

 ペンシルゴンがニマリと尋ねて、京極の動きが固まった。

 カルマ値を精算した京極と金策でプレイヤー相手はできず、ならばとアセンションホーン狩りという極々暇を持て余す作業中。必ずこの場面が来るだろうなと身構えていたが。

 京極が内心を隠さず顔に出すと、ペンシルゴンはより楽しげにニコニコとした。

 

「……」

 

「無視とは酷い。なんだよぅ、『なるべくアイテムもマーニも失わずにカルマ値精算したい。どうしてもできるだけ傍で手伝いたい、シャンフロ始めるっていう、その、そいつ僕の好きな人でその』っなーんて! あんまりにもいじらしく可愛らしく言うからせっかくひと肌ぬい」

 

「──だ、だれがっ! そそそんなこと言ってないよ?! 勝手な事言うとあの、ええともうたたっ斬るよっ!?」

 

「あっれPKK? 誰のおかげで、ローリスクで身綺麗になれたのかなあ? ううーん薄情者だなあ京極ちゃんってば」

 

「こうぞう、よくないっ」

 

「そうだね。でもだいたい似たような事は言ってたよね」

 

「……〜っ」

 

 改めて。

 この元同クラン【阿修羅会】のアーサー・ペンシルゴンにとんでもない借りを作ってしまったと、両手で熱くなってきた顔を覆う。

 

「す……す……き、とかっ、そうじゃないとかはともかくっ。まあ、うん。ファステイアで無事合流できたよ。……今日もこのあとサードレマで待ち合わせ」

 

「そう。ふむふむ。あれ? セカンディルは? 難所のマッドディグはいいのほっといて」

 

 ファステイアの次はセカンディル。サードレマはその先、四駆八駆の沼荒野のボスを倒すしか行く術はなく。

 ファステイアからそのまま進むには難所であろう、マッドディグことソロ殺しに挑むのは大丈夫なのか? 

 赤みの薄れた京極の顔に、微かな笑みが浮かんだ。

 

「今日は君との約束があったし、借りの精算優先かなって。

 それにまあ、大丈夫じゃないかな。あいつ自身の腕もあるし、完全にソロならともかく、なんだか結構強いNPCと一緒らしいし?」

 

「ふーん? どうにかできそうな目処はあるんだ、なら……んん? ごめんよクランチャットだ」

 

 どうぞと身振りで京極が促し、ペンシルゴンがウィンドウを開いた。

 数分。

 京極がアセンションホーンがもうそろそろ現れそうな時間が近くなってきたなとリスポーン地点の洞窟を見詰めていたら、隣のペンシルゴンが軽くため息を吐いた。

 ウィンドウを閉じたペンシルゴンが視線に気付き肩をすくめる。

 その辟易とした様子から察するに。

 

「相手はオルスロットかな。なんだって?」

 

「正解。サードレマに行けるか、だって。文字を打つのも煩わしいのか知らないけど、詳細は現地で聞いて欲しいとか。何人かオンしてるっぽいし、その辺の連中から聞けって事なのかもね。

 やれやれアイツは。今度はどんなクダラナイ事させる気なのやら」

 

 賞金狩人という凄腕のNPCが実装されて何人ものクランメンバーが何度となくキルされて以来、PKに科せられる重いデスペナを完全に無視できなくなった今の阿修羅会は安全を求め始めた。大々的に暴れることはめっきりなくなり、ソロやペアのような少数のパーティをコッソリつけて袋叩きにするような、小狡い事を喜々としてする始末。

 

 それは、正面切っての対人をこそ好む京極やサバイバアルのようなPvPガチ勢から言ってしまえば、腑抜けになったと言えて。ペンシルゴンとて思うままにできない現状が窮屈で仕方ない様子だった。

 いっそ僕みたいに抜けちゃえば? とは、ペンシルゴン個人があのユニークへ拘っていると何となく察してる以上、軽々しく言えず。京極としては同情的な目線を送ることしかできない。

 

「抜けちゃった僕としては、なんとも大変だね君も、としか言えないや。

 しかしサードレマなら、そろそろもう一頭出てくる頃だし、そいつを倒したら一緒に行こうか? それとも今すぐ行くかい?」

 

「そうだねえ。その方がキリもいいし」

 

 とりあえず。アセンションホーンをもう一頭倒してからサードレマまで一緒に行く運びとなった。

 

 

 

 …………ただ

 

 

 

「??」

 

 ペンシルゴンと別れたサードレマの門前に、しばらくしてから京極は戻ってきた。待ち合わせの時間になっても連絡1つないサンラクを、どうせなら門で待つかと訪れたのだ。

 そして、ただ困惑した。

 

 ペンシルゴンが【SF−zoo】のクランリーダー、

【Animalia】と戦ってるのはまだ良しとした。だが──なぜに京極の待ち人、サンラクが阿修羅会の面々に追い回されているのかは全く推し量れなかった。

 何やら肩に兎を1羽貼り付けている。ヴォーパルバニーの亜種か何かか、着飾っているのが伺える。あれがもしや話に出たNPCだろうか。

 詳細をボカしていたのは、京極を驚かしてからかうつもりだったに違いない、やつならそうする。同じ立場なら京極とてやった。

 

 しかし、そんなことはもはや瑣末事、今はどうでもいい。

 

 楽郎が遅れた理由は、実は楽しみにしていた、ささやかな2人の時間を割いた原因が、何か。

 それがこうして明白であれば、京極がする事はただ1つ。

 

「ねえ」

 

 声掛け1つ。

 踏み込み1つ。

 

「は──が、腹がっ!?」

 

 背面から一突き。鎧の隙間をスルリと通し、クリティカルヒットの一撃を見舞い即座に引き抜く。

 現実なら致命傷、だがこれはゲーム。

 (デス)には至らぬ急襲の一撃、その怯み事、払うように大剣が振り被られる。

 

「っ、っの、だれだこんちくし」

 

 京極に刺されたプレイヤー【ケッチャム】が後方を、その大剣で薙ぎつつ振り返る──その首元へ。

 

 下顎へ、一直線に。

 

 難なく大剣を掻い潜り、躊躇なく突きを放ち、脳天を穿ち。

 数秒の硬直を経て、パリン……と。まず1人、京極は切り捨てた。

 

「なん、──って京極じゃねえか!?」

 

「何すんのさいきなり現れて!」

 

「てっめどういうつ」

 

 憤りに任せて踏み込んできた1人に向け、刀を振るう。

 

りも(もり)……、?」

 

【ブランチ】の頭部が宙へと舞い反転していた。その表情が怒りから驚きに変じて固まり、次いで砕ける。

 スキル【居合・椿】……()()()()()()事に特化した剣閃。肘に当てればそこから指先までを欠損させ、武器に当てればその耐久値を大幅に削り時に破壊すらする。

 

 急所たる首に当てれば無論、容易にそこを斬り落とす。

 

 そうして。また1人が一歩、京極の間合いに踏み込んだだけでその瞬間キルされて。

 遅まきに、ようやく京極の本気を悟った残りのPK2人が身構える。

 

「どういうつもりだって? 僕のセリフなんだよね、それ」

 

 京極とて、襲われているのがどこぞの誰かなら捨て置いた。

 顔見知りなら合掌くらいはした。

 ただのフレンドなら声援を送るなり煽るなりした。

 

 だが。

 

 今日、この時、この場所で。

 彼に手を出すならいかに見知った面々と言えど、その首に向けて鯉口を切るに迷いは不要(いらず)

 

「ドロップ品は返すよ。その位の義理はあるから。とりあえず、今はペンシルゴンだけ残ればいいよ」

 

 だから意義は斬って捨てる、と。

 刀を鳴らして京極は一歩、また一歩。ゆらり……残る2人へと歩み寄る。

 

 

 

 …………

 

 

 

「さ、サンラクサン後ろですわっ」

 

「ん? ああたぶん大丈夫さエムル。

 ようペンシルゴン、京ティメットのやつはまずお前に用があるみたいだが、先にあっちに行かなくていいのか? んん?」

 

「あっはっはー。虎の威を借る狐ならぬハシビロコウかな? 手が疼いちゃうからその顔ヤメてよねっ。

 ……確認なんだけど。さっきサンラクくんが、約束の時間なんでな、って言ってたけど、その約束してた相手って京極ちゃんであってる?」

 

「おう。あー、そうだな、カッツォもシャンフロ始めるみたいだしこの際言っとくか。

 京ティメットと俺はリアルで繋がりのある──まあゲーム友達みたいな関係だ。たぶんシャンフロもちょいちょい一緒にやる予定」

 

「へー! 私は京極ちゃんとは、元と付くけど同じクラン同士だよ。いやはや世間は狭いねえ。

 ふむふむ、となるとカッツォくんも君等のことを知っていると──なるほどね。

 サンラクくん、君とカッツォくん宛にこのあとメールしとくから、京極ちゃんには君から伝言よろしく」

 

「うん? まあいいけど、シャンフロでなんかやるってのか?」

 

「詳細は後でね。まあ……大きなお話になるかな」

 

「だろうなあ。俺とカッツォをわざわざ駆り出したいってんならそれなりと見た。なら内容次第だろうけど、可能なら提案が1つある。

 サバイバアル……元同じクランだろ? アイツにも声掛けられるならかけて欲しい。アイツとは、“お互いタノシイ事には呼ぼうぜ”って話をしたばっかりでな」

 

「わーお、そこともかあ。なんとまあ。──考えておくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





まだ続く。オチが思いつくまでいついつまで続く……

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