クソゲーハンター、京の都から神ゲーに挑まんとす   作:ずーZ

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京のクソゲーマー4 メッセージ

 ────────

 

 

 

 

 

 

「……あーあ」

 

 虚しさに、京極は声を漏らした。

 

 ここは【千紫万紅の樹海窟】、サードレマからフォスフォシエへと抜けるために通るエリア。蒸し暑く、粘りつくような甘い空気のある、ファンタジックな熱帯林である。

 

 光る苔が群生していて洞窟内なのに何時だって昼間のように明るく、何十メートルもあろう巨木や家ほど大きいキノコが群生し、色とりどりの大サイズの花々が咲き乱れ。そして、それらの陰には巨大な昆虫型エネミーが跋扈している。

 

 しかし京極のように、現状実装されている中での最後の街フィフティシアまで到達し、それなりにシャングリラ・フロンティアをやり込んでいるようなプレイヤーからすればここは随分と過去に通っただけの道。そこかしこにチラチラ存在するエネミーは遥か格下だ。

 

 だっていうのに何故そんな所にいるのかは、一重に。

 

 現在進行形で攻略中であるサンラクと一緒にいたいがために、なんてそんな本音は正直に言う訳もなく。「手伝い」と、苦しく称してついてきているからだった。……本当の本音を言えば、サンラクと2人でサードレマの街中巡りがしたかったのだが。

 

「……ま、()()()おっかけがいるようじゃね」

 

 宿屋で2人(と1羽)でゲーム内掲示版を探った所、京極の想像よりも大事になっていたのだった。

 

 サンラクが発生させた誰も知らないヴォーパルバニーのユニーククエスト。そして、2箇所に着けられた夜襲のリュカオーンの呪い。

 

 たまたまセカンディルで無断撮影という盗撮紛いのスクリーンショットをされ、それがゲーム内掲示板という衆目の目に挙げられて。

 

 サンラクが“泥堀り”を仕留める最中、京極がペンシルゴンとサードレマで別れる頃、それらユニークを目当てにして。

 

 すでに、シャンフロのトップ層は動き出していた。

 

『阿修羅会』だけではなかったのだ。トップクラスのクランたち、中でもあの『黒狼』からも捜索隊が組まれるほど事が大きくなっていて。思わずリアルからそのトップへと、抗議メールを送りたくなる衝動に耐えたり。

 

「はあ」

 

 何度目かの溜め息である。もはやどこの街中もロクに歩けそうにないと言うのは想像に易かった。

 

「ついつい阿修羅会の名前もボカしてだけど使っちゃたし。あーあ。

 なーんか色々裏目裏目になってる気がする」

 

 楽郎がシャンフロを始めるなら、初心者のサンラクの傍に着いて回るなら。阿修羅会の肩書きは邪魔であろうと。ちょっとした苦労を終えてあのクランを抜け、レッドネームも黒字に戻して。

 

 さあいざ! とシャンフロの世界を楽郎と楽しむ事を心待ちにしていた、のだが、コレである。

 

 考え始めると憂鬱だ。派手な事ばかりする当人にいっそ怒りをぶつけたい、が、決してサンラクに非が無いだけにそれも違う。

 

 ……まあ、でも。

 

「さあさあどうなるどうなる?! いかがですかエムルさん!!」

 

「えええっと?? も、もう決着がつきそうですわ!!」

 

「いやそうじゃなくてここは『まだ逆転の目はあるんじゃ』とか臭わすんだよ。盛り上げ所だぞ」

 

「……むみゅみゅーっ」

 

 大木を1つ挟んだ茂みで、何やらエムルをからかって盛り上がるサンラク。

 

 その楽しそうな、このゲームを楽しんでるのが伝わる姿。

 

「く──ま、なんでもいっか」

 

 小さく笑いが漏れて、ついでにモヤモヤとした気も抜けていた。

 

 阿修羅会の名をちょっと利用した事や、こんな事ならいっそクランを抜けなくて良かったんじゃとか、攻略にオススメのお店巡りを自然としてゲーム内デートしたかったとか。

 

 もう、色々と良しとした。京極の描いていた楽郎との思い出作りは何も出来そうにない。けれど、1番見たかった姿をこうしてそばで見れた。

 

 ならば、なんでもいいや、と。

 

 浮かんだ微笑みはその無邪気な姿への慈しみ……と。

 

「ま、遅かれ早かれだったかもだし」

 

 そもそも破天荒なプレイスタイルのサンラクだ。どういう形にせよ一般的な道中では、どうせなかっただろうと諦めにも似ていたが。

 

 ……それはそうと。

 

 クァッドビートルをエンパイア・ビーの巣にぶつけて。現れた群れを撃滅したクアッドビートルへと、これみよがしにセリフをキメて対峙するサンラクにどことなく般若面姿の影を見つけた京極は、今度あっちで見付けたら一も二もなく”天誅"しようと心に決めた。

 

 理由はないしそも要らない。だってそう、この心の動きはそういうものだ。なにせ天がやれと言っているから自然な事だ仕方ない仕方ない絶対やろう。

 

「けどあれを捉えるのはなあ。ほんとゲーム内だととんでもなくいい動きするんだから」

 

 奇抜な動きでクァッドビートルの突進捌くサンラクを見て、1つ唸った。

 

 手負いと言えどレアエネミーのクァッドビートル。むしろ追い詰められた事でか、その突撃の迫力は遠目にも増しているように見える。京極やサンラクのような近接物理特化キャラでは相手取るに難がある硬い外殻。プレイヤーより数倍ある体格でその硬度だ、ただ体当たりに用いるだけで破壊力があり。また、甲殻類ならではの鋭利な三本の角を高速で飛翔しながら振り回す。

 

 近接職には如何にも取っ付きツラいモンスターなのだが、──相手が悪い。

 

「おつかれー。手こずるかなと思ったんだけど、まさか蜜で隙を作って的確に傷口を穿つ、なんてことサラッとするとはね……」

 

「あれのフレーバーテキストが如何にもって奴だったからな。それに結局あれもカブトムシみたいなもんならまあ、見ての通りの案の定さ。伊達に普段から虫関係は見慣れちゃいねえよ。

 そんなことよりほら、京ティメットも見てくれよこれをよ!!」

 

 うひょひょー! なんて奇声をあげてエンパイアビー・クインを始めとした蜂の素材や、クァッドビートルの大量の素材を目の前にして喜ぶ半裸に、京極の口元も緩む。

 

 結局のところ。

 

 僕がこうしてここに居られるまでの苦労も知らないでさー、という想いもあるが。無理やりでも一緒に来てよかった、という喜びの方が大きかった。

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 巨大な木の(うろ)に縦横無尽と巣を巡らせ、サードレマからフォスフォシエへと向かうプレイヤーの行く手を阻むエリアボス。

 

 その名は道化蜘蛛(クラウンスパイダー)という。

 

 ──道化蜘蛛(クラウンスパイダー)……道化なんて2つ名が着いてようがまだ序盤の、それも()()のエリアボスなんだろ? なあに蜘蛛だって分かってりゃ対処方なんざいくらでも思いつくしよゆーよゆー、ソロで狩ってくるからそこでお前ら見とけよ。

 

 飄々とそんなセリフを吐いて1人、サンラクはエリアボス・クラウンスパイダーへと挑んでいって──蜘蛛糸を巧みに利用して追い詰めていく様に、京極は舌を巻いた。

 

 要所要所に剣と投剣による攻撃だけでクラウンスパイダーを天井の巣から地上に追いやったばかりか、天井に吊るされたクラウンスパイダーの投擲攻撃などに用いられる岩や丸太を次々落としてダメージを与えている。

 

 そして、天井へと復帰しようと伸ばす糸にも即座に気づいては対処し、エリアボスのクラウンスパイダーを地上に張り付けにしてはまたボスが使うはずの投擲物を落とし、ダメージを重ねていく。

 

 もはやどっちがこのエリアの(ボス)なのかといった様相で、サンラクがエリアボスを攻め立てていた。

 

「負けないとは思っていたけど、まさかこうも一方的になるなんてね……うん?」

 

 メッセージの着信音に気付いて。今見るか数秒悩んで。

 

「そーらそらそらそらどうしたどうしたあっ!!」

 

「ふれーふれー! サンラクさんっ!」

 

 全く負ける様子はないし良いか、とそちらを開いた。

 

 件名『Re:さっきはどーもペンシルゴン♪』

 

 本文『いyいやいやいいや!! m待ってまってちちょっと待って京極ちゃん! さすがに出会い頭はいmは困るんだよね!? dからまずは話を聞いてね!? いやきっとさ──すがにあのあとサンラくくnから既に聞いてるとは思うnだけ──』

 

「ふふふ」

 

 サンラクが探索する最中、京極がアーサー・ペンシルゴンへと送った果たし状(メッセージ)への返信だった。

 

 サンラクからは、鉛筆騎士、もといペンシルゴンは『ユナイトラウンズ』通称『世紀末円卓』なるゲーム……当然のようにクソゲーとしか言えない数々の設定のゲーム……にて知り合った、あの"便秘”で顔を合わせたカッツオタタキと同じ数年来のゲーム友達であるとは宿屋で聞いていた。

 

 ちなみに”幕末"と五十歩百歩のゲーム内容に若干心惹かれる物もあったがそれは置いておく。

 

 京極の楽しみにしていたひと時を”やってくれた"事に色々と、幸いサンラクにただただ着いて歩くだけで時間はあったから、いっぱいいっぱいに詰めて文章を綴った。主に文句で。

 

 ”まあ、きっと時間の問題だったからそれはいいとしてさーあ? "なんて終わりに付け加えたあと、肝心な主訴を最後の2()()()に込めた京極からアーサー・ペンシルゴンへのメッセージ。それはどうやら、あのふてぶてしい雰囲気をこうも崩すには足りたらしい。

 

 所々支離滅裂なメッセージを一通り読んで溜飲を下ろす。……それにしても気になるのはペンシルゴンからのメッセージ、その〆の一文だが──

 

「あれ。どうしてサンラクさん降りて来ちゃったんですわ?」

 

 ふと上がったエムルの驚いた声に目を向ければ、天井の巣から降りて地上でクラウンスパイダーと相対するサンラクが見えた。

 

 何でわざわざ有利を捨てたのか……一方的過ぎてつまらないとでも思ったのかな? 考える京極の目線の先で、クラウンスパイダーが蜘蛛ならではの瞬発力でサンラクへと飛びかかっていく。

 

 サンラクよりもゆうに数倍は大きい体だと言うのに、残像を見せるほど素早い動き。正面からあれほどの迫力で襲われたのなら、不慣れな、大抵のプレイヤーなら何も出来やしないだろう。

 

「うん。さすが」

 

 無論のこと、京極の相方(サンラク)は大抵の括りにはない。

 クラウンスパイダーが、交差の瞬間サンラクによって頭部をカチ割られて。それがトドメとなり無数のポリゴンへと四散していった。

 

「どうよエムル、京極。宣言通りの、完全勝利だぜ」

 

「おみごと! おみごとですわサンラクさんっ!」

 

「あーうん。レベルも低くて武器もそう強化もしてないのに、よくやるよ。最後にはめ技やめてまで向かい合ったのは舐めプ?」

 

「端的に言って決意表明的なやつで、意味なんてねえさ。しっかし物足りねーな」

 

 蜘蛛の習性も生態もだいたい見慣れてて聞き慣れてるから、一挙一動が手に取るように分かったし……ステータス画面を見ている風のサンラクからそう愚痴のように言われても「へ、へえ」としか答えようが無かった。

 

 陽務家の母の趣味。京極は楽郎がたまに愚痴のように零す話でしか聞いていなかったが、どうやら想像の遥か上のようで有りもしない唾を飲むように喉が動いていた。

 

 何度となく遊びに行っている家には、どうやら知らない方が良さそうな光景があるらしい。見たいような、見たくないような……。

 

「……うーん」

 

 サンラクがステータス画面を見てなにやら悩み出したので、ふと先程のメッセージを再度開く。

 

「……んー」

 

 奇しくもサンラクと似たように、そのメッセージの内容には悩まざるを得なかった。

 

 

 

 ─────

 

 

 

「ん?」

 

 いつの間にか開いていた窓から、その伝書鳩(メールバード)はサバイバアルの元へと舞い降りてきた。

 

 高速便の隼の脚から紙片を外す。その、送られてきた何某からのメッセージはというと。

 

 件名『お久しぶり(*^^*)』

 本文『やあやあご無沙汰。相変わらず不毛な事やってるんだって? 着せ替え隊の事、よく噂を聞くよ。ついこの間の白熱した動画も見たけど、サバイバアル君のデタラメなとこも相変わらずだなって。

 

 こっから本題。

 

 そんな相も変わらずお強い君に、別ゲーで知り合った私のフレンドからオファーだよ。まあ、そもそもは私からのなんだけどね。

 

 阿修羅会関係なしの、私の選抜パーティでウェザエモンを攻略したい。

 

 ついては日を改めて直に、どこかの蛇の林檎で顔を合わせて話を詰めようと思います。サンラクくんと京極ちゃんと君と私、そしてあとたぶんもう1人、頼れる助っ人が揃ってからね。

 面白い事には誘え、って話なんでしょ? サンラクくんに確認したって構わないから、そのつもりで準備よろしくお願いしマース☆』

 

 

 …………………………………………?? 

 ? ……………………………………は? 

 

「は?」

 

 情報で死角から殴られたサバイバアル、心底からの声だった。

 

【始まりの街 ファステイア】の【蛇の林檎】にて。

 いつも通りダラダラと、しかし"μスカイ”とシャンフロで再会した以上、今後何かしら楽しい事になると確信もあり、普段より数段上機嫌な面持ちで過ごしていた。

 

 それこそあの頃の話でもしながらに、戦闘多めの激しいイベントやダンジョンにそのうちサンラクを(Lv的に時期尚早、なんて考えもせず)ヤシロバード共々誘おうとスキルやステータス、装備を改めていた。その矢先に飛んできた伝書鳥の内容がこれだ。

 

「?? ……??」

 

 まだアイツはあの墓守に拘ってんのか。

 なんでサンラクの名前が? 

 あのペンシルゴンがサンラクとフレンド? 

 助っ人って誰だよ。つーかサンラクのやつまだLv50にゃ遠かろうよ。

 俺とアイツとアイツとサンラクのヤツともう1人でって5人じゃねえか少ねえよ。そもそも阿修羅会とのこたあどうする気だ? 

 これホントのホントに本気というか正気か?? 

 

 これはまだるっこしい手法のPKだと言われた方が、

 

「そらやっぱりな!!」と思えた。

 

 だが、気にすべきはサンラクの名前が出ている点だ。

 

 サンラクとフレンドになったのはつい先日。そしてわざわざ吹聴する話でもない。それこそよく話す間柄の着せ替え隊の誰にも話していない。

 

 なのに、なぜペンシルゴンがサンラクを知っている? 

 

「サンラクのやつがたまたまヤツらに襲われて……仕方なしに俺の名前を出した?」

 

 それは──ない。

 あの孤島での姿しか知らないが、あれほどにキレるヤツの事だ。誰かに縋るような考え方があるとは思えない。サバイバアルとてそうであるから。

 

 サンラクのことだ。たとえ幾度となくリスキルされた所で、いつか牙を向いて、高笑うその喉を食い破るのは想像に易い。

 いかにLv差があろうがやりようによっては一矢報いる、シャンフロシステムでなら起こり得る話だ。そうなってたらそうなってたで面白い話。

 

「そういやそもそもサンラクの傍には」

 

 あの京極がいるはずだ。

 

 阿修羅会においてのキルスコアで3位。あのメンツの中で自身に次ぐ対人の猛者、になった。妙に厄介な手癖、異様な直感を見に付け始めた刀使い。

 

『え? なんかやたら感覚鋭くなってないかって? ……ん、まあ別ゲーでちょっと』

 

 なんてうそぶいてそういえばその頃からやたらと鯉口を鳴らすようになったようななんとなく孤島のあの雰囲気に近しい空気をまとってたような……

 

 まあ、いい。

 

 サバイバアルが抜ける間際の頃、そんな京極と3連手合わせして2度勝ち、1度は分けた。その勝ちもまた辛勝である。

 

 あの強さ。阿修羅会の面々なら身をもって知っている訳で、そんな京極が傍にいるなら襲うとも思えず、たとえ襲っても返り討ちだろう。

 

 というかそもそもの話。

 いくら連中が()()()()いるからとて、あんなあからさまニュービーなサンラクを襲うメリットなど、皆目見当つかないのだが。

 

「まあわかんねえな。いっか、なんでも」

 

 了解。とだけ返信することにした。

 

 サンラクにもあとで確認のメッセージを飛ばす腹積もりだ。なにせ相手はあのペンシルゴン。どういう伝手で何を得てどんな構想を抱いているか、それを見通すにはよほど頭のキレる人物を巻き込むか、咄嗟の身代わりを用立てるしかないのだから。

 

 この場で考えるだけ無駄、だが用心はしよう。

 

「ピェー」

 

 たった一言どころか1単語だけ書いた手紙を、その足に括り付けた。

 頬杖ついて、窓から飛び立っていく伝書鳩(メールバード)を見送る。

 それにしても。

 

「ウェザエモン、ねえ」

 

 

 

 

 





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