クソゲーハンター、京の都から神ゲーに挑まんとす   作:ずーZ

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幼馴染

 ─────

 

 

 

 7月の下旬。時刻は午前11時を優に過ぎている。

 つまり真っ昼間──この時期この時間に外なんか出歩くもんじゃねぇっっ!! 

 

「ただい、ま゛ぁ゛あ゛ーっっ」

 

「お邪魔します」

 

 あ゛ー゛あ゛っ゛っ゛ち゛い゛っ゛! ゛! ゛

 京都に住んで長いけど、あいっ変わらず夏は地獄かよ?! たかだか10分かそこら出歩くだけで汗が、滝のようだよっ! 

 毎度の事だがこうなると道着や竹刀袋がいつに増して重たく感じる、ええぃ、こんなもんその辺に置いてでシャワーとっとと浴びてキメるもんキメないとしんじまうっ! 

 

「昔っからなのにまったく。龍宮院(うち)からここまで歩いただけで大袈裟な……それにまーた散らかして。竹刀も道着も後でちゃんと片付けなよー、って、……もうとことんだね。

 楽郎、靴ぐらいちゃんと……あれ? 瑠美ちゃんと仙次さんはバイトと釣りだろうからともかく、永華さんまで居ないの?」

 

「え゛ぇ? うん? んー……あぁ、そういやどっかの大学にちょっと呼ばれてるーとか言ってたような……気がする」

 

 休みだからって今朝の稽古のこと忘れて寝坊したからなあ。慌てて出掛ける俺になんか、そんなこと言ってたような、どうだったっけなあ。

 

「ぁ──ああっ、そう! そうなんだあ。永華さんがね、そう。ふーん? そういうタイミングあるよね、うんうん」

 

 俺の靴もわざわざ揃えながら何キョドってんだ……? いや何でもいいとっとと行動する! 

 

「いつまでもこんな汗だくでいたくねえ。シャワー先に済ませる、テキトーに待ってろ」

 

「そこは女子優先してくれないのほんと楽郎だよね」

 

「男女平等を尊ぶ精神がわからねえヤツはこれだから」

 

「平等を尊ぶならこっちが先でも良いじゃんか」

 

「家族不在の今俺が家主だから俺が決めまーす」

 

「客分の扱い雑じゃない?」

 

「客分って間柄でもねーだろ今更。何年の付き合いだと……そういや稽古終わり、お前がウチにこうして通うのって何年くらい続いてたっけ」

 

「──10年経ったかそのくらいじゃない?まあもう分かったからほらいってきなよ。汗も暑さも私だってイヤなんだから、なるべく早くよろしくね」

 

 へいへい速攻で済ますから待ってろー。

 

「あ゛ぁー……っ」

 

 シャワー!! 最高っ!! こんなお湯を浴びるだけの行為がどうしてこうも心地いいのか……あぁ発明した人間誰か知らんが感謝だよマジで。

 

 で。

 

 カシューンッ、グビィッッ!! 

 

「い、いきかえる……っっ!!」

 

 はぁあーっ! っぱよぉ、稽古の後は風呂上がりに冷えたライオットブラッド(無印)に限るなあっっ! っふぅううううっ!! ああ脈動と共に炭酸に乗ったカフェインが奔るぅう、俺の体の隅々に染み渡るぅう……。

 

「っ、だぁあ……はあ」

 

 クーラーのガンッガン効いた部屋。ヒンヤリしたベッド。特にベッドはいいなあ。あぁ、やわらっけぇぇええ……。道場の固え床とはまるで比べ物にならねえよこんなん……くはあぁ、ここが天国これぞ楽園(エデン)……。

 

「ぁああ。……今日もつらかった」

 

 國綱さん……突きは、突きは辞めろと。手加減してる、ってそりゃそうだとしても首垂とセフガあるからってそもそも怖ぇし衝撃ぐぁぁさぁぁぁもぉぉ。

 胴は胴で垂と腹帯あるからそう痛みこそないが、怪我にはならんからってブァアシンッッ!! ってあの音なんなの? 防具無かったら俺の腹吹っ飛んでんじゃね? 

 小手の受け方は褒められるのもあるのか、最近そうそう痛くならないんだよなー。が、なーんか受ける度に歯ぎしり聞こえたのも、直後の胴がやたら勢いあったのも気の所為だよね? 

 

 ──面打ちだけは別の者と練習しろ。なぜってそれはなあ、俺がお前相手に面打ちはなあ。……っははは、うむ。──本気で潰、っんん……全力で打ち込みかねんからなあ、ハハハ──……。

 

「剣はともかく誤魔化し方は下手くそだよなあ」

 

 嫌われてる……訳では無いと思いたい。面打ちの手加減が下手なだけだろう、きっと。

 

 京極の家……龍宮院家の剣道稽古は毎度毎度こっちも全力だ。初段になって2年経った。2段も狙える時期に差し掛かっている。

 小学生時代からのらりくらり、何だかんだと続けては来た訳だし。それにこの先、より昇段していけば将来的に助かる事もあるかもだし、お前なら狙えるからやれ、って背中押されてるから気合い入れて稽古の時は頑張ってる訳だが。

 しんどいものは、しんどいのだ。特に國綱さん相手はよくよく地獄を見る。明日絶対筋肉痛だな。

 

 まあ実益と趣味に繋がるのは大きいから尚更、やれる所までやりきるけど。

 

 VRゲーマーたるもの健康な身体作りには手は抜けない。クソゲーマーとて同様だ。VRゲームでのパフォーマンスに繋がるし……けどどうにも、道場に通う回数を減らすかどうかについては高校に入ってから日々考えざるを得ない。

 

 ただなあ……。なんとなーく國綱さんのしごきが、当たりが強くなっていってる気がするんだよなぁ。特に京極が居合わせてるとより厳しくするのは何でだあの人。

 

「ん? メッセージ……なんだ」

 

 通知音に携帯端末を見れば京極の名前があった。まだ風呂だろさすがに……。

 

『件名:無題』

『本文:持ってきたスポドリ飲み切っちゃった。なんか飲んでいい? 当然エナドリ以外でよろしく』

 

 当然ってなんだ当然って。ライオットブラッド(エナドリ)以外ぃ? ならエナジーカイザーとスケアクロウとヘルブリザードのパンピー向けジュースを混ぜて飲ませてやろうか。いやいまどれも切らしてるから出せないけどな、運の良い奴め。

 

『件目:Re無題』

『本文:好きに飲めよ。俺ならともかくお前が飲んだって言や誰も気にしねえから。なんなら入れとくぜ、麦茶割のライオットブラッドとライオットブラッド割の麦茶なら用意するが?』

 

『件目:ReRe無題』

『本文:麦茶あるなら麦茶飲むかな。用意してくれるならお昼ご飯がいいなあ』

 

「へいへい……──ソーメンでいいかあ」

 

 暑いし疲れて手間かけるものはちょっとめんどくせえし……あ。そういえば、我が家の甲虫達に食わせるモノの余りがあったな。カットされてるから出す手間も要らない。

 

『件目:ReReRe無題』

『本文:ソーメン用意してやんよ。あと母さんが食ってもいいって言ってたスイカがあるんだが、お前も食う?』

 

『件目:ReReReRe無題』

『本文:ほんと! やった、食べる食べる! ありがとう!』

 

 母さんの趣味()のエサの残りだが、ってここで言ったらどんな顔するかな? ……いや俺にもいくらかダメージくるから言わない方がいい、これもまた沈黙の美徳。

 

「さってとー」

 

 そうと決まれば始めるか。出来上がるかってくらいで、アイツも身支度を整える頃合いになるだろう。

 階下に降りて台所へ。

 

「あっれここじゃなかったっけか……あったあった」

 

 鍋に火をかけつつ乾麺を探り出した頃。ふと、換気扇の音に紛れて、脱衣所の方から微かにドライヤーの音が響いてきている事に気が付く。

 思っていたより早かったようだ。

 やがて沸騰したお湯に乾麺を落としきり、タイマーを設定した所で、足音が近づいてきた。

 

「はあー。さっぱりした。あ、麦茶ありがとう」

 

「おー。こっちは待ってろ、今さっき鍋に麺入れたとこだからさ」

 

「ふはっ。ん、わかったよ。……そうか、それじゃあちょっと失礼するよ」

 

「うん?」

 

 麦茶を飲み干してお代わりを注いだコップを、ダイニングテーブルに置いて。近寄って来た京極が、何やらゴソゴソがちゃがちゃと動き回る……なにやってんだ? 

 

「冷蔵庫のもの使っちゃいけないのってある?」

 

「最近になって瑠美のお願いが叶ってな。

 両親の趣味領域(ブラックボックスゾーン)はそれぞれの部屋備え付けになったから、安心しろ。何処のどれから使ってもいいぞお前なら」

 

「……ちなみに今は何入ってんの?」

 

「そこから移動させる時チラッと見てたけど、お前が昔悲鳴上げた時からさらにグレードアップしてたぞ。今も昔も、おおよそ釣り好き以外には受け入れ難いあれやそれやだが、知りたいのか?」

 

「止めて」

 

 そうか。特に父さんの言う、ユムシとホンコウジの違いは俺にはイマイチ分からなかったから、説明するには持ってくるしかなかった。……正直俺だって食前に見たくはない。

 

「──ここにアレらが帰って来ないことを願ってるよ。じゃ、ここから遠慮なく……これとこれと……よし。包丁と、ボウル借りるねー」

 

「なにしてんの?」

 

「用意してもらってばっかりだったから、ちょっと美味しい麺つゆでも用意しようかと思って」

 

 ねー、と言いつつキッチンテーブルに淀みなく色々用意した京極が、鍋を見守る俺の隣で梅干しやら大葉やらを刻み出す。ふむ、せっかくなんか用意してくれるってんなら楽しみにしておこう。京極の作る、特に和食は美味いし。しかし麺つゆか、どうするんだろ……

 

 ぐつぐつ……

 とんとん……

 

「……はらへってきた」

 

「わたしも……あ、鳴った鳴った。後は私がやっちゃうから場所空けて」

 

「あいよ。任した。んじゃ俺は俺のと確かこの辺に京極の箸……あったあった。あとは……」

 

 取り皿と、菜箸……は要らないか別に。どうせ俺達だけが食べるんだし……というか菜箸も取り皿も使うのかそもそも。はて。

 

「……梅干しと大葉は見てたが、ニンニクチューブと? オリーブオイルに……ん?」

 

 細かく刻まれた梅干しと大葉、小さじにも満たないニンニクと、オリーブオイルに、あとなんか砕かれたっぽい茶色のツブツブの……なんだ? 

 え? 梅以外全部ボウルに入れて麺つゆ入れて麺を入れて混ぜてえ? え? あ、でも美味そうな感じの色合いに……

 

「おお。なんか少し不安になったけどイイなこれ。美味そう」

 

「実際美味しいよ。さっぱりしてて、暑い今にはピッタリさ。仕上げに梅をこう……乗っけ、て……よし、これで出来た。はいこれ楽郎の分ね」

 

「さんきゅ」

 

 用意した食器類と受け取った俺の分をダイニングテーブルに運んで。わりとすぐ京極も自分の分を作り上げて席に着いた。

 

「いただきま──あぐふむ」

 

「いや落ち着いて食べなよ……」

 

 漂う香りと空腹に負けてがっついていた。そう呆れるなって──おお……。

 

「うまっ」

 

「でしょ?」

 

 

 

 …………

 

 

 

「はあー、満足した」

 

「スイカの片付けはやっとくよ」

 

 ソーメンは俺が片付けたし、ここは任せよう。……さて。

 

「この後どうすっかなー」

 

「て、てっきりシャンフロやるもんだと思っていたんだけどっ。ペンシルゴンとの約束は夜だし、だいぶ時間あるから攻略進めるんじゃないの? どうせ今私はシャンフロでさしてやることないから、それに付き添うかなって……他に、したいことでも何かあるなら聞くけど?」

 

 さすがに夕飯前には家に帰るけど……、と洗い物をしつつ京極が言う。

 うーんシャンフロなあ、それもありだしそうする気だったんだよな。

 今朝までは。

 

「ああ、時間まで……んー。そう、だな」

 

 道化蜘蛛(エリアボス)を仕留めてそれから京ティメットと別行動して、ラビッツで例のクエストぶっ続けでやり遂げて晴れてラビッツ国民になったっけな。……ちぃ。トキシックイーグルぅぅ、あの名前だけはぜってえ忘れねえぞ……。

 

 とにかく。

 

 これでようやく真っ当にレベリングできるようになった。チョーカー、首輪が消えたのはちょっとばかり惜しいが、レベルが上がらない方が困る事は多い。ただでさえ忌々しい狼の呪いがあるんだ、これ以上縛りを増やしたくはない。

 よって、じゃあ腰入れてレベリングするかあ、という気分だったのだ。

 

 今朝、稽古をするまでは。

 

「──剣で受けた鬱憤はよ、剣で晴らすのが気持ちいいとは思わねえ?」

 

「……ふーん?」

 

 途端。手を拭いた京極が据わった目付きで、そして人の悪そうな笑い方でニヤニヤと見つめてくる。

 もっとも、きっと俺だって人の事を言えた顔つきではなかったろう。

 

 道場稽古でミッチミチのギッタギタに剣でぶちのめされたのなら、同じく()を振るってくるヤツらを合法的に切り刻める所に行けば晴れるモノもある。

 この心の動きこそ天の声、即ち──天誅である。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 PvPの沼地、人を人とも思わないヒトでなし共の巣窟、辻斬・狂想曲(カプリッチォ):オンライン。通称『幕末』へと意気揚々に身を投じた。

 

 が。

 

 ──あれ? なんだ? 

 

「……誰もいない?」

 

 どこぞの布団で目を覚ますようにログイン。直後、あるはずの感覚が来ないことに困惑する。

 幕末においてログイン、あるいはリスポーンする際はゲームマップ上に何ヶ所か点在する平屋へと、プレイヤーは光を伴って現れる。その際の光は平屋から外へ届き、戸を、襖を開いて出ようとする瞬間を狙いすます『ログイン天誅』……かつて俺が考案し今では幕末に身をやつした大体の連中がやっている、それがない。

 

「……殺気も気配もない。なんでだ」

 

 唯一の出入口である襖にピタリと張り付いてみるも、首筋がチリつく殺意表現もなければ、刀の届く至近距離にいるという気配察知にも引っ掛からない。この向こうに潜んでるわけでもない、つまり無人? って、えええ……。

 

 ──幕末ね。OK付き合うけど、昨日そんなに人は居なかったからあんまり期待しない方がいいよ──

 

「まじかあ」

 

 夏休みだぞ? いやでもなあ、幕末(クソゲー)のオンラインじゃ夏休みなんてそう関係ないって事かあ? 

 そうかあ。過疎ってるーなんて京極が言っていたが、なんだたしかにこれは拍子抜けだな。ついにかあ……いつか来るとは思ってたけどまさかなあ。

 でもさすがに、誰も居ない、なんてことはないだろう……

 

「いっそのことランカーがいそうなとこにいく──」

 

 肩を落としつつ襖を開けた瞬間──首筋が引き攣るほど多くの殺気が奔って、目の前が眩しい位に白熱した。

 

「は゛あ゛っ!?」

 

 全身をつんざく衝撃はどうしようも無い一瞬のこと。俺は爆発で吹き飛んで、あっという間もなく体力は全損し、すぐさま暗転。

 そして目の前にはリスポーンをするか否かの文言と、幾らかのアイテムをロストした通知文が記載されたウィンドウが表示されている……。

 

 ──は? 

 

「は?????????」

 

 え? ん? なん、は? どういう?? 

 

 バグ──を疑ったのは一瞬。一瞬後に、爆発の寸前、コンマ何秒に見えた光景を思い出す。

 確かに見た。襖を開けていく俺を塀から見下ろす、その辺の茂みから見詰める連中を見た。

 皆一様に何かを投げ放ったかのような体勢で……もしや?! 

 

 リスポーン待機状態のままゲーム内インフォメーションを呼び出し、……『夏のイベント開催中』の1文で悟った。

 

 ──幕末ね。OK付き合うけど、昨日そんなに人は居なかったからあんまり期待しない方がいいよ──

 

 ──マジ? ま、けど京ティメットさんがいるからいいだろ──

 

 ──あっはっは。返り討ちにしてあげるよ──

 

 …………アイツ。

 

「京極……」

 

『そんなに人は居なかった』、ねえ? 

 ふふふ…………ふふふふふふふ──っはは……っ! 

 

「ハハは、はハはははハハっッ──!!」

 

 リスポーンを選択。跳ね起きる様に動きつつ二丁拳銃を取り出して、直後、速攻で襖をぶち開けて、半秒。慌てたように投げ放って来たが、半秒もあれば人員の配置と手元を確認するにはお釣りが来るってんだよ! 

 

「はっはー! 乱射(そこらへん)だぁあっ!!」

 

 投げられた多数の()()()……なるほどインフォメーションにあった通りどう見ても「人魂」だな? ……「人魂」としか形容できないそれらに向かってひたすらに銃弾を撃ちまくるっ。

 何発かが数個を撃ち抜き、爆発させた所で周りの人魂にも誘爆。前方一帯を吹き飛ばして、その爆音に負けじと腹の底から叫びが溢れていた。

 

「──京ティメットぉぉおおおおーっっ!!」

 

 家でマッタリとした時間を過ごした相手だったから? 満腹だったから? この頃ゲーム内ですらよくよく一緒にいて心を許してる相手だったから? 

 なるほど油断する材料はあったな。俺としたことが素でアイツの言う事をまるきり信じちまったらしい。

 

 だがだとしても、まさか!! 

 この俺が!! 

 ああも簡単にログイン天誅をされるなんて!! 

 そも──お前に図られるなんてなぁ?! 

 

 さすがに襖を開けたら正面一杯の爆弾は初見じゃ回避できねえって、っていうのはこの際どうだっていい! 

 

 やられたっ! この屈辱……! 

 

「くくく……必ずこの屈辱は晴らすぞぉ?」

 

 体が震えるくらい負のエネルギーがメラメラしてるのが分かるぞぉ? シャンフロ並とは言わねえが、今のこの感覚ならよぉ。

 足の先にまで、指の先にまで集中できらあ。これならやってやらあ、必ず天誅してやらあっ! 

 

「京ティメット……いや幕末ランカー、()()()()()()()()よぉっ!」

 

 しかし。走りながらふとそれはそれとして感慨深い……いや京極、成長したなあ。

 

 

 

 ◆◆◆◇

 

 

 

「……楽郎は、やっぱり楽郎だなあ」

 

「────」

 

 見慣れた部屋でいつもの通り、ゲーミングチェアを使えと譲られて。

 数分後。

 ログインするフリをして被っていたVRヘッドセットを外し、傍のベッドで横になっている楽郎を見て……ため息をついた。

 

 幕末のイベントは無論の事知っていた。なんせ幕末(あそこ)は魂の場所だ、存在を知ったこの1年近くほぼほぼ毎晩少なくとも30分以上(※当社比)はオンしている。一昨日から始まったらしい、上位ランカーも主に紅蓮寧土ことフラバンや、あいつ(くいっ)こと摩天楼が大暴れしているこのイベントとて2日とも参加している。

 

爆弾()も花火もその辺で幾らでも補充できるとかボーナスゲームじゃん』

 

『テキトーに射ってもそこかしこで爆裂してポイント稼げて笑いも指も止まらない』

 

 とかなんとか。さておき。

 

 今のトレンドは()()()()()()()()()()()()()()()を用いた、イベント期間限定のログイン天誅。初見で不意をつかれれば如何な反射神経の優れたサンラクといえど、視界一面の爆薬に1度は昇天するのは間違いない。……そして今頃は過疎っていたなどとホラを吹いた仕返しに、幕末内で(キョウ)(アルティメット)を探し回っているのだろうかあの般若面は。いや、今はそうしていて欲しい。

 

「いつもみたいにゲームをするような、そういう気分にはなれなかったよ」

 

 2人きりなのに。風呂上がりなのに。永華さんがいる時(いつも)みたいにゆっくり入れなかったのに。着替える時だってだからそれはもう色々……意識、してしまっていたから、こそ。

 

 部屋に来た瞬間なんてどんな顔をしていたのか分からないし、幕末の話はしたけど詳細はもう何を話していたかも朧気だ。それこそ、ゲームショップにて楽郎がワゴンを漁る中、密かに岩巻さんから勧められた事のある、乙女(そういう)ゲームの色々なシーンが脳裏を次々よぎって、もはや苦しい位だった。

 

 そんな事あるわけない。ゲームみたいな展開を楽郎に限ってしてくるわけない。ありえない。ああでも、いやまさか、けれどひょっとして、そんなのあるわけ、だけども万が一億が一そういう事も無きにしも非ずすわああ辞せの句が浮かんで──

 

 だから。

 

 楽郎には不自然にならない程度に背を向けつつ、楽郎の部屋にわざわざスペースを作って置かれている、京極専用のヘッドセットで熱くて仕方ない顔を隠すようにしていた。

 

 その一方で。

 

 なんて事ない態度で。いつも通りの口調で。あるがまま振舞ってゲームへとログインして行った楽郎を、今こうして見ていると、無性に込み上げてくる気持ちがある。

 

「人の気も知らないで自分だけいつも通りで、もう……」

 

 悔しい……けど、少し安心しているのも事実だった。

 

「──っ。あーあ、()()も弱味かなぁぁぁぁ……」

 

 少しの安心──は、あれども、悔しいのは事実。胸中の()()が今まさにコンコンと湧く感覚に、京極は深呼吸と瞑目を数度重ねて心を深く沈ませていく。

 

「よっし落ち着いた落ち着いてきた。──ふっふふふ、待っててねサンラク。君にその気は無かったとしてもこんなにも濮を……いや()()()が無かったって言うのもめちゃくちゃにシャクだな……ふんっ。

 とにかく、こんなにも僕を振り回してくれたんだから、これは是非ともお返しに行かなきゃね?」

 

 意識は既に京極から(キョウ)(アルティメット)へ。ヘッドセットを被り直し、手馴れた仕草で幕末へのログイン処理を済ませていった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 幕末イベント〖綺羅星花火〗

 ゲーム内は現実が日中なら逢魔時、夜間は丑三つ時固定だよ! 

 プレイヤーを倒すとストレージ内のアイテムの他、『人魂』をドロップするぞ! 人魂はストレージに仕舞えないからよろしくね! イベント期間中にたくさんの人魂を集めて競走してね!

 イベント中はマップの至る所に爆弾アイテムの『花火』があるよ! あと『人魂』は花火より強力な爆弾としても使えるよ! なお使ったら無くなるから注意してね! 

 こわ~い人魂と派手な花火! さあ夏を楽しもう! 

 

 

 ☆

 

 

 .




楽郎と京極は小学生時代からの幼馴染だよ!
夏祭りで迷子になって困ってた京極を同じく迷子になった楽郎が見つけてなんやかんや2人きりで満喫したけど最終的にはこっぴどくお互い親に叱られて近所なのも発覚してそれからその縁で道場通いから気が付いたら家同士の付き合いが始まってたよ!
ちなみにロックロールも岩巻さんも京都方面にあるよ!京極はたまに乙女ゲーを(商売トークで匠に)勧められて幾つかクリアしちゃってるよ!

っていうユニバースです、はい。たぶん。



※幕末について。
やってたのは大体、ボム兵縛りのエンジョイ大乱闘、的なイベント。

幕末書いてたらますますシャンフロで何も出来ないから、書く気になったらそのうち差し込みます。
ちなみにだいたい何やってたかといえば、傍から見たらただの痴話喧嘩みたいな。そしてリア充爆発しろ(ガチ)をキャッキャッとされかけたりされたり仕返しするようなイメージ。
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