夢現マイリトルマミー ~お嬢様学校のひねくれお姉さんが美少女ミイラを再生する話~ 作:みらぁまん
私が首にかけている黄金メダルのネックレスは、エジプトの神を祀る神官の証として祖父から譲り受けた物だ。尤も私はカミラの世話以外にこれといった務めは聞かされておらず、メダルも単に手軽に持ち歩ける形見として身に着けていたに過ぎない。そのメダル……カミラ曰くメダリオンを、今私は教室の片隅で鼻息も荒く握り締めて逡巡の真っ最中だった。
(本当に……これを人に使うのか? そもそも催眠術なんて本当に使えるのか!?)
昨夜カミラが言ったことには、神官は務めに付随して様々な権限を持っており、そのための力がメダリオンには色々と込められているらしい。カミラがアンロックした催眠機能はその内の一つなんだとか。
「メダルの機能なんてお爺ちゃん一言も言
ってなかった……これ、カミラは前から知ってたの? なんで今になっていきなり力を解禁する気になったのよ?」
心なしか輝きを増したメダルを返され私は戸惑うしかなかったが、カミラは少し困った顔でむにゃむにゃ言うばかり。
「……わからないの。前から出来た気がするのだけど、どうして今までやらなかったのかしら? 不思議だわ……」
曖昧な物言いだったが、とぼけているわけではないだろう。カミラには生前の記憶がない……きっと本当にわからないのだ。
「でも、とにかくこの力はゆせの物よ。思う存分役立てて頂戴ね!」
そう言ったカミラの顔は家事手伝いを買って出た子どものように誇らしげで、私は何も言えずにメダルを受け取った。そして現在、私はこれを後輩の玲愛ちゃんに使うべきかどうか悩んでいる。
(玲愛ちゃん、三角関係のこと聞かれる度に“私、負けません!”って元気に返事して外野を喜ばせてるらしいからな……街宣車みたくなってるじゃない。ふざけんな!)
これ以上私と玲愛ちゃんの対立構造が校内に浸透すると終いには私に爆弾が飛んで来る。既に今日、自称湊ゆせ派のクラスメイト数名に話しかけられてるし、一刻も早く玲愛ちゃんは黙らせなくては。
(しかしなぁ~! 多分あの子……捨子さんの言う通りめっちゃ良い子なんだよなぁ~! 真面目で一生懸命で……あんな侍みたいな子を催眠にかけて、言うこと聞かせて本当にいいの……?)
私が良心の呵責に苛まれていると、お手洗いに行っていた捨子さんが前の席に戻って来た。この度の醜聞、元はと言えば捨子さんを巡る泥沼という触れ込みだったのに、本人はモジモジするだけで何の役も演じていない。玲愛ちゃんの暴走に関しても「玲愛くんは僕が言って聞くタマじゃないからねぇ……」とまるで頼りにならないのだから嫌になる。
(妹分を思い遣る心はあっても、行動に移せるかどうかは話が別か。全く大したお姉様ね。……あっ、そうだ)
呆れついでにふと思いついた私は、昼休みを待って捨子さんを連れ出した。行き先ら誰も居ない空き教室だ。
「どうしたんだいゆせさん、何か内密の話かい? もしやまた玲愛くんが何か……」
明かりも落ちて閑散とした室内に捨子さんの声が軽く響く。周囲に人気はない。
「まあ、何も言わずにこれを見てよ」
私は胸元からメダルを取り出し、捨子さんの眼前に突きつけた。これは実験だ。メダルの力が如何ほどのものか、騒ぎの元凶たる捨子さんになら試してもいいだろう。
「えっ、ゆせさん何そ……れ…………クゥ」
メダルに刻まれた太陽神の紋章が一際照り映え、捨子さんの瞳に映る。それを見るや捨子さんは静かに目を閉じ、口を半開きにして朦朧と立ち尽くしていた。どうやら催眠にかかったようだ。
「……即落ちね。カミラに偽りなし、か」
ふらつく捨子さんを手近な椅子に座らせ、私は更なる検証に入る。眠らせた相手に命令を聞かせる実験だ。
「さて、羽生捨子さん。私はあなたに少々ムカついています。今更くどくど言う気はありませんが、せめてあなた自身の行動で償いをしてもらいましょう……」
焦らず、飲み込みやすいよう前置きしながら語りかける。捨子さんに反応は見られないが、信じて本質の命令を言い渡す。
「……跪いて、私の靴にキスをしなさい」
何言ってんだ私は。頭沸いてるのか。勿論命令は寸前で取り消す。それができるかどうかの検証も兼ねた実験なのだ。
「さあ……羽生捨子さん」
私はそう促しながら机に腰掛け、ローファーの足を片方差し出してやった。すると捨子さんはゆっくりと椅子から降り、命令通り膝を折って私の前に跪いた。
(やった……成功だ。あ~何だか溜飲が下がる感じ。本当に靴舐められるのは御免だけど、この絵面が既に面白すぎる)
捨子さんはいよいよ私のローファーに手を添え、寝てればまだしも端正な顔を近付けて口を付けようとしている。私は快感の余韻もそこそこに命令を解除しようとしたが、その時だった。ピピッと何かのピントが合う音がし、続いて乾いたシャッター音が空き教室に鳴り響いた。
「あわ、あわ、あわわわ……! 一大スクープ、撮ったりぃ~~~~!!」
悲鳴のような快哉を叫んで、新聞部のお嬢さんが走り去っていく。半開きになったままの引き戸を見ながら、私は唖然としていた。
《END…?》