夢現マイリトルマミー ~お嬢様学校のひねくれお姉さんが美少女ミイラを再生する話~   作:みらぁまん

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1-13 不貞の不貞寝

 

 感謝と負い目の違いとは何ぞや? その問いに答えられる人は案外少ないのではないだろうか。少なくとも私には、両者はなだらかに繋がっているようにしか思えない。現に、最初はカミラへの感謝のつもりだったスイーツの山を、私は自らの行いによりお詫びの品にしてしまったのだから。

 

「まあ! なんて素敵なのかしら……色とりどりで可愛らしいわ。ねぇゆせ、これは何? 何という宝物なの?」

 

 座卓に並べられたケーキ、マカロン、エクレアにシュークリーム、その他スーパーで買い求められる限りの甘味を、カミラはうっとりと見つめている。どうやら歴代の神官はカミラに駄菓子のひとつも捧げなかったと見える。まあ私も今日になるまで思い付きもしなかったわけだが。

 

「何ってお菓子だから。それ全部食べていいわよ。私はもう、部屋に戻るから」

 

 私は目も合わせずにそう言い、さっさと引き上げようとした。その後ろ髪を、カミラの無垢な視線が引き留める。

 

「……ゆせ、何だか元気がないのね」

 

「はぁ? なんでそうなるのよ。私だってたまにはあんたに構わず、一人でゆっくりしたいだけよ。変な勘繰りしないで」

 

 図星を突かれ、つい棘のある言葉を投げてしまった。カミラは何も悪くないのに。悪いのは私……カミラの授けてくれた力を利用し、まんまと後輩の体を弄んだこの私だというのに。

 

「……ごめん。とにかくそんな感じ」

 

 加速した自己嫌悪に前を塞がれ、私は身動きが取れなくなる。その背中を鏡のような目に映しているであろうカミラが、寂しそうに「わかったわ」と呟く。

 

「……わたし、ゆせの言うことは聞きたいもの。今日は我慢する」

 

 カミラの声が少しずつ震えていく。きっと涙を堪える顔も綺麗なんだろう。だが私には駄目だ。少なくとも今日は、カミラの顔をまともに見られない。

 

「でも、この綺麗なお菓子でもゆせの代わりにはならないわ。だから……だから、また来て欲しいの。お願いよ……?」

 

「……うん。考えとく」

 

 祈りのようなカミラの言葉を背中に突き刺したまま、私は霊廟の扉を閉ざした。思えば、カミラが棺に戻る前に霊廟を出るのは初めてかもしれない。

 

(あの涙声……私が愛想を尽かしたとでも思ったかな。私がもう来なくなるって、勘違いさせちゃったかもしれない。違うの……ごめんねカミラ、そうじゃないの)

 

 合わせる顔もない癖に、あげる物あげて楽になろうとして、挙げ句に泣かせた。秘密の恋人にさえここまで浅ましい態度を取れる自分自身が本当に嫌で、私は自分の部屋に這うようにして逃げ込んだ。

 

(重力を感じる……前にもこんなことがあったな。疲れて一歩も歩けないみたいに心も体も重たくて、どこにでも倒れて眠ってしまいそうな感じ。眠い……本当に眠いよ)

 

 何とか布団に潜り込み、私は制服も脱がぬまま泥のように眠った。消耗した精神を補うには、時に体の場合と比較にならぬ程の時間がかかる。カミラの泣き顔を網膜が幻視しなくなるまで……弥栄ちゃんを侮辱した事実を脳が反芻しなくなるまで……本当ならいつまででも眠り続けていたかった。

 

 しかしながら、学校を休むのには限度がある。今の私の気ままな暮らしは一定以上の学業成績と、私が自律的に生活できている実績により保証されている。親が乗り込んで来る前に嫌でも目覚めなくてはならない……結局、私の不貞寝は区切りよく一週間で終わることとなった。

 

「……うん。もう熱も下がったし、明日から行くよ。……大丈夫だって、ほんと。父さんにも伝えといて。……うん、ありがと。……はいはい私も好きよ。じゃあね」

 

 母親との電話を切り、私は凝り固まった背筋をパキパキと伸ばした。この七日間ずっとムカデかゴキブリのようにぺったんこな生活を送っていたものだから、そう狭くもない筈の子ども部屋はカップ麺の殻や飲みさしのカルピスなんかで足の踏み場もなくなっている。多分私もひどい面をしてるだろうし……まずは人間に戻ることから始めなければならないようだ。

 

(とは言えもう夕方か。えーと、身だしなみ優先でとりあえずお風呂沸かして……うん、制服もくちゃくちゃだな……アイロンかけるのめんどくさいなぁ)

 

 汗だくのパジャマを脱ぎ捨てながら、寝起きの頭で色々と算段をつけていく。外界に出るため準備を整えるこの感覚も、何だか久々で懐かしいものだ。と、私が感慨に耽りかけたその時であった。軽快なエンジン音が鳴り渡り、家の前に何やら大きめの車が停まったようだった。

 

「えっ、まさか来客? ……誰?」

 

 私の一家を除いて縁者もなかった祖父の屋敷に、今更人が訪れる機会は基本的に無い。それこそ親が私を連れ戻しに来る時ぐらい……今電話したばかりでそれも無いとは思うが、私はカーテンを細く開いて恐る恐る外の様子を窺った。

 

「あの車って、確か……」

 

 門前に止まっている車に、私は見覚えがあった。えんじ色の高そうなリムジン。あれに私はつい最近乗ったことがある。後部座席に座っているエレガントな人影を見て、心当たりは確信に変わった。

 

「……無道院さん!?」

 

 

《END…?》

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