夢現マイリトルマミー ~お嬢様学校のひねくれお姉さんが美少女ミイラを再生する話~   作:みらぁまん

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1-15 捲土重来を期す

 

 一週間ぶりに通学のバス停に立った私を待っていたのは、目を潤ませた捨子さんの全力の抱擁だった。

 

「ゆっ、ゆっ……ゆせさぁ~~ん!! 良かったぁ元気そうで……あの後ぱったり来なくなるから、心配してたんだよ?」

 

「わわわ、暑い、暑苦しい……! 捨子さんも変わりなくて何よりね」

 

 あの後と言うと、催眠にかかった捨子さんを私がキックで轟沈させて放置してからということになるか。通りすがりの生徒に発見され保健室に運ばれたとは聞いていたが、私は結局見舞うことなく下校してしまったので、とんだお別れになったわけだ。

 

「なんか……ごめんね捨子さん」

 

 今更申し訳なくなる私だったが、やはり催眠時の記憶は薄れるのだろう、捨子さんは「どうして?」首をかしげるばかり。

 

「僕こそいきなり倒れて申し訳ないと思ってたんだから。ゆせさん、何か大事な話があったんじゃないのかい?」

 

「それならもういいの。そっちは一件落着したんでしょ? 新聞部の取材にまで応じて貰って……気を遣わせて悪かったわね」

 

 捨子さんから昨日届いたお見舞いの手紙には、弥栄ちゃん経由で新聞部にもたらされた私の声明により、この度のスキャンダルが収束に向かっている旨も記載されていた。私が相談もなしに勝手にしたことに対して、話を合わせてくれた捨子さんの人の良さには頭が下がる思いだ。

 

「いいんだよそんなの。いやぁ~、“涙を飲んで私の親友を玲愛さんにお預けします” なんてコメントを聞いた日にはもう僕も舞い上がってしまって! 思いの丈をインタビューで話したつもりだよ」

 

 すっかり上機嫌の捨子さん。手紙に同封されていた記事の切り抜きを見るに、随分とライター泣かせの支離滅裂な受け答えをしたようだが、感激のあまり気が動転していたと思ってあげよう。とにかく、これで捨子さんは晴れて公式に玲愛ちゃんのお姉様になったと言えそうだ。誰に認められての“公式”なのか甚だ訝しいが。

 

 山桜もだいぶ散った山道をバスに揺られ、捨子さんの話に生返事するいつもの登校風景がつつがなく過ぎていく。果たして校門前に降り立った私たちを待っていたのは、憮然とした顔の玲愛ちゃんだった。

 

「ごきげんよう、お姉様。……ゆせ様も、お体の具合はもうよろしいようで」

 

 玲愛ちゃん、捨子さんへの挨拶もそこそこに私の方を睨むのは勘弁してくれないかな。年下の殺気に怯む私を庇うように、捨子さんが間に入ってくれる。

 

「こらこら玲愛くん、ゆせさんに嫉妬するのはもうよそうって言ったじゃないか。僕の機嫌はともかく、僕の親友の気持ちは汲んでもらえないかな?」

 

 などと捨子さんらしからぬかっこいい台詞まで飛び出す始末。一年以上つるんでてメアドすら交換してない仲を親友と言うかどうかは個人の解釈に委ねるけど。

 

「……わかりました。お姉様がそう仰るなら。ですが! これだけは言います!」

 

 急に声を張った玲愛ちゃんに、道行く生徒がびっくりしている。後から聞いたのだが、彼女、中等部ではバレー部の名アタッカーだったらしい。体育会系怖い。

 

「私、あんな新聞で決着がついたなんて思っていませんから。先輩であるゆせ様が身を引かれた手前、私も大人の対応をせざるを得ませんでしたが……正直! そのやり口が気に喰わない!」

 

 少し予想はしていた。噂を収めるだけならまだしも、この侍のような後輩ちゃんの溜飲を下げるには、あの曖昧な幕切れでは不十分かもしれないと。むしろ私への敵対心が前より増していないか?

 

「ま、まあまあ玲愛くん、人目もあるし……あまり怒ると可愛い顔が台無しだよ?」

 

 既にタジタジの捨子さんが、苦し紛れに玲愛ちゃんの二つ結びの髪を触ろうとする。お馬鹿……今そんなことしたら。

 

「お姉様ッ!! 茶化すおつもりなら引っ込んでいてください!!」

 

「ごめんなさい!!」

 

 案の定ライオンに吠えかかられ、捨子さんは私の後ろに隠れた。おいお姉様。

 

「とにかく! 私は譲られた勝利など受け取りません。今はゆせ様のご意向通り捨子お姉様をお預かりしておきますが、我々の天王山は年度末のジェミニ祭です。そこで白黒はっきりするまで、私は貴女に挑戦し続けます。そのことをゆめお忘れなく。では、ごきげんよう!」

 

 またも言いたいことだけ言い尽くして、怒りの玲愛ちゃんはメインストリートの人波へと消えて行った。

 

「……ふう。凄いでしょ、僕の妹分」

 

「いや、やかましいわ」

 

 後ろで胸を撫で下ろしている捨子さんに同情半分幻滅半分で、私は未だ平穏には程遠い前途に思いを馳せずにはいられなかった。策士策に溺れる……ではないけれど、目先の事態収拾に囚われ小細工を弄したことで、私は更に深い墓穴を掘ったのかもしれない。

 

 だが、今この時ばかりは学校での面倒事は忘れようと思う。何故なら、私は今日の放課後にもっと重大な責務を抱えているのだから。

 

 即ち、あれからまだ会っていないカミラへのご機嫌伺いである。

 

 

《END…?》

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