夢現マイリトルマミー ~お嬢様学校のひねくれお姉さんが美少女ミイラを再生する話~   作:みらぁまん

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1-3 モーニング・ルーティン

 

 私の朝は早い。寮があるような山奥の学校にわざわざ麓の自宅から通っているのだから、バスは当然始発だ。しかも田舎の路線バスと来ているので逃そうものなら次は来ない。よって本来、7時30分ともなればとっくに家を出ていなければならない筈なのだが、その日の私はまだ制服に腕を入れてもいなかった。

 

「やばい……やばい……くそっ……やばい……」

 

 昨夜は遅くまでカミラに構っていて、金庫室を閉めるやシャワーも浴びずに眠ってしまった。おかげで今朝、せめて人並みの身支度を整えるために時間を取られてしまい、今まさに遅刻寸前なのだ。

 

(温室のザナの木はもうスプリンクラーした……霊廟の施錠も……してある。神官のメダルは……帰ってから探す。よし!)

 

 屋敷の正門からバス停まで、走ればギリギリという時間。頼る者も居ない窓際の学園生活、せめて遅刻だけはせずに座っていたい。私が足をもつれさせながら走っていると、高そうなリムジンがすぐ横を追い越して行き、道の先で止まった。

 

「そこの貴女、お急ぎならお乗りにならない? 見るに見かねますわ」

 

 後部座席のウインドウを開けてそう投げかけて来たのは、確か隣のクラスに居る有名人だった。突然のお節介に私は顔をしかめ、無視して通り過ぎようとした。だが次の瞬間、私は致命的なミスに思い至り、やむなく立ち止まって頭を垂れた。

 

「……すいません、財布だけ取りに帰っていいですか」

 

 程なく戻って来た私を拾い、リムジンは登山道を上り始める。足をうんと伸ばせる快適シートに収まり、私は有名人に再度頭を垂れ社交辞令的に謝した。

 

「……ほんとすいません。助かりました。ええと、確か社長令嬢の……」

 

「無道院紗雪ですわ。礼には及びませんことよ。わたくしも今朝はたまたま実家からの登校でしたから。幸運でしたわね」

 

 よく通る声。耳がキンとしてあまり好きじゃない。しかも折り目正しい制服に、自信に満ち溢れたロングヘアー……私には合わないタイプの真人間だ。

 

(私絶対汗臭いし隣だと臭うだろうな……窓とか開けられたら飛んでやろうかな……)

 

 私がそんなことを思いながらドア際に体を寄せていると、気を遣ってか紗雪さんは更に話を振ってくれた。

 

「いっそ、貴女も寮に入りませんこと? お父様が出資者である関係で、寮はわたくしたち生徒の自治に任されていますの。堅苦しい規則はなし、随分気楽でしてよ」

 

 成程。だがそういう同年代の気兼ねのなさが逆にしんどい人種も居る。特に私。そもそもカミラを抱えて入寮はできない。

 

「……申し訳ないけど遠慮しときます」

 

「あら残念。気が変わったらいつでもいらしてね。貴女もきっと気に入りますわ」

 

 それきり紗雪さんとは会話もなく、目立つのを嫌った私は校門の少し手前で下ろしてもらった。無事に教室のいつもの席に着きふと窓の外を見ると、紗雪さんは校門でまだ取り巻きに囲まれていた。

 

「おや、あれは無道院さんじゃないか。相変わらず凄い人気だね」

 

 音もなく前の席に着いていた捨子さんが、そう言いながら首を突っ込んで来た。息が少し上がっているところを見ると今朝はバス停ダッシュを決めたらしい。

 

「2年生にしてあのオーラと美貌、加えて人当たりの良さ……上級生からも是非ジェミニになりたいと誘いが来るのも納得だね」

 

 またジェミニ。双星の契りって奴か。聞くだに頭が痛くなって来る。

 

「……そんな気取った名前にしなくても、要はバレンタインシーズンの告白イベントでしょ? しかも同性の」

 

「いけないかい? 束の間でも暮らしを共にした仲……特別な感情だって芽生えるさ。それに双子座の神話を鑑みても……」

 

 捨子さんの舌が回り、身振り手振りの講釈が始まる。多分長くなるので、私は始業まで空を眺めていることにした。

 

(にしても星……か。宇宙と星座の本が確か子ども部屋にあったな。私はすぐ飽きちゃったけど、カミラは喰いつくだろうか。あんな半眠りの目で、星図なんて細かくて見えないかもしれないけど)

 

 どこまでも青い春空の向こうに、私は満天の星空を幻視する。同時に昨日のカミラの熱い肌の感触と、むせ返るような霊廟の空気が脳裏に蘇って来る。

 

(ああ……もう帰りたい)

 

 私の朝は終わりも早い。登校してしまえば最後、夕暮れのような気怠さと煩悩が頭を支配する。眠ってやり過ごすにはもどかしすぎる程に。     

 

 

《END…?》

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