夢現マイリトルマミー ~お嬢様学校のひねくれお姉さんが美少女ミイラを再生する話~   作:みらぁまん

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1-4 愛と欲と

 

 可愛い女の子が好きだった。麦わら帽子の似合うような清しき乙女に、抱き着いたりキスしたりするのをいつも夢に見た。その時々で一番仲の良い友達に、冗談めかしてスキンシップを仕掛けるのが好きだった。親友だからこそ許される距離感に、仄かな期待を寄せることができたから。

 

 ある時、その親友に打ち明け話をされた。好きな男の子が居るのだと。思いを告げる勇気が足りないから、親友の私にこそ分けて貰いたいのだと。彼女からの信頼を光栄に思いながらも、私は来るべき時が来たのを実感していた。

 

 もう私が彼女と以前のように親密に付き合うことはない。気軽に頬に触れることも、おどけて肩を抱くこともない。だって、彼女の体は最早彼女ひとりの物ではなくなったのだから。

 

(別に、好きってわけじゃなかった筈なんだけどな……)

 

 そう心の中で儚む度に、少し息苦しさを増した日々が始まる。きっと私は誰でも良かった。きっと自分の中にある欲望を体よく発散していただけ。だって、もし本気の思いならば、あの子のように勇気を出して打ち明ければ良かったのだから。

 

(……もう嫌だ。自分の卑しさに呆れ返るのも、中途半端に期待して勝手に傷つくのも……もう沢山だ)

 

 今の学校に入っても、やるせなさは消えなかった。むしろ、同性ばかりの閉鎖社会でロマンスの気分を満喫するクラスメイトや上級生を見るだに辟易した。

 

(何がジェミニだよ。何が双星だよ。どうせ休み中に彼氏でも出来れば、そんなお伽話おくびにも出さなくなる癖に!)

 

 そんな苛立ちが募っていたある夜のこと、私はふと思い立った。祖父に託された王女のミイラを起こしてみようと。それまでにも生命維持のためのザナ茶は与えていたが、大昔に死んだ人間の遺体がこれで本当に生き続けられるものか甚だ疑問だった。真偽を確かめるついでに、生前は絶世の美女だった王女カミラのご尊顔でも拝めれば僥倖……そんな下心もあった。

 

 9枚の葉を煎じた高濃度のザナ茶からは目を刺すような香りが立ち上っており、警戒心を煽られる。おっかなびっくりでその劇物を金庫室に持ち込み、王女の棺に注ぎ込んだ。分厚い棺の蓋には人面を模した開口部があり、そこに液体を注ぐと、蓋の裏面から伸びる無数の針状の管を通じて遺体に届けられる。この仕組みのために、普段神官は棺を開く必要がない。

 

「さて、腐乱死体が起き上がるか、それともシワシワの干し柿が寝てるだけか……」

 

 私は霊廟の壁にもたれ、効能が出るのを座して待った。数分もした頃、果たして棺の中から物音がして棺の蓋がゆっくりと押し上げられた。驚く暇もないうちに人面の蓋は脇へ落とされ、王女カミラその人の細腕が虚空を掻くのを私は見た。

 

「本当に生き返った……ミイラが!」

 

 私が見ただけでも数ヵ月は密室に放置されていた棺から、血色も鮮やかな人の腕がまろび出る。それだけで驚嘆に値するが、何より私の心を奪ったのは、やがて起き上がったカミラの美しさだった。

 

「……あら、新しい人……かしら?」

 

 少し掠れた声色を発する唇は、桜貝のように艶やか。居竦む私を見遣る目は、凪いだ海を思わせる深い碧。加えてそれらの美を散りばめたカミラの身体は、年の頃にして十代前半としか思えぬ幼さだった。

 

「貴女、震えているわ。……怖いの?」

 

 カミラは心配そうに首を傾げるが、むしろその逆だ。カミラの纏う妖艶な雰囲気……その色香にとても見合わぬカミラ自身のあどけなさにこそ、私は震えていた。

 

「あ、あなたが……カミラ王女……?」

 

 見惚れて動けぬまま、私はやっとのことで尋ねた。するとカミラは緩やかな所作で棺から這い出し、私に歩み寄って来た。

 

「……わからないの。皆わたしをそう呼ぶけれど、わたしはわたしが誰なのか、何も知らない……とてもとても寂しいの」

 

 目の前にうずくまられ、カミラと視線がかち合う。私の心臓がひとつ跳ねる。

 

「ねぇ……貴女は私の側に居てくれる? 貴女が喜ぶことなら……わたし何でもするわ。欲しければわたし自身をあげてもいい。だからお願い……ずっと側に居て頂戴……」

 

 縋るように袖を掴まれ、私の心は既に決まっていた。この幼気な少女を、この世のものとは思えぬ美しい人を、私の好きにできるなんて。ならば何を迷うことがあろうか。私が触れてもいい体は、他でもないこの霊廟にあったのだ。

 

「……本当に、くれるのね?」

 

 手を伸ばし、カミラの胸を掴む。彼女との日々はこうして始まった。

 

 

《END…?》

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