夢現マイリトルマミー ~お嬢様学校のひねくれお姉さんが美少女ミイラを再生する話~   作:みらぁまん

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1-6 死の眠り

 

 ザナの葉の魔力で呼び起こされたカミラの命には限りがある。9枚の葉を煎じて与えても、覚醒時間は持って3時間ほど。時間切れが近付くとカミラはいつも強烈な眠気を訴え、何をしていようが即座に私に退出を命じ、自分は棺に戻ってしまう。

 

「だって、眠っているわたしは干からびたミイラなんでしょう? この肌がみすぼらしく乾いていく所なんて、ゆせには一目たりとも見せたくないわ。だから……ね?」

 

 記憶がなくともやはり古代エジプトの王女、美意識とプライドは一丁前に持っているらしい。半脱ぎの生殺しで放り出される私の身にもなって欲しいもんだけど。

 

「それじゃあゆせ、おやすみなさい。また来てくれなくては嫌よ……?」

 

 蓋の隙間から名残惜しげに私を見つめながら、カミラは自らの手で棺を閉じた。音も無い霊廟にひとり残された私は、着衣を直しながら考える。

 

(確かに……ミイラ姿のカミラを見てしまったら、私は二度とここには来ないかもしれない。私が興味あるのは、今私の知っているカミラだけだ。あの体が崩れていく様なんて想像したくもない)

 

 カミラを愛するのは簡単だ。何故ならカミラは無垢で美しいから。だがそれは、外法によりこの世に現しめられた幻に過ぎない。本当のカミラの魂は、干からびた肉体の奥の奥……そこにずっと眠ったままなのだ。それこそ、一国の王女だったカミラがその生を終えた幾星霜の昔から。

 

(起きてても死んでるようなもの。それなのに、眠りに就く時はあんなにも寂しそうな顔をするんだよな……)

 

 碧く透明な瞳が最後に私だけを映す瞬間。あの別れの余韻は脳裏にこびりついてなかなか離れない。だからこそ、尚もって私は棺の中を覗き見ることはしない。お互いの慰めのためにも、それは踏み越えてはならない一線なのだ。

 

 

 

 翌朝、私は携帯のアラームに頼ることなくすっきりと目覚め、ソーセージと目玉焼きの簡単な朝食までこしらえて悠々といただいた。やはり、カミラに触れなかった明くる日は寝起きが良い。最近に珍しく余裕を持って家を出た私は、後から走って来た捨子さんを一瞥してバスに乗り込んだ。

 

「やあ、今朝は随分早いね。夜更かしはやめたのかい?」

 

「別に。単に体力の問題かな」

 

 生返事しながら揺られているうちにバスは学校に着いた。降り際、捨子さんはおもむろに鞄からチャック付きの小袋を取り出した。見ると中には桜の花弁が十数枚ばかり保存されている。

 

「ああこれかい? 肩に付けとく用の花弁だよ。道すがら拾うのは難しいから家の近くでストックを集めとくことにしたのさ。……あ、ゆせさん引いた?」

 

 露骨に渋い顔をしたのがバレたらしい。雅がどうたら言ってたやつ、まだ続いてたのも驚きだが、集めすぎじゃない?

 

「ロマンチックなきっかけさえあれば僕に話しかけたいと思ってる後輩が存在するかどうか、これでわかる」

 

 言いながら捨子さんはバスを降り、校門をくぐると同時にさりげなく花弁を右の肩口にマウント。それを落とさぬよう器用にメインストリートを歩いて行った。

 

 私はと言うと、眠気や偏頭痛と戦わずに登校するのが珍しいものだから、くっきり見えすぎる春の景色や聞こえすぎる学び舎の喧騒に早くも気疲れしていた。

 

(嫌いなものから目を逸らそうとしても、ノイズまでは遮れない。苦痛を和らげるに曖昧なまま過ごすしかないのよね……ああ、早寝なんかするんじゃなかったかな……)

 

 結局私は早寝早起きの利得を録に味わうこともなく、教室に入るや机に突っ伏すいつもの生活に戻ってしまった。予鈴も鳴り始める頃、やけに声を弾ませた捨子さんが前の席に着く音がした。

 

「なんだ、早起きの反動でおねむかい? 睡眠は浪費! 人生の可処分時間が減るよ? この分じゃゆせさん、常人の半分も生きてないことになるんじゃないか?」

 

「……うるさい。謎に機嫌よくなってんじゃないわよ……本当にうざい」

 

 手首だけもたげてファックサインを突きつけつつも、私は捨子さんの軽はずみな言葉を密かに反芻していた。

 

 私は詰まるところ、好きなもの、胸躍るものだけ見ていたいがために、生の時間を減らしているのかもしれない。きっと眠りとは短き死なのだ。棺に戻るカミラを見送り、金庫室に鍵をかけた瞬間、私の心も一度死を迎えているのだろう。再びカミラに会い、蘇るその時まで。 

 

 

《END……?》

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