夢現マイリトルマミー ~お嬢様学校のひねくれお姉さんが美少女ミイラを再生する話~   作:みらぁまん

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1-7 ゴシップ学園

 

 噂話は嫌いじゃない。私だってたまには人の陰口を叩いたり、ネットのゴシップ記事に時間を吸われたりする。だが自分がその対象になっているとわかれば話は別だ。そして今、私は自分史上稀なほど人の噂というものを憎んでいた。

 

「いやー……昨日ぐらいから校内で視線を感じてしょうがないよ。とうとう僕もミモ女的コンテンツ人間に……あはは」

 

 捨子さんの軽口も今日はどこか歯切れが悪い。先程から私がまあまあの形相で彼女を睨み付けているからだろう。

 

「……私、今週に入って10回ぐらい顔も知らない生徒にコメント求められたんだけど。羽生捨子さんとの近況について」

 

「新聞部のお嬢さんたちだろうねぇ。申し訳ない……まさか僕の行動ひとつで皆がこんなに盛り上がるなんて」

 

 今は昼休み。私と捨子さんは人目を逃れて学校の敷地の外れ……焼却炉の裏に避難中だ。手入れの甘い雑草の臭気に眉をひそめながら、私は苛立ちを主張するように金網をひとつ揺すった。

 

 事の始まりは、捨子さんが一人の後輩の仲良くなり校外デートに及んだこと。驚いたことに例の花弁作戦に引っかかり、捨子さんと近づきになろうとした脳天気な一年生が本当に居たらしい。浮かれた捨子さんはその週末にその子を寮から連れ出し、映画と買い物を楽しんだ。そこまではいい。

 

 問題は、うちのクラスでは捨子さんのお相手は私であるとの見解が多数を占めていたことだ。私はたちまちパートナーを略奪された悲劇のヒロインに仕立て上げられ、名も知らぬクラスメイトたちから同情されたり励まされたりもう散々な目に遭った。

 

「な~にが “元気を出して” よ。人のことを退屈凌ぎに利用しくさって……私は芸能人でも地下アイドルでもないっての!」

 

 あの下世話極まる校内新聞の一面を飾るのだけは御免だ。それは捨子さんも同様だと思いたかったのだが。

 

「こうなれば、いっそゆせさんもこの状況を楽しんでしまうというのは? 僕を巡って後輩くんと争ってくれても構わないよ?」

 

 この調子である。遺憾の意を込めて私が焼却炉の壁を蹴りつけると、捨子さんはビクッと身を竦ませて素に戻った。

 

「……冗談だよ。後輩くんに矛先が向かう前に、何とか噂を収めないと」

 

「何よ、意外と良識的じゃない」

 

 私が溜息交じりにそう言うと、捨子さんは「当たり前さ」と語気を強めた。

 

「凄く良い子なんだ。先のデートでも、空回りする僕を鼓舞して引っ張ってくれた。これ以上……彼女の学校生活まで僕のために煩わせるわけにはいかないよ」

 

 捨子さんも根は真人間だ。一年の頃からこのミモザ女学院でリアルを充実させたいと息巻いていたが、どうやら相手を思い遣ることもちゃんとその一環らしい。ひねくれ者同士のように思えて、捨子さんと私との間には心根の醒め加減において大きな隔たりがある。

 

(私は……こうはなれないな。他人に好意を受け止めてもらう気概なんて、とうの昔に放り捨ててしまったよ)

 

 金網にもたれ、私は家で眠っているカミラを思った。自分の名前も覚えていない赤子も同然の彼女は、生のままに己の愛着を示し、雛鳥のように庇護者に縋る。過去の神官がどんな思いでカミラに接したかは知らないが、少なくとも私は都合が良いと感じてしまった。

 

(私の手にあるのは、イージーな欲望の捌け口だけ。そういう私に自分からなったんだから……嘆くだけ不毛よね)

 

 不意に感傷に襲われた私の顔を、捨子さんが不思議そうに覗き込んで来る。数十秒は放心していたことに気付き、私は咳払いをして捨子さんに向かい合った。

 

「まあいいわ。噂が払拭できるかどうかは知らないけど、私もできる限りのことはする。お互いの平穏な日々のためにね」

 

「ゆせさん……」

 

 捨子さんが声を震わせて私の手を掴もうとするのを、私はすんでの所で躱した。

 

「なんで避けるのさ!」

 

「えっ……あんた何となく手汗かきそうだし。それに、あくまで火の粉は払うってだけだからね? 色々聞いてくる連中に逐一否定するとか、捨子さんと暫く距離を置くとか……そういう地味なことしかできないから。あんま期待しないでよ?」

 

 尤も、早めの落着を願う気持ちは私とて本物だ。捨子さんの幸運が私のためおじゃんになるのは流石に気分が悪すぎる。真面目に恋することから逃げてばかりの私が、あまつさえ人の恋路の妨げとなるなど罪の上塗りも甚だしいのだから。

 

 

《END…?》

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