夢現マイリトルマミー ~お嬢様学校のひねくれお姉さんが美少女ミイラを再生する話~ 作:みらぁまん
捨子さんが後輩ちゃんと交際を始めたことで、私を絡めた三角関係が勝手に噂されるようになってからはや一週間が過ぎた。所詮は当事者を置き去りにして一人歩きしている話、初動以上の発展性も見込めないし早晩沈静化するだろうと希望的に見ていた部分もあるのだが、そうはいかないのがミモ女という学校のようだ。
「ゆせ様……私、負けませんから!」
渡り廊下で私に宣戦を布告したのは、捨子さんが引っかけた後輩ちゃんその人……名前は一条玲愛というらしい。二つ結びの髪もおぼこなかわい子ちゃんだが、周りが囃すのを真に受けてすっかり私をライバル視してしまっている。おまけに新聞部の取材で、私との対決姿勢をポロッと言葉に出してしまったというのだから質が悪い。
「えーっと、玲愛……ちゃん? 負けないはいいけどさ、このこと捨子さんは承知してるわけ? ちゃんと話し合った?」
健気にも二年生に立ち向かう曇りなき眼差しに半ば気圧されながら私がそう尋ねると、玲愛ちゃんは威勢よく「いいえ!」とかぶりを振った。
「これは私とゆせ様の問題……捨子お姉様に意見を求めるなんてアンフェアです。なので引っ込んでいただいています!」
成程、この件に関して捨子さんに発言権は全くないらしい。それにしてもあの捨子さんがお姉様って……面白すぎて笑っちゃうから真剣な場でやめてくれないかな。
「あっそ……でも私と捨子さんは別に何でもないってことぐらいは聞いてるわよね? それともお友達に乗せられて、お姉様の言い分は尊重しない方針?」
思わず嫌味が混ざってしまった私の言葉に、玲愛ちゃんは眉をピクつかせ「ですからっ!」と改めて声を張った。
「あくまでゆせ様に対する私の気持ちの問題なんです。私と過ごしていても、お姉様のお話の中心はその日のゆせ様のことばかり……私にはそれがとても悔しい!」
「えっ……う~ん……?」
捨子さんそりゃないよ……いくら話題に事欠いても他の女の話するのはやめようよ。玲愛ちゃん思い詰めちゃってるし……体育会系なのかさっきからやたら声でかいし。
「とにかく! ゆせ様がどう思っていようが私は負けません。お姉様の中で私がゆせ様以上の存在になれるまで……私はこの度の騒動でも何でも利用するつもりですので、どうぞお覚悟を。今日はそれだけお伝えしに来ました。それでは、ごきげんよう!」
言いたいことだけ言って踵を返し、玲愛ちゃんはツカツカと歩き去った。何と言うか、生真面目な子なんだろうな。私が溜息をついていると、後ろの曲がり角から捨子さんが姿を現した。
「お~い、ゆせさん探したよ。お昼にしよう。玲愛くんの声も聞こえたような気がしたけど良ければ……お゙ぅえっ!?」
柴犬のように駆け寄って来る捨子さんの鳩尾にグーパンチをくれてやり、私は現状の分の悪さを噛み締めるのだった。
(噂を収めようにも役立たず捨子さんは半ば蚊帳の外、玲愛ちゃんはむしろ乗っかる気満々。となると割を喰うのは……やっぱ私よね。ふざけんな!)
帰宅後、カミラの膝枕の上で思案してみても、クソみたいな状況は覆しようもなく思えた。今はまだギャラリーも私に同情的だが、玲愛ちゃんがあんな調子である以上あまり口をつぐんだままだと私がヒールにされかねない。それだけは嫌だ。
「ゆせったら、何か悩みごとなの? さっきから溜息ばかりで膝がくすぐったいわ」
カミラは私の髪の毛を繕って遊びながらクスクス笑っている。王女様は呑気でいいもんだ。私は腹立ち紛れにカミラの脛の辺りを擦りながら「まあね」と返した。
「各々のエゴで好き勝手に動く人間の心を御するなんて到底無理だなって話よ」
別にカミラに助言は求めない。ただ聞いて貰いたいだけの愚痴だったのだが、カミラからは意外な答えが返って来た。
「ふぅん……わたしにはよくわからないけれど、心を操るなんてゆせには簡単じゃないかしら。今、メダリオンは持ってる?」
「メダリオン……?」
祖父から受け継いだ神官のメダルのことを言っているのだろうか。制服の胸元に仕舞っていたそれを引っ張り出して差し出してみると、カミラはメダルの表面をつつと指でなぞってみせた。
「……はい、これでいいわ。このメダリオンをかざして語りかければ、相手を浅い眠りに落とすことができるの。その間、その人はゆせの思うがままよ」
「……は?」
ちょっと待って。このメダルそんな機能あったの? 衝撃の事実の発覚と共に、どこからか凝り固まった歯車の動き出す音が聞こえるようだった。
《END…?》