僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」   作:HOTDOG

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3. 写真

「ほっしろう君! さんごに何か用?」

 

「え、な、夏海さん?」

 

涼村さんから爆弾発言を受けた、その翌日のこと。

教室での休み時間、いきなり掛けられた声にビクっと身体を震わせて、慌てたように周囲をみた。

自分の席で静かに雑誌を読んでいたのだが、一体僕に何の用か。

大きな声で突然話しかけられるのは心臓が飛び出るくらい慣れていないから、手加減してほしいのだけど。

 

おっかなびっくり顔をあげると、そこには転校生の夏海さんが。

彼女が僕に話しかけてくるのは珍し……くもないか。

夏海さんはものすごい明るい性格で、クラスの誰とでも仲良くできる女の子だ。

今のように、普段接点のない僕にも簡単に話しかけてくる。すごい。でもちょっとテンションさげてくれないかなぁ……。

突然の質問に驚きながら、言い訳のように言葉を返す。

 

「え、す、涼村さんに用……は、別にない、と思うけど」

 

「えー、そうなの? ほしろう君、今日は朝からずーと、さんごのこと見てたから」

 

「え゛?」

 

思わず蛙が潰れたような声が出た。

なにそれ、僕はそんなことをしていたのか?

 

「……」

 

「――///」

 

試しに涼村さんの方を見てみると「やっと気付いてくれた、この人」と言わんばかりに、涼村さんは落ち着かない感じで、顔を赤くして俯いた。

いや、そこまで居た堪れなくなる前に一言注意をしてほしかったです。涼村さん……。

 

「え、もしかして無意識だったの、ほしろう君?」

 

「……ぐぅ」

 

「朝からさんごの方、ちらちら~そわそわ~って感じで見てたよ? さんごも恥ずかしがってて、ちょっと面白かったかも」

 

「……うぐぅ」

 

夏海さんの客観的な報告が、胸に刺さって息苦しい。

昨日の涼村さんの発言がずっと頭の中でループしていたから、確かにうわの空ではあったけれど。

 

クラスの女子をずっと見て挙動不審の人とか、陰キャを通り越して関わりたくない人でしかない。

涼村さんに不快な思いをさせて申し訳なく思うと同時に、キュアコーラルさんへの感情が制御できない自分が嫌になる。

これじゃ、キュアコーラルさんに相応しい男になる以前の問題だ。

 

「ご、ごめん、夏海さん。別に何でもないんだ。その、教えてくれてありがとう」

 

「そう? どういたしまして~! ――って、ほしろう君、面白そうなの読んでるじゃん!」

 

「え……これ? 別に面白くは……」

 

「ちょっと見せてよ、ね?」

 

そう言った夏海さんは隣に座り、僕の読んでいる雑誌を覗き込む。

男子学生専門のファッション雑誌。

勉強以外の話題作りにと、つい先日に購入したものである。

 

「ふーん、ほしろう君、おしゃれ興味あるんだ? 意外~!」

 

「……ど、どうだろ。ぜ、全然、く、詳しくはないし」

 

TI☆KA☆I !?

夏海さんのパーソナルスペース近すぎない!?

数回しか話したことない男子に、すごい自然体で距離詰めてくる女の子、ヤバいと思います。

夏海さんの明るい橙色の髪の毛が僕の頬に触れてるのだが、気にした素振りは全くない。

身を乗り出した体勢のまま、興味深そうに僕の雑誌を覗き込む。

 

「あ、付箋貼ってる! へぇ~、こういうの好きなんだ。う~ん?」

 

「え、も、もしかして変、かな?」

 

唸り出す夏海さんにおっかなびっくり問い掛ける。

ファッションの先端を走る気はないが、かと言って無関心のままダサい服というのも頂けない。

……キュアコーラルさんに会った時に、格好で幻滅されるのが嫌という不純な動機だけれども。

 

「ほしろう君は細身だから、これよりこっちの方が似合うと思うよ?」

 

「お、おぉ……な、なるほど」

 

指さす方を見て、確かにと頷く。

あと夏海さんがまともなアドバイスしてくれたことにも内心驚き、二度頷く。

 

「あ! これとか格好いいかも! トロピカってる~!」

 

「……トロピカる?」

 

謎の単語を声高々に叫ぶ夏海さんに、言葉が理解できず首を傾げて冷汗を流す僕。

というか、ファッションに疎い僕にアドバイスをくれるのは助かるし嬉しい。

だけれど、夏海さんのテンションが高いせいで教室内で結構目立つ。

 

僕としては恥ずかしいので、できれば皆がいない時に話しかけてほしかったと、縮こまりながらそう思う。

慣れない会話と雰囲気に、助けを求めるように涼村さんに視線を送った。

 

「――――ふいっ」

 

「えぇぇ……」

 

ジト目で睨まれて、不機嫌そうに明後日の方を向かれてしまう。

なんでさ?

 

 

 

僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」

第3話 写真

 

 

 

「星郎くん、まなつと仲いいんだね」

 

「あ、あれは仲良しと言えるのかな……?」

 

放課後。

教室から一人一人と去っていき、とうとう僕と涼村さんの二人だけになった頃。

周囲に人気が無くなったのを再度確認してから、涼村さんはこちらを向いた。

若干、拗ねた感じであった。

 

「キュアコーラルのこと好きって言ってたけど、まなつとも楽しそうに話してたし」

 

「楽し……そう? ひたすらキョどってた記憶しかない……」

 

ふーん、と相槌しながら疑うように僕を見てくる。

なにこれ。まるで浮気を疑われている旦那である。

 

「それよりごめんね、涼村さん。その、遅い時間まで残ってもらって……友達との予定もあったでしょ?」

 

「うぅん、ゆっくり読みたい本もあったし気にしなくていいよ。部活も今日はお休みにしてたし」

 

「部活? 涼村さん、部活入ってたんだ。なに部なの?」

 

「……と、トロピカる部」

 

「……」

 

なにそれ。

言っている涼村さんとしても、言葉に出しにくい部活名のようである。

確かに、控え目な子からすればちょっと恥ずかしい部活名か。

あと、恥ずかしそうに言葉にする涼村さん、ちょっとあざと可愛いくない?

狙ってやって……ないんだろうなぁ。

 

「きょ、教室に残っててって伝えたのは私だし……私こそ、我儘言ってごめんね。その、星郎くんと二人で話しているのは、あまり見られたくないっていうか……」

 

「う、うん……」

 

申し訳なさそうに謝罪する涼村さんだが、一から十まで僕の相談事なので彼女が謝ることは何もない。

……のだが、何気に心に刺さることを言われてちょっと――いや、何か予想以上に傷ついてる。

ま、まぁ、男子と二人で会っていたらあらぬ噂を立てられるもの。

取り柄もなく格好良くもない僕相手とは、そういう噂を避けたいのは当然だ。

女子としてその距離感は間違っていない。噂されると恥ずかしいもんね……。

 

「まなつに見られたら根ほり葉ほり聞かれて、星郎くんの恋愛相談のことバレそうだから」

 

「――ってそっち!?」

 

「え……何が?」

 

「い、いや、何でも……何でもない」

 

思わず突っ込みを入れてしまったため、首と手を振り慌てて誤魔化す。

何なのだ、これは。

涼村さんの言葉に一喜一憂してしまう自分に、違和感が拭えない。

これではまるで漫画で見たような、好きな女の子の態度に振り回される男子そのものではないのかと。

涼村は優しくて可愛い女の子と思うが、僕が好きなのはキュアコーラルさんだ。

 

元々、人間関係が下手なせいもあるのだろう。

ただのクラスメイトだった女子に恋愛相談なんて大それたものをしている、ちょっと普通じゃない関係だ。

涼村さんとの接し方が僕の中で上手く構築できていないのだと思う。

だから、必要以上に涼村さんに対して挙動不審になるのだろう。

ここ数日で生まれ変わったように感情豊かになった心にそう結論付けて、僕は今日の本題を口にした。

 

「そ、それで……涼村さん、その……いいかな?」

 

「う、うん/// ……せ、先生もいないよね? 見られたら不味いし……」

 

「ぼ、僕、もう待ちきれないよ……っ!」

 

「きゃ……お、落ち着いて、ね。星郎くん」

 

聞かれたらヤバイ会話である。

でも仕方ない。

涼村さんが大事そうに抱えているバッグの中には、あり得ないと思いながらも待ち焦がれていた、とびっきりのブツがある。

 

「……はい、これ……キュ、キュアコーラルの写真……」

 

「おぉ――ふおおおおおおおおおおぉぉぉ――――っ!!?」

 

まるで自分を差し出す(意味深)ように、写真を見せる涼村さん。

一方、猿に退化したかのように言葉を忘れ、阿呆みたいな歓声を上げる僕。

奮える手で、涼村さんの手にあった数枚の写真を手に取った。

もちろん、指紋がつかないよう手袋装着済みである。

 

「――――はぁぁぁ………………………あっ……!」

 

(頭が)イッた。

何で涼村さんがキュアコーラルさんの写真を持っているのだとか、何でどの写真も自撮り風で取られているのだとか、色々と疑問はあったけれど。

 

今初めて、はっきり姿を見ることができた憧れの女の子。

女神を見たと思ったあの日の想いは、間違いではなかったのだ。

だって、この写真に写っているのは紛れもない女神なのだから。

 

見惚れて時折痙攣しながら放心している僕。

……こちらを見る涼村さんは、なんでか真っ赤なリンゴ顔で。

恥ずかしそうに、お願いするような声色で、涼村さんはか細い声で僕に言う。

 

「ほ、星郎くん……そ、その、写真はあまりジロジロ見ないでほしいんだけど……」

 

「はぁ……あぁ……うぅ……か、可愛すぎる」

 

「/// あ、あの……できれば、他の人には見せないでほしいというか……」

 

「はぁ……なんでこんなに可愛いんだろ……ふわふわヘアー? ハートやフリル、リボンたくさんの可愛さ反則衣装だから?」

 

「/// えっと……あ、あと、スタイルは普通だから……その、がっかりしないでほしいというか……」

 

「はぁ……目がすんごいキラキラ。小柄なのも可愛い。ポーズや仕草も女の子らしくて可愛い……さらに水平帽とか、もう可愛いを知り尽くしてる」

 

「/// あ、あの、恥ずかしいし、写真をみるのは、もうそのくらいに……」

 

「うぅ……僕は……この写真を見る為に、生まれてきたんだね……ひぐっ…」

 

「お、大げさすぎるよ!? あと泣かないで!?」

 

涼村さんは僕の言動に突っ込みながらも、まるで借りてきた猫のように落ち着かない。

僕が写真をじっくりゆっくり見る度に、頬を染めて呻き声を漏らしてる。

キュアコーラルさんの写真。

どれだけ見ていても飽きるどころか感嘆の息しか出てこない。

永遠に見ていられると、本気でそう思ってしまう。

 

夕暮れの教室。

聞こえてくるのは男の痙攣したような呻き声と、女子の恥ずかしさを耐えるような呻き声。あまり見られるものではない。

 

「……はぁ……あっ……」

 

「あ、あの、星郎くん……その、とても言いにくいんだけどね……」

 

写真を渡してもらってから早30分。

未だトリップしている僕を見て何を思ったのか、顔を赤くしたまま、神妙な顔で涼村さん

は言う。

 

「しゃ、写真……渡すのは1枚だけ、だからね?」

 

「え゛!? ……え゛――!?!?」

 

衝撃の発言に、思わず涼村さんと写真を二度見した。

恐ろしい追加ルール。僕の意識も夢心地から一気に現実に戻される。

 

「ナ、ナンデ……!? ドウシテ……」

 

「だ、だって星郎くん、見すぎで、すごい恥ずかしい――じゃなくて……そう! 元々キュアコーラルと1枚だけ渡すって約束してたから!」

 

「……そ、そうなんだ……なら、仕方ないね……うん、仕方ない……」

 

涼村さんの言い分に、苦虫を潰したように答える僕。

普通に考えれば、たった1枚でもキュアコーラルさんの写真を貰えること自体が奇跡なのだ。

駄々を捏ねるなんて論外。

むしろキュアコラールさんが気を利かせて写真を複数用意してくれたことに感謝すべきだ。

 

「わ、わかった……1枚だけ選ばせてもらうね、涼村さん……」

 

「う、うん」

 

持っていた5枚の写真を机の上に並び、吟味を始める。

5枚のうち1枚しか選べないとか、リアル苦渋の選択である。

 

「…………うぅ、え、選べるわけがないよぉ……」

 

速攻で根を上げた。

 

「あ、えっと……が、頑張って、星郎くんっ!」

 

「どれも可愛すぎるよ……全部、天使しか写ってないよ……」

 

「///……あぅ」

 

僕の弱音に、涼村さんも思わず押し黙る。

正解がない問い、一を選び残りを切り捨てるこの選択に、心がとても締め付けられる。

こういう時は直感や本能で選べと言うが、頭の声も心の声も、全部欲しいとしか叫んでいない。

 

どれも可愛くて、どれもキュートで、どれもチャーミングである。

実は適当にどれを選んでも変わらないのでは? と厳しい選択肢に疲れ果てた心が逃避的な答えを出す。

 

(……いや、それでも、自分でちゃんと選ぶべきなんだ)

 

薄っすらと目を半目にして、ぼやけた視界を作り出す。

その状態で、もう一度5枚の写真に目を向けた。

『観の目』。

武道の達人が使用する、全体を把握する技術である。漫画で読んだ。

 

「――! ……これに、しようかな……」

 

本能に導かれように、1枚の写真に辿り着く。

一見して、他の写真と変わりない、可愛いポーズをしたキュアコーラルさんの自撮り写真。

 

(……この写真……少し、わきが見えてる)

 

キュアコーラルさんの白くて細い二の腕の奥に見える、脇の筋。

なんだか、とてもいけないものを見ているようで――なんだか、とても貴重な写真を手に入れてしまった気分になる。

僕は別に脇フェチではない。

女子の胸とかお尻とかにドキドキする普通の男子で、特殊な性癖なんてない。

だから、この写真を選ぶのに疚しい気持ちはない筈である。

 

「……この写真でいいの、星郎くん? なら、その……他のは片付けちゃってもいいかな? ……ひ、広げられてると、は、恥ずかしいし」

 

「あ、うん、ご、ごめんね!」

 

僕が頷くと、涼村さんは即座に机の上の写真を片付ける。

あぁ、もう仕舞っちゃうのかと寂しい気持ちになるが、それでも、この手元の1枚を手に入れられたのだ。これで満足するしかない。

 

「ありがとう、涼村さん。写真すごく大切にするよ。キュアコーラルさんにもお礼、言っといてくれると嬉しい」

 

「う、うん……そ、そんなに喜ばれるのも恥ずかしいけど……言っとくね」

 

互いに頬を紅くしながら、頷いた。

一仕事終えた感じであった。

 

そういえば――と、涼村さんが首を傾げる。

一歩、僕の方へと近づいた。

 

「その、選んだ写真、見せて貰っていい? ちゃんと見てなくて……」

 

「え、えぇ!? あー、う、うん……全然大丈夫、どうぞどうぞ」

 

「?」

 

掛けられた言葉に、ドキリと心臓が高鳴る。

別に僕は悪いことはしていない筈で、ただ提示された中から写真を1枚選んだだけなのだ。

平静を装って、写真を渡す。

物凄いどもってしまったので、怪しいことこの上ない。

 

「………………………………………」

 

「………………………………………」

 

「……………………ご、ごめんね、星郎くん。この写真、やっぱり返して貰ってもいい?///」

 

ですよねっ!!

でも、はいそうですかと渡すほど、物わかりのよい僕ではない。

だって、写っているのはキュアコーラルさんの脇なのだ。それもチラッと。

谷間や下着なら、それは返さなくてはいけないだろう。当然だ。

でも脇が見えてるくらいなら、別に普通の写真なのでは?

そこから変な想像しちゃう涼村さんの方が疚しいのでは?

 

「え、何で? この写真、何かいけないの?」

 

「そ、その……いけないわけじゃないんだけど……」

 

「?」

 

全力でとぼける僕。

 

「え、えっとね……ちょっと脇が……その、見えてるから……///」

 

「え、何だって?」

 

涼村さんも引き下がる気はないのか、しどろもどろ、顔に羞恥心を浮かばせながら、必死に伝わる言葉を探す。

 

「わ、脇が……は、恥ずかしいから……他の写真にしてほしいなぁって……」

 

「わき? もしかして、涼村さんは脇が写ってるのはエッチだと思うの?」

 

「エッ……っ!? べ、別にそんなことは、その、思ってないけど……うぅ///」

 

無垢な子供のように首を傾げる僕に、涼村さんは言葉を詰まらせる。

なんだろう、この湧き上がってくる感情は。

楽しい……違う。

愉悦……ちょっと違う。

可愛い……うん、脇をエッチと言えずに恥ずかしそうにする涼村さんが、とてもあざと可愛いのだ。

…………最低だ、僕って。

 

(やっぱり返そう。……とても勿体ないけど、涼村さんのお願いなら仕方ない)

 

心の中で葛藤して答えを出す。

キュアコーラルさんの写真だから、何も涼村さんがそんなに恥ずかしがることないのにと、まぁ思わなくもない。

が、写真の件を考えると友達とか親戚とか、涼村さんとキュアコーラルさんは実は近しい関係かもしれないし。

 

「ご、ごめんね、涼村さん……渡したくない写真もあるもんね。返すよ、はい」

 

「あ、ありがと……星郎くん、わざといじわるしてると思った」

 

ホッと息をつく涼村さん。

彼女のバックから再び写真を出してもらい、欲しい1枚を吟味する。

 

「………………………………これ(ほんのちょっと、胸元に隙間がある)」

 

「…………………………こ、この写真も、やっぱり無しにするね?」

 

恥ずかしポイントに気付かれ、写真を取り上げる涼村さん。

 

「………………………………これ(座ってるから、少しスカートが捲れてる)」

 

「…………………………こ、この写真も、やっぱり無しにするね?」

 

なぜか自分のスカートを抑えながら、写真を取り上げる涼村さん。

 

「………………………………これ(鎖骨がはっきり写ってる)」

 

「…………………………こ、この写真も、やっぱり無しにするね?」

 

鎖骨も恥ずかしいらしい。

というか、ガードの緩い写真ばかりでは?

意外なところで、キュアコーラルさんの天然さを垣間見た気がする。

 

「じゃあ最後の1枚の、これ(後ろに勉強机が写ってる? 教科書……?)」

 

「――っ!? こ、これは駄目! ちょっとプライベートが、ね?」

 

「……」

 

無くなった。

なんだろう。実は涼村さん、最初から僕に写真を渡す気なかったのでは?

真っさらに片付けられた机をみて、落胆の溜息が隠せない。

 

「……はぁ」

「ご、ごめんね、星郎くん! その、わざとじゃなくてね……」

 

流石に悪いと思ったのか、慌てて謝る涼村さん。

かと言って、やはり手元の5枚のどれかを渡すのは恥ずかしいのだろう。

渡したいけど、渡せない。

申し訳なさそうに俯く涼村さんに、僕も慌てて声を掛ける。

キュアコーラルさんの写真を欲しかったのはもちろんだけど、その過程で涼村さんを悲しませたかったわけじゃ決してない。

 

「い、いや、僕のことは気にしないでよ、涼村さん。元々、勝手にテンション上げてただけだし……女の子の写真を貰うなんて、そんな――」

 

「――うぅ……よしっ……ちょ、ちょっと待っててね、星郎くん!」

 

慰め?ようとした僕の言葉は耳に入らず。

何かを決意した顔で、言うが早く涼村さんはバッグを持ったまま教室を駆け足で飛び出した。

廊下を走る音が響いて、遠くなる。

この状況を打開する、何か名案が浮かんだのだろうか?

……まさかとは思うが、写真の恥ずかしい部分を黒塗りにするのは止めてほしい。

 

手持ち無沙汰のまま、一人教室で涼村さんを待つ。

そして、10分ほど経った頃。

息を切らした涼村さんが、スマホを片手に教室へと戻ってくる。

僕を待たせまいとよほど急いできたのか、白い肌、白いほっぺが薄っすら赤く染まっている。

 

「だ、大丈夫? 涼村さん」

 

「う、うん……ご、ごめんね、待たせちゃって」

 

「それは全然、構わないけど……」

 

「それでね、星郎くん……えっと、スマホ、今持ってる?」

 

「え? うん、持ってるけど」

 

言って、ポケットから取り出す。

 

「LINE、友達登録しよう? その、送りたい画像あるから」

 

「え、LINE? ……えっと、いいけど、やり方がわからなくて……」

 

「あ、やり方なら私がわかるから……うん、説明するね」

 

息を整えながら、涼村さんは僕のスマホと自分のスマホを近づけ、操作の説明をしてくれる。

アプリをインストールして昔に母さんのを登録してから随分立つ。

操作方法なんて、ネットを見ないとわからなかった。

思い出しながら、涼村さんの言う通りに指を動かす。

友達登録完了……涼村さんと思われる名前と画像が現れる。画像はお気に入りのコスメだろうか。おしゃれで可愛い。

 

それはそうと、僕のスマホにクラスの女子が友達登録されているのは、ちょっと不思議な気分で、恥ずかしい。

涼村さんはなんて事のないように登録したけど、僕にとっては地味に一大事と思えるほど、大きな出来事でドキドキしている。

 

さっそく涼村さんからスタンプが送られてきた。挨拶してる。可愛い。

僕も急いで“よろしく”と文字を打って返信する。隣でピロンとなる電子音と、涼村さんの静かな笑い声。

 

「ふふ、この距離なんだから、直接言えばいいのに」

 

「う、うん、ご、ごめん……」

 

可愛い。

僕の方をちらりと見た涼村さんは、スマホに視線を落として操作する。

僕と違って使い慣れているのだろう。指の動きがとてもスムーズだ。

 

ピロンと、再び電子音が静かな教室に響き渡る。

今度は僕のスマホから。

涼村さんを見ると、ちょっと頬を染めながら『スマホを見て』と視線で促される。

涼村さんの様子に気になりながらも、手に持ったスマホの画面へ目を向けた。

 

「――――え、こ、これは……!?」

 

LINEで送られてきたのは、キュアコーラルさんの写真。

それもさっき見た5枚ではなく、新しい6枚目の写真であった。

LINEで僕に送ってくれたということは、この写真は涼村さんの厳しい検閲にも通ったということなのだろう。

 

「あ、えっとね、星郎くん、その……決して今、写真を新しく撮ったとかじゃなくてね、元々スマホの中にあったんだけどね。

 その、私、スマホを今日どこかに落としちゃっててね? さっき教室を出てったのはスマホを探しに行ったからで、間違っても、私がキュアコーラルに変身したとかじゃなくて――」

 

なんか涼村さんが早口で喋っているが、僕の意識は手元の、本当に貰うことができたキュアコーラルさんの写真に釘づけられていた。

なるほど、確かにさっきの写真に比べれば、肌の露出もなく、服の捲れもなく、実に身持ちの固い写真だ。

でも、僕はさっきの5枚よりも、この写真が一番好きだと思った。

 

走った後なのか――薄っすらと上気したキュアコーラルさんの桃色の頬。

さっきの5枚の反省を生かしたのか――整った服装、計算された角度で撮られた、でも可愛い抜群のポーズ。

そして――この学校の屋上で撮ったのだろう、見覚えのあるフェンスと、その向こうに広がる夕暮れの空。彼女の可愛さと背景の儚さが合わさって、とても幻想的で美しい絵になっていた。

 

(……というか、まるで涼村さんがたった今、撮った写真のような)

 

でも、それはいくら何でもあり得ない。

キュアコーラルさんがこの短時間で学校に来れる訳がないからだ。

実は涼村さんとキュアコーラルが同一人物……もあり得ない。

だって、髪の色や長さが全然違う。背丈や顔は似ているとは思うけど。

 

引っ掛かる思考を残しながらも、今すべきは彼女にちゃんとお礼を言うことだと頭の中を切り替えた。

 

「ありがとう、涼村さん。この写真、僕一番好きだと思う」

 

「///! そ、そう? な、なら良かった……かな、うん」

 

「さっそくホーム画面に設定したよ……はぁ、可愛い……」

 

「そ、それは……その、やめてくれると///」

 

「え……あ、大丈夫だよ! スマホの画面にシート貼って、横からは見えないようにしておくから。写真、周りの人に見せちゃ駄目なんだよね、わかってる」

 

「うぅ……えぇっと……あぅ///」

 

その日以降。

僕がスマホを見る度に、涼村さんは恥ずかしそうに眼を泳がせるようになった。可愛い。

 

 

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