僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」   作:HOTDOG

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5. 価値観

「あ、安心って……どういうこと、星郎くん?」

 

「え、あ! いや、その……!」

 

ふと漏らしてしまった僕の本音に、涼村さんは即座に反応し、目元がぎゅっと厳しくなる。

全く反省していないと、そう取られたのか。

いや、ちゃんと反省はしているけど後悔していないだけで……だけど、それを言うと結局怒られそうなので口を噤む。

 

「ねぇ、どういうこと? こんな危ないことして何が安心したの?」

 

「うぅ……な、何といいますか」

 

適切な言葉が浮かばず、喉元から声が出ない。

だけど、別に何かを隠したいわけじゃない。

ただのクラスメイトや学校の先生なら、僕の心情を理解してくれなくても別にいい。

でも、涼村さんには誤解してほしくないと思った。

自分の気持ちを言わないまま誤解されて、それで涼村さんに嫌われることは辛いと、そう思った。

 

「……えっと……何が安心したかというと……えっと」

 

駄目だ。

テンパっていて何を言えばいいのか、上手く言葉が出てこない。

勉強ばかりしていて友達をまともに作らず、人と接することを避けていた。

だから、僕はこんなにも自分の気持ちを伝えるのが下手なのだろう。

焦りながら、意味のない後悔だけが頭を占める。

そしてそれが更に上手く喋るのを阻害する、悪循環となってしまう。

 

「……」

 

そんな僕を、涼村さんはしばらくの間、じっと見ていた。

怒っているだろうに、言葉を挟まず待ってくれている涼村さん。

でもそんな彼女をみて、待たせてしまっては悪いと思って、また僕は焦ってしまう。

 

「……えっと」

 

「……」

 

そうして無言のまま、涼村さんは踵を返して公園の外へと行ってしまった。

 

――嫌われてしまったと、一番にその思考が頭を巡った。

説明する言葉を絞り出そうと唸っていた頭が、スッと急速に冷めていく。

当たり前だ。

涼村さんから見れば、救急車呼んで看病して、心配して怒った……それなのに相手は『安心した』などと見当違いのことをいう始末。

 

涼村さんはれっきとした感情ある一人の女の子だ。

何でも聞いて受け入れてくれる、男子の妄想みたいな都合のよい天使じゃない。

呆れて、話したくなくなるのは当然。

彼女だって人を嫌いになるのは普通のことだ。

 

「……はぁ」

 

「――――はい、星郎くん」

 

ベンチに項垂れ大きなため息を吐く――その横から、聞きたかった声が、再び聞こえた。

頬に冷たいものが当たる。

帰ったと思っていた涼村さんの手にはジュースがあって、その一つを僕の頬に押し付けながら、僕の隣に静かに座った。

 

「喉乾いたかな、って思って。

 ……ちょうど3時だし、ジュース飲みながらゆっくりお話ししよっか。焦らなくても星郎くんの気持ち、ちゃんと聞くから。ね?」

 

「……」

 

そう言って、涼村さんは僕を落ち着かせるように微笑みを向ける。

心配や不安を押し込めて、いつも皆に向けているような優しい笑顔。

 

――トンク

 

(……天使かな?)

 

 

 

僕「キュアコーラルさんが可愛すぎる」さんご「///」

第5話 価値観

 

 

 

「……僕の両親、離婚してるんだ」

 

涼村さんから貰ったジュースを飲んで、一息ついて、呟いた。

口の中が少し切れていたけど、紙パックでストローがついてるから缶より今の僕には飲みやすい。多分、気を遣ってくれたのだろう。

 

「父さんが家を出て行って、今は母さんと二人暮らし。僕が小さい頃から、喧嘩ばかりしていた二人だった」

 

「……そう、なんだ」

 

言葉が見つからないのか、涼村さんは困ったように相槌を打つ。

それはそうだ。他人の、こんな家庭事情を聞いたところで、誰だって掛ける言葉はない筈だ。

 

「その、別にそれが不幸だとか、同情してほしいとか……そういうことじゃないんだ。離婚なんて今の時代、珍しい話じゃないから」

 

涼村さんが少し申し訳なさそうにしていたので、少し慌てて、誤解されないよう付け足した。

おそらく涼村さんの家庭は円満で、僕のような悩みは無かったのだろう。

それは羨ましいとは思うけど、それで涼村さんが僕に対して罪悪感とか、哀れみとか、そういうのを持つ必要はないのだから。

 

ベンチに座ったまま、黄昏るように遠くを見る。

隣で涼村さんが次の言葉を静かに待ってくれているのを感じながら、ゆっくりと、心から言葉を組み上げていく。

 

「だから多分……僕は、人を『好き』になるのが怖かったんだと思う。父さんと同じようになるのが、怖かったんだ」

 

「……星郎くんが友達と遊ばないで勉強熱心だったのも、それが原因?」

 

「うん、そうだと……思う」

 

涼村さんの問いに、これまでの学校生活を振り返って頷いた。

極端な話だと思う。

友情とか恋愛とか、人と積極的に関りを持たなければ、確かに人を好きになることはないだろう。

残されたのが勉強だけで、僕はそれを正当化して勉強に逃げていただけだ。

 

「……でも、キュアコーラルさんを好きになって、ようやく、それじゃ駄目だって気付いた。

 好きな人の隣に立とうと思った時、初めて、自分自身を薄っぺらい人間だと……思ったんだ。

話すのが下手で、友達がいないから遊びも流行もわからなくて、勉強以外のことをなにも知らない、知ろうとしない……僕だけの世界で、生きてたんだなって思った」

 

自嘲気味に言う僕に、涼村さんは沈黙する。

笑ってほしいわけでも、慰めてほしいわけでもない。ただ聞いてもらいたかった気持ちを吐露していく。

 

「ごめん、ちょっと話がズレすぎた……うん、つまり…………キュアコラールさんが好きってことに……そう、安心したんだ」

 

「???」

 

視線を感じて、顔を向ける。

涼村さんがキョトンとした顔で、僕を見ていた。なぜか頬が少し染まっている。可愛い。

 

「ご、ごめんね、星郎くん。話聞いてたんだけど、なんかいきなり跳んだ気がする……///」

 

「うん、僕もごめん……その、言葉が下手で、足りなかった」

 

咳払いして、心の中の、言葉のピースを手繰り寄せる。

長年連れ添った老夫婦じゃあるまいし、今ので伝わるわけがないと、口下手さに恥ずかしさが込み上げてくる。

大丈夫。

涼村さんはこんな僕の言葉も、ちゃんと聞くと言ってくれた。

焦らず、急がず、自分の言葉を探していこう。

 

「…………涼村さんはさ、誰かを好きになったことって、ある?」

 

「え……わ、私? な、ないけど……///」

 

「じゃあ、男子に告白されたことは?」

 

「えぇ!? う……そ、その……」

 

顔をピンクに染めて狼狽する涼村さん。

思い当たる節があるのだろう、口元を手で隠しながら、視線を泳がす。

 

「………メールと、校舎裏で、1回ずつ」

 

「……」

 

羞恥心を押さえて、律義に答える姿が天使だった。可愛い。

というか、わかっていたけどやっぱりモテるんだ涼村さんと、明後日の方向を見ながら頷いた。何となく、告白したのが誰なのか名前も知りたかった。

 

「わ、私のことはいいから。そういう星郎くんはどうなの?」

 

「キュアコーラルさん!」

 

「うぅ……///」

 

即答。

いつもの条件反射だった。犬か、僕は。

というか、涼村さんもわかっていたのでは? 毎回思うけど、いちいち恥ずかしがることもないのでは? あざと可愛くて辛い。

 

「だ、誰かに告白されたことは?」

 

「……そ、それ訊くの? どう考えてもいないってわかると思うけど」

 

「ふぅん? でも、まなつと仲良さそうに喋ってたし。星郎くん」

 

そのネタやけに引っ張りますね、涼村さん。

別に疚しいことは何もないので言い訳もない。それに、夏海さんからしたら、クラス全員が仲良しだろう。

……涼村さんは可愛くてお淑やかでモテるけど、絶対、夏海さんのことが好きな男子もクラスに何人かいると思う。南無である。

 

思わず雑談してしまいそうな雰囲気。

この雰囲気は好きだけど、それに浸ってしまうのは、真剣に聞いて貰っている涼村さんに申し訳ない。

話を紡いで、本題へと入っていく。

 

「――僕は……僕が人を好きになる時は、後悔しない人にしたいと、思ったんだ」

 

「後悔?」

 

「うん……この人のためなら命を掛けれる、死んでもいいと、想える人」

 

「――っ!?」

 

ガタリと、隣で立ち上がる音。

僕の言葉と、先ほどの戦いでの自殺とも言える行為が、涼村さんの中で繋がったのだろう。

過剰な言葉と、思う。

けど、同時にこれが僕の本心だとも思った。

 

「そ、そんなの……おかしいよ、星郎くん。好きってもっと楽しくてキラキラしてて……そんな、命を掛けるとか……!」

 

「……うん」

 

「わ、私に告白した男の子も、クラスの付き合ってる子たちも、そんなこと絶対考えてないよ。もっと適当で……いいなと思ったら告白して、長く付き合う子もいれば、すぐに別れて、次の子を好きになって……!」

 

「……うん、それが正しいのは、わかってる」

 

「じゃあなんで……い、いくら親が離婚してても、恋がトラウマになってても……そ、それで星郎くんが命を無駄にしたらだめだよ……っ」

 

嗚咽が聞こえる。

涼村さんは本当に僕のことを心配して、泣いてくれていた。

そういえば、涼村さんは気絶した僕を一番に看てくれていた。

……もしかしたら僕が戦闘に割って入って吹き飛ばされた瞬間も見ているのかもしれない。

そうであれば、この過剰なまでの寄り添った心配、不安も頷ける。

 

参った。

心の内を聞いてほしかったけど、それ以上に、涼村さんの涙は見たくない。

勝手に飛び込んで勝手に怪我した、こんな僕のために悲しんでくれている涼村さんに、ボウと見惚れている場合じゃない。

 

涼村さんは誤解している。

ちゃんと説明して、解ってもらうべきなのだ。

――キュアコーラルさんに会えた僕の人生に、悲観するところなど何もないということを。

 

「……違うよ、涼村さん。

確かに離婚した親をみて、母さんを捨てた父さんをみて、僕は恋とか好きに触れるのが怖かった。疎ましいものだと遠ざけていた。

でもキュアコーラルさんに会って、どうしようもなく好きって感情が溢れてきて――」

 

人を好きになる感情を、温かさを知った。

幼い頃に、二人に愛されて抱擁された記憶を思い出した。

 

「でもこの『好き』が本物か、わからなかった。

 だから僕なりに考えたんだ……僕はどうしたら、僕の中にある好きの気持ちを信じれるのか」

 

僕は本当に臆病だ。

たかが両親が離婚しただけで斜に構えて、悲劇ぶって勉強に打ち込む振りをして。

同じ境遇の人はたくさんいて、皆、それでも前を向いて生きているのに。

 

「不器用だと思う。融通が利かない、重いやつと思う。涼村さんの言うように、本当はこのトラウマに折り合いをつけて皆と同じようになるべきと思う。

……でも同時に、僕は世界一幸せになれるとも、思ったんだ」

 

「ぐすん……し、幸せ?」

 

目を赤くしながら、不思議そうに呟く涼村さん。

自分の好きを信じる大切さを、涼村さんはあの日、夕暮れに染まる教室で教えてくれた。

 

不安なことから目を逸らして生きていくのは楽かもしれない。

でも、そうしたら僕は自分の『好き』をいつまでも信じられないまま。

だから、これは臆病な僕が、それでも自分の好きを信じられる方法で――

 

「命を掛けるほど、好きな人がいる。……それは、とても美しいことだと思ったんだ」

 

「……」

 

「もちろん、それは普通じゃないってわかってる。そんなことを言い出したら、恋なんて簡単にできないし、ちょっとした好奇心、恋心から始まる恋愛だってたくさんあるし、大事なのはわかっている」

 

でも、僕にはそんな勇気はない。

中途半端な恋は、離婚した両親を思い出してしまうから。

 

「それに……僕の言っていることは理想だけど、間違っていないと思うから。

 命を掛けるくらい好きな人なら、そんなにも好きな人が現れたのなら……きっとこの先も、その想いは変わらないと思うから」

 

「……私は」

 

僕の独白に、涼村さんの言葉が詰まる。

……解って貰えただろうか。

涼村さんから見れば、偏屈な価値観かもしれないけど。

それでもこれは、キュアコーラルさんに出会って、涼村さんに恋愛相談を聞いてもらって、僕自身がちゃんと見つけた答えだから。

だから、凄く親身に相談に乗ってくれた涼村さんには、解ってもらいたかったのだ。

 

「キュアコーラルさんの為に、命を掛けることができた。命を掛ける程、好きな人ができた」

 

好きな人だから命を掛けたのか。

それともキュアコーラルさんだからこそ命を掛けれたのかは、多分ずっと、僕自身でもわからない。

それでも、解っていることは1つある。

大事なことだから、ちゃんと涼村さんの目を見て伝えたかった。

 

涼村さんの顔を見る。

涼村さんが僕へ向ける瞳には、さっきあった悲しみや憤りの色は消えていた。

ただただ不思議なものを見るように、掛ける言葉を見失ったように、涼村さんの口は固く閉じていた。

 

「こんな僕でも、本気で人を好きになれたことに安心した。

 キュアコーラルさんっていう、命を掛ける程に好きな女の子ができた。……それはきっと、世界で一番幸せなことだと思ったんだ」

 

 

 

♧♧♧

 

 

【さんご side】

 

 

「……ふぅ」

 

その日の夜。

夕食とお風呂を終えて自室に戻った涼村さんごは、そっと、ベッドに顔を伏せて蹲った。

 

(今日は……色々なことがあったなぁ)

 

休日だったから、朝はゆっくりとした時間を家族で過ごせた。

新作のコスメの話をお母さんと。

普段仕事で帰るのが遅いお父さんとは、学校生活の話をたくさんできた。

お昼を過ぎたら友達とショッピングモールへ行き、可愛い小物や流行の服を見て、話題のスイーツも食べにいった。

 

そして友達と別れた帰り道――

 

「……星郎くん」

 

最近、とある接点ができた彼を見つけた。

公園でボランティア活動していて……そこで再び、ヤラネーダに襲われていた。

 

その後のことは、すごく、はっきりと覚えている。

 

「……ちゃんと早く寝たかな? 怪我も、痛んでいないと良いけど」

 

怪我人の彼を家まで送っていった時は、心配しなくていいとしきりに言っていたけれど。

彼のことが不安で目が離せない男の子だと、そういう認識が、今は強い。

 

(……星郎くんのこと、怖いと思ったんだ)

 

午後の温かい陽気に包まれた公園で、彼の想いを聞いた。

好きな人だからと言って、自分の命を危険に晒してまで守ろうとした行為。

自分やクラスの皆が持っている価値観とあまりにもかけ離れていて、無鉄砲に思えて怖かった。

 

(……星郎くんのこと、不器用な男の子と、思ったんだ)

 

でも彼の価値観は、ちゃんと私の言葉――『自分の好きを信じる』、それを真剣に考えてくれたもので。

だけど、命を掛ける=本当に好きだと信じれる……それは、極端で、不器用すぎると思ったけど。

 

(……星郎くんのこと、すごいと思ったんだ)

 

自分の右肩に、手を当てる。

そこは戦闘の最中、彼が駆け寄って自分を突き飛ばしてくれた場所。

 

あの瞬間を思い出す度に、さんごは驚かずにはいられなかった。

ヤラネーダにやる気を奪われたのに、動くことができた彼に。

当たれば無事ですまない攻撃と分かっていて、それでも自分を助けるために飛び込むことが出来た彼に。

 

「こういうのって、ドラマや漫画の中だけかと思ってたのに……」

 

好きな人の為に命を掛ける、そんな劇中のシーンは珍しくない。

でもそれはフィクションの話。

“君のためなら命を掛けれる”……愛の言葉として囁くことはあっても、それを実行に移せる人なんているのだろうか。

 

さんご自身、後回しの魔女から世界を守るために、プリキュアとして戦っている。

時には危険も伴うだろう。

ただそれでも、戦う時は伝説の戦士・プリキュアに変身して戦うのだ。

常人を遥か超えた身体のスペックになり、魔法のような力も使えるようになる。

その力があるため、今のところ、命の危険まで感じたことはない。

逆にその力がなければ――ヤラネーダの前には飛び出す勇気はなかった。

 

「……命を掛けるくらい、好きになって……くれたんだよね?」

 

呟いて、さんごは思う。

これまで告白してきた男の子とは、違う感じ。

好きが、すごく重い。……でも、この『好き』は確かに綺麗なものだと、さんごも思った。

学校の皆が持ってる、賑やかで心が躍る『好き』ではないけれど。

例えるなら――真摯に作り上げた、一振りの日本刀のような美しさだと、そう思った。

 

「ちょっと不思議な……気持ち、かも」

 

さんごは特定の人と付き合った経験はないが、それなりに、年相応に恋愛については知っているつもりだった。

友達と恋バナしたこともあるし、校内で誰と誰が付き合ったなんて話題もたまに出る。

敏いわけではないが、疎いわけでもない……と思っていた。

 

(恋愛って、自分が好きな人と一緒になることばかりに目を向けていたけど――)

 

スポーツができて格好良い先輩とか、ルックスの良くて明るい性格の男の子とか。

そういう男の子が女子に人気で、皆好きで――さんごも、いつかそういう人を好きになって付き合えれば素敵だろうと思っていた。

でも――自分を本当に大事にしてくれる人と一緒にいるのも……そういう人を好きになるのも……そこには、違う温かさがあると、さんごは思った。

 

 

「――――って違うよ! ほ、星郎くんが好きなのは私じゃなくてコーラルの方で……っ!」

 

ガバっと思わず身体を起こす。

熱くなった頬が恥ずかしくて、誰もいないのに手のひらで頬を押さえて隠してしまう。

 

(……星郎くんの印象、私の中ですごい変わってる)

 

ついこの間まではただ同じクラスの男の子で、話したこともない子だった。

テストでいつも成績が上位で頭がいい男の子。でも無口なせいかいつも一人で、クラスで少し浮いている男の子……そんな認識。

 

だからあの日、彼の様子が少し違くて、一人だけ放課後の教室に残っていた時。

さんごが声を掛けたのは偶然、彼が困っていたように見えて――きっと、まなつなら見て見ぬ振りはしないだろうと――そんな友人の存在が後押ししたから。

 

(無口で人を寄せ付けない男の子かと思ったけど……話してみると、全然違った)

 

恋愛相談されたあの日から今日までを振り返り、さんごは苦笑して頬を緩める。

彼が突然の恋心に勉強も手につかないと、そう戸惑っていたこと。

印象と違って、すごく一途で真剣な恋をする男の子だということ。

恋心に正直になって、自分の『好き』を信じようと、前に進もうと勇気を出して変わろうとしていること

 

そして――不器用だけど『私』をすごく、本気で好きになってくれたのだと、わかったこと。

 

――ピロン

 

「きゃ!?」

 

さんごが思考の海に沈む最中、枕もとのスマホから着信音が部屋に響く。

無防備だったことも相まって、思わず口から言葉が出る程、さんごは驚いた。

 

「……え、星郎くん?」

 

スマホのホーム画面に出ていたのは、ちょうど頭の中にいた彼から、LINEメッセージの通知だった。

さんごは急いでアプリを起動してメッセージを見る。

……彼からの、今日のお礼のメッセージだった。

 

「もう、まだ寝てなかったんだ! ……ふふ、お礼なんていいのに」

 

怪我人だから早く寝るようにと再三言ったのにまだ起きていた彼に、さんごは小言を呟き少し怒る。

同時に、彼からの律義なメッセージを見て笑みをこぼした。

返信しようと指を画面に持っていったところで、さんごの動きが止まる。

 

(……そういえば私、まだ星郎くんに助けられたお礼、言ってない)

 

正確に言えば、さんごではなくキュアコーラルを助けたこと。

ただ、さんごは彼に自分がキュアコーラルであることを隠している。

さんごがお礼をいうのは、彼からしたら変に思うだろう。

だったらこの間の写真のように、自分を通してお礼を――と思ったところで、さんごは首を振る。

危ないところを助けて貰ったのに、人を介してお礼を伝えるのは失礼だと思ったからだ。

 

逡巡する。

既読はついてしまったし、何かしら応答しないと星郎くんに変に思われるかもしれないと、さんごは焦る。

 

そして――自分でもどういうわけか、通話のボタンに指を添えて……押した。

押してから数コール。

さんごにとって、応答を待つ空の電話音が、いつもよりやけに長く感じた。

 

『――す、涼村さん? で、あ、合ってるよね? え、えっと……こ、こんばんは!

 

「……ふふ、こんばんは。いきなりごめんね。でも星郎くん、ちょっと驚きすぎ」

 

『ご、ごめん、慣れてなくて』

 

声を聞いた瞬間、さんごの体の緊張が解ける。

電話の向こうの相手が異常に緊張していたので、逆に力が抜けてしまった。笑い声も、抑えた筈が漏れてしまう。

 

どうお礼を言おうかと悩んでいたが、相手の声を聞き、話すことで、自然と案が浮かんでくる。

机のカレンダーに目を向けると明日は日曜で、明後日はちょうと祝日だ。

 

「ねぇ星郎くん、怪我の方、帰ってから痛んだりしてない?」

 

『う、うん、大丈夫! 日課のランニング、明日からできそうなくらい大丈夫だよ』

 

「……明日は安静にしててね?」

 

『は、はい……』

 

こちらを安心させるための冗談とは思ったけど、一応釘をさしておく。

さんごの中では、彼は中々、無茶をする男の子という印象が定まっていた。

さんごは口を開いて、言い淀む。

自然に、込み上げてくる幾ばくかの恥ずかしさを誤魔化すように、肩にかかる髪の毛をくるくると指でいじる。

 

「それで、ね……星郎くんの体調が心配だし、体に違和感があったら休んでいてほしいんだけど……」

 

『うん?』

 

名案と思いつつも、さんごの口元はいつものように回らない。

考えれば男の子を自分から誘うのは初めてだと、見えない相手の顔を思い浮かべて、頬が少し熱くなる。

 

「……明後日、よかったらお出掛けしない? その……キュ、キュアコーラルがね、今日のお礼したいって言ってたから」

 

『…………え? ええええええぇぇ!?』

 

電話向こうで大きな叫び声とガタリと大きな音がする。

何というか、真夏みたいにいつもオーバーなリアクションをする男の子で、目が離せなくて心配だと思ってしまう。今は怪我をしているから、余計に。

 

――だから、今の自分は不安な顔をしていると、そう思っていたけれど

 

ふと、さんごは自室の化粧台に目を向ける。

明後日はお礼のためのお出掛けで、今日みたいに友達と遊びにいくわけではないのに、

 

――その筈なのに、待ち遠しそうに微笑む自分が、鏡の向こうに映っていた。

 

「……あれ?」

 

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