僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」 作:HOTDOG
「……ま、待ち合わせ場所はここ……うん、合ってる。待ち合わせ時間までは……うん、予定通りあと1時間だ」
僕の町から2つ離れた駅のホームで、ベンチに座って彼女を待つ。
体にはまだ絆創膏がちらほら貼ってあるけれど完治目前で痛みはない。
むしろ心臓の方がいつのも10倍(当社比)は動いているようで痛みまである。一昨日負った外傷より今はそっちの方が心配だ。
(……キュアコーラルさんとお出掛けって……え、本当に?)
これから起こることが未だ現実感を帯びないまま、時が過ぎるのをじっと待つ。
一昨日の夜、涼村さんから電話があった。
女の子と電話、しかも夜にするのは初めてで物凄く緊張したけれど、涼村さんの言葉で、緊張を通り越して飛び上がったのを覚えている。
――キュアコーラルが星郎くんにお礼したいって。
僕はお礼が欲しくて、キュアコーラルさんを庇ったわけではない。
ないけれど、大好きな女の子と一緒に出掛けることができるのだったら、もう経緯とかはどうでもよかった。
(で、でも、いきなりキュアコーラルさんと二人っきりは緊張しすぎて……できれば、涼村さんも一緒に来てほしかった……)
僕の会話力は低くて、涼村さんとの会話ですら結構テンパってしまうのだ。
キュアコーラルさんと対面した時、まともに話せる自信は本当、全くなかった。
涼村さんについてきてほしいと迷惑を承知で頼んでみたけど、その日は用事があると断られてしまった。
ついでに「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。いつも通りで、ね?」と涼村さんは励ましてくれたが、一体これまでの僕の何をみて大丈夫と思ったのか、謎である。
あと少し楽しそうな声色だった。笑う要素があったのか、これも謎である。
「――――星郎くん?」
「え、涼村さ……キュ、キュ、キュキュキュ、キュ!?」
「キュ?」
「キュ、キュア――キュアコ、ラ、ラル、ララ――!?」
「ラル?」
「――キュアコーラルさん!!!!?」
「ふふ、やっと呼んでくれた。……えっと、初めまして、星郎くん?」
それと驚きすぎだよ、と目の前の彼女は、恥ずかしそうにはにかんで笑う。
……会って話すことのできない相手だと、そうずっと思っていた大好きな女の子が目の前にいた。
(……本当に、キュアコーラルさんだ)
呆然自失。呼吸困難。心肺停止……まではいかないけれど。
初めましての挨拶とか、彼女とも話せそうな話題とか、色々と準備して考えていたことが全部吹き飛んで、ただただ目の前の彼女に見惚れてしまった。
「……え、えっと……服装、変だったかな?」
「え! いや、そんなことないです!!」
僕が何も返事をしないままじっと見つめてしまったためか、変な勘違いをしてしまうキュアコーラルさん。
自分の服装を不安そうに見る様子に、慌てて言葉を返して否定する。
「か、可愛い! その、す、すごく可愛いです!」
「あはは……ありがと。でもその、もうちょっと静かに、ね///」
キュアコーラルさんはそう言いながら、赤くなった顔を隠すように、いつもとは柄の違うペレー帽子を深く被り直した。可愛い。
表情の隠れたキュアコーラルさんを、改めて正面から見る。
そうなのだ。キュアコーラルさんの服装は、いつも戦いの時に着ている紫のドレスではなかった。
青を基調としたフリルの入った可愛いワンピース。
こう言っては何だけど、プリキュアということを知らなければ普通の女子中学生にも見えるような、街中に自然に溶け込む格好だ。いや、普通というには可愛すぎて目立つけど。
「……そ、その、すごく似合ってますっ、ほんと、変とか思ってませんから」
「ふふ、そう言ってくれると、お世辞でも嬉しいかも」
「お、お世辞なんかじゃなくて、マジっす。ほんと、マジっすから」
ヤバイ。キュアコーラルさんが少し笑うだけで僕の頭が沸騰する。
緊張しすぎて言葉遣いもおかしくなっていた。
そんな僕をみて何か思ったのか……キュアコーラルさんが口を閉じて、じっと僕の顔を見つめてくる。
「え、な、何か、どうかしましたか? キュア――」
「――じっとしてて、星郎くん」
「っ!?」
言って、キュアコーラルさんは背伸びをして、僕の髪の毛にそっと触れる。
ずっと見たかった彼女の綺麗な長い髪の毛やぱっちりとした可愛い瞳、柔らかな表情が、息がかかる程に近い、すぐそこにあった。
「¥☆#!!?」
「ふふ、星郎くん、ワックス慣れてないでしょ。頭、ウニみたくなってるよ」
よほど可笑しかったのか、漏れてくる笑い声を押さえるキュアコーラルさん。
楽しそうに、そして優しく、柔らかい手が僕の髪の毛に何度も触れる。
「私のお父さんも出掛ける前にワックスつけてるから、少しは知ってるの――うん、星郎くんなら、こんな感じがいいと思う」
手早く整えてくれたらしい。
見てみて? とキュアコーラルさんがポーチから手鏡を取り出し、僕へと渡す。
覗いてみると――うん、主張しすぎず、でも普段よりは整っていていい感じだ。
張り切ってワックスを買ったものの、自分ではどうにも変な感じにしか仕上がらなかった。
(……というか、初対面だよね? 僕たち……)
何だろうか。
想像していたよりも、キュアコーラルさんとの位置がずっと近い。
キュアコーラルさんがすごいフレンドリーなのかもしれないが、それにしたって、初対面の男子の髪の毛を触れるのはハードルが高いと思う。
女の子慣れしていない男子なら『これ僕のこと好きなんじゃない?』と勘違いしてしまうくらいの罪である。
……当たり前の話だけど、キュアコーラルさんにもお父さんっているんだな。
お父さんもプリキュアなのだろうか?
……こんな場面、パパキュアに見られたらヤバくない?
僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」
第6話 お出掛け
「こっちにもショッピングモールあるのは知ってたけど……お店の数も多くて、賑わいもすごいね」
「うん、私も普段は来ないけど、今日はこっちの方がいいかなって」
物珍しさに周囲を見渡す僕。
隣でキュアコーラルさんが微笑みながら、目的地へとゆっくり足を進めていく。
キュアコーラルさんに聞いたところ、今日はバッグを買いに来たらしい。
それも彼女のものではなく、僕のもの。
先日のお礼にと、キュアコーラルさんはわざわざお店まで調べてくれたのだ。
もちろん初めは断ったが、キュアコーラルさんの意志は固かった。
……まぁ、先日の一件で僕の通学カバンは使い物にならないくらい破損している。
加えて、大好きなキュアコーラルさんからのプレゼントならば、嬉しい以外の何物でもない。
(勝手に怪我した手前、すごく申し訳なさはあるけれど……)
好意も贈り物も、素直に受け取っておこうと思った。
使うのが勿体なくて家に飾りたいけど、それは流石にキュアコーラルさんの気持ちを無駄にしてしまうので、一生使っていくくらい大事にしようと心に決める。
(……それにしても)
隣を歩くキュアコーラルさんの横顔を盗み見る。
いつもスマホの待ち受けでしか見れない大好きな子が、すぐ触れられる距離にいる現実。
小さく整った顔を可愛く飾ったお化粧に、特徴的な紫色の長い髪の毛が、夏風にふわりとなびいている。
目的地は決まっているため、僕たちの足は真っ直ぐにそのお店へと向かっている。
一歩進むごとに、お出掛けの終わりが近づく感覚。
無意識に歩みを遅くしてしまう、そんな自分に遅れて気付いた。
今日はバッグを買って終わりなのだろうか?
少しでも長く一緒にいたいと、我儘にもそう思う気持ちが強くなる。
「……キュ、キュアコーラルさん!」
ふと立ち止まり、緊張しながら彼女の名を呼ぶ。
どうしたのと、振り向いて不思議そうにしているキュアコーラルさんに、奮えた指のまま、今通り過ぎたお店を指さした。
女の子向けの洋服店。
店頭のマネキンをみて、キュアコーラルさんに似合うものや興味を引くものがあると思った。ブランド名も、勉強した雑誌で見たことがある……と思う。
「よ、よかったら、あそこのお店、見てみない? その、こんなに大きなショッピングモールでバックだけ見るのはも、勿体ないし……キュ、キュアコーラルさんにも楽しんでほしいというか、す、少しでも一緒に色々なところ行きたくて……えっと、実は一緒に遊べそうなところ、ぼ、僕も少し調べてきたというか、このままだとすぐに用が終わっちゃいそうで嫌だというか……えっと」
だああああ! 支離滅裂で言いたいことがまとまらない!
本当は自然に、キュアコーラルさんと他のお店も見て回るような、そんな感じのお出掛けにしたい。
もしもキュアコーラルさんに、この後の予定があるなら仕方ないし諦めよう。
でも時間が空いているなら、僕は少しでもキュアコーラルさんと長く一緒にいたいし、できれば彼女にも楽しんでほしい。
デート……というには恐れ多いけど、多分、こんな機会は二度とないのだ。
キュアコーラルさんに嫌がられない範囲で、でも積極的に、今日という日を思い出にしたい。
そう気持ちばかりが先行している僕の様子に、キュアコーラルさんはキョトンとした表情になる。
次いで、ちょっと嬉しそうに口元を緩めた。
「うん、そうだね。私も色々と見て回りたいかな。
……男の子と二人でお出掛けって初めてだから、どう誘えばいいかわからなかったけど……ふふ、星郎くんから誘ってくれたの、嬉しいかも」
「う、うん! うん!」
承☆諾!
ガッツポーズをとって飛び跳ねるほど嬉しかった。というか、実際に飛び跳ねていた。
くすくすと、キュアコーラルさんの静かな笑い声が隣から聞こえて、我に返る。
まるで散歩につれていってもらえると知ってはしゃぐ犬である。めちゃ恥ずかしい。
「コ、コホン……じゃ、じゃあ行こっか?」
「うん。――あっ!」
誤魔化すように咳払いをして、キュアコーラルさんと洋服店へ向かう。
と、キュアコーラルさんが何かに気付いたように、小さく声をあげて……少しだけ、頬を紅く染めた。
両手を口に当てて、恥ずかしそうにする仕草。
「え! な、なに!? ど、どこか変かな!?」
キュアコーラルさんの様子に、慌てて自分の格好を確認する。
社会の窓は空いてないし、髪形は整えてもらってから崩れてない。
ついに僕の表情筋がおかしくなったかと思ったが、ショーウィンドウに映る顔は辛うじていつも通りに見えている。
「あ、その、星郎くんが変とかじゃなくてね……!」
忙しない僕につられて、キュアコーラルさんも慌てて手をパタパタと交差させる。
謝るような口調で、声が若干弱弱しい。
何を想像したのか、頬を染めて上目遣い。可愛すぎて、息が止まった。
「その……ちょっとね、思っちゃたんだけど」
「う、うん」
「……えっと、これって……その、デ、デートみたいだなぁって」
「――――――――――――」
「ご、ごめんね、今のなし! は、恥ずかしいこと言っちゃったねっ」
自分の発言に顔を赤くしながら、僕から逃げるように早足で店内へと入っていくキュアコーラルさん。
僕と同じように彼女もデートみたいと少しでも思ってくれた、とか。
すぐに言葉が返せなかった自分がやっぱりコミュ力低いなぁ、とか。
キュアコーラルさんの反応が何となく誰かに似ているなぁ、とか、色々と思うことはあったのだけれど――
(……て、天然あざと可愛いすぎるっ)
自分でデートと口にした数秒後に照れてしまう、彼女の仕草。
一挙手一投足全てが可愛くて、僕としてはちょっと、可愛さが多すぎて限界だった。
心臓の鼓動が早すぎて、常に全力疾走している感じである。
「デートの対価……寿命半分かも」
それもいいか、と蕩けかけた頭で馬鹿なことを思いながら、キュアコーラルさんに遅れないよう僕も慌てて足を進めた。
「わぁ、このお洋服、素敵だなぁ。星郎くんはどう? 私に似合うと思う?」
「うん! 絶対可愛いよ!」
「あ、この柄もいいかも。でもちょっと派手かなぁ?」
「そんなことないよ、絶対可愛いよ!」
「……星郎くん、適当に言ってない?」
「そそそそそ、そんなことないよ!? 本心だよ!」
キュアコーラルさんからジト目で疑われ、全力で首を横に振る僕。
可愛いか可愛くないかを聞かれても、僕としてはキュアコーラルさんが着るのを想像すると全てが可愛く見えてしまうのだ。
そんな僕にアドバイスを求められても無理ゲーだと思う。
ティーン向けだけど、その内でも高めの年齢を意識した品を揃えた洋服店。
飾られた洋服、マネキンに大人っぽさを感じながら、キュアコーラルさんと二人で探検するみたいに店内の服を見て回る。
興味がある服を手にとっては、鏡の前に立って服合わせをするキュアコーラルさん。
トコトコと静かにはしゃぐ足音が小動物可愛い。
「あ、これ可愛いかも……」
「う、うん! キュアコーラルさん、すごく可愛い!」
「わ、私じゃなくて服だよ! もうっ///」
細かな模様が入った白ベースのワンピース。
所々に飾ったフリルやアクセント程度に入った薄い藍色が、凄く綺麗でおしゃれなデザインと思った。
試着しようかな? と悩みながら、僕の方へ視線を向けるキュアコーラルさん。
僕が暇になることに遠慮しているのだろうか。むろん、そんなことはミリもないので気にしないでほしいと、そう力強く頷きながら答えた。
「じゃあ、ちょっとだけ……星郎くん、少し待っててね」
言って、店員さんに声を掛けた後にキュアコーラルさんは試着室へと入った。
試着室、薄壁一枚、着替えているキュアコーラルさん。
「……うっ」
頭に急速に血が上って、変な声が出た。
駄目だ、これは想像してはいけないことだし、冗談抜きで今の僕だと卒倒する。
鼻に違和感を感じて鼻元を触ると、血が出ていた。過敏すぎる……
近くにいた店員さんに怪しまれないよう、そっとティッシュで鼻を拭う。
もしもエロガキなんて思われてしまったら、僕はともかく、一緒にいるキュアコーラルさんも変な目を向けられかねない。
目を閉じ、思考を閉じ、無心で待った。
少しの間をおいて、サッと試着室のカーテンが開く音。
――純白の衣装を纏った天使が、そこにいた
「ど、どうかな? 星郎く――」
「店員さん、あの服ください」
「毎度ありがとうございます」
「ちょっと待って!? は、早く決めすぎだよ!?」
「……?」
「そんな不思議な顔しないで!? その、今日はとりあえず見に来ただけだしね……?」
既に店員さんとレジに向かっていた僕を、天使が止める。
何を着てもキュアコーラルさんは可愛いけど、こんなに似合う服を買わないのも勿体ないと――そう力説したけれど、キュアコーラルさん的にはあくまでウィンドウショッピングが目的だったらしい。
試着室に戻って元の服に着替えると、僕の手を取って、申し訳なさそうにそそくさと洋服店の外に出た。
「……もう、びっくりしたよ、星郎くん。
今日は星郎くんのカバンを買いに来たのに、星郎くんが私の服を買っちゃ駄目だよ」
「う、うん、ごめん」
夢が醒めたように、我に返って自分の行動を反省する。
確かに今日、キュアコーラルさんが誘ってくれたのは僕にお礼という名目だ。
食べ物や小物ならともかく、さっきの洋服は大人向けで質も良く、決して安くはない品物だ。
僕がそんな服を買ってプレゼントするのは、キュアコーラルさんからしたら申し訳ない以外の何物でもない。
いくら似合って可愛いと思っても、僕だけ突っ走っては駄目なのだ。
誰かと一緒にお出掛けするというのは、その時々、雰囲気にあったペースがある。
舞い上がってしまった自分の格好悪さに、思わず落ち込む。
「……でも、ありがとうね」
「え?」
「その……私のこと、すごい褒めてくれて///」
不快にしてしまったと、そう思っていたキュアコーラルさんは、特に怒った様子もなくて。
「星郎くんの『好き』にすごく正直なところ――私の友達と似てて――格好良くて、いいと思う。素敵なことだから、落ち込まないで?」
でもマナーは守って、大声は止めてねと、頬を染めて言うキュアコーラルさん。
照れ顔、可愛い。
落ち込んだ先の誉め言葉、超嬉しい。
少女っぽい、甘さの残った声色で、格好良いとか素敵とか言うのは反則過ぎる。
(やばい……クラクラしてきた……)
どうしよう。
本当に、わかってはいたけれど――
「キュアコーラルさん、可愛すぎる」