僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」 作:HOTDOG
「おはよう、涼村さん、夏海さん。
先週はその、迷惑かけてごめん、あと介抱してくれてありがとう。
えっと……お礼用意したから、よかったら受け取って……ください」
「わっ、ありがと、ほしろう君! というか、別にお礼なんていいのにー。あとなんで敬語?」
「いや、その……お礼のチョイス、これで良かったのかなって緊張で」
翌日。
朝のHRが始まる前にお礼を渡してしまおうと、教室で雑談していた二人に声を掛けた。
昼休みはクラス全員がいて目立ちそうだし、放課後はすぐに帰ってしまう場合もある。
タイミングを考えて、登校直後の今が一番スムーズに渡せると思った。
「開けていい? んん? あっ!! これ私の大好きなお店のクッキーじゃん! すごーい!! え、私がこれ好きなの知ってたっけ、ほしろう君!?」
「え、えっと……ぐ、偶然かな。美味しいって評判をきいて……」
【悲報】夏海さん、朝から声が大きすぎる。
クラスの席はまだ埋まっていないが、それでも既に着席していたクラスメイトたちからちらほらと好奇っぽい視線が寄せられるのを感じる。
「ほしろう君、ありがとね! 昼休みに皆で食べよー、トロピカ楽しみだよ!
……あれ、さんごは空けないの?」
「あ、あはは、私はあとで開けようかな。えっと、ありがとうね、星郎くん」
「う、うん」
涼村さんが手に持っている小さめの箱。
夏海さんは中身がすごく気になるようで涼村さんへ開けるよう促すけど、涼村さんは軽やかに流して、渡されたお礼の品をバッグへとしまった。
一瞬、リアクションの淡泊さに不安になったが――涼村さんが夏海さんに気付かれないよう、申し訳なさそうな表情で僕にウィンクを1つ送ってきた。可愛い。
オシャレに敏い涼村さんのことだから、もしかしたら包装紙で僕の贈り物がアクセサリーの類と気付いたのかもしれない。
(確かに、今開けるのは……ものすごくまずい感じがする)
お礼とはいえ、女の子に髪留めを贈るのだ。
それも相手はただのクラスメイトで、彼女でも友達でも幼馴染でもない。
こんなクラスの視線が集まっている中で開けた日には、面白可笑しな噂が立ちかねない。
夏海さんがクラスの注目を集める中、涼村さんが機転を利かせてくれて助かった。ものすごい内助の功である。
「えっと……それじゃ、席に戻るよ。話の邪魔しちゃってごめんね」
用事を済ませて、早々に自席に戻ろうとする。
用が終われば、今日は1日勉強に集中だ。テストが近いから、一層、頑張らなきゃいけない期間なのだ。
と、踵を返したところで、夏海さんに手を掴んで止められた。
「――え!? な、なに? と、というか、その、手……」
「ほしろう君、何かあった?」
「「――――っ!?」」
突然の、でも確信をついた夏海さんの問い掛けに身体が跳ねた。
夏海さんの横の涼村さんも、ビクリと、小さく体が動いた……気がした。
「いつもより元気なさそうに見えるけど、どうかした?」
「っ……」
愚直にクラスメイトの男子を心配する、夏海さんの真っ直ぐな視線。
……悲しいことがあったと。
振られてしまったと、そう言えればどんなに楽かと、蓋をしたはずの心がざわめき立つ。
何でもないと言って席に戻ればいいのに、僕の口からその言葉は出てこない。
内心では誰かに聞いて慰めてほしいと思っているのか。そんな女々しい考えを否定できない自分に嫌気がさす。
「えっと、悩みごとあったり? 良かったら――」
「星郎くん、ちょっとこっちに来て。まなつ、私たちHRまでには戻るから」
「え、え? さんご?」
「星郎くんと内緒話、あるんだ。ごめん、また後で説明するね」
続く夏海さんの言葉に、僕は顔を歪ませる。
と、涼村さんが無理やり話しに割って入り、僕の手を引いて教室の外へと連れ出した。
涼村さんには珍しい強引さで、でも今の僕には彼女の気遣いは嬉しくて。
繋がれた柔らかい手の感触に気恥ずかしさと――少しの安心を感じながら。
夏海さんとクラスの幾人かの視線を背にして、僕たちは足早く教室から離れていった。
僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」
第8話 約束
「屋上は遠いから、ここらへんかな?
この時間なら人通りもないし、誰も来ない筈だよね」
多目的教室に入り、様子を伺う涼村さん。
先生や他の生徒がいないことが確認できると、彼女は振り返り、僕へ軽く頭を下げた。
「ごめんね、星郎くん。まなつも悪気はないんだけど……」
「い、いや、謝ることなんてないよ。その、夏海さんが僕を心配してくれたのは分かったし」
ただ声が大きい。
僕の元気がない理由が理由だけに、あんなに目立った後ではとても話せるものではなかった。
「多分、夏海さんのことだから……僕がお腹空いてたとか、そんな予想していたのかも」
「ふふ、そんなことないよ。まなつだって色々考えてると思うし……周りの目を気にせず一直線だから、クラスの子の目線は考えていなかったかもだけど」
「僕、目立つのは苦手というか慣れてないというか……その、連れ出してくれてありがとう」
「うぅん、気にしないで」
逆に目立っちゃったかもだし、と申し訳なさそうにする涼村さん。
全員に見られたわけではないけど、二人でHR前の教室から飛び出したのだ。
僕はともかく、涼村さんが友達から何か言われないかが心配で……でも、それを知った上で僕の手を引いてくれたことが、不謹慎だけど少しだけ嬉しかった。
「ごめん。元はと言えば、僕が心配されるくらい暗い顔をしていたのが原因だ」
俯いて、謝った。
表情に出さないよう努めていたし、実際、トイレで鏡を見た時はいつも通りだと自分でも思えていたけれど。
「まなつ、あぁ見えて些細なことにすごい気付けるの。
困った人を見かけたら誰でも声を掛けてるし、それで、人の表情や心に機敏になのかも」
「それは……すごいね。……うん、すごいと思う」
「ふふ、私の自慢の友達だよ?」
そういう涼村さんは嬉しそうで、でも羨ましそうな表情をしていて。
それを見て、僕は涼村さんが羨ましいと思った。尊敬できる友達を持っていて、屈託なく友達を自慢できる彼女自身が、いいなと思った。
それで――と、涼村さんは声のトーンを落とした。
若干迷った面持ちで、僕へと向き直る。
「……星郎くん、元気ないね。……その、何かあったの……かな?」
夏海さんと全く同じ質問を、彼女はした。
……機転が利く涼村さんのことだから、おそらく予想はついている筈。
だからこそ、周囲に誰もいないこの場所でその問い掛けをくれたのだろう。
(……やっぱり、すごく優しい女の子だな)
優しさが染みるとは、今感じている気持ちだと思った。
わざわざ人に言うことではないけれど、言葉を吐けば、きっと今より楽になる。
愚痴を吐きたい。
聞いて慰めてもらいたい。
今まで恋愛相談に乗ってくれた他ならない涼村さんだからこそ、僕は弱音を吐いて、少しでも気持ちの整理をしたかった。
「…………帰り道の途中、キュアコーラルさんに告白して、振られたんだ。
キュアコーラルさんに楽しんでもらいたかった1日を、僕が最後に、台無しにしてしまった」
「……っ」
色々と言いたい、吐き出したい言葉はあった。
でも、一番最初に出てきたのは……昨日という日を、キュアコーラルさんにとって素敵な1日のまま終わらせることができなかった後悔だった。
涼村さんは半ば予想していたような、でも何かに驚いたように瞳が大きくなる。
喋ろうとして、でも言葉を飲み込んだのか、彼女の口元がきゅっときつく結ばれた。
涼村さんの言葉が無いのを確認してから、僕も続ける。
「昨日は、本当に楽しかったんだ。すごい緊張したし、うまく喋れてもいなかった。エスコートだって満足にできなくて格好悪いと思ってる。
でも、キュアコーラルさんと色々と話ができたんだ。色々な、キュアコーラルさんの一面を知れて、嬉しかったんだ」
「……星郎くん、キュアコーラルのこと、嫌いになった?」
「え?」
「だって……その、振られちゃったんだよね」
落ち込んで、嫌いになったのかなって。
そう、涼村さんは僕の気持ちを伺うように、不安な声色で問い掛ける。
(……それは)
飛躍しすぎだと、沈んでいた思考も忘れて驚いた。
振られることと、相手を嫌いになるのは全くもって関係ない。
なのに、涼村さんはまるで、僕がキュアコーラルさんをもう嫌いになってしまったかのような、そんなこと恐れている感じがした。
「……嫌いになんか、なるわけないよ。
それに振られることは――最初からわかってたんだ。
僕は大した取柄もない、人と接することすら避けていた一般人で、キュアコーラルさんの隣に立てるような人間じゃない」
「そ、そんなことないよっ。星郎くんの素敵だって思えるところ、ちゃんとある――」
「――ありがと、涼村さん」
慰めようとしてくれた涼村さんの、その言葉を遮る。
「でも本当に、振られたこと自体に後悔はないんだ。
落ち込みはしたけど、納得はしているし……もちろん、キュアコーラルさんを嫌いになるなんて絶対にない。ただ……」
キュアコーラルさんを悲しませてしまったことが後悔だと、そう紡いだ。
涼村さんの瞳が揺れる。
僕の言っている意味がよく分からないと、そう言いたげな表情が見て取れた。
「……僕が告白した時……キュアコーラルさん、すごい困った顔をしていて……少し前までは楽しくお喋りできていたのに、告白されて、驚いて、すごい苦しそうで」
「それは……っ」
涼村さんがなにかを言いたそうに、でも言えずに口を噤む。
「キュアコーラルさんの心境はわからないけど……でも、僕に告白されて迷惑だったってのはわかったんだ。
……彼女を困らせたいわけじゃなかった。あんなに苦しそうな顔をさせたいわけじゃ、なかったんだ……」
昨日の、別れ際の光景がずっと脳裏に残っている。
告白の返事は、謝罪と拒絶。
「自分の好きに正直になれた僕自身を、僕は少し好きになれた。
でも、気持ちを抑えきれずに言葉にしてしまったのが心残りで、今もずっと、後悔してる。一方的な告白でキュアコーラルさんを困らせるなら、この気持ちを伝えるべきじゃなかったと……後悔してる」
「……」
暗い気持ちに引きずられないよう努めながら、そう涼村さんに返事をした。
結果自体に悔いはないと。
ただあの時、雰囲気を台無しにして、気持ちを押し付けて、キュアコーラルさんを悲しませてしまったのがたった1つの後悔だった。
聞いた涼村さんは――ただじっと、僕の顔を見つめていた。
綺麗で、吸い込まれそうな大きな瞳で。
とても――キュアコーラルさんに似ていると、その時はなぜか、そう思った。
「……もう一度会えたら、どうする?」
「え?」
「キュアコーラルに……もう一度、会いたい?」
涼村さんの唐突な、純粋な問い掛けに一瞬固まる。
僕を伺うような、心配するような表情の涼村さん。
考えるまでもなく、口を開いた。
「うん、会って謝りたい。キュアコーラルさんに、昨日のことは忘れてほしいって。
そして、昨日は楽しかったと、ありがとうと言って、ちゃんと彼女とお別れしたい」
「……うん」
涼村さんは少し悲しそうに、僕の返事を聞いて頷いた。
僕だけでなく、涼村さんも後悔の念を抱いているような、そんな気がした。
一限目。
授業の最中、スマホが震えた。
普段なら授業に集中しているけど、今日ばかりは気になって……それに、心当たりもあった。
周囲にバレないよう、そっとスマホの画面を見る。
LINEの通知。涼村さんから。
『今日の放課後、予定空いてるかな?
キュアコーラルがね、星郎くんとお話ししたいって……その、屋上で待ってます。
PS : 私は用事があるから先に帰ってるね(✿╹◡╹)ノ』
♧♧♧
放課後になり、約束通りに屋上へと足を運ぶ。
これから部活に励む生徒、帰って友人と遊ぶ生徒たちとすれ違い、彼らの活気を羨ましそうに思いながら。
これから僕はキュアコーラルさんと会う。
ただ、キュアコーラルさんからの用件は何も聞いていない。
会えるだけで嬉しいと思う反面、昨日の今日でどんな顔して会えばよいのかと困惑する。
「……まだ、キュアコーラルさんは来てないのかな?」
屋上のベンチに座ろうとして、やめた。
気持ちがとても落ち着かず、じっとしていることが出来なかったから。
屋上のフェンス越しに階下の校庭を眺めながら、彼女が現れるのを待つことにした。
(……キュアコーラルさんと何て話をすればいいのか、全然わからないけど)
1つだけ、ずっと心に暗く残っているこの想いは伝えよう。
涼村さんに言った通り、キュアコーラルさんに昨日のことを謝りたいと、その想いだけはどんなに緊張しても忘れないように持っておこうと、深く心に刻み込む。
しばらくして、屋上の扉の向こうから足音が聞こえた。
扉の向こうに、人の気配。
リップ♪ アイズ♪ ヘアー♪ チーク♪ ドレス!
――数秒の後、金属音をゆっくりと鳴らしながら、扉が静かに開かれた。
「……」
「――キュア、コーラルさん……」
彼女を瞳に捉えた途端、また、心臓の鼓動が早くなった。
再び逢うことのできた、大好きで、憧れの女の子。
でも昨日の時とは違って、キュアコーラルさんは無言のまま、その表情は固かった。あの柔らかくて可憐なお花のような笑顔は無くなっていた。
そんな彼女の、辛そうな面持ちを見て、息がとても苦しくなった。
一度は近づいた筈のキュアコーラルさんとの距離がまた遠くなってしまったようで、心が急に寒くなる。昨日のように笑ってほしいと、心の中で声にならない叫びをあげる。
でも、目の前のキュアコーラルさんも僕を見た瞬間、違う辛さを顔に映した。
まるで、大好きな人に会っているのに笑えていない僕を見るのが苦しそうな、そんな想いが、不安そうに揺れる瞳から強く感じた。
「「――ごめんなさい!!」」
決心して、言霊に思いっきり気持ちを込めて、叫びながら謝ったら――重なった。
「……あれ?」
「……くっ……ふふ」
数秒固まったあと、キュアコーラルさんが緊張が解けたように笑いを零す。薄目可愛い。
こんなことで初めて息が合ったのをおかしく思ったのか……気付けば、僕の口元も少し緩んで上がっていた。
「……えっと……でもなんで、キュアコーラルさんがごめんなさい?
僕、昨日に既に振られたような……」
「あ、ち、違うの! そのごめんなさいじゃなくて……えっと、そもそも、昨日のごめんは星郎くんと付き合いたくないって意味じゃなくて」
「えぇ、嘘!? じゃ、じゃあ、その、もしかして、僕はキュアコーラルさんとお付き合いできるってこと!?」
「ふぁ!? ち、違……その、星郎くんは真面目で一途だし……好きの気持ちに正直になろうと、変わろうとしているところが似てるなぁって、見てて頑張らなきゃと私も思うし……不器用だけど真っ直ぐな気持ちや、ちゃんと言葉にして伝えようって姿がいいなって思うけど……で、でもキュアコーラルは付き合えなくて――えっと、ごめんなさい!」
「……」
キュアコーラルさんの脈ありっぽい言い方に思わずがっつくも、即座に振られた。
なんで僕は二度も振られているのだろうか?
涼村さんには振られたことに後悔していないと言ったけど、ダメージが入らないとは言っていない。
上げられてから落とされた分、振られたショックが昨日の比ではなかった。死にそう。
僕の顔の青さに気付いたキュアコーラルさんが、慌てて言葉を付け足した。
「わわ、も、戻ってきて、星郎くん!!
その、星郎くんにとって悪い話じゃないから、ね!」
「……そ、そうなの? ま、また振ったりしない?」
「しないよ!? ……多分。と、とにかく、話もあるしどこか座ろう――」
そう言って、キュアコーラルさんは僕を近くのベンチへと促した。
言われるがまま腰を下ろすと同時に、僕も一旦落ち着こうと目を閉じ、肺から絞り出すように息を一つ、ゆっくりと吐いた。
冒頭から騒がしい姿を見せてしまったけど、今日はキュアコーラルさんから会えないかと誘ってきた――つまりは、大事な用とか話とかがある筈なのだ。
蕩けた頭ではいけないと、短い時間の中で精神統一して気を引き締める。
と、頬にくいっと冷たいものが当たる感触。
目を開けてみれば、キュアコーラルさんの両手にはジュースが握られていた。そこの自販機で買ってきたらしい。
……この渡し方、流行っているのだろうか?
「はい、星郎くん。またジュース飲みながらゆっくり話そう?」
「あ、ありがと……あ、これ僕の好きなやつだ……ん? キュアコーラルさんに教えたっけ?」
「んー、さんごから聞いたのかな」
「へ、へぇ……」
何気なく言うキュアコーラルさんとは反対に、ドキリとする僕。
涼村さんが僕のことを話題にした思うと、何となく恥ずかしさが込み上げてくる。
ふわりと、キュアコーラルさんがスカートを抑えながら隣に座る。
昨日の私服姿も究極可愛かったけど、やっぱり、キュアコーラルさんは今のドレス姿の方が究極可愛いなと、肩が触れ合いそうになる距離にドギマギしながら思った。
「……ん」
「……」
ベンチに座って、二人でそよ風を感じながら。
話があるといったキュアコーラルさんは、しかし中々、喋り出すことはしなかった。
迷うこと、言葉に出来ないことがあるのだろうか。
横目でちらりと伺った彼女の様子は、どんな言葉を伝えようかと、手を口元に当てながら悩んでいて――
(……こういう時は、静かに待って……うん、でもちゃんと、キュアコーラルさんに意識を向けて――)
自身の体験を思い起こす。
教室で、公園で――涼村さんは、僕が言葉を見つけるのを静かに見守ってくれた。
彼女がしてくれたように、僕も今、キュアコーラルさんの見守りながらゆっくりと待つ。
そうだ。
あと、涼村さんは安心させてくれるような笑顔で、僕の言葉を待ってくれていた。
なら僕もと――そう思い、キュアコーラルさんがホッとできるような、そんな想いを込めて隣の彼女へと微笑んでみた。
――ちらりと、こちらを伺うキュアコーラルさんと、視線があった。
「ふっ……くす」
ぎこちない笑顔だったせいか、口元を抑えて笑われた。可愛い。
キュアコーラルさんの表情から固さが抜けて、頬が緩くなる。
栗色の、キラキラとした瞳が僕を捉えて、困ったように眉尻を下げた後……微笑んだ。
「……誤解、してほしくなかったの」
「誤解?」
「うん。嫌いだから星郎くんを振ったわけじゃない。
突然の告白に驚いて逃げちゃったけど、告白自体が嫌だったわけじゃない」
「……」
僕に謝るように、キュアコーラルさんは言葉を紡ぐ。
嫌じゃない。
そう言いながらも、キュアコーラルさんと僕の間に、見えない、大きな壁は確かにあって……それが多分、僕を振った理由なんだと、彼女の面持ちから薄々感じた。
「だからね、星郎くんの告白のせいで昨日全部が嫌な1日になっちゃったとか……そんなこと、私は全然思ってないって、伝えたかったの。
告白は、その……嬉しかったよ? ……でも、告白されても付き合うことはできなくて……えっと、変なこと言ってるね、私」
キュアコーラルさんには珍しく、話し方がしどろもどろで。
でも彼女の言いたいことや気持ちは、十分に僕に伝わった。
キュアコーラルさん自身も言葉を紡ぎながら、言葉を探しながら――僕の告白に、やり直すように真剣に返事をしてくれて、
「……星郎くんが素敵な男の子だってこと、私は知ってるから。
告白されて……えっと、星郎くんと付き合うのもいいなぁって、す、少しはそう思ったりとかして……その、昨日は逃げちゃったけど、星郎くんの告白に、困ったとか、悲しいとか、そういうことは絶対、思ってないから」
それだけは、この姿でちゃんと伝えたかったと、キュアコーラルさんは瞳に強い意志を込めてそういった。
そうして、改めて僕に向き直る。
「昨日はちゃんとお返事できなくて、ごめんなさい。
……私ね、プリキュアだから……『キュアコーラル』は誰とも付き合えません」
「…………うん」
真摯に向けられる視線に、恥ずかしさと、悲しさと、儚さを感じた。
僕だから振ったわけじゃないと、そう言ってくれたキュアコーラルさんの言葉に嬉しく思った。
付き合うことのできないと、再度突き付けられたキュアコーラルさんの言葉に苦しく思った。
(それでも……うん)
悲しみと嬉しさが混濁する心の内で、少しだけ、嬉しさが残った。
――報われたと、そう思った。
例え今の言葉がキュアコーラルさんの優しい嘘でも、大好きで憧れの彼女から、素敵だと……そう言ってくれたのなら、この無謀と分かっていた恋も少しは報われたのだと、そう思えた。
「……その、今日、キュアコーラルさんが僕を呼んだのは……わざわざ、それを言うために学校まで来てくれたの?」
失恋の余韻を残した、でも互いに気持ちは伝えられた、そんな甘さと苦みを含んだ空気の中。
キュアコーラルさんの話が終わったと思い、今日ずっと気になっていたことを口にした。
それを聞いて、キュアコーラルさんは申し訳なさそうに微笑む。
「うん。突然で迷惑だったと思うけどごめんね。
……告白が迷惑だったって、星郎くんが私の気持ちを誤解してたから、そこはちゃんと言葉にしないとって思って」
「そ、そうなんだ。ありがとう……。
でもその、僕の考えてること、よく分かったね?」
キュアコーラルさんの気遣いに感謝しつつも、正確に心の内を知られていたことに驚きを隠せない。
キュアコーラルさんとは昨日、突然の告白をして別れたのだ。
あのあと話もしていないし、互いの表情も見ていない。プリキュアさんだから、エスパーな能力でもあるのだろうか。
そう当然の疑問を口にした筈だけど、なぜか、キュアコーラルさんはとても慌てた。
「はっ!? え、え~っと……さ、さんごから聞いたというか、ね?」
「……」
涼村さんさぁ……。
なんだろう、涼村さんは何も言わなくても、ちゃんと秘密は守ってくれる女の子で。
その筈なのに、キュアコーラルさんには恥ずかしいことが結構知られている事実。
昨日のお出掛け中も思ったのだけど、案外、涼村さんからキュアコーラルさんに情報が筒抜けなのではなかろうか?
(というか、そうなるとキュアコーラルさんから涼村さんにも……色々と伝わってる?)
一方で筒抜けということは、その反対もありうるわけで。
昨日の、アクセサリーショップでの自分の発言を思い返す。
『涼村さんだからこそ、僕は一歩踏み出す勇気を貰えた』
『真夏さんよりも、涼村さんの方が好き』
『クラスの中で一番、涼村さんが好き』
……いや、伝わっていないことを祈ろう。
恥ずかしすぎるし、そもそも涼村さん自身も聞いたら困るだろう。僕とどんな顔して会えばいいか、かなり困ると思うし。
そういえばと今日の朝を思い返すと、少しだけ涼村さんとの距離感が違う感じが、確かにあった。
よそよそしいようで、でも近いような。距離を測り直しているような、そんな雰囲気。
朝の僕は、頭も心も後悔に染まっていて、それに気付きはしなかったのだけれど。
「……」
「星郎くん?」
「ふぁ!? い、いや、何でもない、何でもないよ」
唐突にキュアコーラルさんの可愛い顔が目の前に広がり、頭を振りながら飛び起きる。
こちらを心配そうに覗き込むキュアコーラルさんを見て、今の思考を停止させた。
涼村さんの心境はわからないけど、とりあえず、僕の発言については棚上げしよう。考えても恥ずかしくなるだけだし。
それに気持ち悪いと思われたら、自然と涼村さんから距離を取るわけで……凹む。
「あー、えっと……そういえばさ、キュアコーラルさん、さっき『プリキュアだから付き合えない』って言ってたよね?」
「え、う、うん」
「何というか……うん、単純な質問なんだけど、そういう規則とかがあるのかなぁって」
思考が沈まないよう、頭の中を切り替える。
今はせっかくキュアコーラルさんが隣にいて、彼女の用事は終わったけど、まだ僕の隣に座っていてくれているのだ。
振られても、彼女のことを知りたいという想いは変わらない。
決して未練があるわけではないけど……結構あるけど……この恋が終わる前に、あと少しでも、彼女のことを知りたかった。
(……いや、でも、これで“そんな規則はないよ”って言われたらどうするんだ、僕)
そうなると、プリキュアだから付き合えないというのは体の良い断り文句とわかってしまう。
せっかく、あまり落ち込まないような理由で振ってくれたのに、それを蒸し返す僕は馬鹿なのではないかと、今した質問に後悔する。
「……」
「……」
僕とキュアコーラルさんの間に、なんとも言えない沈黙が流れる。
……恐る恐るキュアコーラルさんの顔を伺うと――とても……とても悩んでいるキュアコーラルさんと目が合った。瞳に映るハート模様がほんと可愛い。
……じゃなくて、やはり、これは地雷を踏んでしまったのだろうか?
戦々恐々として身を縮ませながら、キュアコーラルさんの言葉を待つ僕。
ものすごく長く感じる、間。心臓が痛い。
「……言おうかすごい迷ったけど、星郎くんに教えちゃうね?」
「え、あ……やっぱり、待っ……う」
「――――この姿ね、その……変身した、姿なんだ」
「…………………え?」
キュアコーラルさんの言葉が聞きたくなくて。
耳をふさごうか、どうしようかとあたふたしてる最中に。
(え……へ、変身? 変身って、あの変身?)
変身。
その言葉の意味を、呆けたように繰り返して頭の中で半濁させる。
キュアコーラルさんが変身。
いや違う。変身した姿がキュアコーラルさんだと、これはつまり、そういう意味で。
「エッッッッッッッ!?」
「お、驚くよね? ご、ごめんね、ずっと黙ってて……怒った?」
「え、いや、怒らないよ、怒るわけないけど……」
僕の頭がものすごい速度で回転する。
脳内でキュアコーラルさんの言葉の意味を理解して、想像する。
「それってつまり、キュアコーラルさんは変身前は僕らと変わらない一般人ってこと!? こんな可愛い一般人がいるってこと!?」
「え、えっと/// ……その、お化粧というか変身してるから、可愛いかどうかはわからないけど」
「それってつまり、キュアコーラルさんも普通に生活を送っていて、恋愛して、結婚するってこと!?」
「え、えっと/// ……恋愛とかまだわからなくて……その、いつか素敵な男の子と結婚できたらいいなとは、思うけど」
「それってつまり、これから物凄く頑張れば僕にもチャンスがあるってこと!?」
「え、えっと/// ……ど、どうだろうな~///」
「ち、ちなみに、キュアコーラルさんの本当の名前って!?」
「え、えっと/// ……って、い、言えるわけないよ!?」
「……」
「そんな唖然とした顔しないで、星郎くん!? というか、その告白もされちゃったし、ここで本名教えたら私……す、すごい気まずいのわかるよね!?」
この話は終わりというように、ふいっと、頬を紅くしながらそっぽを向くキュアコーラルさん。
話の勢いで本名が知れなかったのは残念だけど、同時に、僕の中での常識がガラリと変わる。
(そうか……キュアコーラルさんも、プリキュアの前に普通の女の子だったんだ)
だからと言って、僕が振られた事実は変わらないけれど。
プリキュアが変身した姿で付き合えないと、そうキュアコーラルさんは言ったけど、だからといって、変身前の姿なら交際を許されたわけじゃない。
プリキュアの戦士でいる間は、誰とも付き合う気がないのか。
それとも、やはり断り文句で、優しい嘘をついてくれたのか。
それとも、キュアコーラルさんにとって変身前の姿を知られるのは、自信がないと思っているのか。
(確かに、僕は『キュアコーラルさん』が大好きだと言ったけれど……)
隣のキュアコーラルさんの姿を、もう一度目に焼き付ける。
薄い紫色を引いた艶のある唇。
ハート模様の入った、くるりとした大きな瞳。
綺麗なスミレ色の髪、それを可愛く二つに縛った大きなリボン。
柔らかそうな白くて細い肢体と、それを包むフリルの入った可愛いドレス。
そして――ぷにぷにした頬を彩るあざといチーク。
(きゅ、究極可愛い……)
――でも、
「僕は……キュアコーラルさんの瞳の色が、大好きなんだ」
「……え?」
唐突に出た僕の告白、独白に、キュアコーラルさんが驚いて僕を見つめる。
言うのは、物凄く恥ずかしいけれど。
僕の考えは全然違くて……キュアコーラルさんは別に、変身前の自分に自信を持ててないとか、そんなことは一切ないかもしれないけれど。
万が一、億が一でも、その可能性があるのだったら。
だったら、僕の羞恥心なんか投げ捨てて、僕の気持ちをちゃんと伝えないといけないと思った。
『自分の好きに、正直になる』
大事な人から貰った大切な言葉。それは僕だけじゃなくて、相手にとっても大切なことで。
偽りの関係や、すれ違い。そんな悲しみを無くす、素敵な大人になるための道標。
「変身したキュアコーラルさんの姿、すごく、とっても、世界一、宇宙一可愛いと思ってる。
……でもさ、僕が本当に恋したのは、稲妻のような一目惚れで恋に落ちたのは……キュアコーラルさんの、瞳の奥の、色なんだ」
初めて、彼女に会った時を思い出す。
倒れていた僕の前に立って、戦闘の最中、僕の方に向けてくれた瞳とその色。
「優しい色だと、そう思った。吊り橋効果とかじゃなくて、昨日もお出掛け中、何度もキュアコーラルさんと視線が合って……その度に、瞳の奥にある、優しい色に、ドキッとして……」
言語化するのが難しいと思った。
でも、それでいい。ほんのひと欠片でも彼女に僕の想いが伝われば、それでいい。
「昨日のお出掛けもすごい楽しくて……ちょっとした話や、涼村さんや夏海さんのプレゼント選びも、キュアコーラルさんとすごい話しやすくて、僕も、もっともっとキュアコーラルさんを好きになったから――」
「……うん」
僕の言葉に、キュアコーラルさんは瞳を瞬かせながら、少し、嬉しそうにはにかんだ。
うん。可愛くて、でも可愛いだけじゃなくて。
だから僕は、やっぱり『彼女』が大好きなんだ。
「だから、キュアコーラルさんじゃなくても、きっと僕は好きだと思う。
キュアコーラルさんがキュアコーラルさんじゃなくなっても、それで、この想いがなくなるなんて思えない」
「……」
聞いて、キュアコーラルさんは僕から目線を外して、視線を遠くの空へと移した。
僕の、聞かれてもいない言葉を、どう受け取ってくれただろう。
検討違いのことを言ってる――うん、別に構わない。
少しだけ不安がなくなった――うん、そうだと僕もすごい嬉しい。
「……ズルいなぁ」
「……」
キュアコーラルさんの微かな囁きが、風音にのって飛ばされる。
声が小さくて、何て言ったか聞こえなかったけど……彼女も聞いてほしくはなかったのだろう。心の声を、誰にも知られず風に乗せたかったのだろう。
キュアコーラルさんの表情は、憂いでもなく、でも嬉々としたものでもなくて。
先の未来を想っているような、そんな顔で。
(……涼村さんだったら、いいのにな)
ふと、一人の女の子が頭に浮かんだ。
キュアコーラルさんが大好きで、まさか変身した姿とは思わなかったから、キュアコーラルさん以外の人を好きになるなんてこと、絶対にないと思っていたけれど。
そして、そんなふうに思った自分に、驚いた。
驚いて……その考えは、駄目だと思った。
だって、それではまるでキュアコーラルさんの代わりに涼村さんを好きになった感じで……それは、キュアコーラルさんにとっても涼村さんにとっても失礼だ。
涼村さんを好きになるなら、僕はちゃんと、キュアコーラルさんとは別の一人の女の子として好きになりたいと、そう思った。
(……というか、そもそも涼村さんの筈なんて、あるわけないよ)
だって、僕がキュアコーラルさんに一目惚れして、その相談をしたのが偶々、放課後に話した涼村さんなのだ。
二人が同一人物なんて、そんな運命的で、偶然で、物語的なこと、あるわけない。
仮に……仮にもしそれが本当だとしたら、僕は本人に恋愛相談をしていたことになるわけで――
「……涼村さんですか?なんて、聞けるわけない。恥ずかしすぎるし」
「……でも、今更私から正体をいうのは……。は、恥ずかしすぎるよ」
独白が重なり、風音に消える。
隣の君の気配を感じながら、視線は重ねず、遠い向こうの世界を見る。
静かに流れる時間中、しばらくしてキュアコーラルさんは立ち上がって、振り返った。
「じゃあ私、行くね」
「……うん」
「名前、教えられなくてごめんね。その、恥ずかしいのもあるんだけど……私はプリキュアだから、そういうの、やっぱり秘密にしなきゃいけないの」
でも、星郎くんならいつか気付くと思うよと、少し笑って、そうキュアコーラルさんは付け足した。
「……そう、だよね。うん、ありがとう」
言って、これはお別れを寂しくさせないための嘘だと、そう思った。
いつか気付く、そんな根拠はどこにもない。
キュアコーラルさんのことを僕は何も知らなくて、彼女の正体を探す手掛かりも何もない。そもそも、一般人の僕がプリキュアさんの正体を探ることが、正しいことか、僕のやるべきことなのか……わからなかった。
「じゃあね、星郎くん。昨日は私も楽しかった。本当にありがとう。
……さようなら」
「――っ!!」
お辞儀をするキュアコーラルさん。
その彼女の紫の髪に、昨日プレゼントした髪留めが光を反射して飾られていて。
昨日のような不意打ちの別れじゃなく、今日のこれは正真正銘、本当のさようならで。
(……そうか、これが恋愛なんだ)
去ろうとする大好きな彼女の姿を見て、心が急に締め付けられる。
キュアコーラルさんに振られたのは納得してる――嘘だった。みっともなく泣きたいくらい振られたのが悲しいと、今思った。
キュアコーラルさんにありがとうと言って、ちゃんと彼女とお別れしたい――嘘だった。いざお別れと実感すると、とても笑った顔ではいられないと、今知った。
「――キュ、キュアコーラルさん!」
「……?」
いきなり呼び止めた僕に、キュアコーラルさんはぴくりと驚く。
呼び止めて、でも言うべき言葉は何もなかった。
キュアコーラルさんの気持ちも、振られた理由も、そして僕の想いも、彼女の正体が教えられないことも、全て話して……もう、交わす言葉がない。
「――っ」
でも、ここで何も言わないまま、キュアコーラルさんと別れるのは嫌だった。
だって、僕はまだこの恋愛が、恋心が終わってしまうことが、割り切れていない。
涼村さんには格好つけたことを言ったけど、それは僕が恋愛というものを全然わかっていなかっただけ。
こんなに心が思い通りにならなくて、みっともなく足掻こうとするなんて、思わなかった。
(キュアコーラルさん……)
呼び止められた彼女は、少し困惑した様子で足を止めていた。
僕の大好きなその瞳で、僕の顔を心配そうに見つめていて――
(……格好悪いけど……やっぱり、これで終わりにはしたくない!)
キュアコーラルさんのおかげで、僕は溢れるほどの恋心を知った。
キュアコーラルさんのおかげで、僕は自分の心に向き合えた。君の隣に立ちたくて、自分だけの世界じゃ駄目だと思った。
キュアコーラルさんのおかげで、僕は自分の好きに自信を持てた。命を掛けるくらいに人が好きになれるのだと、幸せを感じた。
そして――キュアコーラルさんのおかげで、簡単に諦めることができない、醜くて、そういう恋心があるということを、今教えてもらった。
「っ」
言葉を絞り出す。
恋愛を終わらせない、僕の恋心が君を見失わない『約束』が、何でもいいから欲しかった。
「僕が――に、なったら!」
「え?」
戸惑う彼女を余所に、僕はまたおかしなことを言おうとしている。
でも、この約束であれば、僕と彼女はまだ繋がっていられると、そう思った。
「――僕がプリキュアになったら! ……キュアコーラルさんの本当の名前、お、教えてくれますか?」
「――――」
キュアコーラルさんの息を呑む音が、聞こえた。
彼女がどんな表情をしているのか、怖くて、キュアコーラルさんの顔を直視することができなかった。
あまりにも突拍子で、現実味がない、馬鹿げた約束。
昨日と同じ。キュアコーラルさんの去り際に、身勝手な感情をぶつけてしまう。あんなに反省した筈なのに、また繰り返してしまったと後悔の念が湧き上がる。
でも、綺麗に終われないのが恋愛だということも、僕は既に知っている。
キュアコーラルさんはどう思ったのだろうか?
あまりにも子供っぽい発言だと、呆れさせてしまっただろうか。
「ふふ……くすくす……ふふ、そうだよね。星郎くんだもんね、うん」
優しい、静かな笑い声。
思わず顔をあげると――そんなに可笑しかったのだろうか。涙目になって目元を拭いながら微笑むキュアコーラルさんの姿が目に映った。
一歩、僕に近づいて……キュアコーラルさんは小指を出す。
『約束』を誓う、二人の儀式。
「――誰かが困っている、助けを求めている。そういう時に、一歩踏み出す勇気があれば……きっと、プリキュアになれるから」
「……僕でも、なれるのかな?」
「うん、星郎くんは、もうその勇気を持っているから。あとは、切っ掛け……私もね、友達を助けたくて、こんな私じゃ駄目だと思って……そうして、プリキュアになったんだ」
キュアコーラルさんの話は抽象的で、でも、本気で信じていると、彼女の瞳がそう伝えていて。
彼女の指に、僕のを重ねた。
「『約束』だね。もし星郎くんがプリキュアになったら、私の名前、教えてあげる」
「うん……その、もし僕がプリキュアになれたら……も、もう一度告白しても、い、いいですか? プリキュア同士なら付き合える、とか」
「っ/// ふふ、それはまた別の話だけど……うん、もしそうなったら、素敵かな」
「!?」
キュアコーラルさんの思わぬ返事に、それだけで心が跳ね上がる。
……お互いに冗談を言っているのはわかっていた。遠い夢の話をするような、そんな感覚だった。
でも、ここには確かな、キュアコーラルさんへの消えない想いがあった。
学校の屋上で、日が傾いてきた夏空の下で。
僕の初恋が終わって、夢を見続ける恋心だけを、新たにキュアコーラルさんから受け取って、
――生涯忘れることのない『約束』を、きっと、いつまでも大好きな彼女と、固く交わした。