僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」   作:HOTDOG

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最終話. 友達

「あ……れ? 涼村さん?」

 

「おかえり、星郎くん。

 ……なかなか来ないから、そのまま帰ったと思っちゃった」

 

教室には既に、夕陽が差し込みオレンジ色に染まっていた。

そんな教室に一人だけ、涼村さんが席に座って、なにをしているわけでもなく、そこにいた。

部活も終わり、校舎に残る生徒はほとんどいなくなった時間帯。

誰かが教室に残っていたことも、それが涼村さんであることも、驚いた。

 

「でもカバンも教科書もあったから。

 星郎くんはいつも持って帰ってるし、まだ学校にいるんだろうなって」

 

「……もしかして、待っててくれたの?」

 

だとしたら悪いことをしてしまったと思った。

キュアコーラルさんお別れをしてから、僕はしばらく――いや、結構な時間、あの屋上に留まっていた。

生まれて初めての大きな恋と、失恋に、ただじっと屋上からの景色を眺めて、静かに揺れ続ける感傷に浸っていた。浸っているしか、なかった。

 

「んー……そういうわけじゃないから、気にしなくていいよ?

 偶々、教室に残っていただけで……うん、私と星郎くん、よく放課後にお話ししてるから、今日も、そんな感じかな」

 

謝りそうになる僕を、静止するように、何でもない風に涼村さんは言う。

でも、それは嘘なんだとすぐにわかった。

今はテスト週間で、多くの部活動は停止中で、涼村さんのトロピカル部もそうなっている。夏海さんが嘆いていたから知っている。だから、涼村さんもこんな遅い時間まで学校に用はない筈だ。

それに、涼村さんは用事があるから先に帰ると、僕にキュアコーラルさんのことをLINEで伝える際に言っていた。だったら、涼村さんはもっと早く帰っているわけで――

 

(……待っていて、くれてたんだ)

 

心が少し、温かくなる。

恋愛相談の結末として、涼村さんなりに責任を感じていたのかもしれないけど。

それでも、このまま一人岐路につくのは……ちょっとだけ辛いと、そう感じていた。

 

「……星郎くんがよかったら……少しお話、しよう?」

 

「……うん」

 

ありがとうと、上手く声にならなかった。

欲しかった言葉を彼女はくれて、それが嬉しくて、救われて……涼村さんを、ズルいなと思った。

 

涼村さんが立ち上がり――少し歩いて、僕の席の隣に座って、手招きした。

僕もそれに従って、自分の席に座った。窓際で、街並みが綺麗に見えるこの位置は、実は結構気に入っていて。

 

それに、この席にはとても大事な思い出がある。

ここであの日――僕と涼村さんの恋愛相談が、始まったから。

 

 

 

僕「キュアコーラルさん可愛すぎる」さんご「///」

最終話 友達

 

 

 

「……星郎くん、大丈夫?」

 

「えっと……屋上でのこと、だよね」

 

「うん……キュアコーラルと会ってきたんでしょう? それで、今はどうなのかなって……」

 

心配そうな声色で涼村さんは問い掛けてきた。

その質問は、さっきまでの僕だと言葉が詰まるものだったけど。

 

「……うん、しっかりとキュアコーラルさんとお話しできた。

 僕を気遣いながら話してくれて……涼村さんには振られたことに納得したって言ったけど、そうじゃなくて……でも、今はちゃんと、受け止めることができてる……と思う」

 

僕の声は少し淀んでいたけど、それでも、言葉に戸惑いはなかった。

涼村さんは相変わらず、僕を心配する顔つきで。

彼女を安心させようと、苦笑した感じで言葉を続けた。

 

「キュアコーラルさん、僕が嫌いで振ったわけじゃ、ないんだって。

 どこまで本当かはわからないけど……僕のこと、素敵な男の子だと思ってるって、そう言ってくれて……それが彼女の気遣いでも、僕はすごい嬉しかった」

 

「……気遣いとか、嘘じゃないよ」

 

「え?」

静かに、でもはっきりと口にする涼村さんの言葉に、思わず、彼女の顔を、瞳をみた。

長い睫毛が可愛くて、弧を描いた柔らかな印象を与える瞼の形。

栗色の瞳で、優しい色が溢れていて、見ているだけで安らぎを感じる――僕の大好きなキュアコーラルさんと、同じ瞳をみた。

 

「きっと、本当にそう思っていたと、私は思うな」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん、私もその……素敵なところあるって思うから」

 

「え///!?」

 

「///」

 

そう言って涼村さんは、ふいっと顔を隠すようにそっぽを向いた。

 

(ほ、褒められた?)

 

そう思うには、少し――いや、結構気恥ずかしい言葉で。

頭がいいとか努力家と言われるのとは違う、女の子に言われると、照れと恥ずかしさが込み上げてくる。

僕も、今の顔を見られたくなくて窓の方へと顔を向ける。

さっきまでは振られて落ち込んでいた筈なのに、今は、頬が緩くなっているのが自分でもわかった。

 

「……」

 

互いに会話を見失って、教室が静寂に包まれる。

でも、何か必死に話題を探すほど……気まずい空気ではなかった。

気恥ずかしくて、下手に言葉にできなくて、少し寂しくて、少しくすぐったい、そんな空気。

 

ちらりと、横目で涼村さんを伺う。

彼女はまだ少し、さっきの発言が尾を引いているのか、藍い髪の毛から微かに見える頬は桃色で。

その様子をみて、苦笑した。

恥ずかしいのに、根は控え目な性格なのに、こんな僕を励まそうと慣れない言葉を使ってくれた涼村さんに可愛さと違う――そんな何かを感じて、

 

 

「――ありがとう、涼村さん」

 

「え?」

 

彼女の様子に、思わず、お礼を口にしていた。

当の涼村さんは、何のことかわからず目をぱちくりさせて首を傾げる。やっぱり可愛い。

 

「その……励ましてくれたことも、キュアコーラルさんのことも。

 ……涼村さんはいつも、僕の悩みに真剣に答えてくれるから……うん、涼村さんがそう言ってくれるのなら、キュアコーラルさんが言ってくれたことも、僕はちゃんと信じれるよ」

 

「……星郎くん、すごい勘違いするような言い方するよね、結構」

 

「え、なにが?」

 

「ふふ、何でもない。ちょっと、ほんのちょーっと怒ってるだけだよ」

 

「え、なにが!?」

 

涼村さんが少し笑いながら、でも声のトーン落としてそう言うから、僕は途端に、気が動転してしまう。

そんな僕を見て、彼女は可笑しそうに、軽やかな足取りで自分の席に戻り、疾うに帰り支度が終わっていたカバンを手に取って、

 

「とりあえず、もう下校しないと先生に怒られちゃうし……帰りながらお話ししよっか。

 甘いもの……うぅん、男の子だから肉まんとか? 星郎くんがどこかに寄りたかったら、付き合うよ?」

 

僕の心が今朝より元気になったと、そう確認できた涼村さんは、今日初めて、僕に笑顔を見せてくれた。皆に見せるよりも、少し照れたような、優しくて可愛い笑顔。

 

(――っ///)

 

見惚れて、一瞬だけ――さっきまでとは別物のように心臓が高鳴った。

 

「……星郎くん?」

 

「ふぁ!? う、うん、いくよ」

 

呆けた僕に、涼村さんが再度首を傾ける。

これ以上彼女を待たせないよう、慌てて僕も帰り支度をした。

引き出しの教科書や文房具をバッグに詰めながら、様々な感傷、感情が去来する。

 

キュアコーラルさんに振られて、さよならした悲しさとか。

キュアコーラルさんとの遠い『約束』にある、ほんの微かの淡い希望とか。

涼村さんとお話しできて、この恋愛の終わりにも僕なりに納得できたとか。

女の子と一緒に下校するのは初めてで、しかも相手が涼村さんで、緊張感と恥ずかしさと少しの楽しさを感じているとか。

 

でもなぜか、一番大きく心を占めているは、色褪せてしまう景色を見るような、そんな寂しい感情で。

 

(……あぁ、そうか。これも“終わり”なんだ)

 

涼村さんと僕の、共通の秘密。

クラスのみんなにばれないように放課後、二人で会っていたこの時間。

 

相談相手が涼村さんなのは、本当に偶然だったけれど。

話す内容はキュアコーラルさんへの相談事で、会話を楽しむために会っていたわけではないけれども。

 

(……この時間も、僕の中では楽しく思っていて……それが終わるのが、僕はこんなに寂しいと思ってるんだ)

 

キュアコーラルさんに恋して、振られて、またいつかの約束をした。

恋心は消えないけど、僕とキュアコーラルさんの関係に一旦の幕は下ろされた。

 

だから、恋愛相談もこれで終わり。

偶然から始まった、涼村さんと二人きり会うような関係もこれで終わりだ。

 

(明日から、僕たちの関係はどうなるんだろう……)

 

ただのクラスメイトに戻る?

元々は同じクラスというだけで話もしたことなかったけど、以前のようになってしまうのか。

 

……いや、人間関係はそんな淡泊なものじゃない、お互いの人となりを知って、前より距離が近くなったのは本当で。

だから、明日からも割と、会話をする仲になるかもしれない。

授業の課題とか、班での活動とか、そういうちょっとした際にはお話しするような感じかもしれない。

 

(うん……それが自然な感じ、かな)

 

こうなったらいいと、勝手な想像が頭を巡る。

相手の心はわからないし、僕の感覚で近づいて避けられたら、嫌だし傷つく。

人間関係は……人の心は難解で、それに触れるのはすごく勇気がいることで。

 

だから、互いの関係なんてわざわざ言葉にしなくてもいい。

日常を過ごす中で、自然と収まって、その中で交友していけばいい。

それなら何も怖くないし、傷つかないし、とても楽な関係で――でも、そんな僕では駄目だと思った。

 

(僕は……うん、僕は『プリキュア』になるって、誓ったんだ)

 

キュアコーラルさんに、そう宣言した。

そしてキュアコーラルさんは教えてくれた。

大事なことは、一歩踏み出す勇気だと。

 

――僕の大好きなキュアコーラルさんと涼村さんが、そう教えてくれたのだ。

 

 

「……す、涼村さんっ!」

 

「え、な、なに?」

 

決意して、涼村さんに呼び掛ける。

息が入り過ぎて、普通に呼んだつもりが叫ぶようになってしまう。

僕の帰り支度を待っていた涼村さんが、僕の奇行に驚き、ピクリと跳ねた。

 

「そ、そのさ……い、今まで、恋愛相談に乗ってくれて、本当にありがとう」

 

「う、うん……ど、どういたしまして?」

 

「……」

 

「……?」

 

「……」

 

「……!」

 

お礼を言って、沈黙する僕。コミュ症過ぎる。

涼村さんも、僕の様子に戸惑った様子で――

 

「……♪」

 

「え、涼村さん?」

 

「ん、なぁに?」

 

戸惑っていなかった。

涼村さんの表情に戸惑いの色はなくて、むしろ、何かを期待しているみたいに瞳を一割ほど大きくして微笑んでいて。

 

「えっと……」

 

「星郎くん、私に言いたいこと、あるんだよね?

 ……私、ちゃんと聞いてるから……ね」

 

「――う、うん! あっと、その……」

 

「……頑張って」

 

「――///」

 

目を細めて、涼村さんが僕をじっと見つめる。

柔らかく、でもそっと背中を押してくれる感じが、僕の勇気を少しだけ後押ししてくれる。

 

僕の喉はカラカラで、肺が引きつったようで……きっと、キュアコーラルさんに告白した時よりも緊張していると思った。

当然だ。キュアコーラルさんの時は衝動的に、口から言葉が漏れただけで。

でも今、僕はちゃんと自分の意志で、自分で言葉を考えている。

目の前の彼女に伝えたい言葉と気持ちを、ずっと蓋をしていた心から引き出そうと、もがいている。

 

キュアコーラルさんと涼村さんとの、短いけど僕にとっては大切な時間を脳裏に描いて、勇気を貰う。

そうして僕の人生で初めての一歩を、勇気を出して踏み出した。

 

 

「……――す、涼村さん! ぼ、僕と……と、友達になってくださいっ!」

 

言って、頭を下げて握手するように片手を出した。

いつかの、あの日と同じ光景。

あの時はキュアコーラルさんに向けた想いを、違う形で、今は涼村さんに向けていた。

 

以前の僕は涼村さんとほとんど会話したことがなかったし、キュアコーラルさんへの想いが暴走していたこともあって、よくわからないうちに謝られて涼村さんに逃げられてしまったけれど。

 

今回は違うと思いたい。……うん、思いたい。

クラスメイトではなく友達になってほしいと、その言葉におかしさはない筈。

どうやって友達になるかは、わからなかった。

でも自然と友達になるなんてことは、今の僕には難しくて。

 

「……」

 

「……」

 

怖いくらいの静寂、沈黙が教室を包む。

……涼村さんはなぜ黙っているのだろうか。

一言うんと、そんな思い描いていた光景とは、違う雰囲気が漂っていて、冷汗が流れる。

 

恐る恐る、勇気を出して顔をあげる。

 

――僕と目が合った涼村さんは、ふと、おかしそうに微笑んで。

まるで僕に1つ1つ見せるように、可愛く表情を変えていった。

 

少しだけ残念そうに、目を細めて。

少しだけ嬉しそうに、口元を緩ませて。

そうして――ちょっと不機嫌な顔を作って、涼村さんは溜息を吐いた。

 

「はぁ……星郎くん、そうなんだ……はぁ……」

 

「えっと……?」

 

なんだろう。僕でもわかるくらい、わざとらしい溜息で。

不満そうにしているわりには、口元の微笑みは隠せていなくて。

まるで慣れない演劇を、でも楽しそうに、涼村さんは僕に見せる。

 

「う~ん、そっか、残念だなぁ……」

 

涼村さんが三歩、軽やかに足を進めて、僕の手前に身体を寄せてくる。

綺麗な栗色の瞳で、僕と視線を絡めてくる。

 

「私、星郎くんのこと、もう友達と思っていたんだけど……違ったんだ?」

 

「――! あ、そ、その……!」

 

「そっか、残念だなぁ……」

 

残念残念と言いながら、でも涼村さんは微笑んだままで。

 

 

「――ねぇ」

 

小さな声だけど、二人しかいない教室には、酷く、蠱惑的に響く囁き声。

 

「星郎くんの中では、どうすれば友達になるのかな?」

 

彼女は僕に悪戯をするように、優しく微笑んだ。

夕陽が差し込み暖かな色に包まれた教室で、その中で笑う彼女は、とても綺麗で可愛くて。

 

「……え、あ……その」

 

可愛さに言葉が詰まり、涼村さんの問い掛けにも言葉が詰まった。

 

「……そ、そっか。僕たち、もう友達だったんだね。よ、良かった」

 

「ふぅん……でも、今まで友達と思っていたのは私だけで……うん、がっかりだなぁ……」

 

「う……」

 

本心ではないと、演技とわかっている筈なのに。

涼村さんの肩を落として落ち込んだ様子を見せられると、単純に友達になったと喜ぶことを憚られる。

ちらりと、僕が狼狽えているのを見てまた微笑む涼村さん。演技が大根可愛い。

 

「ふふ、もう一度聞くね?

 星郎くんの中では、どうすれば友達になるのかな?」

 

「えっと……い、今みたいに、友達になってくださいって言って、頷いてもらえれば……?」

 

「う~ん、間違っていないけど、ちょっと不自然かな。

 言葉で伝えるのは大事だけど、じゃあ全て言葉にするのが良いってわけじゃなくて……言葉にしなくても、伝わる意思や気持ちはちゃんとあるの。

 星郎くんのは嬉しいけど、ちょっと大袈裟かな?」

 

「う、うん……でも、ならどうしたら……その、いいかな?」

 

友達の作り方がわからなくて、情けないけど、涼村さんに浮かんだ疑問をそのまま言葉にした。

その問い掛けは、涼村さんにとって想定通りだったのだろう。

彼女は満足そうに頷くと、静かに、でも弾む声で返事をした。

 

「うん、私とまなつのこと、思い出してみて」

 

「涼村さんと、夏海さん……」

 

言われて、教室での風景を思い返す。

二人の何を見ればいいのだろうか?

話の内容なのか、距離感なのか……いや、そうじゃない。

僕が見なければいけないのは、涼村さんを中心とした、夏海さんと他のクラスメイトの関係だと思った。

夏海さんのことはあまり知らないけど、涼村さんのことは、人となりは、彼女と過ごす時間の中で皆より少しだけ多く知れたのだから。

 

涼村さんは夏海さんと違って、クラスの皆と友達という距離感ではない。

ちゃんと彼女の中には友達とクラスメイトという線引きがあって、彼女の普段の様子を思い返せば、涼村さんの言いたいことがわかるわけで――

 

 

――――『まなつ』と『さんご』。

 

「……あっ」

 

「……わかった?」

 

「えっと……そ、その」

 

閃き、声が出る。

そんな僕を、楽しそうに、そして少し嬉しそうに覗き込んで見つめる涼村さん。

 

わかった。

言葉にしなくても友達になる方法がわかったけど。

 

「え、えっと……す、涼村さん?」

 

わかったけど、これは僕にはかなり恥ずかしくて。

助けを求めるように、思わずいつも通りに、慣れた方で彼女を呼んでみたけれど、

 

「…………ふいっ」

 

「えぇ……」

 

無☆視。

でも口元はやっぱり笑っていて、ツンとした態度はあからさまな演技で、それがとても可愛かった。

そんな可愛い涼村さんを見るのもいいけれど、このまま長引かせると、本当に不機嫌になってしまうかもしれないから、

 

「……さ」

 

もう一度。

 

もう一歩、勇気を出して、彼女の心に近づいた。

 

 

「……さ、さんご……さん」

 

「――うん! これからもよろしくね、星郎くんっ」

 

僕の小さな、でも精一杯の気持ちを込めた言葉を、君はちゃんと受け止めてくれて。

嬉しそうに、愛おしそうに――ぱあっと花のような笑顔で、僕の名前を呼んでくれた。

 

 

 

♧♧♧

 

 

 

「……私と星郎くん、友達なんだね……う~ん」

 

「え、だ、駄目だった!?」

 

「そんなことないよ? 私も友達になれてうれしいし……」

 

「う、うん!」

 

「……」

 

「……」

 

「……う~ん、友達……」

 

「えぇ……」

 

 

♧♧♧

 

 

 

「星郎くん、隣町にアウトレットモールができたの知ってる?

 今度の日曜にまなつと行くんだけど……その、良かったら星郎くんも一緒にどうかな?」

 

「え、いいの!? ――あ、ご、ごめん! その日は別の用事があって……」

 

「用事?」

 

「うん、友達とカラオケ行くんだ。今更だけど初体験で楽しみで、時間余ったら皆でゲームしようって」

 

「ふふ、星郎くん楽しそう。また話聞かせてね。

……久しぶりにたくさんお話しできると思ったけど、残念」

 

「っ! ……あ、あの、涼……さ、さんごさん!」

 

「?」

 

「今週は無理だけど……えっと、よ、よかったら、来週の日曜とかどうかな?

 同じところになっちゃうけど、1回じゃ全部見て回れないと思うし……ぼ、僕も面白そうなところ、しっかり調べておくからさ」

 

「……」

 

「……」

 

「……来週はまなつ、いないけど……二人で行くの?」

 

「え!? あ、そ、それは……っ」

 

「……」

 

「……」

 

「……楽しみだね?」

 

「!? う、うん! うん!」

 

 

 

♧♧♧

 

 

 

『もしもし……星郎くん、メールありがとね』

 

『あ、さんごさん! メールは……じゃなくて、た、体調大丈夫?

 もう3日も体調不良で休みって聞いてて、夏海さんも同じように休んでるし……二人ともだから、もしかして実は怪我してるんじゃないかって心配で』

 

『うん、もう大丈夫だよ。明日には学校も行けそうだし……心配してくれてありがとうね』

 

『そ、そう? なら良かったけど……』

 

『……』

 

『……』

 

『……』

 

『……で、電話、切った方がいいかな? さんごさん、病み上がりだし』

 

『ん……もうちょっと、このまま』

 

『う、うん///』

 

『……』

 

『……その、さんごさん?』

 

『ん?』

 

『何かあったら……悩み事とか、辛いこととかあったら……今度は、僕が相談に乗るから』

 

『……』

 

『た、頼りになるかはわからないけど……ぼ、僕にできることなら、な、何でもするから』

 

『……何でも?』

 

『うぅ……う、うん! できるよ! さんごさんの為なら、何でもするよ!』

 

『……』

 

『……』

 

『……少し熱っぽいから、寝るね』

 

『あ、ご、ごめん! う、うん、無理しないで! その、電話ありがと!』

『……』

 

『……あ、じゃあ切――』

 

『ありがとね、声聞けて嬉しかった……おやすみ』

 

『/// う、うん! おやすみ! お大事にね!』

 

 

 

♧♧♧

 

 

 

「明日からもう春休みかぁ。1年生、あっという間に終わっちゃたね」

 

「うん……僕にとってはすごい濃い1年だったけど……そうだね、早かった」

 

「……星郎くんと、別々のクラスになっちゃったね。

 まぁ、星郎くんすごく成績いいから、同じクラスになれないとは思ってたけど」

 

「クラス替えと成績って関係あるの?」

 

「ん……はっきりと決まってるわけじゃないけど、2年からは成績が近い子同士で固められるって先輩たちが言ってたから。

 うちの学校、高校受験の対策に早くから力を入れてるでしょ? やっぱり、学力でクラスを分けた方が先生も教えやすいだろうしね」

 

「そうなんだ……」

 

「……」

 

「……」

 

「……勉強、頑張ったんだけどなぁ」

 

「!……よ、よかったら、だけど……さんごさんの迷惑じゃなかったら、だけど」

 

「……?」

 

「……放課後とか、土日とか……勉強、一緒にやらない? 苦手なところも教えられると思うし……べ、勉強じゃなくてもよくて、その、色々とさ」

 

「……」

 

「……えっと」

 

「…………来週、空けとくね」

 

「! う、うん! あ、場所はどうしよう。図書館とか――」

 

スッと、彼女の人差し指が、僕の唇にそっと触れる。

さっきまでは少し暗い雰囲気だった君は、今は柔らかく微笑んでいて、

 

「この話は……今じゃなくて、夜、電話で話そう?。

 クラスで話せなくなった分、放課後とか、家で電話したりして、たくさんお話しできたらいいね」

 

「/// そ、そうだね! それなら、クラスが変わっても寂しくないし」

 

「……でも、3年生の時は同じクラスになりたいから……うん、私、もっと勉強頑張ってみるから……その、迷惑掛けちゃうけど、よろしくね?」

 

「ま、任せてよ! 僕も今より頑張って、何でも教えられるようにするから!

 うん、三年生でさんごさんとまた同じクラスになったら、いいと思う! 楽しみだよ!」

 

「ふふ、気が早すぎ……でも修学旅行、一緒の班で行けたらいいね」

 

「う、うん!」

 

 

 

 

 

――そうして、僕たちは進級して二年生になった。

 

春休みが終わり、新学期が始まり、仲良くなったクラスメイトと別れて寂しくなると同時に、新しい出会いが広がっていく。

 

自己紹介と、クラスでのオリエンテーション。

大好きな彼女との『約束』を胸に、その約束を果たすために、勇気を出して、新しい環境に踏み出していく。

 

二年からだけど、部活動にも入ってみて。

一年生の時にできた気の合う友人たちと、クラスが違っても休みの日には一緒に遊んで。

涼村さんとは--会う時間はむしろ前より増えていて、以前よりずっと、お互いのことが分かるようになってきて。

 

「……」

 

「星郎くん、どうかした?」

 

「いや……なんか最近、街中が静かだなぁって思って」

 

「そう? 新しいお店も人も増えて、むしろ賑やかだと思うけど」

 

「あ、そうじゃなくて……うん、そうだ。

 あの怪物を、全然見かけなくなったなぁって」

 

「……うん、そうだね」

 

以前が嘘のように、例の怪物が現れることはなくなって平和になって。

そしてプリキュアさんたち、キュアコーラルさんも、まるで役目が終わったとばかりに、彼女たちの姿も噂も聞かなくなって。

 

「……寂しい?」

 

ふと、涼村さんが僕の顔を覗き込む。

心配と不安が混じった、彼女の瞳。

以前の僕なら、キュアコーラルさんに恋焦がれていただけの僕なら、姿を消した彼女に大きな喪失感を抱いていただろうけど、

 

「……うぅん。キュアコーラルさんと僕には、約束があるから。

 頑張って、約束を果たしたら……きっとまた、キュアコーラルさんと会えるから」

 

でも。

約束を――きっと、僕は果たせない。

多分、どんなに頑張っても、ただの一般人の僕がプリキュアになれると心の底では思っていない。

 

でも、それでいい。

叶えられない約束でも、それを追い続けることで、僕はずっと彼女を好きでいられるから。

 

失恋の余韻も、実はまだまだ残っている。

だから今は、がむしゃらに夢をみようと思う。

キュアコーラルさんに出会って芽生えた想いや、教えてくれた大事なこと。彼女と話せて感じた僕の感情全てを、ちゃんと心に締まって頑張ってみようと、そう思う。

 

 

――勇気を出して、踏み出す一歩。

約束の行方はわからなくても、彼女が教えてくれたそれを、僕は大切に持って生きていく。

 

(うん……まずは、そろそろ近づいてきた涼村さんの誕生日!

 お礼とか口実はないけど……男子からのプレゼントをどう思うかはわからなくて不安だけど)

 

いつか『プリキュア』になるために。

なれなくても、心だけはプリキュアに――大好きな彼女との約束を果たすことを諦めないで。

 

(どんな不安なことにも勇気を出して……それが、僕にできることだから!)

 

「……そういえば話変わるんだけど……ら、来週の土曜日とか、星郎くん、空いてる?」

 

「え、土曜?」

 

「う、うん……その、日曜日はね、まなつや他の友達と私の誕生――ふ、普通に遊ぶんだけど、土曜日は空いてて、えっと、特に用事はないんだけど、星郎くんとたまにはお出掛けしたいなぁって」

 

「ご、ごめん! 土曜日はちょうど、まなつさんとプレゼント選――か、買い物する約束してて。誘ってくれたのにごめん」

 

いつもよりなぜかソワソワと目線を泳がせて、僕を遊びに誘ってくれる涼村さん。頬が桃色可愛い。

でもその日はちょうど、夏海さんに頼んで、涼村さんへの誕生日プレゼントを一緒に選んでもらう日で。

 

涼村さんとお出掛けするのは楽しいから、本当は頷きたい誘いだけど。

だけど、今一番大事なことは涼村さんに素敵な誕プレを贈ることだと思ったから。

 

 

「――――――…………ふぅん」

 

そんな初めて送る誕生日プレゼントに、僕は不安と期待、そして勇気を膨らませていたのだけれど。

 

「…………ふぅん、『まなつ』なんだ」

 

「さ、さんごさん?」

 

涼村さんはジト目だった。

ちょっと蔑んでるようなジト目だった。

 

「…………私の知らない間に『まなつ』になって、土曜も二人でお出掛けするんだ。……ふぅん」

 

「え!? いや、その、夏海さんとなぜか二年も同じクラスで、この間、名前で呼んでもいいよって言ってくれて……友達だし、自然かなって」

 

「ふぅん……土曜日、私もついていっていい?」

 

「え!? いや、その、土曜日はとても大事な用事で……で、できれば、さんごさんは来ないでほしいかなぁって」

 

「!……ふ、ふぅん」

 

言って、とても苦しい言い訳と思い、言葉の歯切れが悪くなる。

涼村さんは可愛い顔のまま、僕に疑うような視線をじーっと向ける。

 

口元を緩ませて、少しだけソワソワした感じで。

でも不満そうに、何かを言いたそうに視線を僕に絡ませて。

 

「さんごさん……お、怒ってる?」

 

「……別に」

 

「……そ、そう?」

 

「……」

 

「……」

 

「……ばぁか」

 

「!?」

 

ふいっと顔を背けられて、無茶苦茶に動揺する僕。

不機嫌に、でも甘い声色で、君は多分、本当に怒っているわけじゃなくて。

 

「……ご、ごめん! えっと」

 

彼女が不機嫌になることの心当たりは、あるけれど。

でも、それは言葉にできないほど恥ずかしくて、違ったら死ぬほど気まずくて、きっと今の関係が壊れてしまうから。

だから――今の僕には、まだ、その一歩を踏み出す勇気はない。

 

 

「――名前を呼び合ったら、友達だけど……」

 

トンと、肩が軽くぶつかる。

彼女の綺麗な藍色の髪が、ふわりと、風に乗って僕の頬を優しくなでる。

 

「仲良くなったら、呼び方を変えて……もっと仲良くなれたら、嬉しいかな」

 

寄り添うお花のように、柔らかい、優しい微笑み。

僕の背中を押してくれるのは、そっと押してくれるのは、いつだって彼女の可愛い、でも芯のある声色で。

 

「……えっと、それってあだ名、とか?」

 

「うん、それもあるけど……」

 

「けど……」

 

「〇〇さんとか、ちょっと距離を感じちゃうよね」

 

「……な、なるほど」

 

彼女の言葉を理解する。

と同時に、それはとてもハードルが高いと、想像しただけで心臓の動きが早くなった。

もちろん、さっきの――涼村さんの気持ちに踏み込むのに比べたら、随分ハードルは下がったとは思うけど。

 

「えっと……さんごさん?」

 

「…………ふいっ」

 

「えぇ……」

 

無☆視。

前にもあったなと思い出して……緊張している筈なのに、笑みを零している僕がいた。

涼村さんも同じようで、そっぽを向いているから表情はわからないけど、可笑しそうに肩を少し震わせている。

同じ時間を共有して、思い出して、笑えている。それがすごく嬉しくて――

 

 

とても恥ずかしいから、二人の時だけと、格好悪い前置きをして。

涼村さんもちょっと驚いたように、恥ずかしそうに、静かにコクンと頷いて。

 

3文字だけの勇気を出して――その後は一週間くらい、お互い、顔を見ることができなかった。

 

 




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