チャイムの音が鳴ると同時に生徒達は自分の席へと座る。
しばらくすると教室のドアが開き一人の先生が入ってくる。
「お前ら席について………るな。優も来てるし、それじゃあ委員長号令」
毎朝思うのだが、なぜ俺はいつも名指しで確認されなければならないのだろうか。
俺の担任の先生兼部活の顧問の五十嵐麻由美(いがらしまゆみ)は俺の親戚であるのだが、そのせいかよく絡まれる。まあ、悪い事ばかりではないのだが。
そんなことを考えながら麻由美の話を聞き流しているといつの間にかホームルームが終わろうとしていた。
「あーあと、近々スポーツ大会あるから何に出るか決めといてくれ。じゃあ以上解散!」
そう言って麻由美は教室を出ていった。
それにしてもスポーツ大会か。こんな暑い時期に体を動かそうだなんてどうかしてる。
「スポーツ大会なんてやりたくないって思ってるよね」
隣に座っている由乃が言う。
「なぜわかったし」
「なぜわからないと思ったし、なんてね。優の考えてることなら何となくわかるよ」
「あっそう。それで、由乃は何に出るつもりなんだ?っていうか、そもそも何があるかわからないから教えてくれ」
「確か男子の種目はサッカー、バスケ、バレー、後ダブルスの硬式テニスかな」
「ろくなもんがないな。なんかもっと楽なのないかね、ドッチボールとか。外野行けば実質球拾いしてればいいし」
俺が由乃と話していると、背後から俺の後頭部に衝撃が襲う。
「何話してるのー?」
杏が俺の首に抱き着いていた。あと、小柄ながら確かにある胸が当たってるんですが。
「もちろんー当ててるよー」
「お前ら俺の心読みすぎなのでは。あと、暑苦しいから離れろ」
「えーやだよー。この教室クーラー効きすぎてちょっと寒いんだー。だから優君に抱き着いてるといい感じにあったかいんだよねー」
「篠原さん、離れてあげなよ。優も嫌がってるし」
流石は由乃、俺の親友だ。困ったときは助け舟を出してくれる。
「え、嫌、だったかな?ご、ごめんね」
いつもの間延びした声すら忘れて悲しそうに言う。
……そんな声出されると嫌と言えないんだが。
「い、いや別に嫌ではないよ。ウンイヤジャナイイヤジャナイ」
「本当!よかったー。嫌われちゃうかと思ったよー」
よし、いつもの調子に戻ってるな。顔は見えないが、今頃満面の笑みだろう。
「…チッ」
「ん?今舌打ちが聞こえたような気が」
「気のせいじゃないかな」
「そう?まあいいや」
それから授業が始まるまで杏は俺に抱き着いているのだった。
授業中、僕は自分でもわかるほどイラついていた。
表には出さないようにしているが今にも握っているシャーペンを折りそうで怖い。
あの女、篠原杏は僕にとって正に思わぬ伏兵だった。
高校入学当初は青葉唯と別のクラスになり、これで基本的に学校にいる間は優を独り占めできると思っていた。
だが、違った。
今でも覚えている。入学式が終わり初めてこの教室に入った時、あの女はいきなり優に抱き着いたのだ。
まるで、運命の再開かのように。
まあそんなことより先程のことだ。
あの女は優が嫌がっているのにも関わらず抱き着いた。
僕が注意したら無理矢理優の許可をもらった。
そしてあの殴りたくなるような満面の笑みを僕に向けて来た。
あの後しばらく平静を装うことができた自分を褒めてあげたい。
ああ、思い出したらまたイライラしてきた。
こんな時は優を見て癒されよう。
僕が隣の優を見ると、シャーペンを握りながらウトウトしている。
フフ、ああ本当に可愛い。