[完結]迷子の沈丁花   作:高鹿

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10.5 ヒーロー活動を見る話

地を這いヴィランを追いつめる氷の美しさと、その美しい光景を気付かれないうちに溶かし氷塊を落とす炎と、その即席のトラップを操り切るその背中に、私は視線を奪われた。

 

その時、私は自分に友人関係がないことを酷く恨めしく思ったのだ。

 

 

 

 

夕方、すこし前に麗日さんに言われたのもあったし、そういえば仕事の時の姿って最初の時以外見てないし、そもそも最初の時は完全に興味がなかったからあんまり覚えてなかったのもあって、そっと本人がいないことをいいことにテレビのチャンネルを回したら、丁度八時のニュース。

 

ヴィランと対峙するその人はいとも簡単に氷と炎を使いこなして無差別な悪意へと向かっていく。真っ直ぐな氷と炎を使って、しかしその姿からは何となく想像が出来ない絡め手も使って相手を追いつめていく。

 

基本は黒いシャツに黒いズボン。何か白いガンホルダーみたいなのを背負ってることを除けば、大体普段の服とそう変わりはしない。筈なのに。あ、でも白と赤の髪の毛がひらひらと自由に靡いてるのは、あんまり見ないかな。

背はそれなりに高いと思うけど特に体が大きいってわけじゃない。それでも、その背中が強いと思った。

 

さわれるわけでもないのに、そっとテレビに手を伸ばす。機械だから、すこし熱い。家電製品特有の温度で、きっとあの人の炎はこういう種類の熱さじゃないんだろうと。

 

私が受けたのは氷で、しかもこんな風に触れればどかす、みたいな物じゃなかったことだけは明白だ。ただただ対象を拘束し、その役目だけを考えられた氷だった。それぐらいは分かる。その後の炎熱も炎は出さないまま溶かされた。

 

羨ましい、わけじゃ、ないと思う。でも正直このヴィランの戦い方が雑で、あぁもうほら直ぐに決着がついて!いくらハイライトだからって一瞬!

 

伸ばした手を引っ込めて、畳の上に腰を落ちつける。座卓に背を預けて膝を抱えてる間に、ニュースはもう別の物になっていた。

 

(私なら、もう少し、あそこで)

 

頭の中でさっきの光景を描きながら指を伸ばしそうになって、慌てて握り込む。何してんだ。何しようとしてんだ。

握り込んだ拳をもう片方の手で叩いてから、膝に額を預けて深いため息をつく。

 

でも、だって、ショートさんはもっと絶対格好いいしきっとあれより複雑なことだって出来ると思う。それなのにあのヴィランはそれを分かってない。全然わかってない。ヒーローがヒーローであるって言うのはヴィランがいるからこそ映えるっていうのに!

 

……いやそれは単にヒーローショーか。ヴィランが暴れたら被害が出るわけだしそんな悠長なことは言ってられない。私が言ってるのは遊園地でボクと握手だ系の話だ。遊園地のああいうのって行ったことないけど。そもそも遊園地に行ったって言う記憶もだいぶ昔のことだからアレだし。私らの頃は誰だったかなぁ。やっぱり一番人気はオールマイトだったっけ。

 

後ろに振り返って、竹籠に入れたおせんべいをひとつ封を開けて口に運んでみる。あ、お茶を先に淹れれば良かった。まぁいいか。喉が乾いたら淹れよう。

 

(あれ)

 

そういえばショートさんも麗日さんも緑谷さんも雄英出身ってことはもともとそれなりに名が売れてるわけで、三人のヒーローショーとかもあるんだろうか。……いや、考え無いようにしよう。

 

それにしてもテレビで毎日何かしらのヒーロー活動を見ているとはいえ、やっぱり目の前で行われるショーというのは幼い子にとっては格別なんだろう。

 

私は、どうだろう。

目の前でヒーローの活動を見たと言えないかもしれないけれど、でも確かにあの人は私の足を氷漬けにして、ある程度のオールマイティな個性抑制機能がついた手錠をかけて、私を連れたパトカーを護送する形で付いてきた。

ヒーローと呼ばれる人を間近で見た。見ている。

 

「……」

 

凛とした立ち姿に、真っ直ぐな言葉。でもたまに見せてくれる笑顔が可愛い。そこに加えて正直人が良すぎるきらいがある。私が昔持っていた『ヒーロー』という言葉に再度色を付けてくれて、『家族』という現実を持たせようとしてくれる。そういうところまでひっくるめて、ヒーローであるショートさんなのだろう。正直、格好いいと思う。今、ヒーローショーを見てもきっと私は年齢とか関係なく、『本物』を目の前にし続けた結果として、満足感は得られないような気がする。

 

しかしそれにしてもやっぱりヒーローが民衆にわかりやすいヒーローらしい行動をする先にはヴィランがいて、そのヒーローはヴィランの行動を阻止し数を減らすために捕まえていく。皮肉が回り回ってるこの構造はいつかどこかで止まるんだろうか。あるいはヴィランが減らされ一人残らず駆逐された場合、残ったヒーローはどうなるんだろうか。民衆の星と称えられ続けるんだろうか。

 

そこで外門の開く音がして、ショートさんが帰ってきたのだと立ち上がりテレビの電源を落とす。たっ、と玄関の方に足を向けるとひんやりとした床板。

 

ヴィランがまだまだいて、現状毎日どこかしらで事件が起こっていることの是非は私にはわからない。だってヴィランがいなければショートさんのああいった姿も見られないし、私はヴィランだからこそここにいられているも同然なわけで。

 

だけどヴィランがいるということは、ヒーローであるということは、命の危険性がずっと隣に息を潜めずに存在しているということでもある。

 

とはいえ、ショートさんが帰ってくるって言うんだからそうなんだろう。私にはその事実があればいい。

 

見えてきた玄関の引き戸を、いつの間にか駆け足になっていたままがらりと開けると、わかっていたらしくショートさんがただいまと笑う。

 

「おかえりなさい」

 

そう、これから何度だって、私はこのやり取りを繰り返していたいのだ。

 

 

 

 

(その願いがどういった類のものなのか、私が気が付くのはずっと後のことだった)

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