転生オリ主ウマ娘が死んで周りを曇らせる話   作:丹羽にわか

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神戸新聞杯と菊花賞は次回!!


第10R 目醒めの朝/夢の重さ

Side:???

 

 

 

 

 

 

「さて、と……行きましょうか!!」

 

 

 初秋のまだ日も上っていない早朝。そのウマ娘の姿はトレセン学園から遠く離れた地にあった。

 

 

「ん~~~~空気が美味しいですね! 大自然のパワーを感じます!!」

 

 

 彼女が居るのはとある霊山の山麓にある寂れた神社の境内。以前行っていたようなパワースポット巡りではない。着替えや食料、キャンプ道具一式を持ち込み、学園に外泊の許可をとった上で神戸新聞杯までの期間をこの厳しい環境でトレーニングし徹底的に自分を追い込もうという考えだった。

 

 

「まずは……山頂まで行ってご来光ですね!!」

 

 

 パチパチと頬を叩いて気合いを入れ、軽くストレッチをする。

 彼女の服装は緑に覆われた霊山に不釣り合いなトレセン学園の紅白ジャージ姿だが、そのジャージは所々引っ掻けたようなほつれがあったり泥、枯れ葉等で汚れている。それはシューズも同様だった。

 

 

「よしっ、行きますよぉぉぉぉっ!! ふぬぅぁぁぁぁっ!!」

 

 

 道なんてものは無い。足元は見えづらく腐葉土で踏み込みにくい。所々根っこなどが出ていて足を取られる事もある。とてもではないがまともに走れる環境ではない。

 けれど彼女は足を止めない。進むべき道が見えているかのようにペースを落とすこと無く山中を駆け抜ける。

 

 他人が見ていればこう評しただろう。

 まるで神懸かっているようだと。

 

 

「とうちゃーくっ!! おっ? 今日は日の出前に着けましたね。いい感じです!!」

 

 

 山頂付近にある岩場に立つ。

 徐々に空は白んできているが太陽は顔を見せていない。初日は道に迷ったり転んだりイノシシに追い掛けられたりと散々な目に遭って昼前にようやく辿り着き、それから徐々にタイムを縮めてきた。

 なお、お守りの類いは持ってきていない。運に頼ってしまう甘さが残っていては決してサイレンススズカには勝てないと、断腸の思いで置いてきた。

 

 

「……菊花賞、そしてその前哨戦の神戸新聞杯。どちらも最大の難関はスズカさんでしょうね。現クラシック最強。無敗の二冠ウマ娘。異次元の逃亡者。いやー高い壁で首が痛くなっちゃいそうです」

 

 

 茶化すように言う。そうでなければ震えてしまうから。

 日本ダービーで影すら踏めずに負けたのは記憶に新しい。あの時の無力感が、絶望が、スズカの事を思い出すだけで湧き上がってくる。

 運。それは彼女にとって心の拠り所だ。物事の全ては運によって左右される。レースの勝敗すら運によって決まる。そう信じて走った『最も運のあるウマ娘が勝つ』日本ダービーでの敗北。

 あの時、彼女は一度折れた。シラオキ様のお告げがなければ菊花賞などへの出走を拒否していたと断言出来る程に。

 

 けれど、彼女は再起した。

 太陽が昇る。朝日が彼女を照らし出す。

 

 

「でも、私は負けたくありません。いいえ、勝ちたいです。運命なんて無いと証明してくれたトゥデイさんの為に。導いてくれたシラオキ様の為に。支えてくれるトレーナーさんの為に。応援してくれるファンのみんなの為に」

 

 

 そのウマ娘の名は、

 

 

「沢山の人から、いっぱい、いっぱい幸福を貰ってきました。だから私の走りで、勝利で、今度は皆に福きたる、なんちゃって……えへへ」

 

 

 マチカネフクキタル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方トレセン学園では。

 

 

「……んっ……あら?」

「うぇっ」

「トゥーデーイー? 朝練はまだダメって言われてるでしょう」

「いや、でも」

「言い訳しない。……ほら、こっち」

「ちょ、自分の所で寝るから……引っ張らないで…あっ」

「ふふっ……ちっちゃくてあったかい……」

「アババババ……ガクッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:沖野トレーナー

 

 

 

 

 

トレーナー室の窓から見えるナイター照明がグラウンドを照らしている。

 

 

「参ったなぁ……」

 

 

 チームスピカのトレーナー、沖野は目の前のテーブルに置かれた脱退届を見ながら唸っていた。

 それを沖野に突き付けたウマ娘は今年のクラシック中距離路線で活躍していた。重賞での勝利は上げられていないが、オープンクラスを確実に勝ちながら勝負経験を積み、能力差が少なくなり駆け引きが重要になってくるシニアで本格的にG1を獲りに行くというプランだった。

 けれど、テレビ中継で見た日本ダービー、その日のトレーニングで彼女は言った。

 

 

「私を強いウマ娘にしてください」

 

 

 楽しさなんて微塵も無い。まるで何かに追い立てられているような鬼気迫る表情の彼女に、咄嗟にいけないと思った沖野は首を横に振り、これまで通りのトレーニングに向かわせた。

 それから暫く。彼女の要望で出走したG3で入着し、喜ぶ沖野にたった一言「あなたとじゃダメなんですね」と言い残し、脱退届を突き付けて去っていった。

 自主トレなどで他のトレーナーから指導を受けていたと、風の噂で聞いたのはその後だった。

 

 チームのムードメーカーだった彼女の後を追うように一人二人とメンバーが抜けていく。あとはゴールドシップとデビュー前のウマ娘が数人程度。そろそろチームの登録自体が危ういレベルだ。

 

 

「ちゃんと指導して……か」

 

 

 沖野は「好きに走らせ、それをサポートする」方針を掲げるトレーナーだ。チームの利益云々よりも、ウマ娘1人1人が何がしたいのか、どうしたいのか、夢や目標に合わせてプランを組んでいく。

 一方で、トゥインクルシリーズで活躍する無敗のクラシック三冠に王手をかけた『異次元の逃亡者』サイレンススズカや『女帝』エアグルーヴなどが所属するチームリギルはトレセン学園の絶対強者であり、東条ハナによる徹底的な管理主義のもとで指導されている。

 

 東条と対照的な沖野の方針は、リギルの放つ光に目を焼かれたウマ娘達からすると「これでリギルに勝てるのか?」という疑問を抱くもの。そしてトレーナーを、何より自分自身を信じられなくなった者からスピカを去っていく。

 

 沖野自身、自分の方針に合う合わないがあるのは仕方がないと理解している。それでも、「貴方では私を導けない」と突き付けられた事は中々堪えた。

 

 

「おうおうおう、そんな洗濯機の中に入って四日目の濡れタオルみたいな顔してどうしたんだよ」

「どんな顔だよそれ……ゴールドシップ」

「んぁ?」

「お前、今楽しいか?」

「あぁん? どしたお前。ゴルシちゃんはいつでもハッピーうれピーだぜ? ま、そんな事より将棋しようぜ将棋」

「……ルール知らないんだが」

「あぁ? んなのこの石をまずは墓地に送るだろ? するとチェーン効果でキングが駒台から召喚されんだよ。で、キングの効果で相手の香車を除外する事が出来て、ATKとDEFが500のトークンをシールドとしてマナの消費無しに配置してよ。そんで」

 

 

 確実に将棋ではない何かを垂れ流すゴールドシップ。

 正直、彼女がいつからチームにいたのか沖野自身覚えていない。トレーニングや日常で色々と奇行をやらかす問題児だが、『一線』の見極めが非常に上手く敵を作らずに立ち回りつつ、本当に困っている相手に対してはそれとなく手を差し伸べたりと根っこの人の好さが出る時がある。また、粗暴な言動に対して食事の所作が綺麗であり、名家のお嬢様疑惑もあったりする。

 

 ふと、外から物音がした。

 

 

「お風呂一人じゃダメっていつも言ってるでしょう」

「無理です勘弁してください」

「もう日によっては冷え込むんだから……シャワーだけじゃなくてちゃんと湯船に浸からないと」

「堪忍してつかぁさい」

 

 

 ジムの方向から歩いてきたのはサイレンススズカと彼女にお姫様抱っこされたトゥデイグッドデイだった。無敗の三冠に王手をかけた異次元の逃亡者と青葉賞でダービーレコードに迫った黒い稲妻。どちらもリギルに所属し、来年のシニア中距離戦線のトップを争うことになると見られているトレセン学園の名物コンビ。

 

 

「ゴールドシップはさ、確かトゥデイグッドデイと仲が良かったよな?」

 

 

 編入当初、リギルに彼女を推薦したのは沖野だ。元々注目していたサイレンススズカと一緒に切磋琢磨する所はそれとなく見ていたが、時々、この黄金の問題児の奇行に褐色黒鹿毛の小さなウマ娘が付き合っているのを見ることがある。コサックダンスのステップでグラウンドを走っていたり、筋力トレーニングと称してダートコースの端に穴を掘って埋めてを只管繰り返したりと色々だ。方々に頭を下げ主犯のゴールドシップを叱りつけるエアグルーヴが「ママ」と陰で呼ばれる原因である。

 

 

「んでこいつの効果がえげつなくてよ……ってトゥデイ? あー…そりゃあアタシとアイツはあれだよ。ビーフシチューと肉じゃがみたいなもんだな」

 

 

 なぜ料理? 沖野は首をかしげる。

 

 

「あいつがどうかしたのか? どーせスズカにでも引っ張られて連行されてんだろ」

「まあそうなんだが……いや、お前さんから見てどうだ? トゥデイは」

「なんだぁ? 勧誘でもするつもりか? よっしゃ、いっちょやって」

「違う違う!! ズタ袋取り出さなくていい!! 普通に普段の様子を訊きたいんだよ」

 

 

 沖野が止めると、ズタ袋を折り畳んだゴルシは窓の外に目をやる。

 

 

なるほど……まぁ…問題ないか

「ん? どうした」

「いーやべっつにー……んでアイツはあれだな、いつもキョドキョドしてやがんな。トレーニングの時はまあ正直引くわ。あと全然飯食わねえな、だからあんな細いんだよ」

 

 

 沖野は意外だった。ゴルシがまともな返答をしている。明日は槍が降るかもしれない。

 

 

「それにちっこいから人混みん中だと見失うしよ。服もだっせえのしか選ばねえし」

「ん? なんだお前たち一緒に出掛けたのか」

「お、おう、そりゃあこのゴルシちゃんとトゥデイの仲だからな!!」

 

 

 そう言うと「やべっ、ゴルゴル星への終電が出ちまう!!」と部屋を飛び出すゴールドシップ。

 ふと時計を見れば寮の門限が迫っている。グラウンドの照明は消され、ポツポツと街灯の明かりだけが灯っていた。

 

 

「……俺も帰るか」

 

 

 パソコンの電源を落とし荷物を纏める。

 

 

「どうか……夢を、見失うなよ」

 

 

 呟いて、手にした退部届を鞄に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「重いなあ……ほんとによぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




走者「クラシックでは周りのウマ娘達の好感度稼ぎの為にかなりストーリーを掻き回したので、シニアは概ね原作通りの流れで進めるのが安定です。だからフクキタルによってスズカを曇らせる必要があったんですね」


ガバ「原作! 覆さずにはいられないッ!」


ここはRTA世界ではないですが……RTAの勘違いモノ大好きです


 沖野TのNTRウマ娘はモデル無いです。今後登場も無いです。
 ……正直、沖野TやアプリTがやった引き抜きはなぁ。ほんと、おハナさんやブルボンのベテランTは人格者やで。


 ふとゴールドシップを曇らせたくなった。この世界線ではスズカがメインだから本編で掘り下げはしません。ifでね(はーと)


各話にタイトルいる?(第10Rなら『目醒めの朝/夢の重さ』とか)

  • いる
  • いらん
  • テヘラン
  • ┐(´ー∀ー`)┌レーダージュシン

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