転生オリ主ウマ娘が死んで周りを曇らせる話   作:丹羽にわか

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 流石にいきなり菊花賞には入りにくかったので箸休め回

 次こそは菊花賞に行ける(何度目かの正直)


第13R 信じる/98

Side:東条ハナ

 

 

 

 

「(この調子だとトゥデイの復帰は年明けかしらね)」

 

 

 東条ハナはグラウンドの芝コースの大外をスローペースでジョギングするトゥデイグッドデイと、内を猛スピードで駆け抜けるサイレンススズカを眺めながら心中で呟く。

 

 

「(スズカの無敗はストップ。それでもクラシック三冠には王手をかけてる)」

 

 

 先日の神戸新聞杯でサイレンススズカは敗北した。東条にとってその敗北は予想していた結果だった。レースには心技体、そして運が備わっていなければ勝利はない。先のレースにおいてスズカは同じレースで競い合うマチカネフクキタル達を見ず、怪我で走れないトゥデイばかりを見ていた。慢心。油断。つまり『心』が欠けていた。

 それを指摘せずに走らせたのは敗北がスズカの糧になると判断したからだ。無敗を逃すのはチームリギルにとって惜しいが、彼女のこれからの飛躍に繋がるのなら気にならない。

 

 しかし、東条にとって誤算だった事が一つ。

 

 

「(まさかここまで調子を上げるなんてね……ほんと、あの子は何を吹き込んだのやら)」

 

 

 神戸新聞杯のウイニングライブ後に二人だけで話す時間を設けたのだが、その時にどういうやり取りがあったのかを東条は知らない。戻ってきた二人を見たグラスワンダーの「なるほど」という呟きがやけに印象的だった。

 

 

「(まあそれは置いておいて……次は菊花賞の芝3000メートル。流石にこれまでの逃げ方だとスタミナが持たないだろうけど、作戦次第で十分勝利を狙えるわね)」

 

 

 スズカは『異次元の逃亡者』と称される程の生粋の逃げウマだ。しかし、これまで出場したレースは全て中距離であり長距離は未経験。他の陣営はそれを念頭に置いた走りをしてくるだろう。

 東条はそれを逆手に取るつもりだった。

 

 

「(ただ、スズカが素直に頷いてくれるか……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました」

「え?」

「この作戦で走ります」

 

 

 既に日が暮れたトレーナー室。東条が提案したレースプランをタブレットで確認したスズカは迷い無く言った。

 渋ると想定していた東条は普段の鉄面皮を崩して目を丸くする。

 

 

「……いいのか?」

「はい……いつもの走り方では長距離でフクキタル達に勝てません。私は……全力を尽くします」

 

 

 そう話すスズカの目に迷いはない。

 

 

「……変わったな、お前は」

「トゥデイ達のお陰です。あ……勿論、トレーナーさんもですよ?」

「そんな取って付けたように言われてもねえ」

「すみません……ふふっ」

「ちょっと、謝罪に誠意が無いわよ誠意が」

 

 

 笑い合う東条とスズカ。

 

 

「ああ……そういえば」

「? なんでしょう」

「トゥデイの復帰時期、決まったわよ」

「!! そう、ですか」

 

 

 東条の言葉にスズカは耳と尻尾をピクリと動かすが、それ以外の反応は示さない。

 

 

「あら、意外と冷静ね。一緒に走りたいからどのレースに出るのか含めて訊いてくると思ったけど」

「そうですね……勿論、気になりますし走りたいです。でも、トゥデイなら追い付いてくれますから……絶対に」

「あの子を信じてるのね」

「はい」

 

 

 断言するスズカに東条は苦笑する。

 

 

「……? どうかしましたか?」

「いや、何でもない。ほら、そろそろ門限だぞ」

「あ……すみません、お先に失礼します」

 

 

 一礼してトレーナー室を後にするスズカ。

 その背を見送った東条は窓辺に立ってガラスに映り込んだ自分と向かい合う。

 

 

「(信じる……ね)」

 

 

 東条が思い出すのはトゥデイの青葉賞。

 奇跡を信じ、走らせ、勝利はしたものの骨折し、共にダービーを走る二人という夢が泡と消えた苦い記憶。ここで奇跡を信じようが、トゥデイを信じようが結果が変わる事は無い事くらい東条の理性は理解できている。しかし、心の奥底にいる子供っぽい自分が彼女自身を信じていれば…と泣き言を漏らす。

 

 

「折れたウマ娘が立ち上がるには奇跡が必要。けれど、そもそもトゥデイは折れていなかったのね……奇跡を信じた私が早とちりしたバカだっただけで」

 

 

 トゥデイはまさに『不撓不屈』だ。普通のウマ娘なら骨折で走れなくなったら未来に不安を抱き絶望に押しつぶされてしまう所を、決して頭を下げずに前を向いてリハビリやトレーニングに取り組んでいる。しかも自棄になったように身体を痛めつけるのではなく効率を第一に考えて苛め抜く。並みの精神力ではこなせないだろう。

 

 

「……あいつから頼まれた時はどうなるかと思ったけど」

 

 

 身体は小さく手足も細い。とても走れるようには見えなかったし、実力が違いすぎてルドルフらと併走すら出来ない有様だった。そこからスズカを超すことを目標に掲げてトレーニングに励み、距離適性すら克服して彼女のライバルになった。

 

 

「そうね……きっとトゥデイなら、貴女に追いつくわ」

 

 

 東条は呟いて窓辺を離れた。

 

 

 

 ガラスに映る口元に、柔らかな笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:グラスワンダー

 

 

 

 

 

「ムムム……グラスは連勝…絶好調デスね。チームリギル、学園最強チームは伊達じゃないデース」

「ふふっ、トレーナーさんや先輩方の顔に泥を塗るわけにはいきませんから」

 

 

 始業前の教室。

 机に広げた月刊のレース雑誌を前に二人のウマ娘。デビュー戦に続いてアイビーステークスでも勝利を収めたグラスワンダーと、その同室のエルコンドルパサーだ。

 雑誌には『最強!! チームリギル特集!!』と銘打たれ、二人が見ているのはグラスワンダーのページである。

 

 

「この調子だと次のレースも余裕そうデスねー」

「そんな余裕なんて……レースに絶対はありませんから。持てる全てを振り絞って走るだけですよ」

 

 

 二戦ともに圧勝し、ジュニア最強候補の一人として世間や関係者からの注目を集めているグラスワンダーだが、一部で『武士』『大和撫子というか薩摩隼人』と囁かれる精神で慢心することなく次のレースを見据えていた。

 

 

「うぅ~エルもリギルに入りたいデース」

「う~ん……チームは既に定員なので難しいですね~。他のチームに入るかトレーナーを捕まえるかしないと……スカウトの話は来ているんでしょう?」

「それは分かってますケド、なんだがビビッと来ないんデス」

「焦るよりもトレーニングしつつ気長に待つのも一つの手ですよ? 急いては事を仕損じるとも言いますし」

「せい……こと?」

「エル……」

 

 

 首を傾げているエルコンドルパサーにグラスワンダーは苦笑する。

 

 

「焦っているときほど急いで失敗しがちだから、落ち着いて行動しましょう。という意味ですよ」

「なるほど!! さすがグラァァスデェース!!」

「現代文、ちゃんと勉強しましょうね?」

「Oh、これがヤブヘビ、というものデスか」

 

 

 エルコンドルパサーは大げさに肩を落としグラスワンダーはくすくすと笑う。

 

 

「あら、二人とも何を見ているのかしら」

「おはよ~」

「おはようございますキングちゃん、セイちゃん」

「ブエノスディアス! チームリギル特集デース」

 

 

 二人の所にやってきたのはキングヘイローとセイウンスカイ。同級生であり、クラシックを争うことになるであろうライバルだ。

 

 

「くっ……全然羨ましくなんてないわ!」

「はいはい、そうだね~」

 

 

 負けん気が強いキングヘイローは同級生のグラスワンダーが雑誌に載っているのを悔し気に見て、その様子にセイウンスカイ達は苦笑する。

 

 

「チームリギル凄いよね~。七冠のルドルフ会長とかは当然だけど、今年のクラシックでもスズカさんが菊花賞に勝てば三冠だっけ」

「そうね……異次元の逃亡者。悔しいけど、今の私には追い付けそうにないわ」

「今の?」

「何よ」

「ん~ん、何でも~」

「スカイさんっ」

 

 

 ムキィィッっと昔の漫画だったらハンカチを噛んでいそうなキングヘイロー。

 

 

「えっと次は……トゥデイグッドデイ?」

 

 

 エルコンドルパサーがページを捲り、そこに書かれているのはトゥデイグッドデイというウマ娘についての記事だった。

 

 

「3戦2勝、うち一つはG2の青葉賞。確かその時の怪我で今は療養中だっけ」

「黒い稲妻ね。私も中継でレースを見ていたけど、最終コーナーからのあの追い上げは見事だったわ」

「あ、この人はグラスがよく話してる先輩デスね」

「ええ。トゥデイさんはちっちゃくて不器用で女の子としてちょっと危なっかしい所があるんですけど、レースやトレーニングでは人が変わったように真摯で実直で、あの姿勢は全ウマ娘の見本だと思うんです。それに普段あまり感情を表に出さないあの人がふとした時に見せる凛々しさや、手が触れた時とかの慌てようはそれはもう……ギャップにクラクラしてしまいそうで。あと、小食気味なので食事されているときは一口一口が小さくて小動物的な可愛さがあるんです。それでオグリ先輩達と一緒に食事をする時は普段を遥かに超える量を泣きそうになりながら一生懸命食べていて、なんというか……その」

「ストップ!! ストップデェェェス!!」

「……あら?」

「「(ナイス!!)」」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 恍惚とした表情で語るグラスワンダーのセリフをエルコンドルパサーが遮る。

 彼女の第六感が「まずいですよ!?」と警鐘を鳴らしていた。

 

 

「もうエル、急に大声を出してどうしたんですか」

「……自覚無しデス?」

「自覚??」

「いや、何でもないデース」

「なんというか」

「意外な一面ね」

「????」

 

 

 首を傾げるグラスワンダーを引きつった顔で見る三人。

 微妙な空気が流れるが、クラス担任の教師が教室に入ってきたことでその場はお開きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トゥデイグッドデイ

 

 3戦2勝、主な勝利レースはG2青葉賞。

 チームリギルに所属し『黒い稲妻』の異名を持つ。その異名の由来になったのは青葉賞で見せた稲妻の如き末脚……ではなく、かの『白い稲妻』タマモクロスと対照的な容姿である。

 青葉賞ではサイレンススズカが更新する前のダービーレコードにあと一歩迫る走りを見せ勝利。前述のサイレンススズカとのリギル同士での対決が期待されたが骨折により出走を断念。現在は療養中である。

 

 消息筋によると復帰はシニアの春頃と見られているが以前のような走りを見せてくれるかは不明。彼女の今後の動向に注目したい。

 

 

 

月刊UMA11月号より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 




 菊花賞……逃げ……ウンス……頭の中で何かが。

 スズカは策を弄することも含めて『全力』で菊花賞に挑むようです。なお中距離以下は「細けぇことはいいんだよ!!」とスピードの向こう側へかっとぶ模様。


 スペ以外の98世代ウマ娘登場。セイウンスカイが昼寝してるところにツナ缶で猫をおびき寄せてにゃんこ包囲網作りたい。師匠と一緒に実装はよ。


 この世界線のグラスはデジたんと吉良吉影から因子継承を受けている……?(迷推理)


各話にタイトルいる?(第10Rなら『目醒めの朝/夢の重さ』とか)

  • いる
  • いらん
  • テヘラン
  • ┐(´ー∀ー`)┌レーダージュシン

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