スズカ達97世代の出番は皆無です。
後書きにもありますが活動報告良かったら見ていってください。
Side:沖野トレーナー
「よーし休憩だ」
チームスピカのトレーナーである沖野が教え子達を引き連れてトレーニングしに来ているのはトレセン学園近くの神社だった。小山の山頂に作られた境内まで数百段にもなる石段があり、平地を走るよりも大きな負荷を掛けるトレーニングが行えると一部のトレーナーやウマ娘達の間で知られている穴場だ。
「ハァ……ハァ……」
「ひぃ……ふぅ……」
「エル、スペ。辛いのは分かるが立ち止まるな。歩け歩け。ほらこれ、一気には飲むなよ」
「「はぁーぃ……」」
ノロノロと立ち上がりスポーツドリンクを受け取るエルコンドルパサーとスペシャルウィーク。二人はフラフラとした足取りで境内を歩く。
「テイオー、ウオッカ、スカーレット、ゴールドシップ、お前たちもだ」
「ナンデキョウハスパルタナノー」
「去年の弥生賞と青葉賞の映像、見ただろう? 坂の攻略にピッチ走法のレベルアップは必須だ。流石に坂で加速しろなんて無茶は言わないが、疲労を最小限に、ペースを落とさず駆けあがれないとその後の直線で脚が動かないぞ」
「トゥデイのあの回転数はアタシらには無理だってのー」
「そりゃ体格が違うからな。だが、歩幅を抑えて回転数を上げるってのを意識するにはいいお手本だろ? 一休みしたら再開するからな。ほら、一周歩いてこい」
「「「はぁーい」」」「あいよー」
他の面々にもドリンクを渡し、一人になった沖野は鳥居に寄りかかって空を見上げる。
「どうしたもんかなぁ」
沖野はウマ娘の耳でも捉えられないほどに小声で呟く。
エルコンドルパサーとスペシャルウィークのタイムを計ったストップウォッチに表示されている数値は事前に定めていた目標にかなり近づいている。この調子ならダービーまでに身体を最高の状態で仕上げられると沖野が確信できる程に順調だ。
だが、足りない。
「……別に欠点って訳じゃ無いんだかな」
沖野は懐から棒つきキャンディを取り出し包装を外して咥える。
皐月賞でスペシャルウィークはグラスワンダーに敗北した。いくら彼女が類い稀な才能をもったウマ娘だとしても、チームリギルの東条ハナが鍛え上げたジュニアチャンピオン、怪物二世と称される相手との実力差は大きかった。
その敗北にスペシャルウィークは「凄かったです! それに楽しいレースでした!」と笑顔だったのが沖野の頭を悩ませていた。
(負けたレースでも楽しいと思える。相手との実力差に折れずに次を見据えられる。間違いなくスペの良いところだ)
スペシャルウィーク達の一つ上の世代は後世には『スズカ世代』と呼ばれるだろうと沖野が思う程にサイレンススズカが強い。長距離においては菊花賞を制したマチカネフクキタルや天皇賞春のメジロブライト、マイル以下ではタイキシャトルといった面々がいるが、クラシックディスタンスにおける最強はサイレンススズカで間違いない。
そんな彼女の走りを前に、かつて沖野の担当していたウマ娘や、去年のジャパンカップでのエルコンドルパサーのように心折れたウマ娘がどれだけいるか。
(勝利への渇望を持たない。敗北の恐怖を感じない。そういえばスペがファンだって言ってたのはトゥデイグッドデイだったか?)
彼女も随分な変わり者だと沖野は思う。
大阪杯の結果を見る限り彼女の実力はサイレンススズカを始めとするGⅠウマ娘達には僅かに及ばない。普通ならGⅠを避けるか合間に勝ちを拾えそうな重賞を走るだろうが、一貫してサイレンススズカと同じレースに出続けている。
先日、春の天皇賞を勝利したメジロブライト、2着のマチカネフクキタル、3着のキンイロリョテイに加えてステイヤーだろうと見られていたトゥデイグッドデイも有力候補だったが出走しなかったのは学園の外部では驚きをもって伝えられていた。『ウマ娘大陸』で二人の親密さは報道されたが、ライバルとしての二人の関係が世間に浸透しているとは言い難い。マチカネフクキタルとエアグルーヴの方がライバルとして名前が挙がるのが現状であり、実績を見ればそれが当然だった。
(その現状にあいつは何を思うのか。おハナさんが不調を見落とすとは思えないが、青葉賞の時みたいに限界を超えたら次は……っと、大きなお世話だな、これは)
沖野は頭を振ってそれまでの思考を追い出す。
「グラスワンダー、エルコンドルパサー、スペシャルウィーク。この調子ならダービーの時点で三人の能力に優劣は無い。そうなると最後は気持ちの勝負。最後に限界を超えられるか、っていう話になるんだが」
限界を超える切っ掛け。それが今のスペシャルウィークには無い。
「友達と一緒にレース出来ることが楽しい。今のスペはそこ止まりだからなあ」
候補としてあったのはライバル達との競り合いにおいて『負けたくない』『勝ちたい』という渇望だが、皐月賞での敗戦と今までの様子から、そういった感情を自覚している様子はない。
エルコンドルパサーは問題無い。自らをチャレンジャーとして強者たちに食らいつくその姿勢は、世界最強を自称し弱い自分を奮い立たせていた以前よりも瞳に熱がある。
「……リギルとの模擬レース組んでも効果は薄いか。スペはなまじ実力と才能がある分タイキシャトルやエアグルーヴ相手でも拮抗したレースになって楽しんで終わるだろうし。サイレンススズカは劇薬すぎる」
全てのウマ娘にとって夢ともいえるサイレンススズカの走りを味わったら心酔するか心折れるか、はたまた別の化学反応を見せるか、リスクが大きすぎて沖野は選択肢から外す。
「そうなるとトゥデイグッドデイは……勝負の土俵にまでスペが意識を持っていけないか。戦意をあっちが真っ向からぶつけてきてくれればワンチャン……いや、そんな性格じゃないな」
おおよそ闘争心という言葉の対極にある無表情を思い出す。レース中にも変わらない表情と、ウイニングライブやオフの際に見せる挙動不審な言動から誰が呼んだか『ポンコツアンドロイド』とはまさに言い得て妙だ。
「今年のジャパンカップか有馬あたりでぶつかったら面白そうだけどな」
沖野は呟くと鳥居から背を離す。
途中で合流したのかスペシャルウィーク達六人が和気藹々と談笑しながら戻ってくるのが見える。
「ダービーの最終直線。そこに賭けるしかない……か」
Side:オリ主
ダービー一週間前ですけど、模擬レースはまだですかねー?
おハナさん話とかは来てる? 無い? そう……。
あー、グラスさん? 君のライバルの様子はどうかな?
「皆さんダービーに向けてトレーニングを頑張っているそうですよ。ふふっ、私もつい滾ってしまいます」
さいですか。青いオーラが見えるよ。抑えて抑えて。
さて、どうしたものか。
トレーニング中のスピカをチラ見したり、おハナさんの戦力分析を聞いている限りではスペはグラスやエルに劣らない成長を見せていて要警戒との事らしい。
皐月賞でアニメよりも強い走りを見せていたが、成長具合が異なっている影響で沖野Tが模擬レースは不要と判断した、ってのが可能性としては高いからこの心配は杞憂だと判断した方がいいのだろうけど。
むしろ、スペがダービーを制してグラスがそれに奮起するなんてのもあるかもしれない。
……いい。
とまあ深刻には捉えずに私は日々のトレーニングをこなしている。
次の私のレースは来月の宝塚記念。既にファン投票の中間発表は出ていて、スズカが1位で2位はエアグルーヴパイセン、3位はフクキタル、タイキとグラスも上位10名に入っていた。私は14位と存外高かった事に驚いたが、おハナさん曰く「ウマ娘大陸で認知されたところに、金鯱賞と大阪杯で入着したことでファンが広くついたんだろう」との事。
絶対強者に対抗して頑張る子っていいよね、という同情票だろう。高校野球とかで常勝の名門私立校よりも、地方の公立校が勝ち上がった方が盛り上がる的な。
まあファン投票云々はどうでもいい。優先出走権が貰えなくても、今年の宝塚記念はスズカのおかげでフルゲートになる見込みは低いから出走はまず可能。これまでスズカと同じレースに出ているのだって、ライバルとして私に意識を向けさせる事でグラスペを守るため。賞金がどうとか実績がどうとかは知らんし。
だから、フクキタルに「なんで天皇賞出ないんですかぁぁぁぁ!?」と泣きつかれたのは正直困った。
そもそも私が3200メートルを走り切れるかというと厳しいと思う。スタミナ的には問題ないだろうけど、私のピッチ走法は息を入れたり脚を貯めるという事をしない、というかGⅠレースのペースだと出来ないから、3000メートルあたりで筋肉が疲労で限界を迎える可能性が高いというのが最近のおハナさんによる分析だ。大学駅伝とかで走者が足ガックガクになって倒れこんだりするアレと同じ感じ。
かといってストライド走法でもなあ。今はラストスパート時の踏み込みの負荷にはある程度耐えられるけど、長い距離を走った時の連続する衝撃で骨や関節がどうなるか。秋天までは怪我するわけにはいかないから春天は回避という事になった。
その辺りの事情を説明して一応は納得して貰えたみたいだけど、そうしたら今度はスズカも巻き込んで「宝塚記念で雌雄を決しましょう!!」という話になった。マイラーのタイキが仲間になりたそうな目でこちらを見ていた。すまぬ。
ちなみにタイキは7月下旬頃にフランス遠征が決定している。確かジャ……ジャックスパロウ賞とかなんとか。スズカは今の所話は出ていなさそうだけど、今度の宝塚と秋天を獲ったら国内の実績は十分だろうしトレセン学園の内外から海外遠征を望まれる可能性が高い。おハナさん的にも、タイキと同様に国内に敵がいない状態になれば海外に行く事を検討するだろうし。
グラスは……たぶんシニア一年目は国内で二年目から海外? スペは確か史実だとシニア一年目の有馬で引退だったけど、こっちだとドリームトロフィーリーグがあるし走り続ける筈。
急いては事を仕損じるとも言うし、私が積極的に動くと大抵碌なことにならないのは去年の諸々で学習した。
観葉植物になったつもりで見守ろう。グラスペを。
そして迎えるはダービー当日。
今日の一番人気はジュニアチャンピオンで無敗の皐月賞ウマ娘『怪物二世』グラスワンダー。二番人気はこちらも無敗でNHKマイルカップを制し変則二冠がかかった『怪鳥』エルコンドルパサー。続いてスペシャルウィーク、キングヘイロー、セイウンスカイの順。
ファンファーレが鳴り響き、ウマ娘達がゲートに入っていく。
<1枠1番エルコンドルパサー>
<1枠2番キングヘイロー>
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<3枠5番スペシャルウィーク>
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<6枠12番セイウンスカイ>
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<8枠18番グラスワンダー>
スピカの面々がいるところから少し離れた屋外席の一角に我々リギルも陣取りグラスを応援している。そういえば去年のスズカのダービーもこの辺りから観戦していた気がする。
本来ならば有り得なかったダービーでの二人の対決。
まさか、こんなグラスペの舞台を見れるとは去年の時点では欠片も思っていなかった。いや、スズカが覚醒してそれどころじゃなかったってのもあるけど。
どうか、最高のグラスペを。
最高のライバル同士の想いの激突を、私に見せてくれ。
<グラスワンダーとエルコンドルパサーが並んでゴール!!!! ダービーを制したのはどっちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??>
はい……はい?
スゥ~ハァ~……。
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚) ………
( ゚д゚ )
なんで????????????????????????????????????????
次回は98世代の日本ダービー。
スペシャルウィークにとって『にんじん』は『スピカの皆さん』なのは変わりませんが、それに気づかせてくれた憧れの人は居ないのです。誰かさんのせいで。
イラストの練習を兼ねて過去話に挿絵を追加しようと思います。場面のリクエストを募集しているので下記の活動報告まで。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=273833&uid=205410
あと、トゥデイグッドデイ(Notデイカス)が実装されたらの妄想も活動報告に載せてます。完結後に特殊タグ使ってニコニコ大百科風にまとめると思うので、皆さんも良かったら育成シナリオとか妄想していってください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=275502&uid=205410
【再掲】完結後の秋天IFルートで一番読みたいのは?(好みの調査です。感想への誘導が規約違反だったので再掲)
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秋天逃げ切り勝利√
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秋天故障半身不随√
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スズカ告白√
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一番いいのを頼む(↑上3つ混ぜ混ぜ)
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その他(活動報告にどうぞ)
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答えだけ見たい方向け