転生オリ主ウマ娘が死んで周りを曇らせる話   作:丹羽にわか

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今回から夏合宿
今のところ数話かかる見込みなのでサブタイがこんなんになってます

完結後のIF√短編についてのアンケートやってるのでよかったらどうぞ


ーーーーー追記ーーーーーー
感想欄でのリクエスト伺いが規約違反らしいのでアンケート作り直しました! 
こんなんが読みたいなどは活動報告にてお願いしますm(_ _)m
ほんとスミマセン……なんでもしまむら!!

↓活動報告のURLです
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=283558&uid=205410


第27R 曇りのち晴れの夏合宿1

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 宝塚記念が終わって暫く。夏合宿に向けて学園中が浮つき出すこの時期。トレセン学園近くのバーに東条と沖野の姿があった。

 

 

「ため息つくと幸せが逃げるっていうぞ」

「…………はぁ」

「こりゃ重症だな」

 

 

 すでに度数の強い洋酒を何杯も飲んでいる東条の頬は赤い。沖野は頭を掻き、目線とジェスチャーでバーテンダーに水を注文する。

 

 彼女がこうなっている原因は明らかだ。

 

 先日の宝塚記念、東条の教え子であるトゥデイグッドデイがゲート入り中に吐血し競走除外になった。

 そして、こちらもまた教え子であり一番人気だったサイレンススズカがマチカネフクキタルに敗れ、その原因がトゥデイグッドデイにあるとする一部の者達からのバッシング。その対応に追われている事に加えて、チームのウマ娘達へのケア、そして自分自身への呵責と彼女の心身への疲労は相当なものだ。

 悩みを吐き出すことで少しでもストレスが和らげばと沖野が強引に飲みに連れ出したのだが、東条は相当堪えているようだった。

 

 

「俺もトゥデイのパドックの映像とか色々見返したけどさ、変調の兆しはまったく分からなかったよ。おハナさんの方でも毎日バイタルチェックとかはしてたんだろ? 親友のスズカ達、あの場にいた解説や他のトレーナー連中だって誰一人気付いてなかったんだ。切り替えていくしかないさ」

 

 

 トゥデイグッドデイの診断結果はストレス性の急性胃粘膜病変と出ていた。治療は全治1週間ほどで既に退院し普段通りのトレーニングをこなしており、夏合宿にも問題なく参加できる事になっている。

 

 

「それでも、私はあの子達のトレーナーなのよ。気づけるかどうかじゃない。気付かなくちゃいけなかったの」

「……理想は、そうなんだがな」

 

 

 沖野は眉を顰める。

 ウマ娘というのはメンタルの良し悪しや体調の好不調が表に出やすい事が多い。それは耳や尻尾、肌、睡眠不足、トレーニング結果など分かりやすい形で現れる。一方で、骨折などの怪我は生来のバ力に対する身体の脆弱性から前兆が無いことが殆どだ。

 だが、彼女の場合はそうではない。問題があったことが分かるときは問題が発生したときという、突然壊れてしまった電化製品を思わせる。

 トゥデイグッドデイというウマ娘の精神性は歪だった。ウマ娘としての本能を抑えつけてしまうほどの理性をもつ一方で、過去に植物状態になるような怪我を負うも凄絶なリハビリの果てにトレセン学園へと編入するという無茶を実行し、身体的ハンデを抱えながら不断の努力を重ねて同期の世代最強へと挑み続け、遂にはその影を踏もうとしているのは異常の一言。

 

 

「トゥデイグッドデイと話はしたんだろ? どうだった?」

「……タイキのフランス遠征への同行は断られたわ。憧れてくれている後輩のためにも頑張りたいって」

「憧れてくれている後輩……ね」

 

 

 その後輩に沖野は心当たりがあった。

 日本ダービーでグラスワンダー、エルコンドルパサーに続く3着という結果で終えたスペシャルウィーク。彼女がダービー当日の夜、中庭にてトゥデイグッドデイ、サイレンススズカと会話しているところを途中からではあるが彼は物陰から見ていた。

 日本一のウマ娘という夢への第一歩を踏み外し茫然としていたスペシャルウィークの『走る理由』を見つける、否、思い出す切っ掛けになった出来事。

 それ以来、スペシャルウィークは調子を持ち直しトレーニングにも意欲的に取り組み、若干落ち込みがちだったエルコンドルパサーも触発されるように調子を上げている。

 宝塚記念の一件で多少戸惑いや心配はあったようだが「トゥデイさんなら大丈夫」と信じているようで影響は最小限。いい状態で夏合宿を迎えられそうだった。

 

 

「そう、後輩。仕方のないことだけど、ファンに対しては冷淡なのよね、あの子」

「冷淡?」

「冷めてるって言えばいいかしら。ほら、ファンの応援を受けて頑張るっていうウマ娘は多いし、その裏返しでメンタルを崩す娘もいるじゃない?」

「……そうだな」

 

 

 沖野は頷く。

 トゥデイグッドデイのようにゲート入り前後でのトラブルやレース中に斜行などで妨害してしまった、高い人気だったのに負けた、大きな記録を阻んだなどの場合に、ファンから心無い言葉を浴びせられウマ娘の調子が崩れてしまう例は散見される。

 

 

「トゥデイはそれが無い……と」

「ええ。SNSでの発信はやっていないみたいだし、エゴサもやらないでしょうね」

「なるほどな……ほんとに女子高生か? あいつ」

 

 

 東条からの話を聞く限り、彼女の知る限りで胃を破壊するようなストレスの原因となった出来事は無さそうだった。ファン投票の結果で優先権が決まるグランプリへの出走が重荷だったという線もあるが、投票結果に関わらず出走は決めていたようだし、本人の気質的にレース自体でストレスを感じるとは考えにくい。

 

 

「となると、背負わせちまった……んだろうな」

「それは、どういう事?」

 

 

 沖野の呟きに東条が反応する。彼がダービーの夜の出来事について話すと、彼女は水の注がれたグラスに視線に落としながら「そう……そんなことが」と漏らす。

 

 

「スペの夢を背負っちまったから、そのプレッシャーに耐えられなかった。互いに編入生で、同期に絶対的なライバルがいる挑戦者ってのもあるか? スペに対して何か感じる所があるのかもな」

「……トゥデイとスズカ、スペシャルウィークとグラス。確かに……ね。でも、トゥインクルシリーズを走るのなら、誰かの夢を背負うのは当たり前のこと。スズカを超えるという夢だけを抱えてスズカたちG1ウマ娘に勝つなんて、それこそ夢みたいな話だわ」

「そりゃあな。スペがグラスに負けたのもそこの部分だろうし」

「あら。そこはグラスの実力に決まっているわよ」

「うっせ」

 

 

 空元気だろうが微かに笑みを浮かべる東条。

 

 

「トゥデイはようやく次のステップに踏み出した……っていう事なのかしらね。成長率は宝塚前よりも明確に高くなっているし、夏合宿で大きく伸びそう。勿論、これまで以上に気を付けて見ないとだけど」

「なら秋のG1は要注意だな。リギルからはサイレンススズカ、グラスワンダー、エアグルーヴに加えてトゥデイグッドデイ。あーあ、俺達みたいな零細チームからすると悪夢みたいだぜ」

「……どの口が言うんだか」

 

 

 クラシック三冠の最後の一つ、菊花賞をスペシャルウィークは目指すことになる。打倒サイレンススズカを掲げるエルコンドルパサーは天皇賞秋の予定だ。そして、両者ともにジャパンカップをクラシック最終戦に据えている。確実に東条の教え子達と相見える事になるだろう。

 

 

「トゥデイ以外は大丈夫なのか?」

「……スズカが、ちょっとね」

 

 

 東条は宝塚記念以降、明確に調子を落としているサイレンススズカの事を思い出す。自らの敗北によって親友が世間からバッシングを受け、勝者であるフクキタルが讃えられないという現状に思うところがあるのだろう。走りに迷いが出ているように見えた。

 

 

「スズカの走りにはどうしても夢を見ちまう。誰だってそうだし、俺もそうだ。宝塚から今までの騒ぎは、その裏返しなんだろうな」

「ほんと勝手よね……ヒトって」

「そうだな」

 

 

 沖野も酒に口をつける。

 

 

「スズカのメンタルはどうするんだ?」

「夏合宿で環境を変えてみてどうなるか……って感じね。マチカネフクキタルのトレーナーに声をかけているから、当人達の間で上手く消化できればいいと思うんだけど」

「こればかりはな、チームトレーナーの俺達が深入りしてどうにかなる問題じゃないし……専属として見てればまた別だろうが」

「そうね……」

 

 

 専属トレーナーは時に『恋人以上』『人バ一体』『一心同体』と言われるほどの関係性を構築し、そうなったウマ娘はレースにおいて圧倒的なパフォーマンスを発揮する。

 現役の専属トレーナー持ちウマ娘の中で特に有名なのがマチカネフクキタルであり、休日には商店街をトレーナーと見回ったり、調子に乗ったところでアイアンクローを掛けられて奇声を上げたりする所が目撃されている。

 なお、専属トレーナーとその担当が卒業後に結ばれる確率は高い。新人トレーナーの初の専属契約だった場合は特に。

 

 

「フクキタルのとこに便乗するわけじゃないが、おハナさんが良ければ夏合宿、スピカと合同トレーニングなんてどうだ? こっちはデビュー前の奴らが多い。勉強させてもらうが、そっちの刺激にもなると思うんだが」

「いいけど、折れても知らないわよ?」

「ハッ、そんなヤワな鍛え方してねえよ」

 

 

 沖野と東条は不敵な笑みを浮かべ、酒を飲み交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏が来た。

 

 海だ! 水着だ! 祭りだ! 浴衣だ! といつもとは一味違うウマ娘達の姿を見られるという、私のまな板のような胸がいつもより躍る(非物理的に)時期。

 

 そして夏合宿である。

 

 去年も一昨年も来た筈なのに記憶が無いが……ネタが思い付かなかったから書かなかったなんて事はないだろう。ん……? 今私は何を……。

 

 ま、それは一旦置いておこう。

 

 デカくて内装がホテル並みに整ったバスを降り合宿場所に近い海沿いのこれまたデカいホテルという札束の暴力を目の当たりにし、割り当てられた部屋に荷物を置いた私達チームリギルの面々はジャージに着替え、おハナさんを先頭にトレーニングを行う砂浜へと向かっていた。

 その途中、私はぽつぽつと見慣れぬ人影があることに気付く。

 

 

「っ! でっか……」

「警備の方のようですが……ばんえいウマ娘ですか」

 

 

 身長は二メートルくらいあるだろうか。ほわほわした柔和な顔つきや雰囲気とは対照的に筋肉モリモリマッチョマンとでも言いたくなる体格をもつばんえいウマ娘の警備員がいた。目が合いこちらに向かってひらひらと手を振っているけど半袖の制服から露出してる二の腕すっごい。私のウエストより太そう。というか手もデカい……スイカ片手で握り潰せるだろあれ。私の頭も。

 

 帯広レース場で開催されるばんえい競バのレース映像などはいちウマ娘ファンとして勿論見たことはあるが、ばんえいウマ娘を直接見たのは初めてだ。入院してる時もマスコミ対策とかで警備員が配置されてたらしいけど、彼女達は外だったし退院は夜間にコッソリだったから見ていない。

 ばんえい競バは冬のナイターレースが好きだ。全身から立ち上る蒸気と雄たけびを上げながら障害を乗り越える姿の迫力が凄かった。レース前はおっとりぽわぽわほんわかお姉さんみたいなウマ娘が鬼の形相になるのもギャップがあって非常によろしい。トゥインクルシリーズとはまた異なる魅力があると言える。

 

 

「あの物腰、相当な手練れですね……ふふっ、機会があればお手合わせ頂きたいです」

 

 

 あと、隣を歩くグラスの感想は何目線だろう。刺客? 剣客? ああ、警備員さんもグラスの視線を受けて笑みを深くしているし、いつからここはバトル物世界観になったんだ。ウマ娘はスポ根百合だろう(個人の感想です)。

 

 眼前の物騒な世界から目を逸らそうと私は視線をグラスとは反対方向の斜め後ろに向ける。

 そこにはスズカとエアグルーヴパイセンが並んで歩いている。パイセンがゴルシを始めとする問題児たちの行動について愚痴を漏らしてスズカがそれに相槌を打っているようだ。スズグルいい……もっと仲良くして……供給して……。

 

 あっ、スズカと目が合ったけど逸らされた。

 

 百合厨の視線がつい出てしまったか……気持ち悪がらせてしまい申し訳ない。

 自分の自制心の無さを悔いていると、ついとグラスにジャージの袖を引かれた。

 

 

「グラス?」

「あ、その……足元に注意してくださいね」

「?? ありがと」

「いえ……」

 

 

 どうしたのかと疑問符を浮かべて振り返ると、そう言ってグラスはすぐに手を離して一歩後ろに下がりついてくる。

 

 足元……あ、フナムシがいたわ。危ない危ない、気付かずにふんづける所だった。流石グラス、気配感知のスキルでも持ってるんだろうか……そこにシビれる憧れるゥ!!

 

 そうそう。ホテルの部屋割りだが同室はグラスだった。スズカはパイセン。カイチョーはマルゼン姐さん。フジさんはオペラオー。ヒシアマ姐さんはブライアンさんという組み合わせ。常に寮で同室だからか当たり前にスズカと一緒かと思ったけどこれは夏合宿。普段とは異なる組み合わせでモチベーションの向上を図るとかだろうか。知らんけど。

 

 

「ッ!? %$#&@※∆ーーーーッッッッ!!??」

「エアグルーヴ!?」

 

 

 そしてエアグルーヴパイセンの言葉にならない悲鳴とスズカの驚く声が響いた。そういえば虫が苦手でしたね。

 

 

 

 

 

 開幕早々というか開幕前からパイセンのやる気がフナムシにより急降下という波乱のスタートを迎えた夏合宿だが、それがフラグだったのか更に波乱は続いた。

 

 

「マチカネフクキタルですっ!! これからよろしくお願いしますっ!!」

「どうも、お世話になります」

 

 

 ビシッと敬礼するフクキタル。隣でペコリと頭を下げるぱっとしない優男は彼女の専属トレーナーらしい。ロープとノコギリとドラム缶と生コン用意しないと(トレウマアンチ過激派)。

 いやまあ流石に冗談だ。半分くらいは。フクキタルの目線、動作、距離感……伊達に百合厨として日々ウマ娘達を観察していない。彼女がその優男に一線を越えた感情を抱いていることはひと目でわかった。私の勝手な行動で悲しませてはいけない。ここは涙をのんで見守ろう。

 

 

 だが、フクキタルを泣かせるようなことがあったら覚悟しておけヒトオス。神が赦しても私が赦さん。

 

 

「ッ!?」

「? トレーナーさん?」

「え、あ、いや、何でもないよ」

 

 

 おっとつい殺気が。失敬失敬。

 

 

「っと、じゃあ次は俺たちだな。チームスピカだ。よろしく頼むぜ」

「「「「「「「よろしくお願いします(わ)」」」」」」」

 

 

 そして沖野トレーナーとスペやエル達チームスピカの面々。最近朧気になってきた前世の記憶だと、リギル&スピカ+フクキタルの合同夏合宿なんて無かった筈。また私の影響か。もうこれについては諦めの境地に達したよ……過去は変えられない。ならより良い未来(グラスペ)を成すために最善を尽くすのみ。そう思わないとやってられない(本音)。

 

 宝塚記念の夜。おハナさんと話して初心に還った私の目標としては、秋天でスズカの故障を防ぎつつ私自身もレースで結果を残しスペの憧れのままに海外に行くということ。え? 結果を残せるのか? 気合いでどうにかするんだよ!!

 

 来年エルがフランスは凱旋門賞に挑戦し、スズカは怪我が無ければ得意な左回りのレースが多いアメリカだろう。私は特に拘りは無いけど中東を考えている。賞金高いし。

 

 っと、考え事をしているうちにおハナさんの話が終わりトレーニングを始めることに。

 いくつかのグループに分かれてそれぞれトレーニングをするのだが。

 

 

「あ、あのっ、よろしくお願いします、トゥデイさんっ!!」

 

 

 スペの向けてくるキラキラした瞳が眩しくて胃がかかがが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作者より頭のいいキャラは書けないって事を実感するこの頃


夏合宿、秋のファン感謝祭、毎日王冠、天寿、秋天、その後。と今後は大まかにこんな流れの予定です。
あと、UA100万記念短編執筆中です。タヒぬやつじゃないてすがどぼめじろうとか他の97世代と絡ませる予定なので許して亭許して


あとデイカス、お前がフクちゃん含めて皆を泣かせるんやで


ではお愉しみに~

【再掲】完結後の秋天IFルートで一番読みたいのは?(好みの調査です。感想への誘導が規約違反だったので再掲)

  • 秋天逃げ切り勝利√
  • 秋天故障半身不随√
  • スズカ告白√
  • 一番いいのを頼む(↑上3つ混ぜ混ぜ)
  • その他(活動報告にどうぞ)
  • 答えだけ見たい方向け

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