挿絵は無いですスマソ
タイキシャトル。
チームリギルに所属し、サイレンススズカ、トゥデイグッドデイ、マチカネフクキタルらと同学年、同世代。レースの適性が芝ダートの短距離〜マイルと三人と同じレースでの対決はないが非常に仲のいい友人関係であり、休み時間や休日を共に過ごす事が多い。
そんな彼女はクラシック級でスプリンターズステークス、マイルチャンピオンシップ、シニア級で安田記念を制し、満を持してフランスはジャック・ル・マロワ賞に挑戦する、現役最強クラスのマイラーでもある。
その性格は天真爛漫かつ寂しがりや。トゥデイグッドデイが内心「(滅茶苦茶人懐っこいゴールデンレトリバーみたい)」と評すほど。
そして現在、フランス遠征中の彼女はチームリギルのトレーナーである東条ハナのツテがあるクラブチームに滞在し、レースに向けて調整を行っていた。
「ハウディ! スズカ! 見えてマスカー? 聞こえてマスカー?」
「ええ、大丈夫よ。こんば……あ、フランスは確かお昼頃よね」
「イエース! 今はlunch time デース!!」
クラブハウスの食堂にタブレットPCを持ち込んでサイレンススズカとビデオ通話をしているタイキシャトル。フランスと日本の時差はサマータイム込みで7時間。日本語での会話が気になるのか、彼女の周りには昼食を済ませたフランスのウマ娘達が集まってきている。
「この時間にタイキが電話をかけてくるのは珍しいけど……何かあった?」
時差やトレーニングの都合から、普段タイキシャトルは就寝前、日本だとちょうどサイレンススズカ達の朝練が一段落した時間に行われることが多い。そのことを疑問に思い彼女は訊ねる。
すると、タイキシャトルは「明日のミーティングのテストデース。イツモこのタブレットを使いまセンカラ」と言ったあとに、「あ、メイワク、デシタ?」と様子を窺うような不安げな表情を見せる。
「ううん、まだ起きてるつもりだったから全然。タイキの顔が見れて嬉しいわ」
その素直な感情表現にサイレンススズカが微笑みながら答えると彼女はパァッと顔を明るくし、次いで何か不思議に思うことがあったのかコテンと首を傾げた。
「……スズカ、ナニカ悩んでマス?」
「えっ」
「フインキがチョット……ンー?」
訝しげな視線のタイキシャトルに雰囲気よ、と内心で訂正しつつ適当に誤魔化そうと口を開いて、思い止まった。
「(誤魔化して、どうするの? それで何かが変わるの?)」
今の状態が良くないことは分かっている。どうにかしたいとも思っている。けれど、その一歩をトゥデイグッドデイ達に対して踏み出すことが出来なかった。
それが偶然にも、タイキシャトルが一歩踏み込んできてくれた。
「………………ねぇ、タイキ。時間は大丈夫かしら? 少し長い話になるけれど、聞いてくれる?」
訊ねると、彼女はキョトンと呆けた顔になり、フンスと鼻息荒く何度も頷く。
「っ!! イエス! あ、デモ、トレーナーさんに連絡だけ入れさせてくだサーイ!」
「ええ、待ってるわ」
彼女の言うトレーナーとは東条ではなく滞在してるクラブチームのトレーナーの事だろう。スマートフォンを取り出し、英語で会話する姿が画面に映っている。
そして、タイキシャトルが電話を終えた所でサイレンススズカは口を開いた。
「私は―――――――――」
整理も何もされていない。あの宝塚記念から今までの胸の内を全て。
「――――――ナルホド」
どれくらい時間が経ったのか。エアグルーヴが戻ってきていないという事はそんなに経っていないのかもしれない。サイレンススズカの話を一通り聞いたタイキシャトルは一言呟き目を瞑った。
「スズカのコンディションがバッドだったのは、そういうことだったんデスネ」
タイキシャトルがフランス遠征に出発したのはトゥデイグッドデイが退院して学園に戻ってきた少し後。宝塚記念の騒動は知っていたし、サイレンススズカの調子が落ちているのも分かっていたがその理由を察するまでには至らず、部外者の自分が聞き出すのも憚られた為、後ろ髪を引かれつつもフランスへ旅立った。
それから友人達とは海と大陸を挟んで連絡をとりあっていた。テレビ通話では以前と変わらない様子を見せておりタイキシャトルは安堵していたのだが、それは虚勢……というよりも上手く意識を切り替えていたようだ。
今回、タイキシャトルが彼女の違和感に気付けたのは、1日の終わりのこの時間帯、思考が回り揺らいでいるときに話したからだった。
「宝塚を勝ったのはフクキタルなのに、負けたのは私なのに、皆、トゥデイの想いも背負って全力で走ったのに」
サイレンススズカは泣きそうな顔で言う。
「私はきっと……一緒に走った人達を傷付ける。そんな私が走るのは……いけないことだと思うの」
もしこれが、無敗記録等を破ったウマ娘が『ヒール』として非難され、「勝って喜ばれないならもう走りたくない」と言っていたのなら、「走る前から勝った気でいるのかいい度胸だつべこべ言わずに走れ」と一喝されるかも知れないが、彼女の場合は自身が敗北したのに関わらず、その勝者や関係者に矛先が向いてしまった。彼女の走りに夢を見た者達が現実を直視したくないが為に。
故の葛藤。だが。
「…………スズカは、こんな話を聞いたことありまスカ?」
「話?」
唐突なタイキシャトルの言葉に虚をつかれオウム返しになる。
「マイルチャンピオンシップと安田記念。もしサイレンススズカが走ってたら、タイキシャトルは……ナンテ」
「っ!?」
初耳だった。サイレンススズカは内向的な性格でありSNSなどは利用していない。走る時間を捻出するためにテレビもネットもほとんど見ない。アンテナは相当に低い。
そんな彼女は芝の中距離を主戦場にしているがその脚はマイル戦でも通用するもの。クラシック三冠路線で躓いていればマイルCSへの出走プランもあった。チームも世代も同じタイキシャトルとは夢の対決としてファンの間で語られる事も多い。
尤も、そうやってIFを語るのはレースの楽しみ方の一つだ。それに文句をつける気はタイキシャトルには無い。
しかし、今のサイレンススズカが消えたとして後に残された者達はどうなるのか。
「スズカが走るのをヤメてもきっと言われマス。「スズカが出ていれば」って。フクキタルも、トゥデイも、皆も、ずっと、ずっとデス」
それはIFを楽しむ夢の対決ではない。レースはサイレンススズカを絶対の頂点に据えての2番手争いに成り下がり、勝者が勝者として讃えられることはない。
「そ、んな……そんな……こと……」
予想される未来を指摘され、サイレンススズカはカクンと膝から力が抜けた。ベランダの欄干に背中を預ける。
ガチャン、とスマートフォンが手から滑り落ちた。
「走っても、走らなくても、私はみんなを…………そんなの、それなら、私は」
「スズカっ」
「先頭の景色を見たかっただけなのに……トゥデイ達と走りたかっただけなのに……こんなの、こんな、夢なんて」
「スズカ!!!!」
「っ!!」
スピーカーが音割れするほどの声に肩を跳ねさせる。
「た、いき」
「……マッタク、急ぎすぎデース。あ、ソーリーソーリー、ノープロブレム」
「……タイキ?」
「シャウトしたらミンナを驚かせちゃいマシタ」
落としたスマートフォンを拾い上げ画面を覗き込むとちょうど、テヘペロ、と舌を出すタイキシャトルが映った。
「…………ジトー」
「オーウ、コレがビャクガン、デスネ」
とある忍の里で最強の一族の……ではない。
グラスワンダーならば嬉々として訂正しただろうが、少年マンガを嗜まないサイレンススズカは白い目でスルーした。
「コホン。ワタシが言いたいのは、ワタシ達をナメるな、ということデース」
「そんなことっ」
「ありマス」
真剣な表情のタイキシャトルに断言され言葉に詰まってしまう。
「スズカはミンナのドリームデス。そのドリームに沢山の人がDreamingだから、イマがありマース」
私の夢は、というフレーズを好んで口にする実況が居たことをサイレンススズカはふと思い出す。
「だからワタシが! トゥデイが! フクキタルが! モーニングコールしてやるデースッ!!」
フンス、言ってやったぜ、という顔のタイキシャトル。
「えっと、今の状況は私の走りに皆が夢を見ているせいだから、タイキ達がその目を覚まさせる……って事かしら」
「そう言ってマース!!」
ウソでしょ、と出かかった言葉を飲み込む。
タイキシャトルの眼差しに燃える闘志と気迫に気圧された。
「だから、ワタシは勝ってキマース。ヨーロッパG1のトロフィーを持って帰りマース。トラストミー!!」
「…………ちょっと胡散臭いわ」
「オジサンクサイ!?」
「……」
とんでもない聞き間違いに絶句していると、タイキシャトルは肩を竦めやれやれと言うようにジェスチャーをする。
「ウェル……それに、スズカは考えすぎデース。もっとフリーダムでいいと思いマース」
「フリーダム……自由、ね」
「前にグラスからこんな言葉を教えてもらいマシタ。 "One may dance without holding umbrella in the rain. It is freedom." ニホンゴだと……エット……」
「雨の中、傘をささずに踊る人間がいてもいい。自由とはそういうものだ。確か、ゲーテの言葉よね」
「ワッツ? ロジャー・スミスじゃないデスか?」
「え?」
「エ?」
誰? と思ったが気にしないことにした。
「コホン。雨は気持ちイイデス。ダンスはエンジョイデス! つまり、フリーダムはハッピーということデース!!」
「(そう……かしら……そうかも?)」
サイレンススス゛カ は こんらん している。
「だから、スズカはフリーダムに走ってくだサーイ。ミンナで雨の中レッツダンス!! きっと楽しいデース!!」
「大雨の中の無敵って呼ばれるような人とはちょっと……」
「ノーッ!?」
それから少し雑談をしてタイキシャトルとのビデオ通話は終わった。
部屋に入るがエアグルーヴはまだ戻ってきていないようだった。
長い時間外にいたので汗が滲んでいる。お風呂行こうかしら、と思っていたところでガチャリと扉が開いた。
「終わったか」
「!?」
そう言って入室してくるのはエアグルーヴ。
「まったく……用事を終えて戻ってきたら三十分以上扉の前で待たされるとは、たわけが」
口ではそう言うが、実際は内容が気になり扉に耳ピトしていた女帝陛下である。
「……まあいい。少しはましな顔になったようだな」
サイレンススズカの顔を見てエアグルーヴは頬を緩める。
「そう……なのかしら? エアグルーヴからはそう見える?」
「ああ。今にも走りに行きたい、そんな顔をしている」
どんな顔だろう、と自身の顔をペタペタと触ってみるが少し汗ばんでいる事くらいしか分からない。その様子が可笑しくてエアグルーヴは「ぷっ、くくっ」と吹き出してしまう。
「たわけ、触って表情が分かるわけがないだろう。汗をかいている様だし、入浴ついでに鏡でも見てきたらどうだ」
「そうね……そうするわ」
頷き、着替えなどを用意してサイレンススズカは部屋を出ていく。その背中を見送ったエアグルーヴがふう、とため息をついたところでピロン、と彼女のスマートフォンに通知が来る。
『The video call test went fine. I look forward to talking to everyone tomorrow.』(ビデオ通話のテスト成功シマシタ! 明日ミンナと話すの楽しみにシテマース!)
タイキシャトルからのそんなメッセージに労いの言葉を返信し、エアグルーヴは窓辺に立って夜空を見上げる。
「ようやく一安心、といったところだな」
タイキシャトルからのサイレンススズカへのビデオ通話はエアグルーヴからの差し金だった。悩んでいる云々を伝えてはいないが、今の不安定な状態ならば他人の感情に敏感な彼女は気付くだろうという信頼があった。
ただ、エアグルーヴ自身は東条と同様に、トゥデイグッドデイとマチカネフクキタルで上手いこと解決できればと考えていたが、三人が想定よりも奥手だったので奥の手を切ることになった。
「……世話の焼ける後輩達だ。しかしまあ、骨を折るのは先輩の務め、か。…………おっと、会長にこれから向かうことを伝えなければ」
メッセージを打ち込みながらカーテンを閉め、送信し既読がついたのを確認して部屋を出る。
「本当に……世話の焼ける」
その足取りは軽かった。
タイキの口調、どこまでカタコトにするか塩梅がががが
次は夏合宿5か閑話か秋のファン感謝祭1です。お楽しみに
あと、プロローグの秋天出走メンバー修正します。当初は短編の予定でアニメ一期ママだったんですが、今の関係性とか踏まえた面子になります。展開とか結末は弄らないのでご安心を。デイカスに月曜日は来ないから。
【再掲】完結後の秋天IFルートで一番読みたいのは?(好みの調査です。感想への誘導が規約違反だったので再掲)
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秋天逃げ切り勝利√
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秋天故障半身不随√
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スズカ告白√
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一番いいのを頼む(↑上3つ混ぜ混ぜ)
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その他(活動報告にどうぞ)
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答えだけ見たい方向け