転生オリ主ウマ娘が死んで周りを曇らせる話   作:丹羽にわか

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職業訓練終わって再就職したので初投稿です

なお感謝祭は今回で終わり


第33R ハレノヒランナーズ2

 

 

 

 

 トゥインクルシリーズを駆けるウマ娘は至極当然のことではあるが皆学生であり、青春真っ盛りのうら若き乙女である。

 

 プロの競技者、エンターテイナーとしての側面を除けば、遊びやオシャレが大好きで恋愛に興味津々でテストと体重計は天敵という至って普通の少女たち。

 

 なお、『皇帝』シンボリルドルフと『女帝』エアグルーヴが休日に二人で出かけているところに偶然トウカイテイオーが合流した際のオフショットがSNSに挙がった際には「家族サービスかな?」「人妻にしかみえん」「父性漏れてますよ」「ガキが……パパとママの手を離すなよ」等と盛り上がったが、彼女達は皆女子校生である。JKだ。

 

 ところ変わってトレセン学園最寄り駅から徒歩10分のカラオケボックスにて。

 

 

「ここ、ドリンクバーの他にソフトクリーム食べ放題があるらしいですよ!! 取りに行ってきます!!」

「ウーン、ヤッパリ最初はポテトフライですかネー。エエト……オーダーはケータイで……」

「トゥデイ、これ一緒に歌いましょう?」

「アッハイ」

 

 

 ハレノヒランナーズの面々はカラオケに来ていた。

 遊びに来たのではない。後夜祭ライブの歌唱練習である。(断言)

 

 

「じゃじゃーん! メロンソーダがあったのでソフトクリームと併せてクリームソーダを作ってみましたよ!! どうぞ!!」

「サンキューデース! ワオ! 美味しそうデスネー!」

「~♪ ~~~♪ ……ふう……あら、ありがとうフクキタル」

「……(昇天)」

 

 

 遊びに来たのではない。後夜祭ライブの歌唱練習である。(2度目)

 

 マチカネフクキタルの発案による後夜祭ライブ。そこに参加するハレノヒランナーズの面々はウイニングライブの練習後に時間を貰い、Umatubeにアップされている公式の振り付け動画を見ながら練習するなどして着々と準備を進めていた。今回のメイン曲『うまぴょい伝説』『GIRLS’LEGEND U』の振り付けは、G1などで使用され特設ステージで行われるウイニングライブ用楽曲と違い、小さな舞台や屋内を想定してか人数もポジション変更も少なく、振り付けも各ポジションほぼ共通で習得難易度は比較的低かったため練習は順調だった。

 

 そんなタイミングでマチカネフクキタルのトレーナーからカラオケボックスの割引券が流れて来て、折角なら歌唱練習をしようという話になっての今回。

 

 

「~~~♪ おや? トゥデイさん、顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「ダ、ダイジョウブ……ちょっと息が上がっちゃって(スズカ達の香りがががががが)」

 

 

 まずはライブで歌唱予定の曲から思い思いに好きな曲や流行の曲を歌い、私服姿の各々の肌がうっすらと汗ばんできた頃、密室内でサイレンススズカ達が醸す少女特有の薫りを嗅ぎ取ってしまったトゥデイグッドデイが呼吸を極限まで絞りセルフ高地トレーニング状態で耐えていると、流石に疲労の色が見え始め一旦休憩を挟もうという話になる。

 

 

「トゥデイ、ウォーターを飲んでくだサーイ」

「ど、どうも」

「あ、それワタシのでした」

「ゴフッ」

「うわっ!? トゥデイさんがむせましたよ!?」

 

 

 間接キスに思わず水を吹き出しかけるトゥデイグッドデイ。「もう……落ち着いて飲まないから」とサイレンススズカは呆れたような言葉とは裏腹に微笑ましくてしかたないといった顔でおしぼりを手に水滴のついた顔や服、テーブルなどを拭いていく。

 

 

「……ありがと」

「どういたしまして」

 

 

 少々トラブルが発生したがどうにかひと段落し、モニターから話題の新曲などの宣伝などが垂れ流しになっている中、各々ドリンクバーから持ってきた飲み物を手にタイキシャトルが注文したポテトフライ(チョモランマ盛り)を摘まみながら雑談に興じる4人。

 

 勉強がどうこう、最近靴を買い替えた、街中に新しいスイーツショップが出来ただとか、そんな他愛もない事を話しているとグラスを置いたタイキシャトルがすっくと立ちあがった。

 

 

「タイキさん?」

「タイキ?」

「?」

 

 3人が疑問符を浮かべながら視線を向けると、普段の天真爛漫な雰囲気はどこへいったのか真剣な様子で3人を見詰めるタイキシャトル、世界最強のマイラーがそこに立っていた。

 

 

「3人は、今度の天皇賞秋を走るんデスヨネ」

 

 

 その問いにサイレンススズカとマチカネフクキタルが「……そうね。その前に私とトゥデイは毎日王冠、フクキタルは」「京都大賞典ですっ」と続けて答えると、タイキシャトルは瞑目する。

 

 

「……ジャック・ル・マロワ賞を勝って、ワタシは思いマシタ……もう十分じゃないカト。日本に戻って、最後にチャンピオンとしてマイルCSでチャレンジャーを迎え撃つ。その後はレースを引退シテ、スズカ達を応援すれば……ッテ」

「「「!!!???」」」

 

 

 唐突な引退宣言に驚愕する3人。タイキシャトルはその反応を見て「アッ、引退するワケじゃないデス!」とアワアワし、3人が落ち着いたのを見てコホンと咳ばらいをして話を続ける。

 

 

「日本に戻ってキテ、皆と過ごして強く思いマシタ。ワタシは、まだまだ皆と走りたい」

 

 

 ギュッと握りしめた拳、そして己の脚に目をやる。

 

 

「でも、ワタシはマイラー。皆が走るレースの距離、2000だと脚が残りまセン」

「タイキ……」

 

 

 歯ぎしりが聞こえてきそうな程に強く歯を噛み締めるタイキシャトルに3人は何も言えない。

 黒くてちっこいのが気が狂ったような努力でマイル中距離長距離を走れるようになった事がおかしいだけで、本来距離適性というのはホイホイ変えられない。昨年の菊花賞でサイレンススズカは2着と健闘したが、あれは作戦や戦法が上手くハマった結果であり、仮に今年の天皇賞春に出ていたらメジロブライトやマチカネフクキタルの足元にも及ばなかっただろう。

 逆に、マイルだとマチカネフクキタルが満足に走れない。それらの理由から、この4人がレースで対決したことは未だ無い。

 

 

「だからッ!!」

 

 

 タイキシャトルはバン!! と胸の前で手の平と拳を打ち合わせる。

 

 

「ワタシはキョリエンチョーして来年の天皇賞秋に出マス!! その為の特別トレーニングを今年のマイルCSの後から行うノデ、レースに出ることは難しくなるかもしれまセン。でも、おハナさんもリョーシューしてくれまシタ!!」

「(了承では?)」「(了承よね)」「(了承ですよそれ)」

 

 

 なお、そのお願いをされた時の東条ハナは「またか……」と頭が痛そうにしていたが、同時にとても嬉しそうだったと言う。

 

 

「これはセンセンフコク!! 首を洗って待っていてくだサイ!!」

 

 

 最強マイラーから現中距離最強格への挑戦状に、サイレンススズカとマチカネフクキタルの二人から闘志が吹き出す。

 

 

「楽しみにしているわ、タイキ」

「ふっふっふ、皆まとめて差し切ってみせます」

 

 

 

 

 

 

走りたい……か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋のファン感謝祭、別名『聖蹄祭』は大盛況で幕を閉じた。特にチームリギルの出し物である執事喫茶はシンボリルドルフ、エアグルーヴ、フジキセキといった面々に加え、サイレンススズカまでもが男装をして接客をしたこともあり女性陣が詰め掛け一時入場規制が敷かれるほどの客入りだった。

 

 生徒総出で後片付けを始め、時には業者のトラックなどが行き交う喧騒とともに時間が過ぎていく。

 一通り片付き普段通りの学園の姿を取り戻した時には、太陽はすっかりその姿を西の空に沈め、代わりに月が秋の夜空の中に煌々と照らされ浮かび上がっていた。

 

 

「後夜祭、スズカ先輩たちがライブするんだよね!! 楽しみ〜」

「ハレノヒランナーズだっけ? 公式ユニットとしてデビューしないかな」

「それは推すしかない」

 

 

 後夜祭のメイン会場である屋外ホールには控えめにバルーンなどで装飾が施され、デカデカと『後夜祭』と書かれた横断幕がかかっている。

 ハレノヒランナーズによるライブの話は学園全体に浸透しており、生徒のみならず職員までもが各々の作業を切り上げて屋外ホールへと足を運んでいた。

 屋外ホールで行われる企画はライブだけではない。来場者投票で決まった出し物の最優秀賞、生徒間投票で決まった専属トレーナーと担当ウマ娘のベストパートナー賞、ウマ娘同士のベストカップル賞などの発表、有志によるライブ演奏、のど自慢大会など、様々な催し物で場を暖めていく。

 

 

「ルドルフやめい! アンタのダジャレは洒落や冗談やなく場が凍る!!」

「……そうか」ションボリ

 

 

 そして、その時が来た。

 

 

「さあトリは皆さんお待ちかね、ハレノヒランナーズの皆さんによるライブパフォーマンスです!!!!」

 

 

 そして上がる黄色い大歓声。しかしステージ上には何もない。戸惑いから少し静かになったタイミングでバツンと明かりが消え、観客がざわめき始めるとバッとステージにスポットライトが当てられる。

 

 やはり誰もいない。

 

 まるでゲート入りの時のような緊張に静寂に包まれる一帯。

 

 すると。

 

 レース前のファンファーレに似たイントロがスピーカーから流れ始めた。

 

 この曲は!?

 

 流行に敏感なウマ娘達の胸が期待で跳ねる。

 

 

<wow wow…………>

 

 

 スポットライトの中に手を繋いで歩み出すのは4人のウマ娘。

 

 サイレンススズカ。

 マチカネフクキタル。

 タイキシャトル。

 トゥデイグッドデイ。

 

 ハレノヒランナーズを名乗る彼女達がその身に包んでいるのは『STARTING FUTURE』というライブ用の衣装。後夜祭の余興である筈のライブが、まるでG1レースのウイニングライブのような緊張感を感じさせるものになるのは、舞台上にいる歴戦の猛者達による圧倒的存在感故だろうか。

 

 

<wow wow…………>

 

 

 音楽と共に、歩みを進める彼女たちの靴音と声が会場全体に響く。

 

 

<wow wow wow……………………>

 

 

 伝説が始まる。

 

 

<やっとみんな会えたねーっ!>

 

 

<Don't stop. No, don't stop 'til finish!!>

 

 

 

 

 

 

<たかたった全力上がりタイム>

 

<譲れない夢の途中>

 

 

 

「(楽しい! 皆さんとやるライブがこんなに楽しいなんて!!)」

 

 

 大歓声に包まれ、親友たちに囲まれ、満面の笑顔で舞い踊り熱唱するマチカネフクキタルは幸せが胸いっぱいに溢れ出してどうにかなってしまいそうだった。

 

 

「(でも、でも、来年の秋天はもしかしたら私達みんなでレースに出て、皆でライブして……なんて事もあり得るんですよね)」

 

 

 可能性の話でしかない。一年も経てば黄金世代と称される今のクラシック級の面々は勿論、ジュニア級のウマ娘達も力をつけ天皇賞秋に出走してくるだろう。ハレノヒランナーズ全員が入着するだなんて話は夢物語だ。

 

 だが、可能性はゼロではない。その極僅かな可能性に思いを馳せるだけで、マチカネフクキタルは怖くなってしまうくらい幸せだった。

 

 

「(お姉ちゃん、シラオキ様、見てますか? 私にはこんなに大切な人達がいます。大好きなトレーナーさんがいます。幸せです。幸せすぎます。この幸せをいつまでも続けられるよう、このフクキタルめは頑張ります。だから、見守っていてください)」

 

 

 

<始めよう ここから最高STORY>

 

 

 

 タイキシャトルは不思議に思った。

 何故、フランス遠征の後に自分は引退してもいいなんて考えたのか。

 

 

「(4人でライブするだけでこんなにハッピーなのに、皆で走って、ライブしたらどれだけタノシイんでしょう。イメージするだけでワクワクが溢れて来マス)」

 

 

 鼓動の高まりをそのままにエネルギッシュなパフォーマンスと楽しさ満点の笑顔で観客を魅せるタイキシャトル。

 

 

「(アァ……ワタシは幸せ者デス。海を渡って日本に来て、コンナに大切で大好きなフレンド達と出逢えた)」

 

 

 

<もうドキドキもトキメキも>

 

<抑えられないたまんない>

 

<熱いハラハラが止まらない>

 

 

 

「(フクキタル。神戸新聞杯で私の目を覚ましてくれた。宝塚ではスピードの向こう側を見せてくれた。タイキ。人見知りで口下手な私と仲良くしてくれた。夏合宿で私に『自由』を示してくれた。トゥデイ。私の背中を追いかけてくれた。今はすぐそこまで来てくれた。私が迷った時は、立ち止まって道標になってくれた)」

 

 

 サイレンススズカの胸にあるのは感謝だった。

 

 走ることが好きで、大好きで、止まれない自分はこれまで沢山のものを置き去りにして来た。これまでも、きっとこれからも、独りで走って、駆けて、駆け抜けて、そして終わるのだと、それで良いんだと思った。思っていた。

 

 

「(いつかこの足が止まった時、私の目の前に広がる景色にはきっと皆がいる。ううん、私が目指す景色には、皆がいなきゃ……嫌)」

 

 

 

<春も夏も秋も冬も超え 願い焦がれ走れ>

 

<Ah 勝利へ>

 

 

 

「(そして隣には……トゥデイ、貴女が…………)」

 

 

 

<Don't stop. No, don't stop 'til finish!!>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立ち止まるな、いいや、ゴールまで駆け抜けろ。意訳するとそんな感じかしら。ほんと、いい曲よね。生徒達に人気があるのも納得だわ」

 

 

 教え子たちとその友人によるライブを眺めなら東条は頭の中で考えを巡らせる。

 

 

「(毎日王冠、スズカとグラスに問題はない。けれど、トゥデイはどう?)」

 

 

 東条は脳内でデータを展開する。

 

 

「(夏合宿で大きく伸びた。身体も完成したと言っていい。でも、気持ちは? スズカを超えたいという想い、後輩の憧れを背負い、何かを成し遂げようとする決意、その為に全力を尽くす鋼の意思、それで足りる?)」

 

 

 今でもそれなりに勝負できる。いつか異次元の逃亡者に追いつくのではと周囲やサイレンススズカ本人が期待するような成長をしている。

 

 

「(……まだ、足りない。もっと根本的な、本能的な渇望が足りない)」

 

 

 だが、東条はそれでは足りない、届かないと脳内で首を振って断じた。

 

 トゥデイグッドデイは東条や沖野といったウマ娘をよく知るトレーナーからすれば『理性の怪物』だ。本能を理性で抑え込み、奇跡を必然にした怪物。怪我から復帰し、ステイヤー向きの適性を過酷なトレーニングで強引に中距離やマイルに適合させるのにも一役買ったその理性が、今は足枷になっている。

 

 スペシャルウィークの日本ダービーと同様の結果が待ち受けている。

 

 

「(何か、切っ掛けがあれば)」

 

 

 鋼の理性を押しのけて勝利への渇望が現れる。そんな機会があればトゥデイグッドデイは『届く』と東条は考える。

 

 

「(時代を作るウマ娘達と同じ、領域に)」

 

 

 

 

 

 

 




ファン感謝祭はほどほどに次は毎日王冠の予定

真面目な話になっちゃったからうまぴょい伝説とか出てないけどちゃんとこのあとやってます。フクトレは「俺の愛バが!!」って絶叫してフクキタル赤面させてる筈。

ようやく天寿や秋天かと思うと書いててワクワクする

最期まで駆け抜けるんやでデイカス♡

【再掲】完結後の秋天IFルートで一番読みたいのは?(好みの調査です。感想への誘導が規約違反だったので再掲)

  • 秋天逃げ切り勝利√
  • 秋天故障半身不随√
  • スズカ告白√
  • 一番いいのを頼む(↑上3つ混ぜ混ぜ)
  • その他(活動報告にどうぞ)
  • 答えだけ見たい方向け

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