転生オリ主ウマ娘が死んで周りを曇らせる話   作:丹羽にわか

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サブタイトル直球で芝

真面目にレースします。
だって、まだ世間一般的にトゥデイグッドデイってサイレンススズカのライバルじゃないし……人気上げないと


第34R 毎日王冠1

 

 

 

 毎日王冠。

 東京レース場で開催されるG2競走。マイル、中距離から有力ウマ娘達が集う秋のG1戦線の行方を占う前哨戦の一つ。

 コースは芝1800メートル左回り、同じ東京レース場開催の安田記念などのマイルレースと比べると200メートル長く、コーナーが3つになっていることで展開も異なってくる。

 

 

「スタートから直線を挟んでコーナーに入るとき、スピードに乗ってる状態だと遠心力が強くかかるから浅い角度で曲がれる外枠の方が多少有利になるんだが、ここはスタートから最初のコーナーが近いだろ? スピードに乗り切っていない遠心力の小さい状態、最小半径でコーナーを曲がれる内枠の逃げ、先行が有利になりやすいんだ」

 

 

 東京レース場のパドック。チームスピカから出走するエルコンドルパサーの応援に沖野含むスピカのメンバーは勢揃いしていた。

 

 

「エーッ? それじゃあスズカが有利じゃない?」

「ま、そうだな。2枠2番、これでスタートに躓けば一斉に包んで壁になって思うようなレースをさせないって展開にもなるだろうが、スタート上手いからなあ、サイレンススズカは」

 

 

 トウカイテイオーの言葉に頷きながら沖野は答える。

 

 

「なによ、じゃあエル先輩は勝てないっていうの」

「いいや、スカーレット。それでもエルなら先行して徹底的にマークして、相手が最終コーナーで息を入れた瞬間に仕掛ければ差し切れる。宝塚記念でマチカネフクキタルがやったみたいにな」

 

 

「ただ、そこから差し返す勝負根性をスズカは持ってるから厄介だけどな」沖野はそう言って懐から棒付きキャンディを取り出して包装を破いてから口に咥えた。

 

 

「(サイレンススズカ、グラスワンダーの二人とエルの実力はほぼ拮抗している。逃げるスズカを追走する二人、それを含んだ先行勢が直線での伸びを捨てての終始ハイペースな展開になるか? エンジンの掛かりが遅い故に差しになるしかないトゥデイの末脚も出走人数が少ないから要注意だが、ダービーのスペ同様に今は『想い』が足りない、か)」

 

 

 そこまで思考を巡らせて、沖野はふと傍らに居るウマ娘の事を思い出した。

 

 

「スペ、今日は静かじゃないか。どうした」

 

 

 スペシャルウィーク。先日の神戸新聞杯を見事に制し菊花賞への切符を手に入れた沖野の教え子。彼女に声を掛けると、耳と尻尾をピンと跳ねさせる。

 

 

「えっ? あ、すみませんっ、なんですか?」

「……なんか上の空だな。腹でも減ったか?」

「い、いえ、そんな事は」

「セクハラですわよ」

「セクハラトレーナーダー」

「違う、誤解だ。話せば分かる」

 

 

 メジロマックイーンとトウカイテイオーにジト目を向けられ弁解する沖野。なおトモを撫でくり回したりとセクハラしがちなので間違いではない。

 

 

「おうおうおう、スペよお。腹減ってんならこのゴルシちゃん印の特製焼きそばなんてどうよ」

「え、えっと……」

「いつ用意したんだよそれ。しかも売ってるし」

「美味しそうなのが腹立つわね。というか法的に大丈夫なの?」

「んなの当たり前だろうが。アタシ、食品衛生責任者の資格持ってるしちゃんと食品衛生法に則って販売業の届け出もしてるぞ。URAからレース場内での販売許可も取ってあるしな」

「「???」」

 

 

 いつの間にかパック詰めされた焼きそばを抱えてゴールドシップが売り込みをかけてきて、事情を聞いたウオッカとダイワスカーレットが宇宙を背負う。

 

 

「あ、ははは、ちょ、ちょっとお花摘みに……」

 

 

 スペシャルウィークはそんなやり取りに愛想笑いを浮かべながらそそくさとその場を離れる。その後ろ姿を見送った沖野は「はぁ……」とため息をついた。

 

 

「ありゃ何かあったな。ゴールドシップ、何か知ってるか?」

「いんやー、少なくともメシじゃないことは確かだな」

「昨日のトレーニングの時に変わった様子は無かったように思いますが」

「となると夜か? ったく、菊花賞前だってのに……」

「どうする? トレーナー」

「菊花賞本番まで一ヶ月。明日のトレーニングに支障がないようなら暫く様子見……だな。てなわけで頼むぞお前ら」

「あいよ」「承りましたわ」「リョーカイ!」「おうっ」「仕方ないわね」

 

 

 各々の返事に「ありがとな」と礼を述べてから沖野はパドックに視線を戻す。

 

 

「(ひとまずは眼の前のレースに集中するか。超えろよ、エル)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:スペシャルウィーク

 

 

「はぁ……」

 

 

 人混みの間を縫うように歩きながら、私の口からはため息が漏れていました。

 

 思い出すのは昨晩のこと。

 

 

 

 

 

 消灯時間前。教室に忘れ物をした私が慌てて寮を飛び出して栗東寮の寮長をしているフジ先輩に事情を説明してから学園に向かい目的のものを回収、何事もなく寮に戻った後。

 自室に戻る途中の階段でマグカップを手に持った寝間着のジャージ姿のトゥデイさんとすれ違いました。

 

 

「スペ…シャルウィークさん?」

「!! トゥデイさんっ、こんばんはっ」

 

 

 トゥデイさんは明日が秋の初戦、毎日王冠です。寝る前にリラックスするため、厨房でなにか飲み物を用意しようと思ったと、良かったら一緒に飲みながら少しお話しようとお誘いいただきました。

 

 憧れのトゥデイさんと話せる!! 私は当然その誘いに飛び付きます。

 

 

「これは……?」

「顆粒の鶏ガラ出汁、塩コショウ、ラー油、あと乾燥わかめ。ケトルで沸かしたお湯を入れて……お手軽中華スープの完成」

 

 

 生徒用の厨房で備え付けのマグカップに、トゥデイさんが中華スープを作ってくれる。鍋も火も使わない、本当にお手軽なもの。

 

 正直意外でした。なんというか、ココアとかホットミルクを飲んでいる方が似合う気がして。

 

 でも、こういう知らなかった姿を見れてとても嬉しいです。

 

 

「……この辺りでいいか」

 

 

 月明かり差し込む談話スペースの一角に向かい合う形で腰掛け、卓上ライトのオレンジ色の光の中でお互いマグカップに口をつけます。

 

 

「あ、おいしい」

 

 

 何て言うんでしょう。味覚としては勿論美味しくて、消灯時間間際の夜に憧れの先輩手作りのスープを飲んで、そのスープも身体にはよくなさそうな塩気と旨味、背徳感があって……これが罪の味というものかもしれません。

 

 

「そっか、よかった……」

 

 

 それに、私の言葉に安心したようにふにゃりと表情を緩めるトゥデイさんを見ると、胸の奥がポカポカしてきます。

 

 暫くお互い無言でスープを飲んでいると、トゥデイさんがポツリと呟きました。

 

 

「あ、そうだ……神戸新聞杯、おめでとう。いい末脚だった」

「あっ、ありがとうございますっ」

 

 

 まさかトゥデイさんが神戸新聞杯を見てくれて、しかも褒めてくれるなんて!

 

 

「次は……菊花賞、だっけ?」

「はいっ」

 

 

 次走についてはすでに公開しているので頷きます。

 

 

「……グラスは明日、私達と走る」

「トゥデイさん……?」

 

 

 手元のマグカップの水面に目を落としながら呟くトゥデイさん。

 

 

「……見るべきは、私達じゃなくて、君たちライバルの筈。クラシック三冠を賭けて、黄金世代を」

「…………」

 

 

 スズカさんをひたむきに追いかけ続けて来たトゥデイさんだからこその言葉でした。

 私は何も言えません。だって、私達ライバルを見て欲しいという気持ちも、トゥデイさん達と走りたいという気持ち、どちらも理解出来るから。

 

 

「ああ、でも……」

 

 

 そう言って視線を上げて窓の外に向ける。

 

 

「もっと遠くを見て欲しい、かな」

 

 

 哀しげで、でも暖かな眼差し。

 

 

「遠く……?」

「そう。遠く。この先の未来、波濤を超えて……私には、難しいけれど」

 

 

 トゥデイさんはそこで言葉を切ると、スープを一口飲んで「ふう」と息を吐く。

 

 

「……フジ先輩」

「はぁい。何かな、トゥデイ君」

「わひゃあっ!!??」

 

 

 トゥデイさんの咎めるような声と私、その更に後ろに向く視線。同時に、後ろにぬらりと現れる気配。

 驚いて飛び上がって振り返ると、そこに居たのは寝巻き姿のフジキセキさんでした。バチコーンとウインクしているのが憎らしいくらい様になっています。

 

 

「私が……誘った。スペ…シャルウィークさんを」

「っ……そうか、そうか。君が…………」

 

 

 ??? なんだかフジキセキさんから意味深な視線が。

 

 

「まあ、今回は不問にしておくよ。トゥデイ、明日は大事なレースだ。夜更かしは程々にね。あと、後輩に余り悪い事を教えちゃダメだよ?」

「ええ。ありがとう、ございます」

「お、おやすみなさい」

 

 

 ヒラヒラと手を振って立ち去るフジ先輩。

 トゥデイさんも「それじゃ、またね」とマグカップを手に姿を消します。

 私もマグカップを厨房に片付けてから自室に戻りました。

 

 

 

 

「遠く、この先の未来、波濤を超えて……トゥデイさんには難しい……」

 

 

 明けて今日。私の頭の中をトゥデイさんの言葉がぐるぐる回っています。

 寝不足も相まってボーっとしてしまい、チームの皆さんには心配をかけているかもしれません。

 

 

「波濤……多分、困難とか苦難とかの意味だよね。でも、怪我も適性も乗り越えたトゥデイさんが難しいなんて……それに、遠くを見て欲しいって……誰に? スズカさん?」

 

 

 ちゃんと現代文の勉強をしておけば、と後悔していると、いつの間にか周囲の人影が疎らになっていることに気付きました。

 

 

「あッ!? レース!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファンファーレが響き、歓声が上がる。

 

 

<さあここ実況席まで響いておりますこの大歓声。これがG2? いえG1並みでしょう。逃亡者、怪物、怪鳥。昨今のトゥインクルシリーズを代表する優駿が集いました>

<そんな彼女達に挑む他のウマ娘も皆傑物揃いです。一瞬たりとも目が離せません>

<今回の展開はいかがでしょう>

<わかり切っています。サイレンススズカが逃げ他が後を追うでしょう。黄金世代の二人は勝ちに行くからこその今回の出走、どこから仕掛けるのかに注目です>

 

 

 ゲートインは粛々と進められるが。8枠8番のトゥデイグッドデイが立ったまま微動だにしない。ターフビジョンに映る彼女の様子に観客席からざわめきが広がる。

 

 

<おっと? トゥデイグッドデイがゲートに入りませんね>

<係員が声を掛け……あ、顔を上げてスッと収まりました>

<これは気付いていませんでしたね。瞑想…でしょうか。これまでに無い程に集中しているように見えます>

<宝塚もあり少し肝が冷えましたが……さあ大外枠にトールサンダーが収まります>

 

<9人のウマ娘がゲートに入り態勢完了>

 

<東京芝1800毎日王冠G2>

 

 

 

<今、スタートしました!!>

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




デイカス「(黄金世代全体でやり合われてもなあ。やっぱり来年くらいにはグラスペで海外行ってバチバチしてもろて。自分が直接見るのは難しいけど)」

次はちゃんとレースする予定

レースは一応コースについて調べたりレース動画見たりしながら書いてるけど素人なのでユルシテ

活動報告で完結後のアイデア募集してたりするんでよろしく~

【再掲】完結後の秋天IFルートで一番読みたいのは?(好みの調査です。感想への誘導が規約違反だったので再掲)

  • 秋天逃げ切り勝利√
  • 秋天故障半身不随√
  • スズカ告白√
  • 一番いいのを頼む(↑上3つ混ぜ混ぜ)
  • その他(活動報告にどうぞ)
  • 答えだけ見たい方向け

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