今回は同級生モブウマ娘から見たデイカス。
サブタイは『背景』。モブだからね。
天寿日曜日その後と書き貯めつつ、挿絵も描きたいので本編完結は12月予定です。お待ちくだされー
あー、PSO2のキャラエディットやコスチュームくらい自由度のあるコンシューマ版ウマ娘出ないかなー
Side:同級生ウマ娘A
この子が本当に走れるのだろうか。
転入してきたウマ娘、トゥデイグッドデイを見て私や他の娘達は嘲りや侮りではない純粋な疑問と心配を抱いた。
身体は小さく線も細く圧倒するような気迫も無い。編入試験を合格出来たと言う事は座学レース共に相応の実力の持ち主だと言う事の証明なのだけれど、そんな前提を頭から吹っ飛ばしてしまうくらいに貧相で貧弱そうなウマ娘だった。
中央は魔境だ。
地元で負け無し。トゥインクルシリーズで勝利をおさめ錦を故郷に飾るのだと胸を張って入学してきた天才が、それ以上の天才に叩きのめされて枕を涙で濡らす場所。
日々のトレーニングや模擬レース、定期的に行われる選抜レースなどで私や多くのウマ娘達は敗北と挫折を何度も味わってきた。
G1の舞台で勝負服を纏って走りセンターでウイニングライブするなんて夢を持ち続けられているのはほんの一握りの原石だけ。
そんな彼女達に対して、もはや嫉妬や恨みなどの感情はすり減り、競い合うライバルという意識は消え、キラキラ輝くその姿を目に焼き付けて、同格の娘らと勝った負けたを繰り返して賞金と土産話を故郷に持って帰るかー、と考えながら、誰々のファンだ云々と姦しく過ごす日々を送っているのが私達。
物語のモブ。いや、描写されないモブ以下の何かだろう。
この黒い小さなウマ娘も、きっとそうなるんだろうなと思った。
だって、彼女の同室は『あの』サイレンススズカだ。以前の選抜レースで2着に7バ身差つけての逃げ切り勝ちという結果を示して学園最強と名高いチームリギルを率いる東条ハナトレーナーにスカウトされた才媛。
言動は天然気味で抜けている所があるが彼女の走りは本物。
その選抜レースを共に走り2着だった私の心を折ったのだから。
だからいつか、トゥデイグッドデイも折れるだろう。
「よし、まずはゲートインから始める。勢い良くスタートをするだけじゃない。自分の場所に入ることを意識するんだ」
ジャージ姿の壮年の男性は続けて「ゲートにぶつかるなよ。それに、閉塞感が嫌で潜って抜け出そうだとかしないように」と冗談めかして言い、私達の間からクスクスと笑いがこぼれる。
彼は『教官』という役職の職員だ。
専属トレーナーがついていない又はチームに所属していないウマ娘達は、午前の座学を終えて昼食を済ませ午後になると教官から一律で指導を受けることになる。
私も教官から指導を受ける身だった。選抜レースの結果だけ見れば2着と悪くなく、普通なら中堅どころのチームあたりからスカウトの話も来ていただろうけど、心が折れてしまったことを察されたのかあのレースを走った面々は誰もスカウトされていない。
「よしっ、そこまで! 各自クールダウンはしっかり行うように」
手元のバインダーに何やら書き込みながら教官が言い、へとへとになった私達はクールダウンのウォーキングやストレッチを行う。
ふと、視線を件の転入生に向けた。
グラウンドの隅で一人ぽつんとストレッチをしている黒鹿毛褐色の小さなウマ娘。トゥデイグッドデイ。
彼女と一緒にトレーニングした感じ、本格化は迎えているけどもその実力はそこそこ。淡々と顔色を変えずにトレーニングをこなす辺りスタミナは光るものがある一方でスピードが足りないし小柄故に競り合いに弱い。とても重賞はおろかオープンクラスにも手が届くとは思えず、やっぱり同じか、と私は同族意識を抱き始めていた。
しかし、そんな彼女の転入から数日。
トゥデイグッドデイがチームリギルに加入したというニュースがトレセン学園を駆け巡った。しかも難関で知られる入部テストではなく東条トレーナーにスカウトされてだと聞く。
何で、彼女が。
私の中でそんな言葉と共に黒い感情が渦巻く──なんて事はなかった。
むしろ気の毒に思った。
リギルに所属するのは皇帝やスーパーカーなど超一流のウマ娘たち。彼女たちとの隔絶した差を味わい続ける日々なんて、私には耐えられないから。
すでにクラスは入学時と比べて数人減ってしまった。彼女はどうだろうか。
トゥデイグッドデイはとても人見知りする娘だった。あと彼女へのスズカの距離感がやけに近い。もしかして……いや、天然なところあるしバグってるだけかな。
トレーニングの休養日。学園内をぶらついているとグラウンドにてトレーニング中のチームリギルを目撃した。
今は同級生のサイレンススズカと『皇帝』シンボリルドルフ会長が併走している。余裕のある涼し気な表情で走る会長に対してサイレンススズカは必死に食らいついている感じだ。
でも、併走が成り立っている時点ですごいと思う。相手は7冠ウマ娘、絶対があると言わしめ三度の敗北が語られる生きた伝説。私なら近付いただけでオーラにあてられて倒れるだろう。
次いで現れたトゥデイグッドデイは『女傑』ヒシアマゾン先輩と併走しようとして──あっという間に引き離されていた。相手は今年のエリザベス女王杯の覇者。トレーニングということである程度の加減をしてもなお併走が成り立たない程の実力差ということらしい。
「うわぁ……」
そして、それを見た私の口からは思わず声が出てしまった。
同級生のルームメイトがどうにか食らいついているのに自分は足元にも及ばない。基礎能力向上を図ってか別メニューを指示されたようで、それを一人で黙々と行っている。身体よりも先に心にガタが来そうな状況だ。私だったら情けないやら恥ずかしいやらで速やかに脱退届を用意している。
というか、なんでリギルのトレーナーは彼女をチームに入れたのか……下の存在を見せ付けることで意識の引き締めとか?
性格キツそうな見た目だしありえるかも。
おーこわ、クワバラクワバラ。
更に時が経ち、とある休日。
友達と一緒に街へと繰り出し、ショッピングや食事、ゲームセンターに映画と楽しんでいたら日はすっかり落ちてしまい、門限が迫っているのに気付いて慌てて寮へ帰っている途中。
天気予報に無い、ざぁざぁと降り始めた雨に私達は公園の東屋で雨宿りをしていた。
「うひゃーついてない」
「雨、しばらく止みそうに無いわね」
「寮長には連絡入れといた。濡れないように、風邪には気を付けてね、だとさ」
「さすがフジ先輩、惚れてまうわー」
男勝りで口調は荒いが気の利く青鹿毛の友人によって門限の問題が解決したのでベンチに思い思いに腰を下ろす。
「誰かタオル持ってないかしら? 尻尾が濡れて気持ち悪いの」
さるレースの名家の分家の分家の出という芦毛の友人が毛先から水滴の垂れる尻尾を摘みながら訊いてくる。私は鞄を漁り、目的のものを掘り当てると彼女に差し出した。
「ちっちゃいけど、はい」
「ありがと……?? 何このキャラ……何? マグロ? タコ?」
「ツナタコだよ? 可愛いでしょ」
「……帰ったら火急速やかに洗って返すわね。夢に出そう」
「相変わらずやべえセンスしてるな。デフォルメしてるなら兎も角リアル系って」
「ひどい」
そんなに邪険にしないでもいいじゃんか。
他愛もないやり取りをしつつ雨が止むのを待っていると、ざっざっと足音が近付いてきたのを耳が捉え、その方向に視線を向ける。
「……はぁ、雨なんてついてな……い……」
呟きながら東屋に入ってきたのはトレセン学園のジャージに身を包んだウマ娘。雨に濡れた黒鹿毛の髪が褐色の肌に貼り付き、黄金色の瞳は私達を見て大きく見開かれている。
トゥデイグッドデイだった。
「っ……お、お邪魔しました」
そして回れ右をした。
──えっ?
「ちょちょちょっと、お待ちなさい。貴女も雨宿りに来たんでしょう?」
「でも」
「デモもストもねえって。大人しくしてろ」
踵を返そうとした所を友人たちが引き留める。トゥデイは暫く逡巡していたが、観念したのか「すみません、失礼します」と言って空いているベンチに腰かけ、ジャージの袖で濡れた顔をぬぐう。
「「「「…………」」」」
なんとなく気まずくなり会話が途切れてしまった。
私とトゥデイはクラスメイトで日常会話はあるけれど特別仲がいいわけではないし、友人二人は別のクラス。距離感が微妙すぎる。
どうしたものか、と私は視線をトゥデイに向け、そしてふと疑問が浮かんだ。
「(あれ? 今日リギルってグラウンド使っていた筈じゃ)」
チーム練習や自主トレーニングでのグラウンドの使用には事前申請が必要で、接触事故などを防ぐためにどのコースのどの区画を何人で何時まで使うか等きちんと決められている。その割り当ては専用のアプリで確認することが出来、昨晩確認したときには夕方ごろ迄彼女の所属しているリギルの名前があった筈だ。
つまり、チームのトレーニング後も彼女は自主トレに励んでいたと言うことらしい。
「(……なんで、そんなに)」
チクリ、と胸を刺す痛みを感じる。
私も一応チームに入った。と言ってもスカウトを受けたわけではなく、スカウトを受けられなかった私のようなウマ娘がトゥインクルシリーズに出るための駆け込み寺のような、トレーナーはいるが教官のように複数人に画一的なトレーニングを行うスタイルの、そんなチームに、だ。
一応近々メイクデビューを迎える予定。最初の3年間でオープンクラスに行ければベストだろう。
ちなみに友人達は選抜レースで結果を出し過去にG2ウマ娘を輩出した事のある中堅どころのチームにスカウトされた。流石だ。
チラリと外を見る。
日が暮れ、暗闇の中で白い光を放つ街灯に反射する雨粒の勢いは少し弱まったが、寮との距離を考えると強攻策は難しい。まだ雨宿りする必要がありそうだった。
つまり、このままだと無言の時間が続いてしまうわけで。
何かしら話しかけて会話を発生させようか、と口を開きかけるが芦毛の友人が一足先だった。
「貴女、確かトゥデイグッドデイさんといったかしら? チームリギルの」
問いに対してコクコクと頷くトゥデイ。
学園最強と名高いチームリギルに編入生がいきなり加入したというのは学内で大きなニュースになったし、別クラスではあるが彼女が容姿と名前を知っているのはおかしな話ではない。
「東条トレーナーのトレーニングは徹底的な管理の中、最小限の時間で最大限の負荷をかけ最高のリターンを得ると聞いているのだけど、貴女はどうして今走っているの?」
立場や過去から名門やら名家やらの看板に思うところのある友人が噛み付いた──いや、これは普通に疑問に思ってる事を訊ねているだけみたいだ。いつもそんなだから「悪役令嬢みたい」だなんて言われるのに。
「……? どう、して……?」
そんな友人の詰問のような言動に彼女は動じず首を傾げている。人見知りする割にこういうところは鈍感というか天然というか。いつか壺買わされそう。フクキタルと一緒に。
「リギルでのトレーニングだけで充分だろって話。態々トレーナーの目の届かないところで自主トレなんてしなくてもな」
スマホを操作しながら補足する友人。容姿言動にそぐわずやっぱり面倒見がいい。一部同級生や下級生にファンがいるというのも納得だ。
その友人の言葉を咀嚼したらしいトゥデイは「ああ」と納得したように頷き、口を開く。
「全然、足りませんから」
雨音の中、その声はやけに大きく聞こえた。
「足りないって、何が?」
訝しむような声と表情の友人。
「…………情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ、そして何よりも──速さが足りない」
「「「?????」」」
どうした急に。
私達が疑問符を浮かべていることに気付いたのか、「そ、それは置いておいて」と話を逸らす彼女の頬は赤く染まっている。冗談だったんだろうか。不覚にも可愛いと思ってしまった。
「夢の為には。夢を成すには。スズカに並び……いえ、追い越すには、何もかもが足りません」
「……サイレンススズカさんに、ね」
ちらり、と友人の碧眼が私に向いた。以前の選抜レースの結果、顛末を知っているからだろう。私はそれに気付かないふりをする。
……痛いなあ。
ちなみに、トゥデイの「速さが足りない」の言葉が気になってふとネットで調べてみたら昔のアニメのとあるキャラクターのセリフだということが分かった。トレーニングとレースにしか興味ありませんみたいな感じなのにそういう趣味があるのか……意外だ。
メイクデビューで負け、未勝利戦も掲示板こそ時々引っ掛かるが勝ちきれない状態が続いている。試しに条件戦への格上挑戦はしたけど結果は……うん。やっぱり中央は魔境だ。
それと、友人達が順調に勝ち進みオープンに進んだことで何となく気不味くなってこちらから一方的に避けて今ではすっかり疎遠になってしまった。
「何やってるんだか」
寮の自室のベッドに仰向けで寝転がりながらスマホを眺める。既読だけをつけて返事をしていないLANEを閉じて適当にニュースサイトを眺めていると、つい先日開催された弥生賞の記事があったのでふとそれをタップする。
弥生賞を勝ったのはサイレンススズカ。見事な逃げ切り勝ちで一躍今年のクラシック戦線の主役の一人に躍り出た。そんな彼女のクラスメイトでチームメイトでルームメイトのトゥデイグッドデイは5着。
二人共クラシック級に上がってからのメイクデビューで勝利しそのまま格上挑戦でG2を走るという強気のローテにリギルのトレーナーの自信のほどが窺える。
「はぁー、天才ってのは凄いなあ」
──夢の為には。夢を成すには。
──スズカに並び……いえ、追い越すには、
──何もかもが足りません。
「…………ほんと、凄いなあ」
トゥデイは休み時間、スズカ達が一緒に居ないときはスマホで動画を見ていることが多い。
通りすがりにチラリと横から覗き込んだときに見ていたのが私が負けたレースの動画でとても恥ずかしかったけど、とても真剣に、楽しそうに、愛おしそうに眺めるその横顔に何も言えなかった。
──なんか顔あっつい。
スズカは皐月賞を勝利しクラシック一冠目を獲り、トゥデイは青葉賞を勝利し日本ダービーの優先出走権を得るも怪我により回避となった。
松葉杖とギプス姿のトゥデイの登場にクラスは騒然としたし、私も動揺した。怪我の程度は深刻ではなく復帰可能だと言っているけど、追い越したいライバルの背は、夢は更に遠のいているのは確かなのに、なんで。
その日本ダービーはまたもやスズカが鮮烈な逃げ切り勝利。2着のマチカネフクキタルに影を踏ませない圧勝劇かつ無敗の2冠達成に、私達は『スズカ世代』と一括りにされるようになった。
仕方ない。あの走りは、ウマ娘の理想そのものだから。
夏シーズンを終え、10月。
私は最後の未勝利戦を突破できなかった。
結果は6着。ウイニングライブの舞台にも上がれない。センターの娘が涙を流しながらパフォーマンスをする一方で、両サイドの二人は憑き物が落ちたような笑顔を浮かべていた。ああ、彼女達はレースから引退するんだろうと何となく察する。
一方、トゥデイは復帰に向けてトレーニングに励んでいるようだ。骨折した箇所に負担をかけないよう、ジムやプールでトレーニングしている所をよく見かける。
……なんとなく、なんとなくだけど、ここで引退したら後悔する気がした。
書きかけの脱退届をゴミ箱に入れ、着替え等一式を手にチームの部室に向かうと、トレーナーやチームメイト達が驚いた顔をしていた。
いやまあ脱退届書いてたら練習時間に遅刻したし、未勝利のままクラシック2年目終わりかけのウマ娘が遅刻したらまず間違いなく引退か脱退だからだろうけど。
……久々に友人たちとちゃんと話した。
頬は痛いし懐が寒くなったけど、心がポカポカしてる気がする。
トゥデイは復帰戦の中山金杯を勝った。
私は友人たちと連れ立って応援に行きウイニングライブも観た。視界がウルッとするくらいには感動したのだけど、最前列でスズカと『栗毛の怪物』グラスワンダーさんがサイリウムを手に黄色い歓声を上げているのを見てスン……となってしまった。
私は平地競走から障害競走に転向した。トゥデイ程ではないけれどスタミナには自信があるし、条件戦で掲示板に入る程度のスピードでも障害の飛越や加減速のテクニックを磨けば通用するはず、という考えがあっての事。ちなみにチームは障害レースを教えられるトレーナーのところを薦められ移籍した。
まあ、初めての障害レースは惨敗だったけども。
同時期、トゥデイは金鯱賞、大阪杯と走り入着。それでもスズカとの差は大きい。でも、諦めない。
例の宝塚は……もう、何がなんだか分からない。トゥインクルシリーズを取り巻く現状に失望したと言うクラスメイトも居たくらい。とりあえず皆で退院したトゥデイをもみくちゃにしたけど、そんなに気落ちしていないみたいでよかった。
夏はトレセン学園の合宿所で過ごし、秋のファン感謝祭。
トゥデイ達が後夜祭でライブをするという話は、クラスメイト故に彼女達の会話を耳に挟んでいたから知っていた。
実際のライブは凄かった。世代を代表するウマ娘達による夢の共演。まるでG1レースのウイニングライブ並みの熱量、気迫に私達観客は大盛り上がり。
立ち止まるな。いいや、ゴールまで駆け抜けろ。
私のゴールは……とりあえず、トゥデイ達よりは永く、走りたいかな。
深夜アニメで稀によくある総集編っぽい感じになったンゴ
なお毎日王冠はしっかり観戦し号泣していた模様。
秋天もちゃんと観戦するってさ。
モブウマ娘達にモデルはいないです。
狩猟系ナメクジ様より支援絵を頂きました!
昨今話題の『NovelAI』を使用して制作されたとの事です。
本当にありがとうございます!!
↓掲示板を見上げるデイカス
【挿絵表示】
↓毎日王冠着順確定後のデイカス
「あとちょっと、だった」
【挿絵表示】
【再掲】完結後の秋天IFルートで一番読みたいのは?(好みの調査です。感想への誘導が規約違反だったので再掲)
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秋天逃げ切り勝利√
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秋天故障半身不随√
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スズカ告白√
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一番いいのを頼む(↑上3つ混ぜ混ぜ)
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その他(活動報告にどうぞ)
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答えだけ見たい方向け