今は2023年1月1日41時なのでちゃんと元日に投稿出来ました(厚顔無恥)
神社では煌々と輝く山車に目を奪われ、神楽舞台では巫女による神楽の奉納を4人でジッと眺めていた。
「……?(んんん?)」
篝火に照らし出された神秘的な光景の最中、マチカネフクキタルの様子の変化に気が付いたのはトゥデイグッドデイだった。
フクスズで手を繋いだりしないかなーと意識を舞台から外した彼女は、普段から天真爛漫で奇声と笑顔が似合う友人が無言でツーっとその双眸から涙を流すのを見て、黄金色の瞳を見開く。
「(なんで……いや、そういえば……前に姉がどうこうって言ってたな)」
マチカネフクキタルに年の離れた立派な姉が『居た』事は、彼女の友人の間では周知の事実だった。思い出話になれば大体登場するその姉の事をどれほど好きなのか。そして歳の差を考えれば、イフの世界があったとしてあの舞台に立っていたのは誰だったのか想像することは容易い。
トゥデイグッドデイは一人納得すると──そのまま特に何もせずに舞台に視線を戻した。
「(涙は他人が止めるもんじゃないし、ましてや私なんて論外。それに後でスズカやタイキが気付いて寄り添ったりしてくれれば……げへへ)」
真っ当な思考から邪な欲望へとシフトする。緩急がおかしい。
「っ……それ、どうしたの?」
「ナニカ哀しいコトありましたカ?」
そして思惑通り、神楽が終わるとマチカネフクキタルの違和感に目敏く気付いた二人が何があったのかを尋ねる。
「……お姉ちゃんを、思い出したんです。あの人は神楽の練習もしてましたから……それに、皆さんをお姉ちゃんに紹介できていたら──なんて、考えてしまって」
「フクキタル……」
「……大丈夫デスカ?」
「すみません、暗くなっちゃいました。──あっ、ほら、早く移動しないと花火に間に合いませんよっ!?」
ゴシゴシと顔を拭い、パッと笑顔を作る彼女の様子は普段と変わりない。しかし、それでもやはりどこか無理をしているように見えた。
「フクキタル」
「はい? なんですか、トゥデイさん」
「道中……お姉さんの事、聞かせて」
「えっ?」
「無理はしなくていい。でも、開きかけた扉を強引に閉じるのは、ダメ」
「……そ、れは」
「そうね、私も、そう思うわ」
「ソウデス! 是非、聞かせてクダサイ」
普段から言葉数の少ない友人の真摯な言葉に三人は驚き、サイレンススズカとタイキシャトルは同調する。
なお本人は「(明らかに押し殺してるし吐き出させたほうが良さそうだしな。ついでにスズカ達の仲も深まって、百合ゲーならイベントスチル回収できるような場面になりそう)」という思考である。落差が酷い。
「──わかりました。では、歩きながら、お話しますね」
そうして、四人は神社を後にした。
マチカネフクキタルの実家に向かう道すがら、彼女が口にした姉についての話を簡単に纏めると、彼女に似て元気な性格で、自分とは違って何事も卒なくこなす才女で、優しく面倒見が良い娘だったとのこと。
「昔も今も、私の憧れなんです」としんみりしつつも何処かスッキリとした様子で締め括り、足を止めるマチカネフクキタル。
「ここです!」
「「「ここ?」」」
立派な構えの門と左右に伸びる白い塀。駅近くの現代的な町並みとは異なり、古き良き日本の景観を残すその家は、まるで時代劇のセットのようだった。
門の扉はすでに開いていて、マチカネフクキタルは「足元に気を付けてくださいねっ」と注意してから中に入る。
3人もその背中に続いて門をくぐると、広大な庭園が広がっており、その奥に二階建ての日本家屋が見えた。
「トッテもトラディショナルでジャパニーズなハウスデース」
「ええ、立派なお宅」
「あはは……見た目通り古いから床がギシギシうるさかったりしますけどね」
「……グラス、喜びそう」
「ふふっ、そうね。あの子はこういうの好きだから」
日本文化が大好きな栗毛の後輩ウマ娘の事を思い出す。すると、パッと夜空に花が咲いた。
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ。
連続する炸裂音に、聴覚の鋭いウマ娘である4人の耳がビクンと跳ねる。
「「「!!」」」
「あっ!? 始まっちゃいました!? ちょっと急ぎますよ」
走り出すマチカネフクキタルを3人は追い掛ける。
玄関で靴からスリッパに履き替え、板張りの廊下をパタパタギシギシと走って辿り着いたのは庭に面した縁側だった。丁度正面の空に花火が瞬いているのが観える。
「ワーオ! よく見えマース!!」
「本当にベストポジションね。他のお客さんには悪いかもだけど」
「ふふん、地元民の特権ですよっ」
「そうねぇ。後はウチも運営に絡んでるから、会場とかをちょっと『お願い』した所もあるけど……あ、これはオフレコでね」
「ナルホド〜……ン?」
「? 貴女は……」
唐突に会話に割り込んできたのは一人のウマ娘だった。身長はマチカネフクキタルと大差無い。暗い赤褐色をした栃栗毛の髪は肩より少し下辺りまで伸ばされていて、藍色の着物の上に白の割烹着を着ている。その両手で持つ大きなお盆には、水滴の浮かんだ4つのグラスと串団子がこんもりと盛られた皿が2枚載っていた。
「あっ、お母さん、ありがとうございますっ」
「はぁい。どういたしまして」
「フクキタルの……」
「お母様?」
「はい、マチカネフクキタルの母です。いつもこの子がお世話になっているみたいで……うう……まさかフクが友達を連れてくる日が来るなんて……前までは宗教勧誘や訪問販売と嬉しそうに話してたのに」
「あぁぁぁぁぁ!!?? 何言ってるんですか!? やめてくださいよぅ!!」
「あらあら。それでは皆さん、ごゆっくり〜」
顔を真っ赤にしたマチカネフクキタルはお盆をサッと受け取り床に置くと、母親の背中をグイグイグイグイ押して強制的に退場させた。
「「「……」」」
「さ、ささ、こちらへどーぞ」
「え、えぇ」「……(いや草)」「ハーイ」
全員が縁側に座った所で、夜空に大輪の花が咲く。
「あら、綺麗ね……」
「ハナビの漢字がファイヤーフラワーって意味なのがナットクの光景デスッ」
「……(何尺玉だろう)」
「お気に召してくれたようで何よりですっ」
麦茶の入ったグラスと串団子の乗った皿を配り終え、花火を眺めながらそれらを口に運んでいると。
「……この秋祭りの日って、お母さん達はみんな忙しいんです」
ポツリと漏らすマチカネフクキタル。
「いつも私とお姉ちゃんでここから花火を見ながらこうやってお茶やお菓子を頂いて……お姉ちゃんが死んじゃってからも、それは変わらなくて」
彼女は「でも、不思議ですよね」と続ける。
「ひとりで見ていた時だってお姉ちゃんの事を考えていたのに、今は……」
マチカネフクキタルはその先を言葉にすることなく視線を友人達に向け、ふっと微笑む。
「皆さんと出逢えて、私は本当に……幸せ者です」
Side:オリ主
「それで、その……皆さんはどうですか? 今、幸せですか?」
唐突にフクキタルが口を開いた。
花火が終わりその余韻に浸っている中での、子供との距離感を掴みそこねた父親のような問いかけ。
「急にどうしたの? 怪しい勧誘が始まるみたい」
「えっ!? あ、そんなつもりじゃなくてですね!?」
「HAHAHA、カームダウンデス、フクキタル」
対してスズカが苦笑しながら言うとフクキタルはわたわたと慌て、タイキは笑顔で背中を撫でる。
尊い。塵になりそう。
目の前で繰り広げられる光景に内心で滂沱の涙を流し手を合わせて拝んでいると、顔を赤くしたフクキタルは咳払いをして切り換える。
「私、今、すごく幸せです。周りには友達の皆さんやトレーナーさん、ファンの方々がいて、勉強したり練習したり遊んだり、レースで競い合って、ライブで盛り上がって、時々トラブルもあったりしながら、一喜一憂する毎日が楽しくて楽しくて」
そう話すフクキタルは本当に楽しそうで、彼女の言う『友達』に私が入っていると思うと、こそばゆくも嬉しい気持ちになった。前世ではどうだったろうか。いや、愚問か。私だぞ。
フクキタルに誘われて訪れた秋祭り。4人で過ごす時間はとても楽しいものであっという間に過ぎてしまった。
彼女達と一緒に出掛けるなんて萌え豚百合厨としてはギルティだが、誘いを断って暗い顔をさせるくらいなら罪と黒歴史を重ねる方を選ぼう。
「だから、これは烏滸がましい、大きなお世話かも知れませんけど……大好きな人達に幸せになって貰いたい、幸せでいてほしいんです」
そう真剣な表情で言い切ったフクキタル。
彼女は普段明るい娘だけど、亡くなった姉に複雑な想いを抱き自己評価が低いという、泣きゲーのヒロインみたいな一面がある。
まあそれもスズカ達との交流やあの
……今日は彼女にとって思い出深い地元の催しということで感傷的になっているようだった。
「幸せ……ね」
スズカはそう呟いてこちらを見た。
──ん?
「トゥデイはどう? 幸せ?」
え? 私? 幸せだけど???
「そ、即答なのね」
当たり前だよなあ。
ウマ娘の世界で、ウマ娘達の事を間近で見ていられる。グラスペはまだなし得てないから置いておくとしても、それだけでも天に昇るような心地だ。
私自身が観葉植物や壁ではなくウマ娘になってしまった事には多少思うところはあるが、それでもスズカ達のような友人を得て、勉学に励み、レースを走り、青春を謳歌している、萌え豚百合厨にとっては望外の幸せすぎる。
いつか幸福の供給過多で死にそう。ほら幸運と不幸はバランスをとってるとか聞くし。
「そう……それは……良かったわ」
??? なんで頭を撫でるんですか?????????
「私も、貴女達と出会って、こうやって毎日を過ごすのがとても楽しくて……幸せよ。独りで走っていたらこんな事考えもしなかった。たぶん、只管スピードの向こう側だけを目指してたのかしら。今だって先頭の景色は譲りたく無いし、スピードの向こう側を目指しているけれど、幸せってそれだけじゃないから。……叶うことならずっと、一緒に居たいと思う」
そう言うスズカの表情は……なんと言うか色気が凄かった。
私だけに向けられた言葉じゃないと分かっていても不覚にも心臓が「ドキン」と跳ねてしまう。
うう……色即是空空即是色心頭滅却煩悩退散南無八幡大菩薩天上天下唯我独尊────。
「ハイハーイ!! ワタシもミンナとのエブリデイがとてもエンジョイでハッピーデス!!」
挙手しながら立ち上がるタイキ。
数歩庭に向かって進むとクルリと振り返る。
「ダカラ、ミンナ長生きしまショウ!! いつかレースをヤメて、卒業して、オトナになっても、オバサンになっても、オバアサンになっても、ミンナ一緒に過ごシテ、ずっとエンジョイ!! ずっとハッピー!!」
「長生き……。ええ、そうね。それだけ、幸せが増えるものね」
「いいですね! 50歳より100歳! 100歳より200歳! 長生きして時間が倍々なら、幸せも倍々です!!」
長生き、か。たぶん前世は魔法使い位だったろうからなぁ。年金貰えるくらいまでは生きたいなぁ。
「年金って……」
「トゥデイさんも時々天然ですよね」
「『も』?」
「アッイエソノ」
「スズカもトゥデイもテンネンですカー?」
「タイキ?」
遺憾である。こんなにも計算高く理性的な私を捕まえてあまつさえ天然だなんて。
パタパタギシギシ。足音が近付いてくる。
「あら? 今日は泊まっていくの?」
フクキタルのお母さんだった。現役時代の名前はアテナトウショウというらしい。さっきフクキタルから聞いた。
「ゑ?」
そのフクキタルが変な声を出す。いつもか。
「花火が終わったらすぐに帰るって言ってたわよね。結構時間が経ったのに出てこないからどうしたのかと」
「うわあぁぁぁ!!?? 門限が!!?? 行きますよ皆さん!!!!」
血相を変えて駆け出すフクキタル。スマホを取り出してロックを解除すると……行きでかかった時間を考えると寮の門限に間に合うか微妙な時間帯だ。
「あっ、ちょっ、フクキタル!? お団子、ご馳走さまでした! 失礼しますっ」
「アリガトゴザイマース!!」
ドタバタとその背中を追う二人。置き去りのお盆やコップを集めて困ったように笑っているアテナさんに渡し、私も立ち去る。
「……はひぃ、ふひぃ……ワタシにこ、この距離は……お腹も……オウ……」
「タイキさーん!!??」
なお、ウマ娘専用レーンを走って駅に向かっていたらマイラーのタイキがスタミナ不足&団子の食べ過ぎでダウンし、フクキタルが彼女を背負うことでどうにか電車に間に合い、門限も滑り込みセーフとなった。
「今度は外泊許可を取って泊まりましょう。そうしましょう」
「そうね……それがいいわ」
「アグリー」
死んだ目で話す三人に不覚にも笑ってしまった。すまんて。
今回の話の元ネタは『それぞれの天寿』ですが、この世界線では『わたしたちの天寿』なのだ。
またまた、狩猟系ナメクジ様より支援絵を頂きました!
昨今話題の『NovelAI』を使用して制作されたとの事です。
今回の四人の私服姿となります。
本当にありがとうございます!!
【挿絵表示】
次こそ日曜日……たぶん、きっと。
ワイは↓に生息してるので良ければどうぞ
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