転生オリ主ウマ娘が死んで周りを曇らせる話   作:丹羽にわか

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あと、プロローグを現状に合わせて改修してます。実況とか出走メンバーとか。
でもデイカスに月曜日は来ないのでご安心を。


第41R 天皇賞(秋)1

 

 

 

 

《本日11月1日東京レース場、メインレースは第11競走、G1、天皇賞(秋)! 芝左回り2000メートル。蹄跡を歴史に刻むのは誰か、13人のウマ娘が覇を競います!!》

 

 

 男性アナウンサーのハリのある声が響き渡る東京レース場。20万超の収容人数を誇る巨大施設はその注目度の高さから多くの観客が詰め掛け満員御礼、通勤ラッシュ時の品川駅や夏冬のビッグサイトも斯くやという混雑具合だった。

 

 

《天候にも恵まれ晴れ渡る秋空の下、芝の状態は良との発表です!》

 

 

 秋の空気は乾燥し、冬の気配が混じる冷たい風も吹いているが、それをモノともしない熱気がこの場には渦巻いている。それは出走するウマ娘然り、彼女らを応援するファンやトレーナー、チームメイト等によるもの。

 

 

《さあ、まずはこのウマ娘に登場していただきましょう!》

 

 

 パドックに設けられた舞台。その赤いカーテンの向こうからツカツカと蹄鉄シューズを鳴らして出てきたのは、白を基調としアクセントカラーの緑が映える勝負服に身を包んだ栗毛のウマ娘。

 

 

《本日1枠1番1番人気。目指すはスピードの果ての、その先へ! サイレンススズカ!!》

《調子は良さそうですね。意気軒昂、闘志に満ち溢れているように見えます。惜敗の宝塚、死闘の毎日王冠を経た彼女の走りから目が離せません》

 

 

「異次元の逃亡者。序盤ハイペースの逃げから終盤で更に加速し後続を突き放す『逃げ差し』を得意とするウマ娘。皐月ダービーの2冠。そしてクラシック級でのジャパンカップ制覇で年度代表ウマ娘、クラシック最優秀ウマ娘に選出。スズカ世代と評されるほどの活躍を見せる。シニア級では大阪杯こそ獲ったけれど宝塚ではマチカネフクキタルに惜敗の2着。毎日王冠ではトゥデイグッドデイに僅差での勝利。そして、この秋天ではその両名が出走しているわ」

「どうしたの急、に……? っ!? ト、トウs」

「シーッ」

「ショウ、むぐっ……」

 

 

 パドックを見下ろす観客席からチームリギルの面々と共に舞台を眺めていた東条ハナ。その背後にスッと現れ唐突に語りだした鹿毛のウマ娘。振り向いてそのサングラスとマスクに覆われた顔を見た彼女はハッと目を見開いて声を震わせるが、口元に当てられた人差し指で出掛かった言葉をどうにか飲み込む。

 シンボリルドルフらリギル所属のウマ娘達もその不審者の正体に気付いたが、二人からのアイコンタクトとウインクで制止されてしまう。

 

 

「……私に何か御用でしょうか。ええと」

「ウマ娘のT、でいいわよ」

「Tさん、ですか。それで用件は」

「もう、せっかちね。大した用ってほどじゃないわよ。中央最強と名高いチームリギルが居たから様子を見に来ただけ」

 

 

 そう話すウマ娘のTの事を東条は微妙な表情で見る。

 

 

「先日の展開予想では随分とトゥデイの事を評価していただいた様で。確か、心の本命、でしたか」

 

 

《続いてはこのウマ娘! 豪脚炸裂! 宝塚の再演なるか、4枠5番マチカネフクキタル!!》

《素晴らしい仕上がりですね。京都大賞典の時よりも更にトモのハリが増した様に見えます。本日はサイレンススズカと僅差での2番人気です》

 

 

 セーラー服をベースに縁起物のアクセサリーを数多く身に着けた特徴的な勝負服を着たマチカネフクキタルは、サイレンススズカに劣らない大歓声に元気に手を振って応えている。

 

 

「……(本命)を打ったのはマチカネフクキタルだったようですが」

「あら、配信見てくれているのね。嬉しいわ。あっ、私の不定期企画の一つにトゥインクルシリーズ関係者との対談があるのだけれど、東条トレーナーもどうかしら?」

「……」

「もう、そんな眉間にシワを寄せていると取れなくなっちゃうわよ」

 

 

 そう言うウマ娘のTは御年ピー(報道規制)歳で東条より歳上だが大学生と言われても信じてしまう若々しい容姿をしている。彼女が子供の頃にテレビなどで見た憧れの姿そのままであり「はぁ」と一つため息を吐いて脱力した。

 

 

「対談については持ち帰って精査し検討させて頂きます」

「それ今後一切音沙汰が無いやつじゃない?」

「さあ? どうでしょうか」

 

 

 東条が笑みを浮かべて言うと、ウマ娘のTはキョトンとした顔をした後に破顔して肩をすくめ、「お邪魔したわね。対談、考えておいて頂戴」と言い残して立ち去った。

 

 

「……何だったのかしら」

 

 

 レース業界に身を置くものとして知っている相手ではあるが連絡先を持っているような関係でもない。そんな彼女からの接触の意図を測れず困惑顔になる東条だった。

 

 

「あの方がかの3強の一角、ですか」

「ルドルフ」

「まさしく天バ行空といった御仁。シービーの事を思い出しました」

「ああ……確かに」

 

 

 自由奔放な3冠ウマ娘を脳裏に思い浮かべる二人。

 

 

「そういえば、先程トレーナーさんが仰っていた心の本命とは何でしょうか?」

 

 

 そう疑問を口にするのは、来週にクラシック3冠最後の頂、菊花賞が控えている2冠ウマ娘、グラスワンダー。

 

 

「……簡単に言えば、本命とは別に、激推ししているウマ娘という事だ」

 

 

 東条は苦虫を噛み潰したような表情で答える。グラスワンダーは「な、るほど?」と納得したようなしていないような微妙な反応で、仕方無く東条はスマホを取り出しUmatubeを起動、履歴からある動画のURLをLANEで共有する。

 

 

「38分辺りからだ。興味があるなら見てみるといい。ただ、気を強く保っておけ」

「???」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、東条らから離れた彼女はパドックを眺めながら独りごちる。

 

 

「あの様子だとトゥデイの調子は万全のようね。記念出走じゃなくて勝ちを狙いにいけるレベルで回復して仕上げてきた……と。チーミングの為の駒にしてる事も考えたけどそれも無さそうかしら」

 

 

 前者はともかく後者についてはまず無いだろうと思いつつも、トレーナーやチームメイトらの雰囲気からトゥデイらの調子を推し量る為の接触の結果に満足げなウマ娘のT。

 

 

「これは、楽しいレースになるわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

《さあ、最後はこのウマ娘! 雷蹄一閃、ターフを斬り裂く黒い稲妻! 8枠13番トゥデイグッドデイ!!》

《前走毎日王冠の走りが評価され本日はG1未勝利ながら3番人気です。普段通り、といった様子でしょうか。あの爆発力を発揮できれば初のG1勝利が見えてきますよ》

 

 

 現れた小柄なウマ娘。サイレンススズカやマチカネフクキタルよりは劣るが、客席の一角に陣取る集団から特に大きな歓声が上がる。

 黒の勝負服に身を包んだトゥデイグッドデイは暫し瞑目し佇んだ後、観客をぐるりと見回して一礼。顔を上げ、踵を返して戻っていく。

 

 

「スペ、お前さん、トゥデイを見てどう感じた」

「え? いつも通りクールでカッコいいなぁ〜って」

「違うっての。調子とか、雰囲気の方だよ」

「うーん……あっ、何だか深い? 気がします」

「深い、ねぇ」

「なんですのそれ」

「シュウチュウシテルッテコト?」

「あ、うん。そんな感じ」

 

 

 パドックを眺める観客の中に、沖野やスペシャルウィークといったチームスピカの面々も居た。

 今回のレース、スピカからはエルコンドルパサーが出走している。チームリギルに所属する先輩ウマ娘二人の後塵を拝す結果となった毎日王冠のリベンジに燃える彼女は5枠7番、出走ウマ娘13名中5番人気。天皇賞春の勝者メジロブライトに次ぐ人気であり、その後には昨年の有記念の勝利ウマ娘等が続く。

 

 

「(エルは最高の仕上がりだ。今なら凱旋門を獲れる……そう思っちまうくらいには。でもなあ……)」

 

 

 パドックの中でサイレンススズカらをジッと見つめているエルコンドルパサーの視線の先へと、沖野はチラリと目を向ける。

 

 

「(サイレンススズカ、マチカネフクキタル、トゥデイグッドデイ……間違いなく、世界最強がここにある)」

 

 

 この東京左回り芝2000メートルを世界の誰よりも速く駆け抜けるであろう面々を目の当たりにして、沖野は眉間にシワが寄りかけるのを意図的に抑え込む。

 

 

「(特に、毎日王冠で見せたトゥデイの末脚は最大の脅威だ。あんなのを野放しにしていたら勝利なんて夢のまた夢。各陣営が考えるのはあの末脚を出させないようにする事……マチカネフクキタルも一緒にか? 兎に角二人を大外ぶん回しすらさせないよう徹底的に包囲する。ポジション争いの中ラフプレー覚悟で当たりにいって体力を削るとかもありえる。スズカを好きに逃げさせる事になるが、それも仕方ないと割り切るしかない)」

 

 

 毎日王冠ではサイレンススズカの作り出した57秒7の超ハイペースに追従したことで殆どのウマ娘は脚を使い切り終盤伸びなかった。エルコンドルパサーには好きに走るよう伝えているが彼女は無理に追わず脚を溜める事を選ぶだろう、と沖野は彼女がストップウォッチを手にペースを保つ練習を念入りに繰り返していたのを思い出しながら推測する。

 

 

「(4コーナーで捉えに行かず、ゴールの直前で交わす。理想はクビ差、いやハナ差での勝利。スズカが息を入れようとペースを落としても惑わされず脚を乱さずに溜める。結果だけ見ればトゥデイが毎日王冠でやった走りが近い……途中まで追ってたし出血だ何だと前提条件は違うけどな)」

 

 

 何故あのトラブルの中彼女が上がり32秒台が出せたのか。ウマ娘の神秘としか言いようが無く彼は早々に理解を放棄していた。

 

 

《続いては本バ場入場です》

 

 

 パドックでのお披露目を終えたウマ娘達が地下バ道に入っていくのにつられて、観客達も移動を開始する。

 

 

「アッ!! ボクタチモイドウシナイト!! イクヨトレーナー!!」

「分かった分かった。おい押すなって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下バ道。

 

 カツン…カツン…

 カッカッカッカッカッ

 コツ…コツ…コツ…

 

 

 三者三様の足音が響く。

 

 もう言葉はいらない。

 

 後は、ターフの上で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ここ実況席からもスタンドの盛り上がりが伝わってきます。総勢20万の観客が、そして日本中の数百、数千万の人々が注目する秋の天皇賞。その視線を一身に受けるのは13人のウマ娘。トゥインクルシリーズを代表する優駿達の、本バ場入場です》

 

 

《本日1枠1番1番人気。人々の夢を背負い、並み居る強敵引き連れて、飛び込めるかゴール板。異次元の逃亡劇の幕が上がる。サイレンススズカ!》

 

 

《雪辱のクラシック。そして飛躍のシニア。春の盾は獲った。次は秋だ。名門メジロの誇りを胸に、栄光をその手に。メジロブライト!》

 

 

《神戸菊花宝塚。唯一人、逃亡者を捕えたウマ娘がターフに立ちます。その豪脚が見事福を呼び込むか。マチカネフクキタル!》

 

 

《台頭するは新世代。夢の舞台へ上がる女帝の治世は終わりを告げる。けれどその権勢に陰りはありません。エアグルーヴ!》

 

 

《怪鳥は飛ぶ。頂天を目指して。しかし立ちはだかるは最強の世代。その羽ばたきが巻き起こす烈風は壁を砕くか、エルコンドルパサー!》

 

 

《あの日。ハナ差2センチ、届かなかった。ずっとその背中は前にあった。けれど、今日は違う。今日を良い日に。トゥデイグッドデイ!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《さあ、13人のウマ娘がゲートに収まります》

 

 

 

 

《果たして、サイレンススズカを捕まえることができるか!?》

 

 

《G1天皇賞(秋)、栄光は2000メートルの彼方、各ウマ娘体勢完了》

 

 

《ゲートが開きました!》

 

 

 

 

 

 

 




『心の本命』

 トゥデイごめんなさい。私は本命をつけなかった。でも、貴女の能力を疑っているわけじゃないの。言い訳がましいのだけどどうか聞いて欲しい。
 このレースはこれまでの貴女の集大成ともいえるわね。何度もぶつかり合ってきたけど届かなかったサイレンススズカ。彼女に唯一勝利したマチカネフクキタル。親友でライバルな二人を相手取ってのG1の舞台。勿論他のウマ娘も猛者揃い。でも毎日王冠で貴女はその能力を示した。もう貴女は頂点に手を掛けている。後はその証明をするだけよ。秋の盾を賭けた大舞台で、それを見たい。
 でも、でも、同時にこうも思うの。
 私、貴女が追い付こうと歯を食いしばって走る姿が好きよ。ずっと見ていたいって。……最低よね。勝つために走っているのに、こんなことを思うなんて。ほんと、最低。
 ……このモヤモヤを振り払ってくれたのが、マチカネフクキタルなの。
 ウマッターを見たわ。貴女達、彼女の地元に行ったんですってね。山車を背景に街中での一枚と、帰りの電車で寝落ちたタイキシャトルと彼女に寄り掛かられたトゥデイグッドデイの一枚。なんて幸せそうなんだろうって。なんて、満たされるんだろうって。
 私、貴女の事をもっと好きになれた。追い付くための必死の形相だけじゃなくて、もっと色々な表情を見たくなった。
 だから、私はマチカネフクキタルを本命に推すわ。
 え? そこはトゥデイじゃないのかって?
好きな子にはイジワルしたくなるタチなのよね、私。
 それに、毎日王冠の後の貴女の表情で……その……フフ……いえ、やめておきましょう。収益化剥奪はもう嫌だしね。
 こんな私だけれど、貴女が栄光を掴むのを、悲願を果たすのを祈っているわ。
 貴女は『心の本命』。◎はつけないけど、どうか♡を送らせて。




グラス「…………」宇宙猫



 なんだこれは……レースの勉強でTBRさんの動画や記事を色々見てたら出来た
 ウマ娘のTさんの深刻なイメ損ですな

 なおTさんのウマソウルは感想欄参考

 レースで2〜3話使う予定です。まだ書き上がってないけど。

 ではまた柴又〜ノシ

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