転生オリ主ウマ娘が死んで周りを曇らせる話   作:丹羽にわか

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 2021年が終わったというのに作中では運命の天皇賞秋まで半年以上あるのでデイカスをまたサクっとやっちゃいますね

 英語の意味は『崩壊』。『in midair』を付けると『空中分解』になります。
 つまりマヤノ……ではなくタキオンルート。本編では出せなかったので……。

 今回は交通事故オチじゃないです。

 ちなみに、この世界線でのデイカスの方針は「グラスペのシニア級で絶対的な壁として立ちはだかって二人の仲を深める踏み台になろう」です。リギルもスピカもシリウスも無いアプリ育成世界線なのでウマ娘がトレーナーといちゃついており百合厨はヤケクソになってます。

 挿絵は無し。


Another タキオン同級生プランBルート『disintegrated』

Side:アグネスタキオン

 

 

 

 

「トゥデイ、グッドデイです。今日からよろしくお願いします」

 

 

 そう言ってぺこりと頭を下げてから席に着く、黒鹿毛の小さな転入生。

 

 身長は目測で140センチに届かない。手足は細く肉付きも悪い。見た目通り風が吹けば飛ぶような軽さだろう。当然バ群での競り合いにはまず耐えられないだろうし、だからといって逃げる為にハナを奪う加速力、後方や大外からの追い込みを可能とするスピード、そのどちらも身に付ける事は難しいだろう。

 

 勿論、この時期にトレセン学園へ転入できたというならばそれなりの能力、オープン戦を勝てる程度の見込みはあるのだろうが、私の目的である『ウマ娘の限界』に至る可能性は限りなく小さい。

 

 結論。プランBの対象としては不適格。

 

 これがトゥデイグッドデイを一目見て下した結論だ。

 

 観察対象にも被験対象にも成り得ない存在に私の興味は欠片も湧かない。だから、同級生の彼女がどんな過去を持ち、乗り超え、そして走るのか、私は全く知らなかった。

 

 だが、その認識は覆されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く経ったある日の事。

 

 元は理科準備室だった私とカフェの共用部屋に来客があった。

 時々うっかり外に出る『研究成果』や、選抜レースを蹴り続けている私自身への悪評もあって他のウマ娘が寄り付かないのでこれは非常に珍しい事だよ。

 しかし、通りすがりのウマ娘を拉致して実験しているだなんて誤解甚だしい。確保した後は気分の落ち着く紅茶でもてなしながら懇切丁寧に説明して同意を得た上で被検体になって貰っているというのに。

 

 脅迫? 詐欺? 催眠? そんな事するわけないじゃあないか。酷いなあ。

 

 おっと、来客についてだった。

 

 彼女はトゥデイグッドデイ。少し前に私のクラスへ転入してきたウマ娘だね。これまで特に会話など交流があった記憶は無いが、名前や顔くらいは覚えているとも。

 黒鹿毛に褐色の肌。カフェと少し色合いの異なる黄金色の瞳は無感情……いや、これは緊張、そして意識的に抑え込んでいるのか。視線が部屋の中のカフェと私のスペースを行き来している所を見るに好奇心は強そうだ。髪は手入れがされていないのか艶が無く跳ねている箇所があるので私生活は無頓着なのかものぐさなのか。香水の類いはつけていない。ふむ、生活スタイルは私に少し近いかもしれないね。

 

 相手を観察してしまうのは研究者の性と言っていい。改めて見てみると本当に走るのに向いていない身体をしている。私も大概難儀な身体をしている自覚はあるが、彼女も相当なものだ。それで中央に入ることが出来た努力と幸運は大したものだろう。

 

 

「貴女はアグネスタキオンさん……ですよね」

「ああ、そうだとも。トゥデイグッドデイ君」

 

 

 そう答えると彼女は僅かに目を見開く。

 

 

「あ、名前……」

「なんだい、君は私がクラスメイト一人の名前も覚えられない無能だとでも思っていたのかい?」

「い、いえっ、そんなことは決してっ」

 

 

 少し語気を強めて言うと面白いくらいに慌てふためいている。人付き合いは苦手、と。いわゆるコミュ障だろうか? しかしサンプルが私だけというのは結論を出すには足りない……いや、クラスでも他のウマ娘に話しかけられて挙動不審になっていたな。確定だろう。

 

 

「冗談だよ。少し待っているといい、紅茶を用意しよう」

「おか、あ、いえ、ありがと、ございます」

 

 

 来客を不躾に扱うような偏狭なウマ娘ではないからね、私は。この様子だととてもではないが会話になら無さそうだし、鎮静効果のあるハーブティーを淹れようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、強くなりたいんです」

 

 

 ハーブティーで一息入れて落ち着きを取り戻したトゥデイ君の相談は実にシンプルだった。

 強くなりたい。速くなりたい。勝ちたい。成程、彼女の身体の事を考えればそれは至極当然の願いだろう。

 

 

「ふぅン? ……それは私ではなく教官か、それこそトレーナーに言うべき台詞ではないかな? 選抜レースはまだ先だが、自分から売り込みに行くという手も」

「皆さんには無理だ、諦めろ、そう言われました」

「……そうか」

 

 

 転入生という時点で一定の能力は保証されている筈なんだがね。トレーナーからしたらスカウトした後は故障に気をつけて基礎的なトレーニングを積むだけでそこそこの実績を残してくれるウマ娘だ。多少は甘い言葉を使ってでも獲得しようとするはずだが。

 

 

「強くなりたい、とは言っているがね、具体的には?」

「最強」

 

 

 …………。

 

 

「私は最強になりたい。誰もが私を仰ぎ見て、乗り超えるべき壁として足掻く。そんなウマ娘になりたい」

 

 

 …………成程。それはそれは、トレーナー達の反応はもっともだね。

 

 小柄ながら強いウマ娘というのは居ないわけではない。

 最たる例は『白い稲妻』ことタマモ君だろうか。天皇賞春秋連覇、G1三連勝を成し遂げたあの時の彼女は間違いなく『最強』だった。だが、タマモ君は小柄ではあったがその肉体は強靭だ。目の前の彼女とは前提条件が違う。

 

 

「具体的に、と言ったはずだったのだが、随分とまああやふやで抽象的で夢見がちな目標だねえ」

「すみません。でも、他に言いようが無くて」

「夢は寝ている時に見るものだとは知らないかな? ンン?」

「……」

 

 

 けれど、興味深い。

 いい目だ。随分と狂った色をしている。

 最強の向こうに求めている何かがある。そんな欲深い闇が見える。

 

 

「分かった。協力しよう」

「ほ、ほんとですかっ!?」

「ただし、君も私に協力してもらおうか」

 

 

 私は棚から取り出した試作品を一本取り出す。

 

 

「私の噂を聞いて来たのなら、私が何の研究をしているかくらいは知っているかな?」

「は、はい。速くなるための研究、ですよね」

「50点」

「え」

「間違ってはいないが重要な部分が欠けている。減点対象だよ」

「重要な部分?」

 

 

 不思議そうな顔をするトゥデイ君。

 

 

「限界だよ」

「限界?」

 

 

 紫色に発光する三角フラスコを私と彼女の間にあるテーブルの上に置く。

 

 

「ウマ娘というのは摩訶不思議な存在だ。見た目こそヒトに近いが尾と耳を持ち、彼らを遥かに凌ぐ身体能力をその身に宿している。では、そんな我々の限界とはどこにあるのか。どこまで行けるのか。私はそれが知りたい。だからこその研究さ」

「…………」

「君には私の被験体になって貰うよ。ウマ娘の限界に辿り着いた暁には、君の求める『最強』の頂にも至っているだろう。だから手始めにこの薬を……あっ」

 

 

 ごきゅ、ごきゅ、ぷはっ、ことり。

 

 

「けぷっ……まっず……」

 

 

 そう言って顔をしかめるトゥデイ君。口の端から紫の液体を一筋溢し、その瞳が紫色に発光する。

 

 

「?? 光ってる? え? 何?」

「……これは、これは驚いたなぁ。いやはや、ククッ、ハハッ、ハハハッ!! 何だい君は? バカなのかい? 効果も副作用も聞かずに飲むだなんて、いやぁ、クッ、ハハハハハッ」

「笑いすぎですよ」

「そりゃあ笑うさ。笑わずにいられるかい? アハハハハハッ!!」

 

 

 笑いというのは一度ツボに嵌まると何でも面白く感じてしまうようになるというのは新しい知見を得た。

 

 その後、トゥデイ君が私の元を訪れたという情報と、私の笑い声に気付いたカフェが突入してきて一悶着あったが彼女は私の被験体、いや協力者になった。

 

 カフェはプランBに最適ではあるが警戒されてしまい実験に対して非協力的なのがネックだったが、トゥデイ君で実験が行えるのならそこでのフィードバックをカフェに対して反映させることも可能だろう。

 

 

 いやあ、楽しみだよ。

 

 また一歩、可能性の果てが近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? ミキサー? 纏めて一気に?」

「なんだい? 食事なんて栄養素を補給するための行為だよ。そこに調理などという手間暇をかけた所で時間を浪費するばかりか、加熱などの過程で栄養素を傷付け損なうことになる。ならばこれが最善だろう?」

「……作ります」

「え?」

「作ります!! 朝晩のお弁当!! 旨いメシは活力!!」

「えぇ……キャラ違くないかい」

 

 

 私生活に口出し手出しされるとは思わなかったが身体のコンディションは良好だ。中々優秀な協力者だよ、トゥデイ君は。

 

 しかし、まさかトゥデイ君が一度足を故障してから復帰していたとはね。しかもそれでも走る事への恐怖が無いというのは驚きだ。加えて、リハビリとしてこなしたトレーニングは精神と肉体の限界を突き詰めたもので、それを一人でこなしていた精神力は天晴れとしか言いようがない。私の課すどんな実験も淡々とこなす被験体というそれはもう都合がよすぎるような存在だ。

 

 先天的に関節が脆いトゥデイ君は負荷の大きくなるストライド走法が出来ない。

 これは大きな欠点で、小柄な体格による一歩の小ささを『前へ跳ぶ』事によって補うという方法が取れない。

 そこで私たちが目を付けたのはピッチ走法。脚の回転数を極限まで高めることでその欠点を補うことが出来る。ただ、これは消費するスタミナが尋常ではないというデメリットがある。スタミナお化けのトゥデイ君ではないと厳しいだろう。

 だが、これはあくまで大前提。レースの終盤以降の追い込みについてはスピードが圧倒的に不足している。これでは私の目指す『果て』にも、彼女の目指す『最強』にも届かない。

 

 もっとも、これについてはいずれ解決する問題だ。

 

 トゥデイ君で行った実験の成果でプランAも進展を見せている。肉体の補強が一定のレベルに達すれば、彼女自身の脚を破壊したという末脚が見れる日もそう遠くはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイクデビュー。

 

 

<外からトゥデイグッドデイ! トゥデイグッドデイ追い込んできた!! 先頭は3人!! しかし抜けたのはトゥデイグッドデイ!!>

<先頭、先頭はトゥデイグッドデイ!! トゥデイグッドデイゴールイン!!>

 

 

 

 

 

ホープフルステークス。

 

 

<ラリルレロボットが二番手に上がるか!? ミズーリと接戦!!>

<強い強い!! トゥデイグッドデイ先頭!! ラリルレロボット二番手!! トゥデイグッドデイ快勝ゴールイン!!>

 

 

 

 

 

弥生賞

 

 

<トゥデイグッドデイが独走に入った!! そしてマンハッタンカフェ二番手! 三番手争いはどうか>

<先頭抜けたトゥデイグッドデイ堂々と3連勝! 4バ身から5バ身近くのリードでゴールイン!!>

 

 

 私とトゥデイは名義貸しを行っているトレーナーのチームに加入しトゥインクルシリーズに足を踏み入れた。カフェはトレーナーにスカウトされたらしい。

 我々の研究成果は理想的な形で現れた。私はメイクデビューを済ませてからは実験とトレーニングに専念していたが、その間にレースに出走していたトゥデイは圧巻の三連勝。特に弥生賞では担当トレーナーの指導を受けてメキメキと実力を伸ばしているカフェすら寄せ付けない走りを見せた。

 

 次は皐月賞。最も速いウマ娘が勝利すると言われるレース。

 

 だが、まだだ。まだ果てにも、頂にも辿り着いていない。

 

 

「だから、トゥデイ。どうか私に見せておくれ。君が果てに踏み込み、頂点に手をかける瞬間を」

「分かった。タキオン。貴女に、その先を」

 

 

 

 

 

 

皐月賞。

 

 

 

 

<トゥデイグッドデイ抜けている! トゥデイグッドデイ抜けて2,3バ身とリードを広げる!!>

<ラリルレロボットとマンハッタンカフェが懸命に追う!! マンハッタンカフェ二番手に上がった>

<トゥデイだ! トゥデイだ! トゥデイグッドデイ圧勝ゴールイン!!>

 

 

 トゥデイの見せた末脚は私の計算を超えていた。

 2着のカフェに5バ身とは、現段階での限界を超えたとでもいうのだろうか。何とも研究者冥利につきるじゃないか。

 

 だが、だがっ!!!!!!

 

 

「素晴らしい!! 素晴らしいよトゥデイ!! ああ、ああっ、そこが果てか? 限界か? 頂点か? 否!! まだだ! まだだよなあトゥデイ!! 私と君なら、果てのもっと先にだって行けるさ!! そう、そうだとも!!」

 

 

 私は興奮に身を任せて観客席の柵を飛び越えコースに足を踏み入れた。

 黒色の勝負服に身を包んだトゥデイは立ち止まり空を見上げている。そこに見えているのは頂点だろうか。レースを終えたウマ娘達を躱しながら彼女に駆け寄る。

 

 

「トゥデイッ、どうだった? 限界を超えるというのは。抽象的でも構わないから是非感想を聞かせてほしい。 ……ん? どうしたトゥデイ。何をボーっとして」

 

 

 肩に触れる。

 

 

ぐらり。

 

 

ばたり。

 

 

「は?」

 

 

 何だ? 今の音は? トゥデイが倒れた音だ。

 緑のターフに横たわっているウマ娘は、誰だ? トゥデイ、トゥデイグッドデイだ。

 騒然とする会場。観客席からは悲鳴と怒号が聞こえる。何故? トゥデイが倒れたからだ。

 

 

「おい、おい、何の冗談だ。全く笑えないぞ。ははっ、ははっ、そうか、疲れているんだな。なら丁度いい、このタキオン謹製の疲労回復剤を」

 

 

 肩に提げていた鞄から薬を取り出そうとして、息を切らせたカフェが駆け寄ってきて肩を揺さぶってくる。

 

 

「誰か救急車を!! それとAEDを!! タキオンさん!!」

「か、カフェ」

「私が心臓マッサージをします。タキオンさんは……手を握ってあげてください」

「い、いや、しかしトゥデイが」

「握って。トゥデイさんが、寂しくならないように」

 

 

 どういう意味だ、と訊き返す間もなくカフェに強引にトゥデイの手を握らされる。

 

 こんなに小さかっただろうか。

 

 こんなに冷たかっただろうか。

 

 震えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皐月賞前日、トゥデイグッドデイの日記

 

4月14日

 

 

 明日は皐月賞。

 最も速いウマ娘が勝つと言われるクラシック三冠始まりのレース。

 正直、ここまで来れるとは思わなかった。

 最強なんて御大層な夢を掲げていたけれど、そこに届くようなウマ娘じゃない事は分かっていた。だけど、諦めきれなかった。どうしても頂に至りたかった。だから、タキオンに出会えた私は幸せ者だ。

 彼女の研究で私は速くなった。デビュー戦からG1を含めた三連勝なんて、未だに夢みたいな結果だと思う。

 

 だから、示すよ。

 

 限界を超えたその先を。

 

 スピードの向こう側を。

 

 ウマ娘の可能性を。

 

 

 

 だから、見ていてタキオン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は、たった四度の戦いで伝説となった。

 彗星のごとく現れ、瞬く間に駆け抜けていった。

 人々に夢を与え、ライバル達の目を眩ませる。

 

 頂の星。

 

 彼女の名は、

 

 トゥデイグッドデイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タキオンさん、本気ですか」

「ああ、本気も本気さ」

 

 

 

 

「トゥデイは果てに行ってしまった。ならば、私が迎えに行ってあげようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 如何だったでしょすまんかった。

 スピードの向こう側、限界の、可能性の果てのその先へ行く資格は百合厨萌え豚TS転生者のデイカスにはありません。この結末も仕方ないね。

 多分死因はカフェの心臓マッサージと人工呼吸でのウマ娘ショックだと思う。



 タキオンの最後のセリフを希望ととるか狂気ととるかで貴方の性癖が分かる。


 最後に新年あけましておめでとうございます。今年も拙作をよろしくお願いします。


P.S.
ツイッターとピクシブ始めました。今は何もありませんが今後活動していくつもりです。
pixiv  ⇒ https://www.pixiv.net/users/76686231

Twitter ⇒ https://twitter.com/adappast

↓挿絵として用意したけど使いどころが無さそうなフクキタルお年玉として置いておきます。


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