生きてますよー?
ただ曇らせを出力するための闇が足りなくて……そしたらROAD TO THE TOPで少し持ち直したので、デイカス投稿開始二周年記念として覇王世代IFルート投稿します。
Wikiやサポカやイベントシナリオ読んでキャラクター勉強したけど解釈違いだったら許してクレメンス
今回のデイカス
トプロ幼馴染で同学年(クラス別)。暗い過去は無い黒鹿毛の転生オリ主ウマ娘。当人はスズカ世代か黄金世代デビューを目指していたけど本格化の遅れで覇王世代デビューに。今のところ『グラスペ有馬記念最強の二人を間近で見る』事が目標。クラシックで成績を残すために本編よりも無理をしている。
Side:沖田トレーナー
今頃、トップロードは授業を受けている頃だろうか。
先日行われた弥生賞のレース映像を見返しながら、俺は彼女の次走に考えている皐月賞へ向けての現状の問題点と、その解決法を模索していた。
「本番で奴さんがどう動くか……マトモな末脚勝負になればこっちが不利……コーナーも小回りで苦手」
今朝の自主練でトップロードが行っていたコーナリング練習の継続は必要だろう。皐月賞が行われる中山レース場の直線は短く、3コーナー過ぎの時点で残り600メートル。長く足を使えるだけでは足りない。曲がりながら加速出来る器用さと仕掛けどころを違わない瞬発力と判断力。それらが揃っていなければ勝利はない。
「それに……他にも気を付けないといけねえ奴は……」
カチ、カチ、とマウスをクリックし弥生賞の映像が映るウィンドウに被せてとあるレース映像を表示し、再生する。
《さあレースはいよいよクライマックス! 共同通信杯を制するのは果たしてどのウマ娘か!?》
《残り600! トゥデイグッドデイが2バ身リードし先頭でレースを進め後続は徐々に……ッ! ここで2番手シーサイドブルー仕掛けた!》
《しかし差は縮まらない! トゥデイグッドデイ逃げる! 逃げる!》
《残り200! トゥデイグッドデイここで加速!シーサイドブルー懸命に追い縋るが厳しいか!?》
《トゥデイグッドデイ先頭でゴール!! デビューからこれで3戦3勝! 何という鮮やかな逃亡劇でしょうか。見事、クラシック戦線の主役に名乗りを上げました!!》
《逃げて差す……かの異次元の逃亡者を彷彿とさせる走りでしたね。これは皐月賞が楽しみです》
ゴール板を先頭で駆け抜けたのは、黒鹿毛に褐色の肌と周囲と比べてひと際小柄な体躯が目立つウマ娘だった。
レース内容は圧倒的の一言。一番いいスタートを切ってすんなりハナに収まると、後続を離し過ぎない程度のペースで経済コースを通ってレースを進め、終盤には後続が仕掛けてきたタイミング……よりも僅かに先んじて自身もスパートをかけ突き放す。逃げウマの癖して上がり3ハロンで最速を記録するという空想じみた走り。
動画内で解説が口にしていた『異次元の逃亡者』サイレンススズカを彷彿とさせるという話も頷ける。「最初から最後まで先頭で走れば勝つ」というシンプルかつ脳筋な真理に身を置いた者の走りだ、これは。
「グッドデイ……まさか、ここまで上ってくるなんてな」
彼女、グッドデイはかつてトップロードと同じちびっこウマ娘育成クラブに通っていた。
トップロードが不器用ながら真面目で直向きに努力を積み重ねるタイプだったのに対し、彼女は大人びていて何事も器用に卒なく淡々と、そして延々と繰り返す事の出来るタイプだった。
素質という点では恵まれた体格に起因する大きなストライドや頑丈さ、性格面での勝負強さのあるトップロードに軍配があがるだろうが、グッドデイの精神的な安定感、そして吸収力と適応力は大きな武器だ。
叶うならば二人まとめて面倒を見たかったが、俺自身のキャパシティを超える無理は出来ないと、トップロードだけに指導を行うことにした。もっとも、クラブではトップロードとグッドデイの実力は伯仲していたから併せの相手としてよく選び、そのついでにアドバイスしたりしていたが、それも彼女が家庭の事情で引っ越すまでの事。
その後の交流は俺とトップロード共に皆無であり、ちびっ子ウマ娘レースなどで彼女の名前を聞いたことも無い。
「もう走るのはやめたもんだと勝手に思っていたが、まさかトレセン学園に編入してくるとは」
思い出すのは1〜2年ほど前のとある日の事。ホームルームを終えたトップロードを待ってトレーナー室で寛いでいると「ととととれぇぇなあぁぁさぁぁぁん!!!!」と叫びながら小柄なウマ娘の両脇に背中側から手を突っ込んで抱え猫を持つみたいにぶら下げた教え子が部屋に飛び込んできて、驚きからひっくり返りそうになりながらもどうにか堪え、その抱えているウマ娘がかつての記憶そのままのグッドデイだった事を認識してさらに仰け反った。腰を少しやっちまったよ。
手入れが足りていないのか艶の無い黒鹿毛の髪と尻尾。カフェオレを思わせる肌。トレセン学園の制服を着ていなければ初等部と見間違う小柄な体躯。フレーメン反応を起こした猫のように黄金色の瞳と小さな口をぽかんと開けて呆けている所を見るに、興奮したトップロードにホームルームが終わるなり爆速で拉致された事は明白だろう。
話を聞くに、一般校から転入試験をパスして入学してきたらしい。引っ越してクラブをやめた後はレースから遠ざかっていたらしいが、『とある夢』が出来、それを叶えることを夢見て猛特訓の末、トレセン学園の門を叩いたとか。
その『夢』ってのは「……秘密です」と口を噤まれてしまったが、かつてよりも生き生きとしていて俺は安心した。
そこから、トップロードが「トゥデイちゃんも私と一緒にトレーナーさんと」と言い出し、それに対してグッドデイが「入るチームは考えてあるから。それに、沖田さんにその気はない」「そうなんですか!?」という一幕があったりしたが、今ではクラスは違うものの同学年の昔馴染みということで関係性は良好らしい。
「それで入ったチームが手当たり次第にウマ娘を集めてる『出走券』なんて言われてるとこなのは意外……いや、グッドデイの自己管理の上手さを考えりゃそこらのトレーナーがつくよりはいいんだろうが……実際に共同通信杯、重賞も勝ってる訳だしな」
しかも、その前走ではトップロードの出た福寿草特別でも逃げ切っている。トップロードは足を溜めての後ろからのレースになったが、仕掛けるタイミングを見誤り届かなかった形での敗北だ。
原石を眺めるだけで放っておくというのはトレーナーという人種としては歯がゆい部分がある。だが、俺の身は1つだけだしもういい歳だ。それに複数人のウマ娘の面倒を見る器用さや甲斐性、精神なんて持ち合わせていない。
「……ふぅ、いかんな。年を取ると、どうにも後ろばかり見ちまう」
気を取り直してレース映像を見ながら分析を始める。
トップロードと目指す頂点への道。それに立ちはだかるのはグッドデイだけじゃないからな。
Side:アドマイヤベガ
彼女との出会いは、世界が寝静まったとある新月の夜だった。
寮の屋上で都会の疎らな星空の下、『あの子』との語らいを終えた私は足音を忍ばせて廊下を歩いていた。門限はすでに過ぎ、消灯時間が迫る時間帯。物音ひとつせず、常夜灯の弱弱しい光だけが頼りなのは夜を恐れる生物としての本能的な恐怖を掻き立てられるように感じた。
「……ッ」
自然と足が速まる。ありもしない『何か』が気になってチラチラと後ろを確認しながら廊下を早足で進み、階段に差し掛かる。
夜の自主練の疲労に加えてこの夜更かし。そして今の状況での緊張と注意力が散漫になっていたんだろう。私は、曲がり角から出てくる小さな人影にまったく気づかなかった。
どんっ。
「きゃっ」
「あっ」
私は不意の急な衝撃に思わず身体を強張らせて声を上げ、ぶつかった相手は小さな声を漏らしてすとんと尻餅をつく。
「ご、ごめんなさい……大丈夫?」
すぐに駆け寄り謝罪を口にしながら相手に手を差し出す。すると暗闇の中、夜空に浮かぶ月を思わせる涼し気な瞳がこちらを捉え、「ええ、問題ありません」と手を借りる事なくすっくと立ち上がった。
「本当にごめんなさい……怪我は? 擦りむいたり、打撲とか無いかしら?」
言いながら相手の様子を確認する。小柄な子で、黒地に白いラインの入ったジャージを着ているのは寝間着代わりかしら。長い黒鹿毛と褐色の肌はどこかエキゾチックで、そのさめざめとした瞳と相まって独特の雰囲気を纏っている。
「大丈夫です。こちらこそ、不注意ですみません」
「あっ、まっ……ッ」
そう言ってぺこりと頭を下げ、こちらが二の句を告げる前に「失礼します」と踵を返してしまう。追いかけようと一歩踏み出すも、思いがけず大きく響いた自身の足音に身体が跳ね、遠ざかっていく背中を見送るしか出来なかった。
「…………」
伸ばしかけた手を引っ込めて、掌を見つめ、ふと気付いた。
「……床が湿ってる?」
暗がりで分かりにくいけど、板張りの廊下に濡れ雑巾で拭いたような跡があった。丁度、さっきの子が尻餅をついたあたりに。
「何か、こぼしたのかしら」
下の厨房で温かい飲み物を用意して……なんてしていたのかもしれない。けど、見た限り何かを持っていたような様子はなかった筈。少し不思議に思いながら私は自室に戻る。
そっと扉を締め、忍び足で自分のベッドに近づき音を立てないよう気を付けながら静かに潜り込んだ。
すると、向かいのベッドがモゾリと音を立て、ふと顔を向けると、くりくりとした鳶色の瞳と目があった。
「おかえりなさい、アヤベさんっ」
「ッ……ごめんなさいカレンさん。起こしてしまったかしら」
カレンチャン。彼女はウマスタというSNSで300万人のフォロワーを持つインフルエンサーで、『カワイイ』を更に広めるためトレセン学園に転入してきたという少し変わった子。
「ううん、なんだか目が冴えちゃって、眠れなかっただけなので大丈夫です」
「そう……なら、もうこんな時間なんだから早く寝なさい」
「はーい」
言葉の真偽は兎も角、そんなやり取りをしてから眠ろうと目を瞑る。
「…………」
けれど、瞼の裏に映るのは、先程、私の不注意でぶつかり弾き飛ばしてしまった黒鹿毛のウマ娘。見たところ歩様に違和感はなかったし本人も大丈夫とは言っていたけど、だからと言って「はいそうですか」と気持ちを切り替えられるほど器用じゃない。
それに、廊下が湿っていたことも気にかかる。飲み物などをこぼしたので無ければ彼女が濡れていたということになる。あの時間に、寮という場所で。それはおかしなことじゃないかしら。
「…………」
「どうか、したんですか?」
寝付けない気配を察したのか、カレンさんがそう訊ねてくる。
何でもない、と返して眠ることはできたし、彼女はきっとそれ以上踏み込んでこない。
いつもならそうしていたけれど、あの子に何かあるのかもしれないなら。
「……実は、さっき」
事の経緯や相手の特徴を話すと、カレンさんは「多分、その人ってトゥデイさんです」と口にした。
「そのトゥデイさんは有名な人なの?」
「えっ、トップロード急行事件、知らないんですか?」
「……なにそれ」
唐突に降ってわいた『トップロード急行事件』というワードに私は星で満ちた宇宙を背負ったような感覚を覚えた。というかトップロードって私のクラスの学級委員長の事よね。あの真面目で素直で明るい人と、サスペンスドラマのタイトルみたいな言葉のミスマッチが酷いのだけれど。
話を聞くに、トゥデイ……トゥデイグッドデイさんはカレンさんと同じ外部からの転入生で、私とはクラスは違うけど同じ学年らしい。そして、転入初日の帰りのホームルーム後、廊下を歩いている所を唐突に、トップロードさんに猫を抱えるようにして何処へと爆速で拉致されたのだとか。
それが『トップロード急行事件』。しかも今日の日中の出来事。
いつもホームルームが終わったらすぐトレーニングに向かっていたから騒ぎに気付かなかったわ。
「だから多分、アヤベさんが心配しているようなことじゃないと思いますよ?」
「……そうね」
「ふふっ、やっぱりアヤベさんって、優しいですね」
「……うるさい。さっさと寝るわよ」
「はぁい、おやすみなさーい」
……なんだか、疲れた。
どっと眠気が襲ってきて、思考があやふやになっていく。
ああ、でも、なんで濡れていたのかしら。
翌日の放課後、改めてトゥデイさんの元へ謝りに行った。どうやら行き先が同じだったらしいトップロードさんも一緒に、だけど。
彼女は「気にしていない」「何も問題ない」と言ってくれていたけど、これは私の我儘だから……押し付けがましかったかしら。
それと、どうして床が濡れていたのか、心当たりはあるのかを訊いてみたら「風呂上がりだったから、でしょうか」という答えが平然と返ってきて私は耳を疑った。
レースは一部でナイターもあるし、交通機関の影響やトレーニングで帰るのが遅くなることもあるから寮の設備は基本的にいつでも使えるようになっている。だから、消灯時間間近の皆が寝ている時間帯に入浴していたというのはおかしな話じゃない。でも、風呂上がりにそのまま? 尻餅をついたときに髪や尻尾が触れた床が湿るほどの状態で?
「失礼するわ」
「え、ちょっ!?」
「アヤベさん!?」
トゥデイさんとトップロードさんが驚いている。けれど構いはしない。私はトゥデイさんの背後に立ち彼女の後ろ髪を手で掬い上げた。
「艶が無い……指も通りにくいし寝ぐせが残ってる。それに枝毛切れ毛も……」
「……うわっ……なんというか、すごく、すごく酷いです」
トップロードさんも一緒にトゥデイさんの髪の毛の状態をチェックして、すぐさまその顔つきが変わった。
「トゥデイさん、あなた、昨日の寝る前、濡れた髪と尻尾をどうしていたの?」
「えっと……」
「答えて、トゥデイちゃん」
「…………タオル巻いて寝ました、はい」
ぷっつん、と何かが切れた音がした。
そこからの記憶はあやふやだった。確か、そのままトゥデイさんを寮の浴場に連れて行って、途中で騒ぎを聞きつけ合流したカレンさんも加えて私、トップロードさん、カレンさんの三人で渋るトゥデイさんをひん剥いて全身くまなく洗い、乾かし方や手入れの方法などを叩きこんだ……気がする。
「……」ピクッピクッ
そして、私達の寮室に敷いてあるマットに倒れ真っ白になって時折痙攣しているのがトゥデイさんで、そんな彼女を膝枕して、艶を取り戻した黒鹿毛に手櫛を入れているのがトップロードさん。その様子を自撮りしながら写真に収めているのがカレンさんという状況だった。
なにこれ。
「うん、カワイイ♪ あ、これウマスタに投稿しても大丈夫ですか? トップロードさん」
「え? うーん、トゥデイちゃんが起きてから訊いてみますね。私は大丈夫ですけど」
「はいっ、分かりましたっ。あ、アヤベさんも一枚一緒にどうですか?」
「遠慮しておくわ」
「ええー、ざんねーん」
ふと時計に目をやる。もうとっくに日は沈んでいる時間だった。
「カレンさん、トレーニングの方はいいのかしら?」
「お兄ちゃんには連絡済みなので大丈夫ですっ」
「そう……」
「心配してくれてありがとうございます♪」
「そういうのじゃないから」
「またまた~」
……。
「私、トレーニングがあるから行くわね」
「えっ、もう外暗いですよ!?」
「いつもと変わらないわ。それに、ちゃんと走る場所は考えているもの」
「……そう、ですか。凄いんですね、アヤベさんは」
トップロードさんの手が止まる。その表情は俯いていて窺い知ることは出来ないけれど。
「私は、やっぱり……」
「トップロードさん」
「は、はい」
思わず声をかけてしまった。……カレンさん、何ニヤニヤしてるのかしら。
「これは、私の道よ。あなたの道じゃ無いわ」
「アヤベさんの……私の……道」
「……それじゃ」
「あっ、アヤベさんっ」
足早に部屋を出て昇降口に向かう。
……何をしているのかしら、私は。
次の話は二話の見てから書き始めるンゴ
トップロード急行事件、イラスト誰か描いて?