先日シリガスキー書記長が私のし、しr、んんッ、臀部を模したマウスパッドを持っていたとじきょ…コホン、じはk…ゴホゴホ、情報提供があったのだが……モルモット君たちも所持していたりは……しないかな?
安心してほしい。別に罪に問おうという訳じゃない。ただ、この『死ぬほど眠れる睡眠導入剤』の臨床試験に協力してほしいのさ。
どうだろう? モルモット君たちは何にも妨げられる事の無い安らかな眠りを、私は憂いの無い穏やかな心を手に入れられる、ウィンウィンな取引だと思うのだが……。
ああ! 勿論シリガスキー元書記長も快く協力してくれたよ。今は死んだように眠っているね。それが……どうかしたかい?
Side:other
「デイのアホ何やっとんねん!?」
「ん? 誰だ?」
「ほら、リギルの甘やかし甲斐のありそうなちっちゃい子ですよ~」
「ああ、あの小さくて少食の」
「え、デイの事それで覚えとるんアンタら? ホンマに?」
トレセン学園の校内掲示板に張り出された校内新聞。その前には何人かのウマ娘が集まっていた。
『トゥデイグッドデイ骨折 G2青葉賞勝利もダービー出走は絶望的か』
そんな見出しと共に、ゴール板を1着で駆け抜ける小さなウマ娘と、ウイニングライブでセンターを踊る彼女の写真が載っている。
「全治六か月。復帰は年末……大丈夫でしょうか」
「クラシックは棒に振る事になるな。シニア1年目は、リギルのトレーナー次第か」
「あの流れでマジメに語るんか……デイは青葉賞で勝っとるから出走は苦労しいひんはずや。せやけど……」
スーパークリークは心配そうに、オグリキャップは思案顔、タマモクロスは悲し気に眉を下げる。
タマモクロスにとってトゥデイは妹分のようなものだった。小柄な自分よりも更に小さく色々と危なっかしい為世話を焼きたくなり、髪や肌の色が対照的なのでタマモクロスの異名『白い稲妻』になぞらえて『黒い稲妻』と呼ばれるようになったりと、学年もチームも違うが縁は深い。
「……復帰して、勝つ。それが出来るウマ娘は、殆どおらん」
怪我を治療し日常に戻る、それ自体は特に懸念はない。しかし、問題はその後に勝てるかどうか。復帰しても思うようなレースが出来ずにトゥインクルシリーズから離れるウマ娘は多い。
怪我から復帰して勝利する。そこには『奇跡』が必要だ。そして、その奇跡を手繰り寄せるのはほんの一握りのウマ娘のみ。
「アイツは……どうやろうな」
ドンッ。
「おわっ!?」
「あ、ごめんなさい……」
タマモクロスに栗毛のウマ娘がぶつかった。
「っおのれは……デイの後輩の…グラスワンダーやったか」
「タマモクロス先輩……オグリキャップ先輩……スーパークリーク先輩……」
ぶつかったのはグラスワンダー。たおやかな物腰は大和撫子という表現がぴったりだが、その内の精神性は武士然としたものであり、加えて若干の腹黒疑惑もある少女である。
トゥデイと一緒に居るところを見かけたことはあるが、直接話すのは初めてだった。
青葉賞の開催とトゥデイの故障・入院は一昨日の事。グラスはあまり眠れていないのか、化粧でごまかしているが少し疲れが滲んでいた。ぶつかったのも、疲労により注意力が散漫になっていたからだろう。
「ちゃんと飯は食っとるか? 睡眠は? 無理したらあかんで?」
「……すみません」
心配したタマモクロスが声をかけるが聞こえていても届いていない。こりゃ重症やな、と内心ため息を吐く。
「グラスワンダー、と言ったか」
「……」
「トゥデイグッドデイは、もうダメか」
「ッ!?」
「ちょ、ま、オグリ!?」
「あ、あら~?」
あまりにも強烈な言葉に絶句するグラス。他の二人も驚愕し困惑する。
「な、なにを、いって」
「復帰しても勝てそうにないな、と言った」
「あ、あなたはッ!!」
「どうなんだ」
オグリキャップは少しだけ目を細めてメイクデビューすらしていない子供を見る。数々のG1を制してきた歴戦のウマ娘のプレッシャーにグラスは気圧され思わず後ずさるが、歯を食いしばってその目を見つめ返した。
「……わ、私の憧れるあの人は、トゥデイさんはッ……スズカさんとのライバルであり続ける事を諦めませんでした。これからもッ、諦めません。諦めない限り終わりはッ、無いんです。だから……ッ」
言葉を紡ぐ内にポロポロと涙が零れてくるグラス。
「だからッ! トゥデイさんは、戻ってきて、また走って、勝つんですッ」
涙で濡らした顔のままオグリキャップを睨みつける。
瞳は不安で揺れていて、その言葉も信じているというよりは自分に言い聞かせているようだった。
「ちょ、オグリやりすぎや」
「あらあら~」
タマモクロスが慌ててオグリキャップを抑えに行き、スーパークリークは取り出したハンカチでグラスの涙を拭う。足を止めて遠巻きにする野次ウマ娘も現れ始めた。
中等部の後輩を泣かせたと暫く噂になるかもしれない。最悪シンボリルドルフらの居る生徒会に呼び出される。
「オグリ」
「すまないタマ、あと少しだけ」
その子連れてずらかるで、そうタマモクロスはライバルの袖をちょいちょいと引くがやんわり解かれる。
「……グラスワンダー。不安に思うのも、信じきれないのも、思い悩むのもそれはウマ娘として当たり前だ。何も振り返らず突き進むような事はあってはならない。立ち止まって、振り返って、時には後戻りして、折れて、立ち上がって……そうやって私たちは夢を駆ける」
「せん、ぱい」
「そして今、トゥデイグッドデイは揺らいでいるはずだ。不安、恐怖、絶望。そこに寄り添えるのはグラスワンダー、君たちだけだ」
「……」
「取り繕え。奇跡が起こるのは当たり前だと、輝かしい未来が待っているのだと信じ切っているように振舞うんだ。苦しいだろう。辛いだろう。でも、それを悟られるな」
「……」
無言で俯くグラスワンダーに、オグリキャップは頭を下げると踵を返した。
「あ、オグリ!! はぁ~~~ッ……でも、アイツの言う通りや。支える側のモンがしょげた顔してたらアカン。デイの事、頼んだで。ほな!!」
「あらあら~……ごめんなさいね。もし辛くなったら、いつでも甘やかしますから。では~」
残っていた二人もグラスに一声かけてからオグリキャップの後を追う。
「……」
グラスは俯いたまま足早にその場を立ち去り、やってきたのは大樹のウロの前。
ガシッ、とウロのふちを掴んだグラスは大きく息を吸い込み。
「あ゛あ゛~~~~ッ!!!! 何なんですか一体!! 好き勝手に言うだけ言って!! 私まだ中二ですよ!? 憧れの先輩が怪我して落ち込んで、それを顔に出しててもいいじゃないですか!! そもそも話が重すぎます!! あとタマモクロス先輩後方姉貴面してませんかちっちゃい癖に!! そもそもトゥデイさん何で骨折してるんですか!! あれだけ無理無茶するなってトレーナーさんに言われてたのに!! 怒りのオーラヤバいですよあの人何かの波動に目覚めてますよ!! ルドルフ会長が部室に入った途端逆再生で出て行くって相当ですからねあ゛あ゛も゛う゛~~~~~~っ!! トゥデイさんのバカァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
周りのウマ娘たちが「え、何あれ怖……」と引いている中、ノンブレスで言い切ったグラスはウロを掴んでいた手を離し、レース後のように肩で息をする。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
息を整え顔を上げた。
少し汗が滲み頬が上気している。疲労は出ているが、叫んだことで溜まっていたモノが発散されたのか陰りは取れていた。
「トゥデイさん、こんなに周りを振り回しているんですから、ふふふっ、覚悟は……出来ていますよね♪」
そして暗黒面が覗いていた。
Side:サイレンススズカ
「ええと、着替えはひーふーみー、また同じ種類ばかり増えてるけど……よし。あとは歯ブラシとコップと……あ、スマホの充電器も必要ね」
トゥデイグッドデイの骨折が判明し入院が決まった翌日。スズカはトレセン学園の寮に戻り、トゥデイに渡す荷物を纏めていた。
スズカ自身は4月にあった皐月賞を勝利しておりダービーへの出走が決定している。
トゥデイが青葉賞で勝利した際は「ダービーで一緒に走れる!!」と喜び、彼女がセンターを務めるウイニングライブを内心大興奮で、トレーナーの東条や応援に駆け付けたルドルフらチームメンバーと一緒に楽しんでいたが、ライブ終了間際から難しい顔をしていた東条とルドルフがライブ後の控室へ突撃し、あたふたするトゥデイを有無を言わせず病院に連行。そのまま診察を受けた結果骨折が判明した。
全治六か月、入院は一か月程度らしい。チーム加入時から懸念されていた先天的に脆い関節ではなく、右中足骨の骨折だったのは幸いだったとは東条の談。関節部分の場合手術が必須であり復帰は絶望的だった。
「……復帰は年末、クラシックだともう一緒に走れないのね……はぁ」
思わずため息が出てしまうスズカ。
「っと、いけない。私が暗い顔してちゃだめよね。辛いのはトゥデイだもの……少しでも元気づけないと」
ぱちん、と両頬を軽く叩いて気持ちを切り替える。
「あと、必要なのは……あら?」
トゥデイのベッドや机を見まわしていたスズカの目に留まるものがあった。
「これ、あの子がいつも書いてる日記……よね?」
角が擦り切れた緑色のハードカバーの本。トゥデイグッドデイ、と可愛らしい筆致で書かれている。
これも必要よねと手に取るスズカだが、ふと気づいたらトゥデイのベッドに腰かけていた。
「ゴクリ」
人の日記を読む。大罪だ。ギルティだ。普通なら友人関係が終わっても仕方のない悪手である。けれど、惹かれる。
それに、トゥデイならば日記を読んだことを素直に白状すれば、赤面してひとしきり悶えた後に困ったような笑顔で許してくれるだろう。
そして、スズカは日記を開いた。
白紙。
「あら?」
パラパラとめくっていく。書き込みがあった。
〇月〇日
明日は青葉賞だ。これに2着、いや勝利すれば日本ダービーに。スズカとまた走ることが出来る。
弥生賞は完敗だった。でも、次は負けない。いや勝つ。
一昨日の日付のものだった。日記を逆側から読んでいたらしい。
表紙の名前と字の印象が違うが、矯正でもしたのだろうか。
最初から読もうか、と思ったがこれも面白いかもしれない、とそのままページを捲る。
〇月〇日
タマ先輩たちとラーメンを食べに行った。
オグリ先輩とクリーク先輩が「メガマシニンニクカラメ」を頼んでいたから私も同じものにした。
タマ先輩は「ヤサイニンニクカラメマシアブラスクナメ」と一人だけ違かったけどその理由はすぐに分かった。
恨めしやタマ先輩。なぜ教えてくれなかった。
どうやら毎日書いているのではなく何かしらイベントのあったときに書き込んでいるらしい。
タマ先輩、というのはタマモクロスの事だろう。あとはオグリキャップとスーパークリーク。かつてトゥインクルシリーズで活躍した名ウマ娘達だが、どういう縁かトゥデイと交流があるらしかった。
最近ネットや新聞などで見かけるトゥデイの異名『黒い稲妻』は、『白い稲妻』タマモクロスと対照的な見た目からトレセン学園を発端として広まったらしい。自他ともに認めるライバルのスズカとしては「私が『逃亡者』なら『追跡者』とか……」と少し不満気だったが。
〇月〇日
負けた……スズカはやい。流石G2、他のウマ娘たちもレベルが高かった。
今日の敗北を糧にまた頑張ろう。
あ、スズカの『Make debut!』を最前列で応援できたから3着に入らなくてよか…よくないなうん。
小学生程度にしか見えない褐色のウマ娘がサイリウムを手に大興奮で暴れまわっていたのはライブ中のスズカからでもよく分かったし、その奇行がSNSで拡散された結果、注目度が高まり異名が広まったらしい。
〇月〇日
デビュー戦勝利じゃい!!
見たかおハナさん!! これがサイレンススズカのライバル、トゥデイグッドデイの実力だ!!
あー…ほんと勝ててよかった。ギリギリだったし、あそこで前が開いてくれたから差せた。運が良かった。
疲れた、寝る。
意外だった。レース自体は事前の想定通りに進んでいたし、レース後も落ち着いていたように見えた。
あまり自分自身の事は面に出さないトゥデイの内心を知れて嬉しくなる。
ページをめくる手が止まらない。
〇月〇日
トレーニングをしていたらルドルフ会長たちに止められた。
ゴルシとコサックダンスのステップでトラックを走っていただけなんだけど「奇行種」ってなに?
〇月〇日
リギルの皆から子ども扱いされている。
先輩方はともかく特にスズカとグラス。スズカとは同い年だしグラスは後輩だ。一度分からせる必要があると思う。
ダメだったよ……
チームスピカのゴールドシップに加担して奇行に走る、というよりも上手いこと乗せられている関係性だった。
日記に書かれていない部分では只管基礎トレや走法の改良などトレーナーすら引くレベルでやっていたのだから、ウマ娘というのは分からない。
〇月〇日
風が吹き抜けた。
ちょっとクサい表現だろうか。でも、スズカの走りを初めて目の当たりにして私はそう感じた。
チームリギルのメンバーは凄いウマ娘ばかりだ。
今の私では、ううん、未来の私でも追いつけるのか分からない人たち。
そしてスズカ。サイレンススズカ。
彼女はいつか、風を超える。
何を書いているんだろう。イタい。ボールペンだから消せない。やってしまった。
……ライバル、だなんて言えるような実力は私にはない。だけどいつか、私は。
ただ、トレーナーにはスズカとの勝負を断られてしまった。走法の改良と作戦の改善、あとはトレーニングを重ねて認めてもらうしかない。
トゥデイの自分への想いに思わず顔が赤くなる。
ただのルームメイト、クラスメイトのはずだった。今は、唯一無二の親友でライバル。そこまで、トゥデイは駆け上がってきてくれた。
〇月〇日
今日は色々ありすぎた。
また忘れても私や周りが困らないように日記に残しておこう。
まず、ウマ娘の脚を触って早口で話す黄色と黒の変態に遭遇した。
チームスピカという所のトレーナーらしいけど、異様に頑丈で正直ヒトなのか疑問だ。
あと、何故かスピカへの加入を断られたと思ったら学園最強チームのリギルに加入していた。文字に起こしても訳が分からない。まだ一度もレースした事は無いのだけど。
入部テストを合格したのはグラスワンダーという栗毛のウマ娘だった。帰国子女らしいけど『大和撫子』という言葉があれほど似合う子はいないだろう。
……それとあの芦毛のウマ娘…確かゴルシ? とかいう人はいったい……やけに手馴れている気がした。あの拉致をされている人が他にいるのだろうか。
そして、ルームメイトのスズカとはクラスメイトだったのに加えてチームメイトになった。いや、それが嫌なわけじゃないし、むしろ嬉しいのだけど距離が近い気が……友達、というのは初めてだけれどこういうものなのだろうか。
初めての友達、その言葉にふつふつと喜びが湧き上がってくる。
〇月〇日
トレセン学園に編入することが出来た。
トゥインクルシリーズに出る。勝って、それで……。
「ん? ページが余ってる……?」
てっきり編入初日から書いているのだと思ったが違うらしい。
編入前のトゥデイを知れるかもしれない、スズカはページを捲る。
私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです私はトゥデイグッドデイです
「え?」
私はなに?
「トゥデイ……?」
前書きの共産趣味な小話書くのたのちい。
しかし一話で同志シリガスキーが死ぬほど眠ってしまった。また人事調整しなければ。
初めての日記回は闇控えめ。
過去を知ってより仲を深めるじゃろ? するとスピカ移籍、毎日王冠、天皇賞(秋)直前、その3ステップでトゥデイグッドデイというスズカのライバルがアレじゃ。やばい。
なお、日記帳はわざわざ中古の物を買って年代を偽装。日記を買って貰った当日に事故に遭ったという設定。つまり表紙の名前を書いたのは……。
まだまだレースはつづくんじゃ。
タマモオグリクリークの三人を出したのは書きながらアニメ一期を見返していたのと、感想の方で『黒い稲妻』というワードを見かけたからです。
オグリ男前…というか先輩しとるな。クリークぽわぽわしすぎてしまった。
グラス覚醒。グラスペどこ……ここ……?
各話にタイトルいる?(第10Rなら『目醒めの朝/夢の重さ』とか)
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いる
-
いらん
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テヘラン
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┐(´ー∀ー`)┌レーダージュシン