樫の女王となった母、盾の女帝となった娘   作:今日から禁煙

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話題のアプリにドハマりして勢いでやっちゃいました。


福音

 

「先生…先程、無事産まれました」

 

当時と変わらない凛とした声の中に少しばかり疲労の色を覗かせながら、彼女は受話機の向こう側から嬉しそうに語った。

 

「そうか…おめでとう。良く頑張ったね」

 

机の上に飾られた写真立てを指で撫でながら、私は込み上げてくる感情を押し殺して静かにそう答えた。

 

「ぜひ一度、この娘に会いに来て下さい」

 

私の耳に口を鳴らす音が届く。おそらく彼女の膝の上には産まれたばかりの最愛の愛娘がいるのだろう。

 

「必ず会いに行くよ」

 

学園の講師に用意された教員室のカレンダーを確認しながら、まだ見ぬ産まれたばかりのその娘の事を思い浮かべる。

 

「待っています…では」

 

受話器を置き、再びカレンダーに目を向ける。

 

「4月9日…か」

 

椅子に腰を下ろし、胸ポケットの煙草を取り出して咥える。

 

「あれから15年…また熱くなれるだろか?」

 

十五年前の4月10日。あの日は雨が降っており、ひどいバ場状態だった。

 

彼女のそれ迄の戦績は5戦3勝。そのレースはファン投票で一番人気に押されて、皆が彼女の勝利を願っていた。

 

勿論、私も彼女のトレーナーとしてそれを願う一人だった。

 

だが、私には不安があった。デビューから期待に応えて3連勝して迎えた重賞レースで彼女は本来の走りを出来ずに5着に敗れた。

 

レース後の彼女は酷く疲れた様子で息遣いも今までにないほど荒くなっていた。

 

ここで私は自分のミスに気が付いた。10月にデビューしてから1月のこのレースまで4ヶ月連続で彼女を出走させ続けてしまったのだ。

 

彼女はデビュー前から学園内で注目を集めており、本来であれば目標をしっかり設定して十分に間隔を開けてレースに臨ませなければならなかった。

 

しかし、当時トレーナーになったばかりで未熟だった私は彼女に無理を強いてしまった。

 

その結果がこのレースだった。

 

私は改めて彼女と話し合い、目標をクラシックの第一弾である桜花賞に定めた。

 

ただ4月の桜花賞まで3ヶ月空いており、レース感覚を考慮して1戦挟むか彼女に相談すると、万全の状態で本番を迎えたいという話だったので3月のトライアルレースに登録することにした。

 

結果は前走で敗れたウマ娘の末脚に再び屈して2着だったが、その走りは5着に敗れた前走とは違い、彼女の本来の走りだった。

 

この時の私は展開が相手に向いただけで、彼女の状態も100%ではなかったため、一度レースを使ったことで状態は確実に上向くと思っていた。

 

目標はあくまでも桜花賞であると。

 

そして迎えた桜花賞当日。私の目論見通り彼女の状態はピークを迎えていた。

 

見栄えのするパドック。落ち着いた本バ場入場。軽やかな返しウマ。正に彼女は絶好調であり、その裏付けがファン投票1番人気。

 

でも一つだけ誤算があった…天候だ。

 

天気予報で週末雨であることは知っていたが、まさかここまで降るとは。

 

協会から発表されたバ場状態は不良。協会の設定する4段階のバ場状態の中で最も悪いものだった。

 

彼女がこれ迄出走した5戦は全て良バ場。無論、対策を立てていなかった訳ではない。

 

明らかに芝を得意とする彼女の初戦をダートの短距離戦という全く条件の合わない所でデビューさせてどんな条件でも力を発揮出来るようにしてきたつもりだが、芝のしかも不良バ場でのレースは未知数。加えて、雨の中を走ることも初めてであった。

 

本人は大丈夫だと笑っていたが、バ場を気にする仕草を度々見せており、それが影響して3着に敗れた。

 

全員が同じ条件のため、バ場を言い訳には出来ないが雨天のレースを一度でも経験させておけば、結果は違ったかもしれないと自分の未熟さを呪った。

 

レース後、落ち込んでいるであろう彼女にどう声を掛けようか悩んでいると、彼女のほうから私に近づいて来て次は勝つと強い決意を語った。

 

その時の彼女を今でも忘れられない。

 

雨に濡れた髪、跳ねた泥で汚れた顔、ズブ濡れの勝負服はそのままに瞳は爛々と強く輝いていた。

 

そして私達はクラシック第二弾オークスに向けて動き出した。

 

「まるで、ついこの間の事のように思い出せるな」

 

咥えた煙草に火を点け、窓を開けて煙を空に吐き出す。

 

雲の谷間からに一筋の美しい星が流れた。




み、短い!

あらすじは某協会の昔の伝説的なTVCMをアレンジしたものです。

別作品の息抜きで書いたので続くかは不明です。
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