生まれ変わったら志村転狐の兄だった。 作:うららん一等賞
浮遊、それが俺の個性らしい。
父と母に連れられて行った病院でそう告げられた。
今はまだ全然制御できていないが、訓練すれば空を自由に飛べるようになるらしい。
なんだか色々と便利そうな個性ではあるが、テレビで見たヒーローと比べるとなんだか地味な個性に感じた。
そんな風に思いながら医者の話を聞き流していると、やけに苦しそうな顔をした父の顔が目に入った。
そんなにこの個性が嫌だったのだろうか…父はヒーローのことは勿論のこと個性の話もほとんどしたがらないので、何故そんなにも辛そうなのかは分からなかった。
医者の話はそんなに長いものでもなく父と母に手を握られて帰路につく、迷子にならないようにと俺の手を握る父はなんだかいつもより力がこもっている気がした。
父の雰囲気は明らかに重く、それに伴って周りにどんよりとした空気が流れる。
「孤太郎さん、折角だし何か食べて帰らない?孤次郎もお腹空いたでしょ?」
「え、うん」
母はそんな重い雰囲気を変えるためか、そんな提案をした。
「あぁ…そうだな」
それに父も同意するが、空気は以前重いままだった。
それでも無言で歩き続け、ついに車の前までやってきた。
車に乗り込もうとするが父は何故か止まったまま、俺の手を握って離さなかった。
「孤次郎、自分の個性をどう思った…?」
「え?」
突然そんなことを聞かれて、思わず聞き返してしまった。
父の質問はあまりに抽象的で、普段の父らしくないものだった。
「いや、なんでもない。早く車に乗ってご飯を食べに行こう」
父もらしくないことをしている自覚があったのか、すぐに話をなかったことにしてしまった。
母はそんな父に少しだけ冴えない表情を浮かべると、俺の背中を押して車へと乗せた。
車に乗った後は、いつも通りの父と母に戻っていた。
先程までの気まずい空気がなかったかのように言葉を交わしていく、そんな様子に大人の嫌な所を少しだけ見たような気分だった。
いつものように会話を弾ませる父と母に置いていかれ、俺だけが質問の意味をずっと考えていた。
▲
家に帰ると、丁度泣いている華ちゃんを祖父母があやしているところだった。
祖父母は大分慌てた様子で、帰ってきた母を見るなり安堵の表情を浮かべていた。
育児経験は父や母よりも祖父母の方があるはずだが、やはり自分の子供でないとかってが違うのだろうか。
華ちゃんを受け取る母を横目に見ながらソファに座ると、祖父が役目を終えたとばかりの安堵の表情で、俺の方へと近づいてくる。
「孤次郎、病院お疲れ様。おはぎあるけど食べるか?美味しいぞぉ」
「うん、ありがとう」
なるべく元気良く返事をしておはぎを受け取る。
祖父は俺に何かをくれることが多くて、初めて出来た孫にデレデレの様子だった。
そんな様子の祖父から目を離し、貰ったおはぎを食べ進める。
「孤次郎の個性はやっぱり空を飛べる個性?」
おはぎを頬張っていると祖母からそう問われた。
「うん、浮遊って個性だって、訓練すれば空を自由に飛べるらしいよ」
「へぇ〜、いい個性じゃない。おばあちゃん羨ましいよ」
「うーん、そんなに良くないよ。飛べたってどうせ一般人は外で個性使っちゃいけないし、こっそり使おうにも飛んでたら目立つし」
祖母からの何気ない一言に、少しだけ大きい声で返した。
俺から離れて華ちゃんをあやす母の後ろで、コーヒーを飲みつつもどこか落ち着かない様子の父が聞き耳をたてているように感じた。
「そう?おばあちゃんだったら嬉しいけどねぇ、家の中だけでも空を飛べたら楽しいでしょ?」
「飛ぶのなんか楽しくないよ…」
初めて個性が出た時のことを思い出して、心底嫌そうな声が出た。
そんな様子の俺に祖母はくすくすと笑った。
「孤次郎は男の子なんだからもっと度胸が必要だぞ〜おじいちゃんが子供の頃に個性が出た時は嬉しくて朝から晩まで使ってたぞ」
祖父が話に入ってきて、胸を張りながらそんなことを言った。
「なんならベットの上とかで練習するか?おじいちゃんも見ててあげるから」
「お義父さん」
詰め寄ってくる祖父に、父が咎めるような低い声で言う。
「個性の不正使用は立派な犯罪です、勝手に使わせないでください。それに個性なんて社会に出たら使う機会の方が少ないんですよ」
「いや…申し訳ない。孤次郎に個性が出たのが嬉しくてつい…」
父からの正論に、祖父はあれだけ張っていた胸を萎めて、罰が悪そうに頭の後ろに手を当てる。
これは産まれてすぐ分かったことなのだが、祖父母はどうにも父に弱い。
父と祖父母が対立することなどなく、いつも一方的に祖父母は父に言われている。
その理由は簡単で、この広い家は父が実業家として稼いだお金で建てたものであるからだ。
そこに祖父母を招待して今の現状がある。
だからこそ祖父母は父に頭が上がらないし、俺もそれを別に情けないだとかは思ったことはない。
俺が祖父母の立場だったらそうなると思うからだ。
父に謝る祖父を見ていると、うちの家庭は少しだけ複雑な事情があるのだなと、再認識する。
もしかしたら祖父母が俺に優しいのも、父の顔色を伺っている所があるのかもしれない。
そんな悪い考えが浮かぶが、頭を振ってすぐに振り払う。
どんなに考えた所で、人の気持ちなど分かるものでもない。
大人というのは、単純な好き嫌いにも色々と複雑なものがあったりするものだ。
祖父母が俺を可愛いがってくれているのも、単純に俺が可愛いだけだからではないだろうが、それでも俺に優しくしてくれていることには変わりはない。
前世の記憶が変にあるから、変な所まで考えすぎてしまう。
どうせだったら、こんな記憶なくしてこの家に産まれたかった…そんな風に思う。
そうすれば、俺はこの優しい家で何も考えず過ごせた気がした。
そこまで考え、未だに皿に残っているおはぎに手を出そうとした時、丁度父の祖父に対する注意が終わったようだった。
父は祖父へ注意して席を立ったその流れで、僕の方へと近づき、隣に座った。
「孤次郎…分かっているだろうが個性の練習なんてしなくていいからな。お前は頭がいいんだ、個性の制御なんかに時間を割いても無駄だって分かるだろう?」
「うん、そうだね」
父はヒーローが嫌いだ。だから個性にもあまりいい想いはないのかもしれない。
「分かってるならいい。……あと、孤次郎は自分の個性が好きじゃないんだよな…?」
聞き耳を立てていたからさっきの会話は聞こえていたと思ったが、父はそんなことを聞いてきた。
聞き逃したのか、それとも念をおして確認したいくらい大事なことなのだろうか。
「うん、空飛べたって良いことないよ」
先ほどと同じように答える。
答えを聞いた父は無言で俺の頭へと手を伸ばし、そして撫でた。
俺の頭をすっぽりと覆う父の手は案外大きかった。
そんな大きな手の隙間から少しだけ見えた父の顔は、少しだけ笑っているような気がした。
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華ちゃんがある程度大きくなった時、弟が出来るよと母から告げられた。
妹に続いて弟がまで…妹だけでもこんなにも可愛いのに、弟が出来たら自分はどうなってしまうのだろうと、そんなくだらないことを考えた。
母はそれをまだ華ちゃんへは話していないようで、俺から伝えるように頼まれた。
俺があまりにもワクワクとした顔をしたから周りに教えてあげたいように見えたのだろうか…真相は分からないが、俺は急いで外で犬のもんちゃんと遊んでいるであろう華ちゃんを探しに行く。
玄関で靴を履きドアを開けると、すぐに祖父と一緒にもんちゃんと遊ぶ華ちゃんが見えた。
「華ちゃーん!ちょっとこっちきてー!」
いつもの自分よりも数段緩んだ声を出していることを自覚しながら叫ぶ。
本当だったら俺が華ちゃんの方へ走っていけばいいのだが、それは出来なかった。
「はーい!」
華ちゃんは俺の声に反応すると笑顔でこっちに向かって走ってくる。
幼児特有の地に足つかない走り方に転ばないかと心配になるが、そういう所も可愛いのでなんともいえない気持ちになる。
華ちゃんが近づいてくると足元ばかり気にして見えていなかったが、手にリードが握られていることに気がついた。
「うわぁ…!?華ちゃん!もんちゃんつれてこないで!一回お家に戻してきて!」
我ながら情けない声を出してしまった。
今の情けない声で分かる通り、俺は犬が苦手だった。
別に前世で苦手だったわけではない。ただ、赤ん坊の頃から意識がはっきりとあった俺にとって、何もできない俺の周りを嗅ぎ回る犬という存在は恐怖そのものだった。
もんちゃんが俺に危害を加えることはないと頭では分かっていても、自分の力が及ばない獣が周りにいるというのはどうにも受け入れられなかった。
そんな理由で俺はもんちゃんと遊ぶ華ちゃんに近づけなかったのだが、結局連れてきてしまっては意味がない。
勿論事前に言わなかった俺が悪いのだが…
そんな風に反省していると、華ちゃんはリードを祖父へと渡して俺の方へと近寄ってくる。
「おにいちゃん!あそんでくれるの?」
「え、うんそうだね。お話おわったら遊ぼうか」
「うん!わたしおままごとがいいなぁ〜。おにいちゃんはわたしのめしつかい!」
「召使いって…はなちゃんは難しい言葉知ってるね」
「おとうさんにおしえてもらったの!めしつかいはわたしのいうことなんでもいてくれるんだって!」
「何だが解釈が違うような…というかまずは俺のお話聞いてね」
花のように笑いながら話す華ちゃんに癒されながら、俺は華ちゃんの手を引いてテラスへと腰掛ける。
「おはなしってなぁに?」
華ちゃんは何か楽しい話だと思っているのか、落ち着かなそうに足を揺らしながら俺の言葉を待っていた。
「華ちゃん…実はね、弟ができるらしいんだ」
開口一番、勿体ぶる必要もないのですぐに言った。
それを聞き華ちゃんは驚くと思っていたが、どうにもピンときていないようで頭を傾けて明後日の方向を向いていた。
「おとうと…?おとうとってなぁに?」
まさかの質問だった。
いや…分からなくてもしょうがないのかもしれない。
前世で自分が子供の時の感覚など覚えていないが、弟なんて言葉実際にいなければ使う機会もない。
華ちゃんの質問にどう答えようか悩むが、改めて弟という言葉を分かりやすく説明するとなると案外難しかった。
「そうだなぁ…なんて言ったらいいんだろう。分かりやすく言えば俺にとっての華ちゃんみたいな存在かな…」
「おにいちゃんにとってのわたし…?」
「うん、だから華ちゃんも弟が出来たら可愛がってあげなきゃダメだよ?俺がいつも華ちゃんと遊んでるように、華ちゃんも弟と遊んであげないと」
「うーん…」
俺の言葉に華ちゃんは浮かない顔だった。
「どうしたの華ちゃん、何かわからないことあった?」
「あのね、おとうとができたらね、おにいちゃんわたしとあそんでくれる?」
「え?勿論華ちゃんとだって遊ぶよ」
「でもさ、わたしもおとうととあそんでね、おにいちゃんもおとうととあそんだらね、わたしとあそぶじかんなくなっちゃうかも」
それを聞いて、素直に嬉しいと思った。
俺と遊ぶことを楽しんでくれている華ちゃんの姿が、俺がお兄ちゃんでいることを認めてくれているように感じた。
「大丈夫…弟ができたって、俺が華ちゃんのお兄ちゃんなのは変わらないよ」
なるべく優しい声で、穏やかな口調で、とにかく華ちゃんを安心させてあげたかった。
俺は華ちゃんのお兄ちゃんなのだから。
▲
俺が個性を診断された総合病院、そのとある一室の前の廊下の椅子で、手持ち無沙汰を感じながら足をぶらぶらとさせる。
弟が出来ると華ちゃんに告げてから数ヶ月が経ち、ついに今日が出産日だった。
母は勿論手術室の中におり、その側には付き添いで父がいる。
俺は中へは入れてもらえず、祖父と一緒に廊下で待っていた。ちなみに華ちゃんは家でお留守番になった。
華ちゃんは相当弟を見たかったらしく大泣きしてごねたが、なんとか宥めて祖母と一緒に家に残った。
俺も華ちゃんが産まれた時は留守番だったし、年齢的に妥当な処置だろう。
祖父と会話をしながら時間を潰す。
待ち時間は予想はしていたが長く、本でも持ってくれば良かったと少しだけ後悔した。
祖父との話も永遠に話し続ける話題もなく、病院の廊下といういつもとは違う緊張感もあってか、結局すぐに無言の時間が続く。
ぼーっとしていると睡魔が襲ってきて、どうにもつらい。
子供の体ということもあってか急にきた睡魔に俺は耐えられず、いつのまにか意識は夢の中へと行っていた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか、俺は祖父に体を揺らされることで意識は覚醒した。
伸びをすることで、まだぼーっとする頭を起こす。
そんな様子の俺に祖父は苦笑いをして、俺の手を握る。
祖父はそのまま俺を部屋の前へと連れて行き、ドアを開ける。
そこには笑いながら赤ちゃんを抱く母と、それをいつもは見せない笑顔で見つめる父の姿だった。
「孤次郎…?そんなところにいないで、ほら、こっちにきて赤ちゃんに挨拶してあげて」
病室に入ったがどうしていいのか分からず佇む俺に、母はそう言った。
俺は頷くことでそれに答えると母がいるベットへと近づく。
子供視点の病院のベットというのは案外高く、赤ちゃんの顔は見ることはできない。
それに気付いたのか祖父が俺の体を持ち上げて、赤ちゃんと視線を合わせてくれる。
小さい俺から見てもそれ以上に小さい赤ちゃんという存在。
華ちゃんを見てきたので慣れたものだと思っていたが、初めて華ちゃんを見た時と同じくらいの感動があった。
「ねぇお母さん、この子名前はなんていうの?」
「そういえば孤次郎には話してなかったね、この子の名前はね
転孤…だよ」
何故だが胸がざわついた。
華ちゃんと死柄木って何歳違いなんですかね。調べても分からなかったのでちょっと濁して書いてます