生まれ変わったら志村転狐の兄だった。   作:うららん一等賞

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ちょっと何回か書き直してて投稿遅れました。
後で加筆するかもしれませんが一旦投稿させて頂きます。




「じゃあお母さん外出てくるから、適当にご飯食べときなさい」

 

それはとても冷たい声だった。

息子に話かけるテンションだとは思えないほどなんの感情も感じられないその声に、俺はまたかとため息を吐きたくなった。

目の前にいるのはやけに濃いメイクと、背中まで届くほどに伸ばされた髪が特徴的な俺の母だった。

母といっても今世の母ではなく、言うならば前世の母。

それは見慣れているようで懐かしさを感じる存在で、それを見た瞬間にこれが夢なんだと気づくことができる。

 

生まれ変わってきてから何度も同じ夢を見ているからか、最早心揺さぶられることはなくなった。

何度も見ているからこそ、この後に流れも分かりきったもので、俺は冷蔵庫の中から冷凍食品の炒飯を取り出すとそれを電子レンジに入れる。

 

夢を見ている時に夢だと気づくと好きな夢を見られる。

 

そんなことを昔聞いた気がしたのだが、何故だかこの夢の流れはいつも同じで、まるでビデオテープを再生しているかのようだった。

 

こうなってしまうと俺にできることは体が自然と起きるのを待つしかなく、そんな時間を俺は主に前世を思い出すことに使うようになった。

前世の記憶は歳を重ねるごとに薄くなっていってしまっている。しかし、この夢の中では前世のことをよく思い出せた。

 

今日もいつものように一つずつ確認していく。

 

まず、俺の前世の家族は母1人しかおらず、父親には会ったことはない。

母はあまり父のことを話したがらなかったが、酔った時に少しだけ聞いた話だと子供が出来たと母が告げた時に別れたらしい。

母が俺を産んだのは大分若い時期だったから、交際相手の男には子供という責任を背負って生きる覚悟が出来ていなかったのだろう。まぁよくある話だ。

 

そんな事情があって、俺は母子家庭で育った。

 

母はあまり俺に興味がなかったようで、碌な思い出はない。

ただ虐待を受けていたとかそういうことはなく、母は世間体があるからか最低限の身の回りの世話はしてくれた。

 

会話をした記憶はあまりなく、俺はほとんどの時間を家で1人で過ごした。

物心がつく前からそんな生活だったからか、小学生になった時には寂しいとも感じなくなっていた。

 

そこまで思い出した所で、夢の中の俺は電子レンジから炒飯を取り出して机の上に置いた。

しかしそのまますぐに食べ始めるということはなく、何故だか宙を見つめている。

それは何処か感傷に浸っているようで、表情は悲しげだった。

 

よりにもよって何故この時の夢なのか、その理由はなんとなく分かる。

この日は初めての授業参観がある日で、それに当然のようにうちの母親は来なかった。

 

来ないことを告げられた時は、特に何も思わなかった。

家ではそれが普通だったし、きっと周りの家もそうなのだろうと思っていた。

しかし違った。

蓋を開ければ来ていないのは家だけで、周りの友達が親と楽しく話をしている横を、俺は走って帰ったのを覚えている。

 

周りの友達に揶揄われるのが嫌だったのか、楽しく話しているのを聞きたくなかったのかはもう分からないが、ただ自分の家が普通ではなかったのだと気づいたことは確かだった。

 

そしてこの夢はその日の夕飯だ。

 

いつも通りの一人きりのご飯のはずなのに何故だか悲しくて、なかなか食事に手をつけることが出来なかった。

その時の言いようもない気持ちは今でも忘れられない。

 

こんな時の記憶は必要ない…生まれ変わったばかりの俺はそう思っていた。

前世では考えられないくらいの暖かい家庭…だけれども前世の穿った考えが、それに浸かることを邪魔してしまう。

こんな記憶を持たずにこの家で過ごせたら、そう思わずにはいられなかった。

 

しかし、そんな考えが間違っていたと気づいたのは、父が初めて天孤を叱り家の外へと出した時だ。

それまで俺は、転孤が叱られていても止めに入ることはしなかった。

それは父のヒーロー嫌いには根深いものがあるということを知っていたというのもあるが、転孤がヒーローを諦めるのが一番丸く収まる方法だと勝手に思ってしまったからだ。

 

けれど、転孤が父に家に引っ張り出された時、俺はこの日の自分が脳にフラッシュバックした。

普通だと思っていたものが普通じゃなくて、誰もいない家で1人で飯を食う自分。

あの時の悲しさを知っていたのに、俺は知らずのうちに同じことを転孤にしていたのだ。

 

転孤はただ普通の子供のように夢を追っているだけなのに否定され、家族は結局は父の方についてしまう。

転孤が感じた寂しさは、きっと俺が受けていたものと同じだ。

 

そんな簡単なことに俺は気付けなかった。

それはきっと前世の記憶を腫れ物のように扱って、忘れようとしていたからだ。

あの日の寂しさをなかったことにして、都合よく今世を生きようとしていた醜さが出てしまっていた。

 

だからこそ、俺はもうこの記憶を無かったことにはできない。

この記憶があるからこそ、俺は妹と弟に同じ思いをしてほしくないと心の底から思うことができる。

 

あの日いつものように出て行く母に少しだけ伸ばした手…誰も掴んでくれなかったその手を、俺は掴まなければいけないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある夏の日…外から蝉の音が盛大に鳴き、降り注ぐ光だけで暑さを感じとれる中、そんな灼熱地獄から避難する様にエアコンの効いたリビングで俺が華ちゃんとお絵かきをしていると、扉が勢いよく開いた。

その勢いのよさから、俺は扉を見ずともそれが誰なのかが分かった。

 

「お兄ちゃん!遊びにいこ!」

 

声の方を見ると扉を開けたのは予想通り転孤で、楽しそうな声で俺を遊びに誘う。

転孤はもうすでに5歳になっており、そろそろ華ちゃんに身長が届きそうだった。

 

「えーっと…」

 

今日は華ちゃんと遊ぶ約束をしていたので本来ならすぐに断らなければいけないのだが、あまりにも転孤が期待した声で誘うので、少しだけ悩んでしまった。

 

「今日はお兄ちゃんは私と約束してるからダメ!」

 

俺が悩んでいることに気分を害したのか、華ちゃんは少し不機嫌そうにそう言った。

最近は転孤に構ってばかりだったからそれもあったのだろう。普段は転孤にとって優しいお姉ちゃんであるはずなのだが、今日ばかりは冷たかった。

 

そしてそれを聞いた転孤は、分かりやすくショックを受けたようで、焦った顔をして俺の方に詰め寄って来た。

 

「えぇ〜、じゃあご飯食べた後だったらいい?」

 

華ちゃんとの約束は午前中だけだと思ったのか、転孤はそう聞いて来た。

 

「午後からは私の宿題見てもらう約束してるから、今日は転孤は諦めて」

 

そんな転孤に対して華ちゃんはまたも冷たくバッサリとそんなことを言った。

 

「えー、そんなのずるいよ。僕だってお兄ちゃんと遊びたいのに……」

 

「ずるくないもん、転孤はいつも遊んでもらってるんだからいいじゃん。たまには譲ってよ」

 

「うぅ……」

 

それを言われてしまうと転孤は返す言葉がないらしく、顔を落として落ち込む。

そんな様子に俺はまずいと思い、転孤に声をかける。

 

「ほら転孤、そんなに落ち込まないで…外にはいけないだけで一緒に遊べない訳じゃないんだからさ、今日は3人でお絵かきしよう。華ちゃんもそれでいいでしょ?」

 

「私はいいけど…」

 

華ちゃんはそう言い了承してくれたが、転孤はなんだか納得いっていないようで、服の端をぎゅっと握りしめている。

大方外でヒーローごっこをしたかったのだろう…なまじ期待していた分、お絵かきでは満足できないのかもしれない。

 

「そうだ、転孤の好きなオールマイトの絵を描こう!どっちが上手く描けるか勝負だ」

 

「え、オールマイト描いていいの!?」

 

オールマイトと聞くなり、転孤のテンションは上がる。

普段は怒られるからか描けないが、今日は家には母しかいない。

普段できないことをするには絶好の環境だった。

転孤は今までぐずっていたのが嘘のように机の前に座ると、紙とクレヨンを手に取る。

 

「え、オールマイトの絵なんか見つかったらまたお父さんに怒られるよ?どうせ描くなら別のにしなよ」

 

転孤が描き始めようとしたところで、華ちゃんが心配そうにそう言う。

華ちゃんは父がどうすれば怒るのかというのが良く分かっている。

精神的な成長は女の子の方が早いというのはその通りらしく、華ちゃんは父に怒られないようにいつも上手く立ち回っている。

 

そんな華ちゃんだからこそ、余計心配になるはずだ。

 

「大丈夫…この間良い隠し場所見つけたからさ。それに、もし見つかったらまた俺のやつだって言うよ」

 

俺は華ちゃんを安心させるように笑顔を見せながらそう言った。

 

「それ大丈夫じゃないじゃん…私は転孤にもお兄ちゃんにもお父さんに怒られて欲しくないの…」

 

華ちゃんはクレヨンをぎゅっと握りしめながら言う。

それは思えば当然の感情なのだろう。

誰だって好き好んで誰かが怒らられている所など見たくはない。それが家族となれば余計にそうだ。

 

転孤が怒らられている時の華ちゃんの目は悲しくて、弟の夢を素直に応援したいのに父に遠慮して出来ない現状に歯痒い思いをしているのだろう。

そんな華ちゃんの不安を、少しでも軽くしてあげたいと思った。

 

「華ちゃん…大丈夫」

 

「え…?」

 

「俺がなんとかお父さん説得してヒーロー目指すの認めてもらえるようにするからさ。そうすれば転孤だって怒られないし、華ちゃんだってちゃんと転孤のこと応援できるでしょ?

そうなるように頑張るから… だからもうちょっとだけ待っててくれないかな」

 

「………そんなことできるの…?」

 

「できるよ。だってそれがお兄ちゃんの役目だからね」

 

なんの根拠もないことを、あえて自信満々に言った。

正直父に分かってもらえるかなんて分からない、俺は父が何故ヒーローを嫌いかということすら知らないのだから。

 

それでもあたかもそれが簡単なことかのように振る舞う。

イメージはテレビで見たオールマイト。

ヒーローは辛い時にこそ笑うらしい、彼を見ているとそんなことに気付かされる。

俺は皆んなを守るヒーローにはなれないが、家族を守れる存在にはなりたかった。

 

そんな思いを込めて笑うと、華ちゃんも釣られたように笑顔になった。

 

家族限定のハリボテヒーローだが、どうやら今の所上手く出来ているらしい。

華ちゃんの笑顔を見て、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お絵かきがひと段落してお昼ご飯を食べた。

午後からは華ちゃんに宿題を見る約束をしていたので準備を進めようとしていると、後ろから俺の服を引っ張られた。

振り返ると、そこにいたのは華ちゃんだった。

 

華ちゃんの表情は何処か嬉しそうで、ワクワクしているように見えた。

何か良いことでもあったのだろうか、そんな疑問の声をあげる暇さえなく、華ちゃんは話を進める。

 

「お兄ちゃん!良いもの見せてあげる!あと転孤もおいで!」

 

華ちゃんはそう言うと俺、そして呼ばれてやってきた転孤の手を掴む。

そして、手を引かれて何処かへと連れていかれる。

別にそれを止めることも出来たが、嬉しそうに笑いながら手を引く華ちゃんを見ていると、そんな気すらなくなってしまう。

 

そんなに何を見せたいのかと想像が膨らむが、それは華ちゃんの目的地らしいところに着いた所で一旦打ち止めになる。

 

華ちゃんの目的地…それは父の書斎だった。

 

それに少し驚く。

何故なら、父の書斎に入ることはキツく禁止されているからだ。

禁止する理由までは聞いていないが、何か見られたくないものでもあるのか、中を荒らされたくないとかそういう理由であろうことは容易に想像できた。

 

「ほら!お兄ちゃんも転孤も早く入って!」

 

華ちゃんは俺と転孤が唖然としているを尻目に堂々とドアを開ける。

入ったのがバレたら父にそんなに怒られるか華ちゃんは分かっているのだろうが、そんなことを感じさせない笑顔で俺と転孤を中へと呼ぶ。

 

それを聞き、当然書斎に入るのは辞めた方がいいと注意するか迷ったが、華ちゃんがそこまでして見せたいものがなんなのか気になった。

それに、書斎には父が何故ヒーローが嫌いなのか分かる手がかりがあるかもしれない。

 

ヒーローを目指すことを認めてもらうと言ったからには、父が何故ヒーローを嫌いなのかを知らなければいけない…そう思った。

 

転孤も最初は少し迷ったようだったが結局は興味に勝てなかったらしく、2人で父の書斎へと入っていく。

 

そんな俺達の様子を華ちゃんは見ると、満足したように笑い、父の机へと手を伸ばして引き出しを開ける。

 

「え、ちょ、華ちゃん勝手に開けて大丈夫?」

 

「大丈夫!前に来た時もバレなかったし」

 

ガサゴソと背伸びをして手を伸ばし、引き出しを漁っていく。

それは何処か慣れたような手つきに見えて、前にも同じことをしたというのが嫌でも分かった。

 

「あ、あった!」

 

華ちゃんはお目当てのものを見つけたようで、それを見せびらかすようにこちらへと差し出してくる。

 

 

それは綺麗な女性だった。

 

 

黒く長い髪を後ろで一纏めにして、服装は黒のウェットスーツのようなものに上からマントをかけている。露になっている女性とは思えない筋肉質な腕、しかしゴツいという感じでははなく、スポーツマンといった印象だった。

 

そんな女性を見て背筋が凍っていくのを感じた。

血の気が引いて、背中に冷たい汗が流れていくのが感じる。呼吸が荒れ始め、目眩もしてきた。

 

俺はその女性を見た時に気付いた…いや気づいてしまった。

 

ヒロアカにそこまで詳しくない自分でも気づいてしまうほどの特徴のあるその人物は、かつて前世で見たオールマイトの師匠だった。

 

それに気づいてしまったら、俺がたびたび感じていた既視感が繋がっていく。

一度繋がってしまえば何故今まで分からなかったのか不思議になるほどに明確なその事実は、俺にとって最悪の事実だった。

 

思えば、俺はこの事実にわざと気づかないようにしていたのかもしれない。

感じる既視感について深く考えないようにしてやり過ごし、今日まで平凡に生きてきた。

それはきっと、気付いてしまうのを脳が自然と拒絶していたからだ。

この平凡な日々が崩れてしまうものだと思いたくなかったのだ。

 

しかし気づいてしまった。

オールマイトの師匠という物語にとって重要な人物、気付かずにはいられなかった。

 

「お兄ちゃん大丈夫…?」

 

そこまで考えた時に俺の異常に気づいたのか、声がかけられた。

その声でさらに心拍数が上がる。

 

俺がその声のした方を見ると、俺の手を心配そうに俺の手を握る転孤の姿が見えた。

 

(手…?手…!?)

 

「うわっ!?」

 

それはもはや反射だった。

俺の手を握る転孤に腰を抜かし、思わず手を引っ込める。

そんな俺の様子に転孤は唖然といった様子だった。

 

その反応を見て、俺はすぐに何をしてしまったのかを理解した。

 

「あ、いや、ごめん、ちょっと驚いちゃって、そ、そうだ俺ちょっとトイレ行ってくるから!」

 

それが明らかに異常な行動であることは客観的に明らかであっただろう。

しかし、そんなことすら気にならないほど必死に部屋から逃げ出した。

 

急いでトイレの扉を開けて中に籠る。

震えが止まれなかった。うずくまり、両手で体を抑えるが一向に良くならない。

1人になったことで恐怖は収まるどころか増していき、俺にとって受け入れがたい現実がのしかかる。

 

間違いだと思いたかった。

でもそれを否定することはもう出来ない。

 

俺の弟は、死柄木弔だ。

 

 

 




あと1話書いたら原作突入するので頑張ります。
また、コメントしていただいた方本当にありがとうございます。
感想への個別の返答は個人的な事情でしていないのですが、コメント頂けるのが一番嬉しいのでよければお願いします
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