PSO2NGS外伝 新世紀の前奏曲〈プレリュード〉   作:矢代大介

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※閲覧前の諸注意…
 本作は、2021/04/22に公開される「PSO2NGS:プロローグ3」で発表される予定の本編ストーリーに関する情報が無い時点で執筆されたお話となります。
 作者の憶測による描写が多数含まれており、原作序盤のストーリーとは著しい乖離が生じる場合がございます。あらかじめご留意の上、本作を閲覧してください。



本編
01.目覚め


 

――――不意に、意識が浮上する。

 

 

 

 

「……ん」

 

 どうやら、「俺」は眠っていたらしい。

 

 意識の覚醒を自覚すると同時に、俺の思考がゆっくりと回り始める。

 

 周囲は真っ暗。どことなく閉塞感も感じられるここは、どうも狭い部屋――カプセルか何かの中のようだ。

 

 起き上がれないだろうか、と手を伸ばそうとすると、かつん、という硬質な音を立てて、何かが指にぶつかる。そのまま指を這わせると、やはり障害物は自分を覆い隠すように存在しているらしかった。

 

 

 ――触覚を感知したせいか、起き抜けの脳にかかっていたノイズが消え、明瞭な思考が戻ってくるのを、しっかりと感じ取ることができた。

 

 さて、ここはどこだろうか。

 カプセルのように狭い場所、で真っ先に思い当たるのは医療用ポッドだが、それなら透明なカプセル越しに外の世界が見えるはずだ。

 

《覚醒プロセス、完了。搭乗員のコールドスリープは、正常に解除されました》

 

 ならばここは一体――と疑念を渦巻かせていたところへ、不意に「声」が響いてくる。

 突然の声に驚くが、よくよく聞いてみれば、それは人の肉声ではなく、機械でサンプリングした物を繋ぎ合わせた合成音声。その言葉から察するに、俺はどうやら、いつの間にか「コールドスリープ装置」に突っ込まれていたらしかった。

 

《自動環境測定システムの情報照合……完了。ポッド外部は、生存可能区域と認定されました》

 

 続く合成音声は、ここの外を調べた結果を伝えるもの。

 ……わざわざ外部の環境を調べて、生存可能かどうかを調べるとは、いったいどういうことだろうか。コールドスリープ装置が置かれている場所など、何らかの施設の中しかないと思っていたのだが、ここはどこか別な場所なのだろうか?

 

《ハッチ解放プロセス、開始。解放後、システムはシャットダウンされます。ご注意ください》

 

 疑念をよそに、自動化されているらしい装置が、ハッチを開く準備を始める。

 

《カウント、3、2、1――――》

 

 カウントダウンが終わると共に、圧縮空気の抜ける音が響く。

 同時に、視界正面の障害物――ハッチがかすかに開き、真っ暗なカプセルの中に、真っ白い光が入り込んできた。

 

「ぅ……」

 

 ゆっくりと開かれるハッチの先から差し込む光に、視界が焼かれる。

 

 しばし視界がホワイトアウトしていたが、外と中の光量差に慣れてきたことで、少しずつ外が見えるようになっていく。

 どうやら、開け放たれた装置の中へと降り注いでいるこの光は、人工的に作られた証明のそれ――ではなく、世界を照らしている「恒星」のそれらしい。光と共に伝わってくる暖かな熱が、コールドスリープから目覚めた俺の身体を、ゆっくりと温めだしたのがわかった。

 

 視界が完全に光に順応するのを待ってから、俺は動くことを決意する。

 恒星の光に温められ、ようやく動くようになった身体に力を入れて、腕を、脚を、少しずつ動かす。開かれたハッチのふちに手をかけ、力を込めて身体を引っ張り出せば、狭苦しかった視界が、一気に開けた。

 

 

 

 

 そして目の前に広がったのは――――大自然。

 

 遠景に臨むのは、三日月のような奇怪なくぼみを抱える、高い山。

 山麓に煌めくのは、恒星の光を受けて豊かに生い茂る、鮮やかな緑。

 そして頭上に広がるのは、風に流れる白雲を浮かべた、抜けるような蒼い空。

 

 コールドスリープ装置から這い出した俺を包み込んだのは、人工物ではない。

 文明という言葉とはまるで無縁な、何処までも広がる「大自然」が、そこにあった。

 

 

 

 壮大な自然の大パノラマに圧倒されてしばらく後、ようやく俺は正気を取り戻す。

 

 ――脳裏をよぎる疑問は尽きないが、一番の疑問は「ここがどこなのか」と「どうして自分がここにいるのか」ということだ。

 一つ目の疑問は、見る限りすぐに解明することは難しい。コールドスリープから目覚めたばかりということもあるので、まずは記憶の復唱から始めるのが賢明だろうと判断した。

 

 

 

 

 

 

 俺。本名……というか普段のコードネームは「コネクト」。

 諸般の事情で昔の名前は使わなくなって久しいが、今のところそちらはどうでもいい。

 

 所属しているのは、「アークス」と呼ばれる銀河規模の組織。

 宇宙を進む巨大な宇宙船団「オラクル」を拠点に、宇宙の平和を守るため、様々な脅威と戦う戦士たちの総称だ。

 

 戦っていた主な敵性体は「ダーカー」と呼称されていた。近年になって、新たに「終の女神」と呼ばれる存在が率いる一派も増えたが、そちらはさるアークスの奮闘で撃退されたそうだ。

 俺もまた、アークスとして日夜ダーカーや終の女神一派と戦っていた。元凶である存在が倒されたことで、近年は戦いも少なくなり、俺もここ最近は、あまり戦場に駆り出されることもなくなっていた。

 

 

 自分に関する基本的な情報は、以上。

 記憶を精査すると、いくつか抜けていたり、欠けている記憶もあることが分かったが、コールドスリープから目覚めた直後は、記憶の混濁や一時的な欠落は「よくあること」らしい。多くの場合、時間が経てば思い出すらしいので、ひとまず今は気にしなくてもいいだろう。

 

 

 記憶の復唱も終わったところで、俺は改めて周囲を見回す。状況の確認もそうだが、今は何より、身体を動かしたい気分だった。

 

 どうやら、現在地はどこかの海岸らしい。眼前には、先ほども見かけた不思議な形状の山へと続く道となりそうな崖が伸びていた。

 背後を見れば、砂浜に3割ほど埋没する形で、大きなポッド――先ほどまで俺が押し込められていたコールドスリープ装置が横たわっている。その向こうには、穏やかに波打つ海が、水平線まで広がっているのが見えた。

 

 一通り見回した俺の目線は、「コールドスリープ装置」へと向く。

 たしかに、大雑把な外見は確かに何かしらのカプセルだ。しかし、それにしてはどうにも刺々しいのだ。

 空気抵抗を減らすような形状が特徴的なそれは、単なるカプセルではなく、まるで――

 

「……降下、ポッド?」

 

 大気圏突入用に作られる、一人乗りの「降下ポッド」にも見ることができた。

 

 ……仮にこれが降下ポッドだとして、俺は一体なにがどうして、こんなものに乗り込んで、あまつさえこの中で長期間眠りこけることになったのだろうか? 状況故に致し方ない部分もあるが、謎は積みあがっていくばかりだった。

 

「――とりあえず、まずは救難信号か」

 

 わしわしと頭を掻いて気持ちを切り替えた俺は、身に纏っていた衣装――アークス標準の戦闘服を自分用にカスタマイズしたコンバットスーツのポーチから、少し大きめの通信端末を引っ張り出す。

 アークスとしての任務中に使う通信装置と言えばマイクロインカムが一般的だが、通信の中継機となるキャンプシップが無い状況だと通信が出来なくなる、という欠点がある。その点、この多機能通信端末は、何千光年離れていようが短時間で救難信号を送れる優れものなのだ。

 

「よし、と。……次は、周辺の散策と食料の確保、だな」

 

 つつがなく信号を送信したあと、俺は今後の行動方針を整理する。

 

 生存可能な場所で遭難した時にまずやるべきなのは、生存のための食料確保と相場は決まっている。

 現状、この土地で口にできる物が入手できるかは分からないが、これだけ自然が豊かなのだ。ツールポーチに収めてある成分解析ツールを通せば、問題なく食べられるものもいくらかは見つけられるだろう。

 

「そうなると、武器が欲しいところだけど――」

 

 という俺のつぶやきを拾ったかのようなタイミングで、背後から圧縮空気の抜ける音が響いてくる。

 後ろ――コールドスリープ装置の方を振り返ると、俺が寝かされていたカプセルのシート部分がさらに開かれて、そこからいくつかの「装備」が排出されていた。

 

「これ、は」

 

 装置から出てきた武器群には、心当たりがある。

 いや、心当たりなんてものじゃない。そこから覗く装備品は、紛れもなく「俺が愛用していた武器」だったのだ。

 

 それは、護拳(ハンドガード)部まで覆う光の刃が特徴的な、身の丈ほどもある大ぶりな大剣。

「コートエッジ」という銘を冠されたその剣は、数多くの後継機の存在によって型落ちの烙印を押されながらも、簡素な構造故の頑強さと、それに由来する抜きん出た扱いやすさから、今なお根強い愛好家たちから長く支持される一振りだった。

 

 なぜこの武器がこんなところに、と疑問に思ったが、いつも通りの武器でいつも通りに戦えるのは、思ってもみなかった嬉しい誤算だ。放置する理由もないので、ありがたく使わせてもらうとしよう。

 

「またよろしくな、相棒」

 

 コートエッジを背に吊り直した俺は改めて、周辺環境の調査に乗り出すため、その場を後にした。

 


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