PSO2NGS外伝 新世紀の前奏曲〈プレリュード〉   作:矢代大介

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02.未知なる星

 

 

 

 目覚めた地点を後にした俺は、三日月型の山へと続く道をたどるように行動を開始した。

 

 アークスという組織は、敵性存在(エネミー)から宇宙を守るという本領とは別に、宇宙の各地に存在する未開の惑星に降り立ち、その環境を調査したり、現地の知性体と円滑なコミュニケーションを確立するという役目を帯びる「惑星調査隊」の側面も持っている。そのため、アークス各員へと支給される標準装備の中には、惑星の調査に有用な様々なツールが満載されているのだ。

 

 惑星調査用ツールの一つである、無線カメラ搭載型の高高度ドローンユニットで、周囲の地形情報を取得していく。

 稼働可能な範囲で出来る限りの地形情報をさらってみたが、どうも落着地点である砂浜から徒歩で辿っていけるのは、崖沿いの小道以外に存在しないらしい。一応、崖を登れば他にもルートは取れそうだったが、わざわざ必要のない登攀(とうはん)で無駄に体力を使うこともないだろうと判断した。

 ドローンが取得した映像を見る限り、どうやら崖沿いの小道は、最初に見かけた三日月状の不思議な山の方へと続いているようだった。

 肉眼で見ても、かなりの標高があることがわかるその三日月山は、ランドマークとしてはこれ以上ないほどうってつけだ。まずは、あそこの近辺から調査をしていくのが吉だろう。

 

 

「お」

 

 崖沿いの小道を辿って歩いていくと、いくつかの木と、そこになっていた果実のようなものを見つけることができた。

 食料として使えるかどうかを判別するため、調査用ツールの一つである、採取した物質が保有する成分を解析するデバイスを通して、果実らしきものを解析すると、結果は「可」。幸いにも、かなり早い段階で食料を確保することができた。

 

 毒性が無いことは確認できたが、それは生食に耐えうる味であることを保証するものではない。想像を絶する渋味で食べられたものじゃない、なんて可能性も十分にあるのだ。

 少しの懸念を抱えつつも、思い切ってかじりついてみる。

 

「……林檎、だな」

 

 果実から口の中に広がったその味は、よく知った果物と酷似していた。

 果実の形状そのものは、記憶にある同じ味の果物とはまるで違っている。奇怪な形状をしているにも拘らず、良く知った物の味がする……というのはどうも釈然としなかったが、ともかく、食料に困ることは無いようだった。

 

 

 

 

 謎の果物を口にて腹を満たしつつ、俺はさらに歩を進めていく。

 

 ランドマークにした三日月山の麓まであと少し、というところで、俺の眼前に動く物体――否、原生生物と思しき生物たちが姿を現した。

 やはりというべきか、自然が自生している以上、野生動物たちも息づいているのは道理だろう。そう思い、現れた原生生物から何か情報を得られないかと観察しようとして――

 

「……ん?!」

 

 俺の喉から、変な声が漏れる。

 

 理由は単純。そのシルエットが、あまりにも見覚えのあるものと似通っていたのだ。

 

 

 それを一言で形容するなら、「猿」という言葉が適切だろう。

 長い腕と尾を持ち、不揃いな牙をむき出しにした凶悪そうな面構え。気候の違いか、記憶とは違う乳白色の体毛を持つそれは――

 

「……ウーダン?」

 

 かつて任務で出向いていた惑星に生息していた猿型の原生生物「ウーダン」と、よく似ていた。

 いや、厳密には体色を初めとした細部の形状が異なっている。だが、その特徴的なシルエットと骨格を見間違いで片づけるには、そいつはあまりにも似すぎているのだ。

 

(どういうことだ? まさか、ここはナベリウスなのか?)

 

 未開の惑星で未知に囲まれている中、湧いて出てきた既知の存在に、再び頭の中で疑問符が吹き荒れる。

 

 ……いや、自分で言っておいてなんだが、この惑星は(くだん)の惑星――ナベリウスととは違うと断言できる自信がある。

 理由は、「植生」と「気候」だ。ナベリウスは一部の地域を除く大半が、鬱蒼と生い茂る木々に覆われた熱帯地域であったのに対して、今現在俺が立つこの場所は、爽やかな潮風が吹き抜ける温暖な地域なのである。

 むろん、ナベリウスにもそう言った場所が無いわけではない。だが、今俺が居る場所の周囲に生えている植物類は、先ほど採取した謎の果物がなっていた木も含めて、ナベリウスで確認されているそれと、まるで毛色の違う植生をしているのだ。

 

 ナベリウスと言えば、かつての強大な敵との戦いの舞台になった地。当時の戦いの影響で生じた気候の違う地域なども含めて、アークスのデータベースに特記できる情報が無いほどに「調べ尽された」星である。俺が眠りこけてから何年たっているのかは分からないが、少なくとも、一朝一夕で植生がまるまる変わるようなことは起こりえないはずだ。

 

(見知った原生生物が居て、それなのに惑星の環境はまるで違う。……なんなんだ、この星は?)

 

 寝起きからこの方、遭遇するものと言えば謎ばかりだが、さりとて立ち止まって頭を悩ませていても、解決できる問題は多くない。より多くの情報を集め、謎の解明に役立てるためにも、今は行動するのが先決だろう。

 

 幸か不幸か、白いウーダンたちはこちらに気付いてこそいるが、縄張りを侵しているわけではないためか、遠巻きにこちらを見るだけだ。

 無用な戦闘は避けられるに越したことはない、という考えの元、俺は足早にこの場を立ち去ることにした。

 

 

 

 

 

 

「……あれは」

 

 それからまたしばらく、三日月山の方面へと歩を進めていくと、眼前にこれまでとは違う「変化」が現れた。

 

「ライト――人工物だ!」

 

 一見すれば、それは無造作に地面へ転がされた照明だ。しかし、よくよく目を凝らしてみてみれば、それはただ転がされているわけではなく、少し不規則ながらも「道を照らすように並べられている」ことがわかった。

 

 いや、この際配置なんてものは些末な問題だ。重要なのは、この道の惑星に、明らかな「人工物」が存在したことだ。

 ――この惑星、てっきり自然ばかりの未開の星かと思っていたが、どうやらここには、何かしらの知的生命体……それも、機械的な照明を作れる程度のレベルに達している「文明」が存在しているらしい。

 そうと確定すれば、話は変わってくる。知的文明がどれほどの文明レベルを誇っているかは今だ定かではないが、彼らと話を付けることができたならば、このまま当てもなくさまよってサバイバル生活を送る必要もなくなるはずだ。

 

「なんとかして、コンタクトを取れればいいんだが……」

 

 ごちりながら、俺は据置照明が照らす道を視線でたどると、持ち上げた視線の先に、ぽっかりと口を開けた穴――洞窟が姿を現す。

 そのままさらに視線を上げると、頭上には目前に迫った三日月山のてっぺん。どうやら、いつの間にかランドマークである三日月山のふもとに到着していたらしい。据置照明の道は、三日月山のどてっぱらに口を開けた洞窟の中へと続いていた。

 

「……信用、してみるか」

 

 どこまで続く洞窟かは分からないが、照明の道が伸びている以上、この先になにもない、ということはないはずだ。

 設置した奴に良心があったであろうことを祈りながら、俺はツールポーチから、自動追従してくれる浮遊型ライトを展開。足元ばかり照らす照明の届かない場所を照らしながら、ゆっくりと洞窟へと踏み入って行った。

 

 

 

 

 砂っぽい地面とブーツがこすれ合う音だけが響く中を、俺はひたすら歩き続ける。

 道中には、分かれ道らしい分かれ道もない。装甲車両一台が余裕で通れそうな広さの洞窟は、ひたすら一直線に続いていた。

 

「――ん、そろそろか」

 

 すこしうねった構造の洞窟の先から、外の明かりが顔を覗かせる。

 警戒しながらゆっくり進んでいたにもかかわらず、体感時間は10分もたっていない。どうやらこの洞窟は、どこか地下へと続いているわけではなく、三日月山の内部をスムーズに通れるように掘られたもののようだった。

 

 さて、この先には何が待っているのだろうか。

 多大な不安と、ほんの一握りの希望。そして、そこに入り混じる抑えきれない好奇心を胸に、俺は残り少しの洞窟を、足早に抜けた。

 

 

 

 

 小高い丘のようになった場所へ、足をかける。

 

 眼前に広がるのは、やはり大自然。違いと言えば、円形にそびえる山々が、炎の赤や氷の白に染まっていることくらい。

 だが、それよりももっと決定的な「違い」が、俺の目を引きつけた。

 

「あれ、は――!」

 

 真っ先に目を引くのは、天を突かんとそびえ立つ、二股の槍を思わせる巨大な「塔」だ。

 遠目からでもはっきりとわかる、明滅する青い光のラインを備えたそれを中心に、巨大な「防壁」のようなものがぐるりと取り囲む、その構造。

 

 それを、あえて言葉で形容するなら。

 それは、間違いなく「街」。巨大な塔――否、ビルと思しき建造物を中心とした、大規模な街が、俺の眼前に姿を現した。

 

 よもや、これほど早く人里、というか街を見つけることができるとは思っていなかった。しかも、建築物の様式を遠目から見ても、想定していたよりもはるかに進んだ文明を持った者たちが住んでいるらしい。

 あそこに住む住人たちから上手く協力を得ることができれば、あるいは想定よりもはるかに早く、オラクルへと帰り着くことができるかもしれない。そう考えると、知らずのうちに足取りが軽くなっていた。

 

「とにかく、まずは住人とコンタクトを――」

 

 そう言って歩き出そうとした矢先、不意に俺の聴覚が、聞きなれない音を察知する。

 

「……?」

 

 周囲を見回すが、音源となりそうなものはどこにもない。ならば音源を探すまで、と耳をそばだてた俺の視線は――「上」へ向いた。

 

 

 はじかれるように顔を上げたその先。清らかな青に包まれた空を、一条の「流星」が切り裂く。

 燃えるような紫の光に包まれながら降り注ぐそれは、空気を切り裂く音と共に、俺の眼前――街へと続く街道のど真ん中へと落着。紫炎の残滓と盛大な砂煙を打ち立てて、その場の周囲にあった草木を、土を、ことごとく蹴散らしていった。

 

「何だ……!?」

 

 吹き寄せる土煙の嵐を凌ぎ、再び流星の落着地点を見やれば――そこに、ナニカがいた。

 

 

 全身を構築するのは、生物を包む肉とは似ても似つかない、青白く発光するゲル状の物質。

 それを(よろ)っているのは、甲虫の外殻を想起させる、無機質さと生々しさが奇怪に同居した、黒い外殻。

 

 

 生命体と形容するにはあまりにも異形な「ナニカ」が、そこに屹立していた。

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