PSO2NGS外伝 新世紀の前奏曲〈プレリュード〉   作:矢代大介

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 前中後に収まらないことが判明したため、サブタイトルを数字カウント方式に変更しました。
 長々と続けてしまうことになりましたが、お付き合いいただけると嬉しいです。


03.会敵

 

 

「んな……ッ?!」

 

 あまりにも突然の奇襲。そして、そのあまりにも異形めいた様相に、思わず驚愕の声が漏れる。

 形状といいその体躯と言い、あの異形は明らかに既存の生態系に組み込まれた生物ではない。どちらかと言えば、何者かが惑星侵略のために作りだした生体兵器、とでも言った方がまだしっくりきそうなほど、「生物らしさ」を欠いた外観をしていた。

 

 現れた異形の数は、さほど多くはない。

 尾ひれのように触手をたなびかせ、空中を音もなく泳ぐ魚のようなものを主体として、その中心には、二体の大型――ともすれば巨人とも呼べるような、一対の手足に武器のようなものを携えた、二足歩行型。展開した布陣を見るに、二体の人型があの群れのリーダー格であることは間違いないだろう。

 

(なるべく戦いは避けたいところだけど――さすがに、この状況じゃ無理だよなぁ)

 

 かの異形に視界はおろか、感覚器官と呼ぶべきものがあるかどうかはわからない。唯一確かなことは、魚型も人型も、揃って「こちらを向いている」という事実だけだった。

 

 二体の人型が、青かったゲル状の部位を赤く染めたかと思うと、それぞれ形状の異なる武器のようなものを構え、俺めがけて突きつける。

 ――直後、片方の人型が構えていた武器の先端から、赤黒く発光する「砲弾」が放たれた。

 

「ぅおッ!?」

 

 飛来した砲弾を、すんでのところで回避する。鼻先三寸を掠めて背後へと抜けていった光弾は、着弾地点の地面を、強かに抉り取っていった。

 

「ッくそ、やるしかないか……!」

 

 それが攻撃であることは、敵対的な行動であることは明白。つまりかの異形は、今の俺にとっての「倒すべき敵」だ。

 ならば、と戦闘態勢を取った俺は、背から飛び出した柄を引っ掴んで、背負っていた得物を――コートエッジを抜き放つ。掌中に収まった肉厚な大剣の、かすかに明滅する青い光の切っ先が、空気と擦れる独特の音をかき鳴らした。

 

「どこのどいつかは知らないけど、撃ってくるなら、こっちも叩き切るだけだ。――本気で行くから、気を付けろよ!!」

 

 誰に対してでもなく、吼える。虚空に溶けて消えるその宣言で自信を鼓舞しながら、俺はコートエッジを構え、地を蹴った。

 

 俺がアクションを起こしたことで、人型の周囲を回遊していた魚型エネミーが、一斉にゲル部分を赤く変色させ、こちらへと回頭する。

 そのまま突撃でも仕掛けてくるのか、と勘ぐる俺へと向き直った魚型が、頭部と思しき部分をがばりと上下に開口。中核部分と思しき部位を露出させたかと思うと、そこから赤黒い光弾が音を立てて吐き出された。

 

「ちっ!」

 

 どうやらあの小型エネミーは、魚というよりも浮遊砲台型エネミーと形容した方がふさわしいようだ。

 数体の小型が協力し、光弾が雨あられと降り注ぐ。が、幸いというべきか、小型が放ってくる光弾の威力は、先の人型が撃ち出す光弾ほどの威力はないようだった。

 体捌きによる回避や、コートエッジの刀身による防御で凌ぎながら、エネミーの群れへと肉薄していく。エネミーたちも、単なる射撃では俺を止めることはできないと判断したのか、あと少しで切っ先が届くというところで、はじかれるように散開していった。

 

 追いすがろうと急停止をかけ、振り向いた俺の視界に、口を開いた小型エネミーの姿が映り込む。彼我の距離は、さほど遠くない。

 

「食らうか――よッ!!」

 

 撃ち放たれた光弾めがけて、コートエッジの刃を一閃。

 青い光の軌跡を刻み、振り抜かれた肉厚な刀身は、俺めがけて迫っていた赤黒い光弾を、真っ向から相殺。その勢いを殺さないまま、射撃の反動で動けないらしい小型エネミーへと殺到し、その小さな躯体を、縦一文字に両断して見せた。

 

「一つ!」

 

 赤黒い爆発の中に小型エネミーが消えていったのを確認して、撃破の判定を下す。正体は依然として分からないが、この一撃のおかげで、現有戦力でも渡り合えることは証明できた。

 

 ならば、あとはすべて切り伏せるのみ。

 闘志を宿した瞳で次の獲物を探そうとした俺を、今度は周囲を取り囲むように布陣した小型達の光弾が襲う。

 

「ぐッ……!」

 

 単一方向からの攻撃だけならともかく、四方八方から飛んでくる光弾の全てを回避する術はない。避けきれなかった光弾が俺の身体を捉え、炸裂と共に衝撃を叩き込んでくる。

 見立て通り、単純なダメージはさほどではないが、それが攻撃であることに変わりはない。芯まで伝わる痺れるような鈍痛を気合でねじ伏せ、コートエッジの刀身を盾に強引に突き進むことで、どうにか包囲網を突破した。

 

「う、おおぉぉッ!!」

 

 振り向きざま、雄叫びとともに、引き絞ったコートエッジを、小型めがけて横一文字に叩きつける。

 肉を切るような確かな感触と共に、眼前に展開していた三体のゲル状のボディが両断。赤黒い光の爆発が連鎖して、俺の髪を吹き乱していった。

 

「次――ッ!」

 

 最初の目算からすれば、残存する敵の数はそう多くないはず。

 そう考え、顔を上げた俺の目に移ったのは、こちらの射程の外へと距離を取っていく、小型エネミーたちの姿だった。

 

 遠距離砲撃でも仕掛けてくるのか、という予想は、幾ばくもせず否定される。

 追いすがろうとした俺を襲ったのは、先の攻撃よりも数倍巨大な、赤黒い光弾だった。

 

「う、ぐっ……!」

 

 すんでのところで、防御に成功する。

 コートエッジ越しに炸裂した衝撃は、先の小型の砲撃とは段違いに重い。体を浮かされ、半強制的に後退させられる。

 土煙を上げて制動をかけ、踏みとどまった俺の目が捉えたのは、武器――巨大な銃の先端をこちらに向ける、人型の片割れだった。

 

 親玉が動いた、ということは、どうやら俺の存在は、奴らにとっての「脅威」として認識されたらしい。

 崩れた体勢を立て直しながら親玉たちの方へ向き直れば、重い足音を響かせながら接近してくる人型の姿が目に入る。その手に握られている武器は、形状から見るにどうやら剣を模した物のようだった。

 

「――上等!!」

 

 吐き捨てながら、地を蹴る。

 先手必勝。攻撃が飛んでくる前に懐から一気に撃滅するべく肉薄を試みた――直後、側面から赤黒い光弾が飛来した。

 

 横目で捉えて回避する俺の視界に、射撃状態に入った小型の姿が映る。

 先の後退は逃走ではなく、こちらの射程外へ逃げ延びるための戦術的再配置だったのだろう。絶えず飛来する光弾の雨あられは、やはり威力こそ親玉のそれには劣るが、非常にいやらしい角度から飛んでくるせいで、親玉への肉薄が的確に阻止されていた。

 

「くそ――ッ!?」

 

 回避へと行動を切り替えたところを見計らって、剣の親玉が大上段から剣を振り下ろしてくる。

 全長と、そこから推定できる質量を鑑みれば、まともに受け止める選択肢は取れない。頬を薙ぐ強烈な風圧と、叩きつけられた剣の衝撃を肌で感じながら、どうにか一撃を回避した。

 

 そこへすかさず、逃がさないと言わんばかりの強烈な砲撃。

 もう一体の親玉が放った大きな光弾を回避しようとしたその矢先、再び飛来した小型の光弾が俺の行く手を遮った。

 

「ッ……!」

 

 後方への退路を断たれた俺に、選択の余地はなかった。

 身を翻し、再びコートエッジの刀身を掲げ、即席の盾を形成。先刻のリプレイとばかりに、すんでのところで親玉の砲撃を凌ぐ。

 

 衝撃に吹き飛ばされ、土煙を上げて後退する俺めがけて、さらに小型の砲撃が降り注ぐ。

 逃げ道を塞ぐように集中砲火を浴びせられる俺の眼前で、不意に剣持ちの親玉が身をたわめた。

 

 その瞬間、突き出された親玉の剣が、「真っ直ぐこちらに飛んできた」。

 

「な――」

 

 よもや届くはずのない距離から俺を襲った奇襲。対応は、できない。

 

 

 気づけば俺は宙を舞い、背中から地面へと叩き付けられていた。

 

「ぐ……ぁっ……」

 

 肺の空気を纏めて絞り出され、全身を襲った強かな衝撃に喘ぐ。少し離れたところからは、保持していられなくなったコートエッジが、土の地面に突き刺さる甲高い音が聞こえてきた。

 どうにか首をもたげて親玉の方を見てみれば、そこにはまるでコードを巻き戻すかのように腕を伸ばし、飛来した剣を回収する親玉の姿。投擲攻撃だと思っていたが、先刻の一撃はどうやら、腕そのものを伸ばして攻撃した物だったようだ。

 

(なんだよ、それ……どこまで、生き物離れしてやがるん、だよ……!)

 

 胸中で怨嗟の言葉を吐き捨て、ふらつきながらもどうにか体勢を立て直す。

 幸か不幸か、先のロングレンジ攻撃は切り裂くための物では無かったらしい。強烈な衝撃に内臓まで揺さぶられたが、致命打とはならなかったようだ。

 だが、状況が劣勢に傾いていることに変わりはない。蓄積しているダメージの量も、そろそろ看過できないレベルに入っていた。

 

「こう、なったら……」

 

 立ち上がった俺はおもむろに、アイテムパックから一つのデバイスを引っ張り出す。

 大ぶりな記録媒体にも見えるそれは、かつて出会ったある研究者が開発した、戦闘用の強化装置だ。未知の環境下で上手く動作するかわからないため使用を渋っていたが、四の五の言っていられない状況下で、使わずに敗北するという選択肢はあり得なかった。

 

「上手く動いてくれよ――!」

 

 一縷の望みをかけて、デバイスのスターターを押し込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――直後、間近で赤黒い閃光が弾けた。

 

「ぐッ!?」

 

 炸裂個所は、デバイスを手にしていた手。

 小型が放ってきたものだったらしく、威力はさほどではない。だが、手痛い一撃を貰った手のひらの中からは、デバイスの感触が消えていた。

 

 遠く、背後の方で硬質な落下音が聞こえる。振り向かずとも、それが弾き飛ばされたデバイスの悲鳴だということは理解できた。

 こちらが何をしでかそうとしているかを理解して、それを的確に妨害してくる。件のエネミーたちは、想定よりもはるかに高度な知能を持っていたようだ。

 

「ち――――ッ?!」

 

 舌打ちを挟む暇すらなく、次の一撃が飛来する。出所は、後方に座した銃持ちの親玉。

 バースト射撃のごとく連続して叩き込まれる光弾を防ぐ手段を失ったことで、今度こそ俺はまともに光弾を浴びることとなった。

 

「がッ……」

 

 骨まで軋む威力の光弾が、全身を殴りつけていく。

 内臓までダメージが達したのか、喉の奥から赤い液体が噴き出る。鉄臭い味が口の中に広がるのを感じつつも、ギリギリのところで、俺の足は踏みとどまってくれた。

 

(負ける……? 冗談じゃ、ない……ッ!)

 

 ふらつく身体の制御を根性でねじ伏せ、刻まれた傷を手で握りつぶし、両の足でしかと地を捉える。

 

 這う這うの体を突き動かしているのは、ただ一つ。

 幼少のころに経験した出来事が人一倍に燃え上がらせた「生存欲求」が、窮地に陥ってなお、俺の身体を動かしていた。

 

(こんなところで、死ぬつもりなんて――ない……!!)

 

 火花を散らさんばかりに歯を食いしばり、前を向けば、かすかな地響きとともに接近してくる、剣持ちの親玉の姿。周囲には、確実に俺を仕留める算段なのか、射撃体勢に入った小型どもが展開していた。

 

 振り上げられた大ぶりな剣を、両の目でしかと捉え続ける。

 

 鉛のように重い身体は、まだ動く。何が来ようが、躱してみせる――!

 

 

 

 

 

 そして、永劫にも等しい刹那のその最中。

 

「スキ――ありだ!!」

 

 俺の真横を、青白い流星が駆け抜けていった。

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