PSO2NGS外伝 新世紀の前奏曲〈プレリュード〉   作:矢代大介

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04.邂逅

 

 

「え――」

 

 空気を切り裂く鋭い音を立てて、俺の真横を通り抜けた流星が、今まさに剣を振り下ろさんとした親玉の胸ぐらへと着弾。盛大な火花を吹きあげ、親玉を勢い良く切り裂き始めた。

眩い閃光の向こうをよくよく垣間見てみれば、流星の正体は「高速回転する両刃の剣」――俗にダブルセイバーとも呼ばれる武器だということが分かった。

 

 満足するまで親玉を切り裂いた両剣が、はじかれるようにその場を離脱。今度は俺の頭上を通り越して、俺の背後へと戻っていく。

 

 間違いない。今の一撃は明らかに、かの敵勢に対する攻撃だ。そして、よくよく見知った形状の武器。それが意味することは、一つしかない。

 

 這う這うの体のまま、先刻歩いてきた道の方を振り返った俺の視界に。

 

 

 

 

「――よう、〈ホシワタリ〉。まだ生きてるみたいだな」

 

 ダブルセイバーを音高く掌中に収める、一つの人影が映り込んだ。

 

 人、と形容しなかったのは、その人物が素顔を見せていないからだ。

 全体的な体系のシルエットは、常識的なフォルムを持つ男性の物。しかし、その全身は蒼く輝く結晶体を交えた装甲に包まれており、頭部を覆うフルフェイスメットの存在もあって、まるで機械の身体を持つ種族(キャスト)か、そうでなければ「仮面のヒーロー」とでも形容できるような重装備だったのだ。

 だが、その手に握ったダブルセイバーは、俺にも見覚えがある。かつてアークスの技術部によって開発された「ランドルオービット」と呼ばれる武装群の一つを携えるその人物は、間違いなくアークスの一人だと確信できた。

 

「寝起きそうそう無茶してるじゃないか。――おーいめーちゃん、回復してやってくれ」

 

 と、フルフェイスメットの人物が、不意に顔を上に向ける。

 上になにがあるのか、と思い、つられて上を見上げると――

 

「降下準備。――ちょっと待ってください、先に〈フワン〉を片付けますから」

 

 俺の間近めがけて、今度は人そのものが高速で落下してきた。

 

「ぅおッ?!?」

 

 思わず驚きに声を上ずらせたが、どうやら急降下してきた人物の目的は、追撃を試みていた小型エネミーだったらしい。着地と共にその手に握った武器を地に叩き付けたのか、強烈な衝撃波が小型の群れをなぎ倒していった。

 

「殲滅完了。お待たせしました、ホシワタリさん」

 

 滑らかに立ち上がったその人物は、キャストの女性。

 動作に合わせて、二股の長い三つ編みに結われたエメラルドグリーンの髪を揺らしたその女性は、こちらを見やると、かすかに微笑んで見せた。

 

「こっちは持たせる。ぱぱっと治療してやってくれ!」

 

 直後、別方向から甲高い衝突音が響く。振り向けば、ダブルセイバーを携えた仮面の男性が、追撃に来ていたらしい剣持ちの親玉と鍔競り合い、こちらへの攻撃を阻止しているのが見えた。

 

「状態確認……ああ、酷い惨状です。コールドスリープから目覚めて一日経っていない人が負っていい怪我ではありませんね」

 

 かすかな機械音を瞳から鳴らし、こちらの状態を分析したらしい女性が、困り顔を作りながら懐から何かの機械を取り出す。

 

「〈レスタサイン〉散布開始。動かないでくださいね」

 

 と告げ、キャストの女性が装置を起動する。

 

 すると、装置の中に圧入されていたらしい緑色の光が、ぶわりと吹き上がる。

 温かさと、どこか既視感めいたものを感じるそれは、俺の体内にしみこんでいったかと思うと、途端に全身を苛んでいた痛みとけだるさが退いていくのがわかった。

 

「これ、は」

 

 たちどころに傷が癒えていく感覚で、ようやく既視感に納得がいく。

 これは間違いなく、アークスで運用される回復テクニック「レスタ」のものだ。装置を起動させる前にキャストの女性が口にした名詞から類推するに、彼女が使用したのはレスタに限りなく近い、もしくはレスタを再現した装置なのだろう。

 

「ヒールシェア完了。……どうです、動けますか?」

 

 キャストの女性に問われ、少し体を動かしてみるが、先ほどまでの倦怠感は嘘のように吹き飛んでいる。これならば、戦闘機動にも支障はないだろう。

 

「ああ、問題ない。助かったよ」

「いえ、お気になさらず。支援とエネミーさんへの嫌がらせは、ワタシの趣味ですから」

 

 にこやかな笑顔のまま、ズビシ、と擬音が付きそうな勢いでサムズアップすると、キャストの女性は再び腰から得物を抜く。

 こちらもまた、見覚えのある代物だ。翼のようなスタビライザーを持つ、片手で保持できる杖のような外観のそれは、「リンドエクシード」と呼ばれる複合兵装群の一つ。形状と彼女の言動から察するに、彼女が手にしているのは恐らく「短杖(ウォンド)」と呼ばれる法撃兵装だろう。

 

「戦況は五分。ワタシたちも加勢しましょう」

 

 そう言って女性がウォンドを掲げると、周囲に赤と青に輝く光の粒が放たれる。

 

 赤と青の光が伝えて来る感覚もまた、酷く覚えのあるものだ。

 赤の光は、攻撃に用いられるエネルギーを増幅して火力を上げる「シフタ」というテクニックに。青の光は、不可視の防護膜によって防御力を向上させる「デバンド」というテクニックに酷似している。先の発言通り、キャストの女性は戦闘メンバーの支援を生業としているらしかった。

 

「突撃します。お先に失礼しますね」

「え?」

 

 直後、キャストの女性がそんなことを口走ったかと思うと、手にしていた武器を換装。

 テクニック運用に適した短杖は、まばたきの間に量の拳を覆う「鋼拳(ナックル)」へと変形。翼のようなスタビライザーから光の粒子を吹かしたかと思うと、次の瞬間、女性は矢のごとく敵陣へと突撃していった。

 

「はっ!!」

 

 女性が標的にしたのは、仮面の男性を狙おうと動いていた、銃持ちの親玉。風切り音と共に叩き込まれた鉄拳は、炸裂音を打ち鳴らして、親玉の銃口をあさっての方向へと吹き飛ばして見せた。

 

「パリィ成功――隙だらけです」

 

 そのまま、流れるように身を翻したかと思うと、女性の両の腕が、神速の勢いで乱打を繰り出す。

 残像すら伴うほどの勢いで放たれた無数の拳は、がら空きとなった親玉の胴体へと吸い込まれるように着弾。

 

「やれやれだぜ、です」

 

 機関銃の射撃と聞き間違えそうな炸裂音を響かせると、親玉が遥か後方へと豪快に吹き飛ばされていった。

 

 単騎対単騎という状況とは言え、あれほど俺を苦しめた親玉の片割れをいともたやすく片づけてみせたその実力は、生半なものではない。

 ならば、もう片方の仮面の男性も――という思考は、間近で炸裂したドゴォン! という衝撃音に中断させられた。

 

「おっと悪い、巻き込みかけた」

 

 少し遅れて、コキコキと首を鳴らしながら、件の仮面の男性が悠然と歩いてくる。

 ならば先ほどの炸裂は――と振り向けば、そこには半ば地面に埋まるような格好で沈黙する、剣持の親玉の姿があった。どうやら、俺が治療を受けていたあの数十秒間の間、単騎で圧倒していたらしい。

 

 驚くのもつかの間、地面へ叩き付けられた親玉が、周囲の土を砕きながら大上段へと跳躍する。勝手に沈黙したと思い込んでいたが、どうやら倒し切れてはいなかったらしい。

 

「ったく、毎度毎度しぶとさだけは一流だな!」

 

 が、それを予期していたかのように、仮面の男性が音高く跳躍する。

 

「こちとら新しい仲間の歓迎会が控えてんだ。とっととお引き取り願おうか!!」

 

 言葉と共に、ダブルセイバーが閃き、無数の剣戟が繰り出される。

 掌中に握られたまま高速回転する両刃の剣は、軌跡に合わせて青白く輝くカマイタチらしきものを生成。手数を遥かに超える回数の斬撃を以て、二回り以上も大きな体躯を持つ剣持ちの親玉を、真っ向から圧倒して見せた。

 

「強い……!」

 

 思いがけず、感嘆が口を吐いて出る。

 俺自身、そこそこ長くアークスとして研鑽を続けてきたが、眼前で戦いを繰り広げる二人の実力は相当なものだ。使用する武装や戦い方から見るに、彼らもアークスとして長く戦ってきた実力者なのだろう。

 

 

 なんてことを考えてきた矢先、背後で何かが落着する衝撃音が響く。

 

「ッ――新手?!」

 

 振り返れば、そこに居たのは先刻俺を苦しめ、二人のアークスが退けたエネミーたちの親玉の姿。剣を持った人型タイプが、俺の目の前でゲル状の体躯を赤く染めあげたところだった。

 

 間髪入れずに振り下ろされる剣を、バックステップで回避する。

 対抗するだけならばともかく、このエネミーを殲滅するためには武器が必要だ。そう考え、先ほど吹き飛ばされた得物(コートエッジ)が突き刺さった位置を確認し直して――思わず悪態をついた。

 

「クソッ、嫌らしいところに来やがった!」

 

 コートエッジが突き刺さっていた位置は、剣持ちの親玉と相対する俺の真正面――言い変えれば、親玉の背後。つまり、コートエッジを回収するためには、眼前の親玉をどうにかして突破する必要があるのだ。

 近づくのは言わずもがな、仮に距離を取って大回りに迂回しようにも、親玉には腕部を自在に伸ばすことで射程をカバーする能力を持っている。丸腰の状態で下手に動くことは、何としても避けたかった。

 

 

「ホシワタリ! コイツを使え!!」

 

 その時、背後から仮面の男性が呼びかけて来る。

 ちらりと後ろを垣間見れば、なおも親玉を圧倒し続けていた男性が、こちらめがけて何かを投擲するのが見えた。

 

 飛来したのは、何らかの武器の柄と思しき物体。パシッ、と音を立てて受け止めてみれば、それはどうやら、非実体の刃を出力するための発振器のようだった。

 スターターらしきスイッチを押しこめば、発振部分から半透明の刀身が象られ、それをなぞるように、青白く輝く光の刃が出現。瞬きの間に、身の丈ほどの長さを持つ細身の大剣が作り出された。

 

「悪いが、持ち合わせがプリムソードしかないんだ。〈ぺダス・ソード〉の相手には力不足かもしれんが、我慢してくれ!」

「いや、充分だ! 助かった!」

 

 仮面の男性は、こちらが得物を失っていることを察して、自身の予備武器を投げ渡してくれたのだ。

 手短に礼を告げてから、俺は剣持の親玉――仮面の男性曰く〈ぺダス・ソード〉と呼ばれているらしいエネミーへと、改めて相対した。

 

 仮面の男性は力不足と言っていたが、プリムソードと呼ばれたこの剣は、軽く触れただけでもかなり堅実にまとまった設計であることが見て取れる。扱いやすさに秀でた性能を鑑みるに、初心者用、あるいは一般のアークス向けに配備されている量産品なのだろう。何にせよ、今の俺にはこれ以上なく有り難い代物だ。

 

「さて――さっきのお返しをさせてもらうぞ!!」

 

 プリムソードを構え直し、地を蹴る。

 対するぺダス・ソードは、大上段に振り上げた剣を一閃。質量の暴力を体現するような一撃はしかし、周囲の援護がなければ、ただの隙だ。

 

 身をひねり、凶刃をかわす。地に叩き込まれる剣の内側へと踏み入れば、そこはすでに、ぺダス・ソードの懐だ。

 

「は――ああぁぁッ!!!」

 

 ぺダス・ソードの後方めがけて疾駆しながら、プリムソードを横一文字に振り抜く。

 確かな斬撃の手ごたえと共に駆け抜ければ、快音と共に光の軌跡が中空へと刻まれた。

 

「いける……!」

 

 キャストの女性に施してもらった回復と、仮面の男性から借り受けた剣。かの敵と対等に渡り合えるようになったのは、二つの助けのおかげだ。

 コイツを片付けた後で、もう一度感謝を伝えよう。そう心に決めて、俺は先刻切りつけたぺダス・ソードへと向き直った。

 

「これで、終わらせる」

 

 両の手で握りしめたプリムソードへ、力を送る。

 光の粒子(フォトン)を交えて増幅されていく力は、プリムソードの刀身へと充填。切っ先から根元までを埋め尽くした光が溢れ、青白く輝く刀身を一回り大きく肥大化させて。

 

「本気で行くから――気を付けろよぉォォッ!!!」

 

 限界までフォトンを充填した切っ先による横一文字の一閃(ストリークキャリバー)が、ぺダス・ソードの体躯を、真っ向から切り裂いた。




 本話より、スペシャルゲストキャラクターとして、狼@船4様の「ルプス」と、栢凪様の「メーヴ」を出演させていただきました。
 この場をお借りしまして、キャラクター借用に快諾頂いたご両名に、心より感謝申し上げます。改めて、ご協力ありがとうございます!
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